シリーズ COPD 安定期COPDの管理における増悪予防の 重要性 結核予防会複十字病院 吉田 直之 呼吸ケアリハビリセンター長 はじめに の既往が最も強力な予測因子であることが明らかと わが国では,がん・循環器疾患・糖尿病の 3 疾患 なった(表 1 ) 。この結果は,過去の欧米からの報告 が生活習慣病として位置づけられていたが,2012年 と同様であった。GOLD※2010までは気流閉塞の重症 度にCOPD (慢性閉塞性肺疾患)が加わり 4 疾患と 度に従って安定期COPDの管理が行われていたが, なった。COPDは長期にわたる「喫煙」という生活 このエビデンスが拠り所となりGOLD2011から過去 習慣により生じる慢性の炎症性肺疾患である。症状 1 年の増悪歴がCOPDの重症度の評価項目として加 として徐々に進行する息切れが必発で,時に慢性の わった。さらにGOLD2014では,増悪歴がたとえ 1 咳・痰が加わる。疾患の発見が遅れることで息切れ 回であっても入院治療を受けていればより増悪リス が強くなり,QOL(生活の質)が低下する。さらに, クの高いグループに入るとされている。 呼吸機能低下の進行と虚血性心疾患などの全身併存 このように,安定期COPDの管理において増悪リ 症により生命予後が悪化する。2000年の日本での スクが今まで以上に強調されるようになり,患者の COPDによる死亡数は約13,000人で総死亡の1.3%に QOLと生命予後の悪化を防ぐという観点から,増悪 当たり,死亡原因の第10位である。10年後の2010年 の予防が重要な戦略となっている。 には死亡数が16,000人を超えて第 9 位となっており, 死亡順位は今後さらに上がっていくことが予想され 増悪の予防 る。そして,患者のQOLと生命予後の悪化に強く関 では,息切れなどの呼吸器症状,気流閉塞の重症度, 連するのがCOPDの増悪である。今回は,COPDの 増悪歴から増悪リスクが最も高いと判定された患者 増悪とその予防について述べる。 が必ず増悪を起こすかというと決してそうではない。 自己管理を適切に行うことで予防が可能となる。禁 12 COPDの増悪 煙,ワクチン接種,薬物療法(特に長時間作用性気 COPDの増悪とは, 「息切れの増加,咳や喀痰の増 管支拡張薬の吸入)が増悪予防に有用とされている 加,胸部不快感・違和感の出現あるいは増強などを が,それだけでは十分とは言えない。特に,COPD 認め,安定期の治療の変更または追加が必要となる の特徴である気流閉塞は薬物療法を行ってもなくな 状態」と定義される。増悪の原因で最も多いのは, ることはなく,息切れは残ってしまう。慢性呼吸器 ウイルス性の上気道感染および気管より末梢の下気 疾患では息切れのために日常生活で動くことを嫌が 道の感染である。なぜ増悪に注意が必要かというと, る患者が多いが,COPDでは動かない(身体活動量 患者の生命予後に与える影響が極めて大きいという の少ない)患者ほど息切れが強くなりやすく,増悪 ことが挙げられる。特に,入院が必要となるような で入院する頻度が高い 2, 3 ) ことがわかっている。し 重症の増悪を起こすことで死亡率が高くなる 1 )。複 かし,このような悪循環は規則的な運動で断ち切る 十字病院に増悪で入院したCOPD患者63名について ことができる。複十字病院呼吸ケアリハビリセンター 増悪入院のリスク因子を調査したところ,増悪入院 では,2009年 6 月の開設以来,COPD患者に対して 11 / 2014 複十字 No.359 疾患の 2 次予防(疾患の進行抑制,増悪予防,生命 薬吸入などの薬物療法や酸素療法が主治医の指示通 予後の改善)と 3 次予防(息切れの軽減,運動耐容 りにできていない場合,まずそれを正すことが必要 能およびQOLの改善)を目的に,運動療法を中心と である。これらの治療を適切に行うことで運動療法 した外来呼吸リハビリテーションを行っている。グ の効果が上がり,増悪予防が可能となることを忘れ ラフに示すように, 3 カ月のプログラムで息切れが てはならない。 軽減し 6 分間歩行距離が有意に伸び(図 1 ) ,QOL も有意に改善している(図 2 )がわかる。この効果 を維持することが身体活動量の増加,延いては生命 予後の改善をもたらすのである。 ※GOLD: Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Diseaseの略。 WHOとNHLBIの共同プロジェクトに世界中の医療専門家が協力する形 で始まった活動。その活動は医療従事者だけでなく一般社会を対象に しており,①COPDについての認識と理解を高める,②COPDの診断・ 管理・予防についてその方法を向上させる,③COPDに関する研究を 促進させる―が目的である。 参考文献 終わりに COPDにおいて運動療法は,薬物療法や酸素療法 の補完代替治療ではなく,これらの治療と並んで同 時に行うべきものである。しかし,決して薬物療法・ 酸素療法に取って代わるものではない。気管支拡張 1 )Soler-Cataluña JJ, et al. Severe acute exacerbations and mortality in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Thorax 2005; 60: 925-931. 2 )Reardon JZ, et al. Functional status and quality of life in chronic obstructive pulmonary disease. Am J Med 2006; 119(10 Suppl 1 ): 32-37. 3 )Garcia-Aymerich J, et al. Regular physical activity reduces hospital admission and mortality in chronic obstructive pulmonary disease : a population based cohort study . Thorax 2006; 61: 772-778. COPD増悪再入院のリスク因子 表1 リスク因子 調整オッズ比(95% 信頼区間) P値 過去1年間での増悪入院の既往 22.17(3.73-131.7) 0.0007 Charlson Comorbidity Index ≥ 2 17.71(2.71-115.6) 0.003 複十字病院にCOPDの増悪で入院した63名の患者を対象とした。 Charlson Comorbidity Index: 合併症を持った慢性疾患患者の生命予後を予測する 指数で,合併症を死亡リスクで点数化したもの。点数が高いほど死亡率が高くなる。 図1 運動療法の運動耐容能に対する効果 図2 運動療法のQOLに対する効果 46 44 42 40 38 36 34 SGRQスコア COPD患者25名に対し 3 カ月の運動療法を行った結果, 6 分 間歩行距離が50m延長した。欧米からの報告では,介入後の歩 行距離延長が25~50m以上になると臨床的に有意とされる。 運動療法前 3カ月後 44.2 37.6 COPD患 者25名 に 対 し 3 カ 月 の 運 動 療 法 を 行 っ た 結 果, SGRQスコアが6.6低下した。SGRQという尺度では,介入後の スコア低下が 4 以上になるとQOLが有意に向上したとされる。 11 / 2014 複十字 No.359 13
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