認識に基づく地域範囲設定法と その経年的分析への応用

土木学会論文集 No 524/1V29,5967,1995.10
認識 に基 づ く地域範囲設定法 と
そ の 経年的分析 へ の応用
谷田 守
2
1・
荒木俊輔
1正
会員 工 博 岡 山大学講師 環 境理工学部 (〒700岡 山市津島中2-1-1)
2学
生会員 筑 波大学大学院 環 境科学研究科 (〒350つ くば市天王台1-11)
高速交通網や情報基盤 の整備 が進 んだ今 日では,地 域 を隔てる物理的障壁 の持 つ意味は小 さくな り,そ
の境界は不明慌 にな りつつ ある(ボー ダー レス化 の進展)。 この結果 ,こ の よ うな 「
物理的条件 に基 づ く地
認識」差 の方が地域計画 上重要 な
域 」差 よ りも,各 地点が どの地域に属す ると認識 され ているか とい う 「
認識 に基づ く地域」を定義 し,そ の範 囲を設 定
意味を持 つ よ うになつてきた。本研 究では,こ のよ うな 「
地名J情 報 を用 い,地 域名選択確 率 と
す る方法を提案す る。その際,指 標 として実際の各地点 における 「
い う概念を導入す る.ま た,本 研究で提案 した地域設定法 を実際 に茨城県南部地方 に適用 し,そ の実用性
を検討す る とともに,社 会資本整備 をは じめ とす る地域整備 が地域認識 に及ぼす影 響 について検討す る.
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1.は
ヱ perceptlθL borJettess soc】
じめ に
東京デ ィズニ ー ラ ン ドは行政 区域上では千葉県浦
安市 に立地 してい るにもかかわ らず,そ の名称 に 「
東京」 とい う地名 がつ け られ てい る.し か もそ の こ
とは誤 りとす
旨摘 され る どころか,一 般 に広 く受 け入
れ られて い る。 これ は行政上の 「
東京」 の範囲 と,
一般 に認識 され てい る 「
の
東京」 範囲が異 なること
を意味 し,後 者 の方が よ り広い範 囲を指す ことを示
唆 してい る.
この よ うに行政 上の 「
東京」の範 囲 と認識上の 「
東
京」 の範囲 にズ レが生 じたのは,積 年 にわたる東京
都部 を中心 とした都市成長 ,関 連す る社会基盤整備,
情報発信量 の拡大等がそ の原 因 として考 え られ る.
また, こういつた例は何 も東京だ けに限 られ るもの
ではな く,相 対 的な力 関係 が変化 しつつ あるす べ て
の 隣接す る都市や 地域 の間で同 じ現象 が観察 で きる.
例 えば,本 研究で後 ほ どケー スス タデ ィとして取 り
つ くば」地域 も, も ともとは筑波 山
上げる茨城 県 「
の ご く近傍 を指す 限定的な地名 で あつた ものが,筑
波研 究学園都市 の重点的な整備 に伴 つて茨城県南部
を指す広域 的な地域名称 として認識 され つつ あると
考 え られ る。
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認識 に基 づ
本稿 では研究対象 として この よ うな 「
く地域」 に着 目し,そ の範 囲の設 定法 を提案す ると
共に,そ れ を経年的に適用す ることによ り,認 識 レ
ベ ルの地域範囲の変化 と地域整備 がそれ に及ぼす影
響 について考察す ることを 目的 とす る。後 に詳述す
るが,そ の理由 としては,近 年 の高速交通体系や情
報 メデ ィア の発 達 に伴 い,従 来地域間を隔てていた
様 々な障壁 が取 り除かれ ,物 理的な側面か ら地域 の
ボー ダー レス化 が進展 して い ることがあげ られ る.
このよ うな状況 の 中では主 に物理的側 面か ら規定 さ
れていた 「
行政 区域」をは じめ とす る従来 の地域 よ
りも,心 理的側 面 か ら規定 され る 「
認識 に基 づ く地
域」 の方が地域計画 上その持つ意 味 の重要性 を高め
つつ あるか らに他 な らない。
以下 では,ま ず 2.に お いて諸研究分野 にお ける
「
地域」に着 目した既存の研究 を概観 し,ボ ー ダー
レス化社会 にお ける 「
認識 に基 づ く地域」 について
研究 を行 う意義 を整理す る。次 に, 3.で は この よ
うな 「
認識 に基づ く地域」 を定義,分 析す るために,
本研究では実際 の地名情報や,地 域名選択確率 とい
う概念 を新 たに導入す ることを述 べ ,そ の考 え方 を
ま とめる。 4.で は これ らの概念 を用 い,実 際 の地
域 の範 囲 (以下,地 域範 囲 と略)を 設定す る方法
(以下,地 域設 定法 と略)を 示す .さ らに, 5.で
は提案 した地域設定法 を用 い,茨 城県南部地方 を対
つ くば」地域 に
象 にケー スス タデ ィを行 う.特 に 「
着 目し,社 会資本整備やイベ ン トをは じめ とす る地
域整備 がその地域認識 に及 ぼ した影響 について検討
を行 う。 これ らの議論 をふまえ, 6.で は本研究で
得 られた知見 と課題 をま とめ, さ らに 「
認識 に基 づ
・
く地域」 に着 目した研 究 の今後 の発展 応用可能性
について整理す る.
2コ 既 存 研 究 に お け る地 域 概 念 と本 研 究 の ね
らい
称す る.
