CNRを用いたTHI画像とBモード画像の評価

CNRを用いたTHI画像とBモード画像の評価
中条中央病院 診療放射線科
○ 皆川 靖子
弦巻 正樹
(Minagawa Yasuko)
(Tsurumaki Masaki )
関川 高志
井澤 真栄子
(Sekikawa Takashi)
(Izawa Maeko)
風間 清子
(Kazama Kiyoko)
新潟大学医学部保健学科
関谷 勝
(Sekiya Masaru)
【はじめに】
超音波検査における画質改善のひとつの手法としてティシューハーモニックイメージング法(tissue
harmonic imaging:以下THI)がある。近年では広く普及し、各メーカーの装置に搭載されている。通常のBモ
ード画像は送信波(基本波)とその整数倍の周波数を持つ高調波が合成された歪みのある波を受信して画
像を構築している。THIは、生体内の組織より発生する二次高調波を主に利用して画像構築する1-3)。
今回、THI画像とBモード画像のフォーカス点の違いによる画像の変化ついて注目し、コントラスト対雑音
比(contrast to noise ratio : CNR)で評価を試みたので報告する。
【目的】
臨床現場で通常のBモード画像とTHI画像の効果的な選択をするために,画質改善を定量的に理解す
ることを目的として通常のBモード画像とTHI画像をCNRで比較する。
【方法】
超音波画像上で低エコーを呈する物質等を用いてファントムを試作した。試作したファントムから通常の
Bモード画像とTHI画像を撮影した。画像解析ソフトを用いて得られた数値からCNRを求めた。
【使用機器】
z LOGIC 500 :GE横河メディカル
z コンベックスプローブ(2.5~5MHz、T4.5~5MHz)
z 自作ファントム:ガラス水槽、ウレタンゴム、精製水、 寒天、こんにゃく、ナタデココ
z 画像解析ソフト: Image J
【測定方法】
自作ファントムは、脱気した精製水に試薬寒天を煮とかし固めたものを水槽(39×25×15cm)に入れて作
成した。水槽は内璧にウレタンゴムを貼り水槽壁からの反射、散乱の影響を少なくする工夫をした。寒天中
に低エコーのターゲットとしてナタデココ1,ナタデココ2,こんにゃくを表面から約10cmの深さに並べた。フォ
ーカス点は、ターゲットを観察するために適正な深さの11cmに設定した(Fig.1)。CNRは、それぞれのター
ゲットと寒天の信号値から求めた。今回CNRは、CNR=(SI1ーSI2)/SDの式から算出した。SI値の設定は、ナ
タデココ1をSI1,ナタデココ2をSI1a、こんにゃくをSI1b、寒天の信号値をSI2とした(Fig.2)。SDは、寒天のみを撮
影した画像から深さ約10cmで測定を行い、それぞれのターゲットについて通常のBモード画像とTHI画像
でCNRを比較した。フォーカス点を深さ6cm、9cm (ターゲットより浅部)、13cm(ターゲットより深部)に移動し、
Bモード画像とTHI画像のそれぞれのターゲットについてCNRを求めた。撮影条件は、DR:66、Gain:56、
STC:一定、F:1、出力:70の一定とした。
【結果】
THI画像は適正なフォーカス点11cm でナタデココ1, ナタデココ2,こんにゃくそれぞれのCNR値がBモー
ド画像よりもすべて高かった。しかし、低エコーターゲット上方の6cmでBモード画像のナタデココ1, ナタデ
ココ2,こんにゃくのCNR値が高く、9cmでナタデココ2,こんにゃくのBモード画像のCNRが高値だった。13cm
ではナタデココ2,こんにゃくのBモード画像のCNR値が高かった。今回使用した装置のTHI法は、フォーカ
ス点がターゲット上方及び下方、すなわち適正な位置からはずれると通常のBード画像よりもCNRが低くな
る傾向があった(Table.1)。
ナタデココ 2
ナタデココ 1
11cm
SI1
こんにゃく
Fig.1 ファントムの超音波画像
6cm
9cm
11cm
13cm
Table.1 各ターゲットのCNR値
ナタデココ2(SI1a)
ナタデココ1(SI1)
Bモード
THI
Bモード
THI
5.84
1.69
3.01
2.28
4.65
4.7
3.84
3.72
4.48
5.12
3.74
4.35
2.14
2.28
3.91
3.43
SI1a
SI2
SI1b
Fig.2 SI値の設定
こんにゃく(SI1b)
Bモード
THI
0.6
0.48
2.11
1.28
1.41
1.55
2.39
1.43
【考察】
THI法は二次高調波を受信して画像を構築し、通常のBモード画像は基本波を含めた全ての高調波か
ら画像を構築する。二次高調波を主に用いるTHI法は、高調波のすべてを利用するBモード画像に比べ、
超音波ビームが細くなるため、サイドローブなどのアーチファクトが低減し、コントラストの改善された画像が
得られる4-6)。THI法の細い超音波ビームは、Bモード画像よりもフォーカス点の不適切な設定による画質悪
化の影響を受けやすいためCNR値に反映したと考えられる。実際の超音波検査中に、Bモード画像を使用
して観察部位がはっきりと描出されない時にBモード画像からTHIに切り替えても、画質に明らかな変化が
なく、むしろ病変が見えにくい画像になる場合があった。今回使用した装置のTHIは、フォーカス点を目的
部位から少しでも離れた位置に設定するとCNRが低い結果となった。THI法を用いてより良い画像を得るた
めには、常にフォーカス点を適正な位置に設定し使用することが必須であると考えられる。
【まとめ】
THI法は、低エコーのターゲットを描出する場合、フォーカス点を適正な位置に設定するとBモード画像
よりも画質が改善された。THI法でよりよい画像を得るためのポイントは、適正なフォーカス点の設定である。
臨床で低エコーを呈する部位や疾患におけるTHI法の使用は、病変の正確な存在診断に有効な手段と考
えられる。
【参考文献・図書】
1) 西 克機:超音波の非線形とHarmonic imagingの有用性.日本放射線技術学会雑誌,vol.51,No.625,
19-23,2004.
2) 玉井 秀幸:腹部超音波診断におけるPhase Inversion Tissue Harmonic Imagingの基礎的並びに臨床
的研究,Jpn J Med Ultrasonics.Vol.31,No.3, 183-196,2004.
3) T.A.Whittingham: Tissue Harmonic Imaging.Eur.Radiol.9(Suppl.3),S323-s326,1999.
4) 三原昭二:ハイベーシック超音波検査.メディカルサイエンス社,東京,2001.
5) 森安史典:ハーモニックイメージングの展開.Medicina,35 (9),1622-1625,1998.
6) 地挽隆夫: Harmonic imagingの基礎.画像診断, 19(11).1240-1249,1999.