1 第 46 回フォーラム 2015 年 4 月 16 日 『グローバリズムの行方 ―「価値

第 46 回フォーラム
2015 年 4 月 16 日
『グローバリズムの行方 ―「価値」の変容を考える―』
三菱商事株式会社 常勤顧問 藤山知彦
2013 年の世界名目生産は 74.7 兆ドルで 1 人当 GDP は 10,430 ドルと 1 万ドルを上回っ
た。米国の比率は 22.4% EU23.4% 中国 12.7% 日本 6.6%である。為替の変動にもよ
るが、米(2000 年に世界の約 1/3) 日(1995 年に世界の 15%)の凋落が目立つ。
このように世界経済の重心の変化は歴然で、日米欧がグローバリズムを代表する勢力だ
とすると、2000 年まで世界経済において 70%前後を占めていたのに、現在は 50%を上
回る水準になっており 2016‐17 年頃 50%を切ると予想される。
グローバリズムを仮に①市場主義・資本主義 ②民主主義・個人の人権 ③科学技術への
信頼 ④欧米的リベラルアーツの価値観の 4 要素から成ると定義する。この価値観を真
に信奉しているのが日米欧だとするとその世界生産のシェアが 5 割を切るということは
グローバリズムが経済的優位によって簡単には正当化できない時代を迎えていると言
って良い。これをグローバリズムの揺らぎと呼ぶことにする。
グローバリズムの揺らぎは長い時間をかけて徐々に起こっている価値観の変動だが、リ
ーマンショック後にそれが加速されたと見られる。その理由は先進国財政赤字による成
長戦略牽引の失敗と金融制度改革が道半ばで終わった為である。
この結果、先進国の低成長と新興国(BRICs)の相対的高成長となり、日米欧の相対的支
配力の低下を招いた。
定性的にグローバリズムの内包する課題を整理すると次のようなものである。まず市場
主義はバブルの発生と崩壊を繰り返し、それを防ぐ手段を持っていない。また市場が本
当に公平に機能しているのか、市場が危機の時に政府の介入はどのような形で行われる
べきか(例えば米国の GM 支援は不当ではないのか)金融市場は IT 化プログラム化が
進み、かつ金融商品は中身が見えないので現在の市場は公正に機能してはいないのでは
ないかという問題もある。
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民主主義もそれを支える中産階級の各国で衰退しているとか、それ故にポピュリズムが
進んでいる等の問題を内包している。
科学技術についても科学技術の進歩について警戒的な人々が増えている、ということが
言われている。生命倫理の問題なしに生命科学を進めることは難しいし、ビックデータ
は人間から考える力を奪うといった課題もある。現実問題としてハッカーの問題など解
決されていない。
4 つ目の要素のリベラルアーツの問題は、そもそも文化の問題とも関係があるので多様
性を容認することが世界的に認められているわけだが、前 3 項とも密接に関係のある考
え方なので、この影響力が低下していると見ることができる。
日米欧がこのグローバリズムを信奉している中核的な国々だが、それ以外の国が反グロ
ーバリズムで一つにまとまっているわけではない。後に触れるように中国、インド、イ
スラム等は文化的基盤も古く独自の価値体系を持っているが、これらの国の価値観がそ
のまま単独でグローバリズムの新しいオルタナティブになっているわけではない。要は
現在のグローバリズムの説得力が弱くなっていくという事実をふまえるべきだという
ことだ。
現在のグローバリズムの基準要素である市場主義、民主主義、科学技術については、権
威のある機関が各国の進展のランク付けをしている。勿論中国はこれに対し「ものさし
自体が間違っている」というとらえ方を表明している。
これらの INDEX は市場主義は米国ヘリテージ財団の「経済自由指数」、民主主義は英
EIU(エコノミスト インテリジェンスユニット)の「民主主義指数」、科学技術は WEF(ダ
ボス会議)の国際競争力レポートの中に指数がある。
これによると日本は市場主義では 186 ヶ国中 20 位(2015)、民主主義でも 167 ヶ国中 20
位(2014)、科学技術では 151 ヶ国中 4 位(2014‐15)とされている。
これを市場主義と民主主義で相関させると日本は韓国と近い位置で民主主義と科学技
術では米国と近く、市場主義と科学技術ではドイツやスウェーデンに近いという結果が
でる。
日本のグローバリズムでの立ち位置を認識する為には、この 3 要素の相互相関は非常に
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示唆的であると考える。
さて、ここで世界を再度俯瞰すると米欧日加豪をグローバリズム中核国、東南アジア、
インド・アフリカ・中東の一部をグローバリズム追随国、中国・ロシア・イスラム文化
圏を非追随国と考えるとその境界線上に東シナ海、南シナ海、ISIS、ウクライナ等の問
題が起こっていることが分かる。
そうすると今後のグローバリズムの課題は特に中国とイスラムの考え方とどう折り合
い、どうとり込んでいくかという事が分かるであろう。
中国については、私は日本では少数派かもしれないがこのままでは米国や EU の GDP
規模に追いつけないという立場である。それは労働人口比率の減少。技術や商品の独自
開発能力が小さいこと、バブルを怖れて景気刺激策がとれないこと、人民元の一本調子
の上昇の可能性が低いこと等の根拠による。
中国は AIIB や一帯一路戦略で国際的な地位の急激な上昇を狙っているがこれも現在が
中国が最も勢いがある時だ、との判断があると思われる。
現在の政権には国内ガバナンスの達成という最優先課題があり、そこに自信がない限り
は対外政策は国内ガバナンスに利用される可能性があることを認識すべきである。
イスラムについては一般的に言って、日本人はもっとリテラシーを上げる必要があると
思う。特にキリスト世界 vs イスラム世界の歴史的経緯をふまえておくことは重要だ。
またイスラムを構成する民族的要素としてアラブ、ペルシャ、トルコが言われていたが、
人口的に言うとインドネシアやインド等のアジア人のイスラム教徒が多いことも 忘れ
てはならない。
アラブの春は欧米日の観測者は「民主主義革命」という楽観的側面を強調しすぎた。世
俗的専制政権の打倒は、民主主義だけでなく部族主義、イスラム原理主義も解放につな
がったことを考えるべきだ。
グローバリズムに最も遠い文化からグローバリズムへ飛びこんだのは日本だ。その意味
でグローバリズムの良さもそれにあわせる痛みも知っている。グローバリズムに修正が
必要ならば日本が積極的な役割を果たせるのではないか。
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