これ ら実際の 「
物理的条件 に基 づ く地域」 の設 定
にあたつては,具 体的な統計デ ー タが具備 され てい
る力、 もしくは調査が容易 な事柄 に着 目した地域設
定 を行 わ ざるを得 なか った といえる。また,ど の研
究分野 にお いて も,地 域 に関わ る諸理論 の構築 に精
力 を注 いで も,そ れ に対応す るケ ー スス タデ ィでは
地域設定に十分注意が払われてい ない ことも多 かつ
た。
一方,人 間の認識 とい う観点 か ら地域 を捉 えよ う
とした研究は, 1940年 代 か ら地理学 の分野で議論
3)
が見 られ るよ うにな り ,1961年の Lowenthalの研 究
4)5).そ
の
以来,数 多 くの論文が発表 されて い る
(1)各 研究分野 における既存 の地域 研究
土木計画学,地 域経済学,地 理学な どの各研究分
地域 は導oo」 は研究上非常に重要な
野 にお いて 「
興味 の 中心 は,実 際 の測量な どか ら作 られ る地図 と,
我 々一人 一人が認識 している意識 上での空 間認識地
ま り重要視 され ていないのが実状である.(例 えば,
土木工学ハ ン ドブ ックの索引項 目には 「
地域」 とい
性 を以下の 3点 に整理 した,
a)まず ,現 在 の地域 問題 を考 えるにお いて,こ の 「
認識 に基 づ く地域」 の持 つ 重要性 が 「
物理 的条件 に
図 (メンタルマ ップ)が どのよ うに くい違 った状況
にあるか,ま た ,そ の よ うな空間認識 とい うものが
「
いて
ここでは
ある。
にお
地域」
概念で
,ま ず各分野
の行動 にどの よ うな影響 を与 えているか検討す
個人
い
が どの よ うに定義 されて るかをみ る。
ることにあ つた。 この よ うな研究 の流れ は 1970年
は じめに,地 域経済学では 『地域 とは単 に任意 に
代半 ばに行動地理学 として体系化 され るに至 ってい
ではな く,意 味 の有 る面域 で
区分 された面域 (areっ
1)。
る。その中には特定のサ ンプル調 査 を通 じて,広 域
ある。』 とい う説 明が成 されてい る
また,地 理
6)も
べ
に関す る認識 を分析 した研究
的な地域類型
見ら
「
の
学では地域経済学が述 る 意味 有 る面域」の内
の広が
の
る。
しか
し
りとい
を,そ
れ
うも 自体
,地 域
容 として二 種 の類型化 を行 つてい る。具体的には,
の地域 に関連す る者全体 の認識 を追跡す ることによ
均質空間」と「
『地域概念 には 「
機能空間」とい う二つ
つて検討 しよ うとした研究はない。
の原理があ り,こ の うち 「
均質空間」はそ の内部で
の同一性 か ら,「 機能空間」は中心地 の統合活動 に
2).
(2)ボ ー ダ レス化社会 における 「
認識 に基 づ く地域J
基 づ く結び つ きか ら判断 され る。』 として い る
一方
概念の重要性
,土 木計画学 においては地域 を分析単位 とした
「
認識 に基づ く地域」 を議論す ることの今 日的な
様 々な研 究事例 は数 多 いが,地 域 の概念や定義 自体
意義は どこにあるのだろ うか。本研 究ではそ の重要
を深 く掘 り下げて議論す ることは,実 際 の ところあ
う用語す ら存在 しない。)
また,い ずれ の研究分野 にお い て も,実 際 の空間
を対象 に した分析 で用い られてい る 「
地域」は,地
理学 が述 べ る二種 の類型化 のいずれかに相 当 してい
る。す なわ ち, 1)地 形や行政 によつて規定 され,
その内部 の 同一性 を仮定 した 自治体行政域や メッシ
ュを単位 と し,そ れ ら相互 の類似性 を特定の指標 に
着 目し地域 としてま とめた場合 (均質空間)と ,
2)内 部 の均質性 を仮定 した 自治体や メッシュを,
通勤者や商 品の フロー といった結びつ き (機能空間
)を 表現す るデ ー タか ら通 勤圏や 商圏 といつた地域
にま とめた場合 である.以 上の よ うに,こ れ ら従来
の研 究では地形 とか人の流れ 等 の物理的な観点か ら
一 ま とま りの圏域であるか ど かを
う
判断 していた こ
とがわか る.以 下,本 研究では この 1), 2)の よ う
な地域 の捉 え方 を 「
物理的条件 に基づ く地域」 と総
基 づ く地域」 に比較 して相対 的に高 まって きた こと
にある.各 地域 間 を結ぶ交通機 関が不便 で あ つた り,
情報伝達手段が十分 でなかつた時代 にお いて ,人 と
情報 の流れ の上か ら各地域 は明 らか に物理 的 に分 断
され ていた とい える.し か し,現 在 では交通機 関 の
発達 で 一 日交流 可能園が拡大 した り,情 報 メデ ィア
の発達で どこの都 市で得 られ る情報 も大 きな差 が無
くな って きた。す なわ ち,人 と情報 の移動 を制約す
る様 々 な制約 が と り払 われ ,物 理的 な地域 の境界 自
体 がはつき りしな くな って きた (ボー ダー レス化 の
進展)と いえ る.こ こで ,ボ ー ダー レス化 とは ,社
会,経 済等 の様 々 な領域 で地形的 ,制 度 的,歴 史的
に形成 され た境界 が実効 的な意味 を失 い,新 しい秩
7).ボ _ダ ー レス
序 へ と転換 してい く過程 を指す
化
が進展 す る と,地 域 間 の物理 的な分 断 にその主た る
物理 的条件 に基 づ く地域」 の持 つ意 か。また,そ の整備 に特 に関連す る地域 の認識 を高
根拠 を求 める 「
認識 に基 づ く地域」 める効果が有 るのではないか。
義 が相対的 に弱 ま り,か わ つて 「
の持 つ 意義 が相対的 に高 まるのは当然 の帰結 で ある。 本研究 では上記 したa)∼d)の基礎 的な疑問す べ て
にこたえることを 目標 とす る。
b)また,交 通条件等 の物理的な条件差 の重 要性 が小
一
さくなる ことが 因 とな り,個 人 の行動空間は重複
6)さ
した相互依存的 な もの になることが指摘
れ てお
(4)本 研究 の特徴
り,特 に大都市 の郊外部 な どでは通勤圏や商圏 とい
(3)で述 べ たa)∼d)の事項 を検討す るため,本 研
一
ことは困
った地域概 念 を 意的に表現す る
究ではそれ ぞれ次 に対応す る特徴 を有す る分析 を行
難 にな り
つつ ある。 これ を個人や企業 とい つた空 間にお ける
行動主体 の側か ら見 ると,そ こを 「よく知 ってい る
知 っていない」 といつた各地域 に対す る認
」 とか 「
ベ
レ
ル
の差 がその行動 に大 きな影響 をお よぼす こ
識
とになる.
c)一方,こ れ を地域 の側か ら見 ると,そ の地域が広
く一般 に認識 されて い るか ど うかが,今 日ではその
地域 の死活 問題 につ ながる可能性 がある。例 えば,
同 じ地域活性化 プ ロジェク トを実施 して も,そ の地
域が よく認識 された地域であるか ど うかでその成 否
は大 き く異 なる。
(3)必 要検討事 項 と本研究のね らい
この よ うに 「
認識 に基 づ く地域」 の概念は,今 日
の地域計画 を考 える うえで非常 に重要な視点 とな り
つつ ある.特 に,現 在 までに十分 な研究が行 われて
い ない状況 の もとでは,以 下 のよ うな事柄 が検討項
目として重要で あろ う.
a)「認識 に基 づ く地域」 を概念 として説 明で きて も,
それ を どの よ うに具体 的か つ 理論的 に定義すれ ば よ
いか`
b)また,定 義 を机上の空論 に終わ らせ るのではな く,
それ を実空 間上で検討 できるよ うにす るためには,
定義 に対応 す る どのよ うな地域設 定法 とデー タを用
いれ ば よいのか。 さらにその際,認 識 とい うあい ま
い な現象 を正確 に扱 い, しか も広域的な検討 を可能
にす るには どうすれ ばよいのか。
c)明確 な地域設 定法が定め られ た場合 ,そ れ を現実
の空間に適 用 して得 られ る地域 とは実際には どのよ
うな ものな のか。また,従 来 の 「
物理的制約 に基 づ
く地域」では,時 間的な推移 に対 して地域 は比較的
固定的に捉 え られ てい る場合 が多 い。 しか し,「 認
識 に基 づ く地域」では,あ る地域が消失 した り急拡
大す るといつた よ リ ドラステ ィックな変化 が存在す
るので はないか,
d)地域 の認識 に社会資本整備 をは じめ とす る地域整
備 が影響 を与えて い るのではないか。ち ょうどそれ
は 「
物理的制約 に基 づ く地域」間を隔てて いた様 々
な物理的障壁 を軽減 した よ うに,「 認識 に基 づ く地
域」間を隔てる心理的障壁 をも軽減す るので はない
う。
a ) 「認識 による地域」 を定義す るた めには, 認 識行
為 を表現す る適切な指標 が必 要 であ る。本研 究では
地名 ( 地域名) 」 そ の もの に求 める. 個 人
それ を 「
が ある地点 に対 して想起 す る数多 くの地 域名 の 中か
ら, 合 理的な判 断を通 じて最 も適切 な地域名 を選択
( 認識) す る と考 え る。そ の 際, あ る地域名 を選ぶ
地域名選択確 率」 として定量化 し, そ の
可能性 を 「
い
指標 を用 るこ とで 「
認識 に よる地域」 の定義 を行
う.
b)各地点におけ る 「
地域名選択確 率」 を求 めるため
に,そ の名称に何 らか の地域名 を採用 している事 業
所す べてを対象 とす る。実際 のデ ー タ収集 は事業所
の捕捉率 が高 く,か つ地域的 B時 点的に拡張性 の高
い 50音 別電話帳 の記載デ ー タを用 い る.
c)ケー スス タデ ィは茨城県南部地域全体 を対象 とし,
「
認識 による地域」の抽 出を実際 に行 う。また,つ
くば研究学園都 市の整備が閣議 了解 された年である
昭和 38年 と平成 6年 の抽出結果を中心に,そ の変
化 に関 して も考察す る.
d)さ らに,対 象地域 にお ける この 間 の実際 の地域整
備やイベ ン ト等 に関す る情報 も収集 し,こ れ らが 「
認識 による各地域 」 の範囲 の変化 に どの よ うな影響
を及 ぼ したかについて検討 を行 う。
3.地
名 へ の 着 目 と地 域 名 選 択 確 率 の 提 案
(1)分 析指標 と しての地名
認識 による地域」 を定義す るために,
本研究 では 「
そ の認識行為を表現す る指標 として,各 地点 にお い
て個人が想起す る 「
地名 (地域名)」 そ の もの に着
二人以上 の
目す ることに した。そ もそ も地名 とは 「
9)で
の
人 間に共同に使用せ られ る符号」
あ り,そ れ
を適切な形 でデ ー タ として得 ることさえできれ ば,
認識結果 を知 るための最適 な指標 になると考 え られ
る.こ こでは,ま ず地名 を地域定義 のための指標 と
して用いるにあた り,地 名 を対象 とした既存研究 を
概観 し,そ れ らの知見 と課題 を整理す る,
土木や都市計画 の研 究分野 にお いて地名 に着 目し
た研 究はまだ非常に少 な く,自 然災害 と地名 の関連
理 学 をは じめ とす る分野 で は既 に数 多 くの地名研 究
16)が
i3)∼
の 蓄積
見 られ るが,そ の主 た る研 究 目的等
の相違 か ら,本 研 究 でそれ らの成 果 を用 い るには次
の よ うな限界 が あ る.
a)基 本 的 に 「
字 」 レベ ル の 小 地名 が研 究対 象 で あ り,
よ り広 域 な地域 レベ ル の 地名 が研 究 対 象 に され て い
PAx+PCx=110
。
P一
地域名選択確率͡
累積︶
10)の
に着 目した研 究
他 に,近 年 にな って よ うや く笹
11)に
よる小 地名 の語彙 に着 目 した研 究や ,地 名
谷ら
12)の
研 究 が見 られ る よ う
呼称 の分布 に着 目 した仲 間
にな って きた こ れ に対 し,郷 土史 学 ,民 俗 学や 地
地点x
る例 は少 な い 。
図- 1 地 域名選択確 率 の概 念
b)地図や統 計 書 の情報 だ けで は地名研 究 は不 可能 で
あ るた め,デ ー タ収集 法 と して は地道 な現 地 で の ヒ
な い。 また ,そ こに立地 す る者 (内部者 )と ,外 部
の者 の 間 に は多 くの 場合 地名 の 呼称や そ の範 囲 にお
いて ,不 一 致 が生 じる こ とが指 摘 され てお り,客 観
的 な分析 を難 し く してい る.
c)地名 はそ の場 所 固有 の もので あ る とい う視 点が強
く,定 量 的 に普 遍 的 なル ー ル を見 つ けだす とい う観
17)の
よ うに,地
点 か らの分析 は十 分 で な い 内 田
地域名A、B、Cのみに
着目
すると
P一
地域名選択確差
ア リング調 査 に頼 らざるを得 な い こ のた め,同 一
的 な基 準 に基 づ く広範 囲 の調 査 は現 実的 に実施 で き
域 のひ ろが りを言 及 した例 もみ られ るが ,一 般性 の
あ る地域範 囲 の設 定 の仕 方 に関す る議 論 は不足 して
1
い る.
(2)合 理 的行 動結 果 と しての 地域 名 選 択
これ ら従 来 の 地名 研 究 に対 し,本 研 究 で は地 域名
はそ の 地域 に関わ る個 人 が 各地 点 ご とに,最 も合理
的 に地域名 選択 (認識 )を 自由に行 つた結 果得 られ
地
域Aの
絶対的地域範囲
図- 2 地 域範 囲 の 考 え方
( 図- 1 の 地域 A , B , C に 着 目 して)
性 が高 いか とい うこ とで ,各 地域 の範 囲 が確 定 で き
る もの と考 える。具体 的 には ,空 間 上 の あ る地点 x
にお いて ,数 多 くの地 域名 の 中 か らあ る地域名 Aが
る と考 え る。
そ の 地点 の 地域 名 と して認識 され る可能性 は,そ の
地点 の諸 条件 に対応 した 一 定 の確 率 P Ax(地 域名 選
4口 地 域 の 定 義 と 地 域 設 定 法
択確 率)で 与 え られ る と考 え る。各 地点 ご とに,地
(1)絶 対 的地域 範 囲 と相 対 的 地域 範 囲 の 定 義
地域 とは 一 定 の空 間的 なひ ろが り (地域範 囲)を
持 つ もので あ り,そ の範 囲 を どの よ うに決 め るか と
域名 と して選択 され る可能性 の あ る地域名 の選 択確
率 を累積 す る と,図 -1に 示す 通 りそ の合計値 は地
点 に関わ らず 10と な る 例 えば ,図 -1の x地 点 に
お い て選択 され る可能性 の あ る地 域名 が Aと Bの 2
つ で あ る とすれ ば・
P Ax+P Bx=10
(1)
い うこ とが ,こ こで 考 え る地域 の 定義 の 中心 とな る。
ここで は ,定 義 を行 うにあた り,図 -1に 含 まれ る
のみ着 目 し,そ れ らの地域名 選択
地域 A,B,Cに
確 率 を図-2に 示 した。 この 図か ら地域 Aを 例 と し
て考 え る と,「 認識 に基 づ く地域 」 と して 次 の 2通
りの考 え方 が提 示 で き る.
とい う関係 が成 立 す る. 以 下で は , こ の地 点 ご とに
1)他 の どの地域名 と比 較 して も ,地 域名 Aの 選択確
地域名 選択 確 率 を比較 す る こ とを通 じ, 「 認 識 に基
づ く地域 」 をそ の範 囲 の広 が りとい う観 点 か ら定義
率 が 最 も高 くな る空 間的範 囲 .
す る。す なわ ち, 空 間 上 の各 地点 にお いて , そ の 地
点 の名 称 と して それ ぞれ どの地 域名 が選 ばれ る可能
2)地 域名 Aの 選択確 率 が 0で はない空 間 的範 囲 .
本研 究で は この 両者 ともを 「
認識 に基 づ く地域 」 を
異 な る側 面 か らあ らわす 定義 と して採 用 し,こ の う
ち 1)を 「
相対的地域範 囲」, 2)を 「
絶対的地域範
囲」 とそれ ぞれ 区別 して呼ぶ ことにす る.
(2)地 域設定法 と使用デー タの工 夫
以 上のよ うに 「
認識 に基 づ く地域」 の定義 を行 う
ことがで きたが,実 際 の空間上で この定義 に基 づ く
分析 を行 うためには,地 域名選択確率 をどのよ うな
デー タか ら求め るかが重要 になる。本研究では何 ら
かの地域名 を含 む事業所名 を有す るす べ ての事業所
を対象 とし,そ のデ ー タを 50音 別電話帳か ら収集
す る方法 を提案す る。具体的には,安 定 した地域名
選択確率 を得 るの に十分 な広 さの地 区 Xを 考 え,次
式で各地 区にお ける地域名選択確率 を計算す る。
P AX=NAX/Nx
(2)
P AX:地 区Xに お ける地域名 Aの 選択確率
N AX:地 区 Xに おいて事業所名 に地域名 Aを 含む事
業所数
Nx:地 区 Xに お いて事業所名 に何 らかの地域名 を含
む事業所数
である.
また,こ の方 法は以下 のよ うな限界 を合わせ持 つ
てい ることにも注意が必要である.
a)一日に事 業所 と言 つて も,研 究所 か ら小 売商店 ま
で新 旧様 々 な ものが含 まれ てお り,そ れ ぞれ対象 と
す る市場範 囲 も多様 で ある.本 論文 では,集 計 レベ
ル の議論 として,こ れ ら事業所 の各属性 を明示 的 に
この方法 を採用 した理 由 と利点は次 の通 りである。 扱 わないが,各 事業所 の地域名選択行 動 自体 は,各
a)事業 所名 に用 い られ てい る地域名 は,そ の地 点 に 々の事業所属性 を反映 してお り,必 ず しも均質 な も
お いて事業主体 が最 も適 当 と判断 した ものが用 い ら のでは な い.
れて い る。 しか も,そ の名称 はその事業所 の潜在 的 b)事業所 は,そ の強弱 の違 い は有れ ,い ずれ も経 済
利用者 に対 して提示 され る もので あ るた め,利 用者 原 理 を前提 に活動 を行 つてい るもので あ る。 このた
の認識外 にあ り,利 用者側 が 混乱 して しま うよ うな め,そ の時点 にお いて イ メー ジの 良 い地域名 は よ り
地域名 は事業主体 に とって も採用す ることは難 しい. 広 い範 囲で採用 され ,イ メー ジの悪 い地域名 は この
つ ま り事業所名 に どの地域名 を採用す るかは事業者 逆 にな ると考 え られ る,こ の地域名 選択行動 をマ ー
と利用者 両方 の合理的な行 動 (認識)に 基 づ く結果 ケテ ィ ング研 究 に対応 させ る と,ネ ー ミング決定 に
で ある とい える。 このため, このデ ー タを用い るこ
とに よつて,従 来 の地名研 究 が指摘 (3(1)c))す
る内部者 と外部者 間 の認識 のずれ を解消す ることも
b)事業所 は都市活動 の行われ る ところであれ ば,普
遍的で どこにも数 多 く存在 し,ま たその活動 に とつ
て電話 は必要不可欠 なため,そ のほ とん どは電話帳
に記載 され てい ると考 え られ る.こ のた め,電 話帳
に記載 され てい る事業所の情報だけか ら十分なデ ー
お けるプ ログク トマ ップ上で のポ ジシ ョニ ング戦略
18)に
に該 当す る行為
該 当す る と考 え られ る。 しか
し,候 補 とな る地域名 が限 られてい る こと,利 用者
の認識 の範 囲内 で選ぶ必要が るこ と等 ,そ の制約 条
件 は通 常 のネ エ ミング決定 よ りはか な り厳 しい もの
といえる。なお ,本 研 究では 一般利 用者 の認識 を越
えるよ うな地域名称 を事業者 は採用 し得 な い とい う
前提 にたつてい るが ,そ の例外 とな る事 業所 が存在
しない とい う保証 はな い.
タサ ンプル と高 い分析精度 を得 る ことが期待 できる.
さらに,電 話帳 には事業所 の正確 な名称 に加 え,そ
5 ケ ーススタデ ィ: つくば地域における検討
の所在地 も詳細 に明記 されてお り,わ ざわ ざ ヒア リ
ング調査 に出か けな くとも一度 に広域 のデ ー タを得
(1)分 析 の 前 提
で きる。
ることがで きる。
c)電話帳が整備 され てい る年 代,地 域は どこで も同
じ方法で分析 が可能である。 このため様 々な地域で
検討 を行 った り,過 去 に遡 つて分析す ることも容 易
以 下で は,本 研 究 で提案 した 「
認識 に基 づ く地域 」
を実 際 の空 間上 で設 定す る と ともに,得 られ た結 果
を も とに,地 域整備 等 が そ の範 囲 に及 ぼす影 響 に つ
いて 検討 す る.ケ ー ス ス タデ ィは,図 -3に 示す茨
表-1 筑 渡研 究学園都 市整備 の歴 史
表。2 「 つ くば」 を称 す る事業所数 と地域名選択確 率 の
変化
筑波研究学園者F市のあゆみ
昭和3 8 年+ 1 9 6 3 ) 9 月 筑政地区に研究学田部市建設を固議7解計画規模1000ha
昭和4 1 年( 1 9 6 6 ) 1 2 月 用地買取開始
昭和4 2 年( 1 9 6 7 ) 7 月 用地
R収車50%
昭和4 5 年( 1 9 7 0 ) 5 月 筑激研究学田都市建設出発行,公
布
昭和4 7 年+ 1 9 7 2 ) 3 月 縁機材質研究所移転(移
転第1号
)
昭和4 8 年+ 1 9 7 3 ) 1 0 月宙波大学開学
11月
生済学回
の供帰開始
線
1 2 月 市鶴化区
域,市
なおよ
び用逮均
簡化調整区
なの決定
昭和 5 0 年+ 1 9 7 5 ) 9 月 学日
東大おり
快用開始
昭和 5 2 年( 1 9 7 7 ) 9 月 牛久、
谷田
部中
学問竹日間,1ス
運行開始
―
1 0 月 潮‖
iス
駅〕
沖
暇大学中央問′
運行開始
ル売
昭和5 8 年 + 1 9 8 3 ) 6 月 つく
ばセン
タービ
,
昭和 6 0 年( 1 9 8 5 ) 1 月 常営自
動
車道東京と
直
結
ー完成
3月
つく
ばエキ
スボセンタ
ー
3月
)3リピン
タ・
グセン
クレ
オ完成
3月
会
く
ば科学万悟)開
国
際科学
憤祈博窮 (つ
催
ー
!ヽ
lj往
日
つく
セ
昭和 6 2 年 ( 1 9 8 7 ) 4 月 百
遠
ス
運
は
ン
行
京―
タ
携(東
開1日
復)
11月 つ
く
は
足は輸
発
里
田
市
町' 豊
町' 谷
部
町・
村
合
械
開
は
昭和 6 3 年( 1 9 8 8 ) 1 月 つ
く
ま
市1筑
町
合
併
城県南部 の 50市 町村 を対象地域 とした.茨 城県南
部 には昭和 38年 9月 にその建設 について閣議 了解
された筑波研究学園都市が存在 し ,表-1に 示す通
りその後 30年 間に渡 つて重点的な地域整備 がな さ
れて きた 。その総資本投下量はお よそ 2兆 円にのぼ
る。 さらに,近 年 では科 学万博 といつた地域 の知名
度 を高 めるイベ ン トが行 われた り,町 村合併 によ り
NE生
「
つ くば市」が
した りして い る。 このケー スス
タデ ィでは,こ の よ うなつ くば地 区へ の様 々な整備
つ くば」 の地域範囲が ど
に伴 つて,認 識 に基 づ く 「
の よ うに変化 したかを明 らかにす ることを主眼にお
く.分 析対象時点は,「 つ くば」整備 の節 目とな つ
た昭和 38,48,59,61年
と平成 6年 の 5時 点を対象 に
分析 を行 った.分 析結果 は主に期首の昭和 38年 と
期末 の平成 6年 の比較 を中心 に述 べ る。
なお,実 際に地域名選択確率 の検討 を行 つたのは,
市町村 レベ ル 以 上で,都 道府 県 レベ ル よ りも狭 い地
域範囲を占める可能性 の有 る地域名 を対象 とした.
具体的 に茨 城県南部 において地域名選択確率算出の
つ くば」 の他 に,全 市町村名,
対象 とした地域名 は 「
全郡名 ,常 総や利根 な どそれ 以外 の名称で重要 と考
え られ るもの あわせて全部で 86の 地名 を候補 とし
た。 また,「 つ くば」 の呼称 としてはひ らかなの
「
つ くば」 のみ を対象 とす るのでは な く ,「筑波J,
「ツクバ 」 ,「筑波 山」 ,「筑波嶺」等 の地名 もあ
わせ て抽 出 した。
地区
年 次
( 西暦)
昭和3 8 年 平成 6 年 伸 び 率
+1963) (1994)
つ くば市内 事業所数
34
1348
39.647
旧 5 ヶ 町村 性は名
選択確率) 1 5 1 , 5 1 5 %1)6 6 . 7 2 )4 路( 1 , 2 7 6 )
つ くば市外
篤
にこ
出は名選択E亭)
協 件
島
胡十
事業所数
573
63.667
( 3 . 2 7 3)拓 ( 7 . 0 0 5 )
つくば市外 事業所数
1早
篤
品
舷
は名
選侃電車│
違
あ得
品
Ⅲ) (地
130
43.333
{ 2 , 6 9 6)路 ( 5 . 9 3 8 )
次 に,実 際のデ ー タ抽 出作業 においては,本 研 究
の 目的に照 らし,「 ある地域名 を認識 し,そ れ を事
業所 の名称 として用 い る 1回 の行為」 を 1件 として
カ ウン トした 。具体的には以 下のル ール に従 つて 50
音別電話帳 か らデ ー タの抽出作業 を行 つた.
a)事 業所 (支店 ,営 業所 も含 む)の 地域名 は,名
称 中そ の地域名 が どこに入 つていて も,そ の位置
に関わ らず カ ウン トす る.
(例 :つ くば通運 (株),ビ
ジネ スホテル 筑波,
四井物産 つ くば営業所,MEC筑
波 工場)
b)地 域名 の選択余地 の ない公 的施設等 の地域名 はカ
ウン トしな い。
(例 :却
所,義 羨匝庫 協)
c)単独事 業所 でない ものは本社機能 を もつ事業所 の
地域名 のみ を 1回 だけカ ウン トす る。
(例 :筑 波 ガス本社,つ キギ銀行筑波支店)
(2)分 析の結果 と考察
地域名 をそ の名称
対象地域 にお いて,着 目す る 「
に有す る事業所」全てを抽 出 した ところ,昭 和 38年
にお いて は 1,534の,平 成 6年 にお いて は 15,850の
事業所が得 られ た。 この 2時 点間にお いて,「 つ く
つ くば」 の地域名選択確
ば」 を称す る事業所数 と 「
率が いか に変化 したかを表-2に 示す 。この結果 ,つ
つ くば市内にお いては,昭 和 38年 か ら平成 6年 ま
つ くば」 を称す る事業所
でのお よそ 30年 の間に 「
が 1,300件以 上増加 した ことが 明 らかになった.ま
た,つ くば市外 にお いて は,半 径 20kmの 範 囲にお
いて 「
つ くばJの 地域名選択率確 率が 30年 前 のお
よそ 7倍 に, 20km以 遠 の範 囲ではお よそ 6倍 に増
加 した ことが明 らか となつた.
つ
さらに,昭 和 38年 か ら平成 6年 までの 間に ,「
の
と相
が
どの
よ
くば」 絶対的地域範 囲
対的地域範囲
うに変化 したかについて,図 -4∼ 図-7に 示す。
拘
は
く
つ
‘
的
地
的
対
相
EヱE] 精 寄付‖H掲日
す
る
□ 争
辮
図-4 昭 和38年 における茨城県南部 の相対的地域範囲
■□圏翻 執
例
P≧ 20%
P≧ 10%
P≧ 5%
P≧ 2%
つ くばJの 絶対的地域範囲
図-6 昭 和38年における 「
凡
E] 常
精1日
[ヱ
│?域
す
る
E三
ニ
コ1岩
'魯
常
圏 P ≧2 0 %
醐 P ≧1 0 %
翻
P≧ 5%
翻 P ≧2 %
図- 5 平成6 年における茨城県南部の相対的地域範囲
つ くば」の絶対的地域範囲
図- 7 平成6 年における 「
( こ れ らの図では見やす い よ うに市町村 レベ ルで結
果を示 してい る。デー タの性格上, よ り細かい地 区 レ
ベル を単位 とした分析 も可能である。) こ れ らの結
整備が急速 にその地域名選択確率 を高めてきた と考
え られ る。 また, 相 対的地域範囲 のみな らず, 絶 対
的地域範囲でみて も, 「 つ くば」地域 の外縁 はかな
つ くば」 の相対的地域範囲
り広が ってお り, 現 在 「
い
に属 していな 市町村 にお いて も, 「 つ くば」 の地
一
域名選択確 率は確実に上昇 してい る。 方, 変 化 し
た地域名称 に着 目す る と, 常 総, 新 治 な どの古来か
果か ら, 平 成 6 年 にはつ くば の相対的地域範囲は茨
城県南部 に広 く拡大 していることがわかる. こ れ を,
昭和 3 8 年 に茨城県南部 を代表す るよ うな地域名 が
存在 しなか つた状況 と対比す ると, つ くばへ の地域
古来か らの地域名称で呼ばれた地域が,近 年特 にそ
の地域範 囲を縮小 してい ることがわかる。
時点別 の分析 か ら,「 つ くば」 の地域名 の選択確
率は経年的 に増allしてぃるが ,の 中で も昭和 61年
以降 の最近 の伸 びが相対的に大 きい ことが明 らかに
な つた。 この要因 として考 え られ るの は昭和 63年
にお けるつ くば市 の誕生である.こ の ことは,認 識
による地域 の拡大が,つ くば市 とい う新たな行政 上
の地域 を生み,そ れがまた認識 に よる地域 の拡大に
つ なが っていった循環的構造 を読み とることができ
る.
一 方,図 -7か ら地域名 「
つ くば」 の選択確率が,
つ くば市か らの距離 に必ず しも比例 していない こと
が読み とれ る。 このほ とん どは,茨 城県南地域 にお
ける旧来 の 中心地 (例えば土浦市等)の 影響 による
つ くば」 の選
ものであ り,そ の よ うな ところでの 「
択確率はそ の周辺市町村 と比 較 して,相 対的に低 く
なることに よるものである.
つ くば」
以 上の結果か ら,茨 城県南部地方 では 「
「
づ
を中心 に 認識 に基 く地域Jが 30年 ほ どの間に,
明 らかにす る必要がある。また,最 初 は多少不 自然
で も,特 定 の事 業所 に採用 された地域名 が ,時 間の
経過 とともに社 会的に認知 され ,一 般化 してい く場
合 のプロセ スを具体的に明 らかにす ることも重要で
あろ う.
(2)研 究 の発展可能性
最後 に,本 研 究で得 られた知見 を参考 に,今 後 「
認識 に基 づ く地域」 に着 目した研 究 の発展可能性 に
ついてい くつかの方向性 を述 べ る。
a)地域名選 択確率 か ら地域知名度の分析 ヘ
本研 究で提案 した地域名選択確 率は,各 地点 にお
ける各地域 の認識度 の高 さを表現す るもので ある.
このため,地 域名選択確率 曲線 を,各 地点 にお ける
人 口等で ウェイ ト付 け しなが ら全空間に渡 つて積分
すれ ば,そ の地 域 の被認識度 (すなわち知名度)の
高 さを表現す る指標 を提案す るこ とがで きる.
b)認識に影響 を及ぼす要 因の モデル分析
つ くばJ地 域 の拡大には,社 会資
認識 に基 づ く 「
地域整備等 の影響 を受 けて急激 に変化 していること
が 明 らか となつた.
本整備 とつ くば万博 による情報発信量の拡大,「 つ
くば」市 としての町村合併等様 々 な要因が重複 した
結果 であることが考察 できた。 これ を地域側 の視点
6 . お わ りに
に立 って考 える と,ど の よ うな方策 が地域名選択確
率 曲線 を上昇 させ るの に有効であつたか,様 々な要
(1)本 研究の ま とめ と課題
本研究では,物 理的な諸条件 が明確 に地域 を隔て
ることが少 な くな つた現代 のボー ダー レス化社会に
お いて,「 認識」が規定す る新 たな地域概念 の重要
因 に基づ く効果 を分離 して知 ることがで きれ ば有益
であろ う.説 明変数 を特定 し,対 応す るデ ー タを収
集す ることは容 易 ではない と思われ るが,非 集計行
動 モデル を用 いた地域名選択行動 のモデル分析や,
数量化 Ⅱ類,判 別分析 モデル による地域名選択 に影
性 を指摘 した。 また,各 事業所活動 の地域名選択が
個 々の合理 的な判断によって な されてい ることに着
日し,地 域名選択確率 とい う概念 を導入 して 「
認識
に基づ く地域」 を定義す ると共 に,簡 便で適用性 の
高 い地域設 定法 を考案 した。 さらに,実 際に茨城県
南部 を対象 に 「
認識 に基 づ く地域」 を設定 し,そ の
経年的変化 と地域整備が及 ぼす影響 について検討 を
加 えた。
以 上,本 研究では 「
認識 に基 づ く地域」分析 のた
めの,一 つ の基礎 的な枠組みを提示 した。 この方法
を用 い ることによつて,特 定地域 の認識 上の盛 哀 を
追跡す るこ とが可能である。また,本 論文 で提案 し
た方法 を,地 域認識 を高める政策 の実施効果把握 の
ために応用す ることも考 え られ る.し か し,地 域が
認識 され る とい うことの本質的な意義 と,そ の計画
論的な評価 については更なる議論 が必要である。
また,分 析 上 の課題 としては,各 事業所 の属性 の
違 いまで考慮 した うえで,従 来か ら規定 されてきた
商圏等 の様 々な圏域 と認識 による地域 の対応 関係 を
響 を及 ぼす諸要因の定量的検討 が考 え られ る。
c)都市機能 ごとの地域認識に ついて
同 じ一つの地域で も,想 定す る都 市機能 が異な る
と,対 応す る 「
認識 に基 づ く地域」 の範 囲が異 な る
可能性がある。例 えばつ くばの例 だ と 「
商業機能」
に着 目した場合 に認識 され る範囲 よ りも,「 研究開
発機能」に着 目した場合 に認識 され る範 囲の方が広
域である可能性 が高い。 この よ うな 「
認識Jの 中身
について,よ り詳細な検討が必要 となろ う。
d)非連続空間へ の応用
地域認識 の波及 は,何 も空間的 に連続 した範囲 の
みで生起す る事象であるとは限 らない。例 えば,地
方都市Aに おけるN商 店街 が 「
A銀 座」 と呼ばれた
り,地 方 Bに お けるこぎれ い な都 市Mが 「Bの 小京
都」 と呼ばれた りす ることがある。 これ は,同 じ商
N」 よ り 「
店名 で も 「
銀座」 とい う名称 の方が,ま
「
た同 じ都市名 で も M」 よ り 「
京都 」 とい う名称 の
方が認識 とい う点では よ り上位 にあることによる.
このよ うな非連続 空間上 における地域認識 も興味深
い研 究テー マ となろ う.
1 1 ) 笹 谷康 之 , 中 岡浩, 小 柳武 和, 山 形耕 一 : 小 地名 を
用 いた環境情報 の研 究, 都 市計画論 文集, N o 2 4 ,
│1洸
謝辞 :本 研 究の実施 にあたっては,筑 波大学黒ブ
教授,石 日東生助教授,大 野栄治講師か ら有益な コ
メン トをいただいた。また, 日本地名研究所事務局
pp 607-612, 1994
1 2 ) 仲 間浩 一 : 地 名呼称 の分布 に見 る地 区イ メー ジの
伝搬 に関す る研 究, 都 市計画論文集, N o 2 9 ,
pp 607-612, 1994
13)例 えば,谷 川健 一 :現 代 「
地名 」考, 日本放送 出版 協
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14)大 石湛 山 :地 名 改変 の歴 史/古 代 か ら近世まで,地
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名 と風土 (谷川健 一編),第 1号 , pp 54‐
省 堂 , 1984
15)千 葉徳爾 :新 地名 の研 究,古 今書院, 1994
16)一 志茂構 :地 名調査 について,地 名 と風土 (谷川
健 一編),第 3号 , ppユ 16,三 省堂, 1985
17)内 田順文 :軽 井 沢にお け る 「
高級避 暑地 。別 荘地J
のイ メー ジの定者 につ いて,地 理学評論 , 62A,7,
pp 495-512, 1989
18)片 平秀貴 │マ ー ケテ ィ ング ・サイ エ ンス,東 京 大学
出版会, pp 123-146, 1987
19)木 内信蔵 :地 域概論 ,東 京 大学 出版 会, p97,
1968
2 0 ) 久 保 田治夫 : 筑 波研 究学 園都 市, 筑 波書林 , 1 9 8 1
2 1 ) N T T , 電 報電話局 : 5 0 音 別電話帳, 茨 城県 南部 地
方 関連版, 1 9 6 3 1 9 7 3 1 9 8 4 1 9 8 6 1 9 9 4
2 2 ) 朝 野洋 一 , 寺 阪昭信 , 北 村嘉行 : 地 域 の概念 と地域
構 造, 大 明堂, 1 9 8 8
2 3 ) 長 谷川典夫他 : 現 代都 市 の空 間 システム , 大 明堂,
175, 1992
pp 143‐
2 4 ) 西 村 睦男 : 中心地 と勢 力圏 ヵ大明堂 押P 5 1 ‐
81,1977
2 5 ) 土 木学会編 : 土 木 工 学 ハ ン ドブ ック, 第 4 版 ,
1989
2 o 石 見利勝 , 日 中美子 : 地 域イ メー ジ とま ちづ く り,
技報堂 出版 , 1 9 9 2
長 の金子欣 三氏 には地名研究に関す る適切 な御助言
をいただいた。 さらにデ ー タ収集 にお いて は,逓 信
総合博物館 中野美智子氏 のご協力 を得た。 ここに記
して謝意 を表す る。
参考文献
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8 ) 藤 井 正 : 大 都 市圏 にお け る地域 構 造研 究 の 展 望 , 人
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1 0 ) 小川 豊 : 危 険 地 帯 が わ か る地名 , 山 海 堂 , 1 9 8 3
(1995.1.5.受
付)
THE DESICNATION WEETHODOLOGY OF RECIONS BY PERSONAL
PERSIヂ TION ANID IT'S APPLICA口
ON FOR M SERIES ANALYSIS
Mamott TANIGUCHI and Shunsuke ARAM
H i g h s‐p e e d m n s p os■
y s t e I I l s a n d c o I I l l n u r u c a t i o n t e c h n o l oyg ldeess町
h ae vd c p wh dy us ai ■
cal
は
obstacles among reglolls UIldcr sucll 薫l
a臨 of bordedess socた
ty, the conccpt of Ⅲ
reglons based on
・
thc cOncept of regb■
Ⅲ s based
pelsoMl perceptioゴbc∞mcs llole impoltant for regional plamillg,価
on pttsical conditiollsⅢ
■ is s的
dle
atondesiを
method for
reglons
Ⅲ
Ⅲ pЮ宙deS the defHution and 押
d l o d , t hPer oibdaebai loⅢ
f Ⅲ
b a s e d o n p e l s o n a l' Ipnc rtcheep umoeゴ
i
s
a
o f p l a C C m t t c h o t de oⅢp t e d
Case s価
Ⅲ on sOudlcm part of lbalagl prefecture shows the usemlncss of tllc lllCthOd The et
pesonal perceptton by illfrstmcmrc llnprovement are also ttaluatcd