慢性疾患医療 Medical services for chronic conditions

東北大学 工学研究科・医学系研究科 『工学と生命の倫理』・『生命倫理』
Tohoku University Ethics of Engineering and Life / Life Ethics
2015 年度
第 12 回(7 月 8 日)
講師:圓増
題目:慢性疾患医療
文 ENZO Aya
Medical services for chronic conditions
<概要・Summary> (受講者のレポートからの抜粋・Selected from the students' assignments)
1.
慢性疾患医療というテーマに関して講義を受けました。慢性疾患とは、
「徐々に発病し、
治療にも長期間を要する疾患の総称」のことを指します。慢性疾患医療の特徴として、予防
が医療の中心となっており、患者による療養行動が不可欠で、療養行動の継続を支援するこ
とが重視されていることが特徴です。生命倫理の倫理原則に、与益/善行原則と自律尊重原
則があります。時に、この二つの原則どちらか一方を捨て、一方を選択しなければならない
状況が生まれます。その倫理問題が将来の医療の課題となっています。
2.
慢性疾患とは、慢性の経過をたどる病気の総称で、生活習慣病や精神疾患など、完全に治
ることが望みにくいものである。慢性疾患は徐々に発病し、治癒にも長期間を要するため、
病気を排除するよりも、予防することが大切である。予防には患者の療養行動が不可欠であ
り、その継続を支援することも重要である。しかし、医師は患者に治療などを強要せず、患
者の自立尊重を促さなくてはならない。そのためには、医師と患者のコミュニケーションが
極めて重要である。また、慢性疾患には課題も多く、国際社会での健康格差などが問題にな
っている。予防対策だけでなく、治療へのアクセスも徹底すべきである。
3.
This lecture was about medical services for chronic conditions. First the term chronic
condition was defined with a few examples of chronic conditions. And then the reasons why
people need to pay attention to the chronic conditions were explored. The characteristics of
medical services were also introduced. Afterwards the ethics for medical services of
chronic conditioned patients were discussed. How to resolve various ethical issues were
also talked with help of examples. Finally a more detailed analysis of the ethical issues
about the medical services of chronic conditions was explained to give more insight to the
audience about possible issues.
<意見・Opinion> (受講者のレポートからの抜粋・Selected from the students' assignments)
1.
今回は特に慢性疾患における倫理についての内容であったが、確かに終末期医療とは異な
り生きていけるがゆえの苦しさが辛さであり、いかに解消していくかが問われているように
感じた。また、倫理の中の特に価値問題に興味が惹かれた。「べきである」内容は絶対的な
ものではなく、主観的な認識の集まりでしかないので共通認識を作るべく、理由や論拠を示
していくことが肝要であると感じた。治療のジレンマに関しては、医師というのは医学的な
知識、技術のみならず、患者のジレンマを乗り越えさせる、満たさせる為の提案やコミュニ
ケーション能力も問われている状況であるのだと初めて知った。
2.
長期的な治療が必要になったとき,患者のQOLを尊重することは大切であるが,患者が
中々治療を受け入れようとしなかった場合,医師側がうまくコミュニケーションをとりなが
ら治療を受けてくれるように促さなければならないが,患者のイライラを誘発し,結果QO
Lに悪影響をおよぼすのではないかと思いました.そこで,患者に対して治療を含めながら
も満足する生活をマネジメントすることが出来ればベストである.そのため,近年,家の中
のトイレや風呂にセンサ等を取り付け,患者の健康状態を無意識的にモニタリングできるシ
ステムの開発が注目を集めていると感じた.病院に通わずとも検査ができ,問題がある時だ
け通院するシステムの実現は,患者の生活の自由度が広がるため,QOLの向上につながる
と思った.
3.
講義を聞いて慢性疾患は患者だけの問題ではない事を知った。課題で取り上げられた事例
を読んで、最初は患者側の責任かと考えられた。しかし続きを読んで、患者が置かれた環境
を知ると患者の意識次第で解決できるような問題でないと思えた。多忙でなくても治療は大
変であるのに、仕事に追われてかつ、医者の目線で治療の指示をされれば、抱え込んで何も
できなくなるのは当然だろう。私も多忙になると他の事に手が回らなくなる時があるので、
これで慢性疾患にかかって自分の責任だと指摘されるのは酷な気がする。解決の為には患者、
医療者だけでなく、社会全体で取り組む事が必要不可欠かと考える。他人事のように患者が
悪いと考えるのではなく、患者の置かれている状況を理解して手助けできるようになりたい。
4.
今回の講義は,生活習慣病も含めた慢性疾患の話だったため,医療倫理などと比較して非
常に身近な問題であると感じた.自分の両親は高血圧であるため薬を服用することもあるが,
食事の塩分等を特に気をつけるようになった.また,薬の関係でグレープフルーツ等が食べ
られなくなるなどの影響も出ていた.塩分に気をつけるために外食は気軽にできないだろう
し,食べ歩きが趣味の人などは生活に大きな影響が出ると思った.また,生活習慣病はすぐ
に重病化しにくいものであり,食事制限等の予防の努力はしにくいと思った.そのために,
医療従事者はどのように患者に説明し対策を立てているか興味を持った.
5.
私の父も糖尿病を患っており,定期的にインスリンの注射を打ち,慢性疾患医療による治
療を続けています.他にも心臓の治療を続けている知り合いなどもいますが,これらの方々
は皆,食事の制限のような生活習慣を変える療法が一番つらいと話していました.今までで
きたことがもうできなくなるというのは想像以上につらいことだと感じます.このような状
況になりうる慢性疾患の患者は,特に精神的な面でサポートが必要になると思われます.生
活習慣などの患者の生き方を尊重しつつ治療を進めるというのは非常に難しいと思います
が,医師側が親身になって治療を行い,QOL を維持できるようサポートすることが大事で
あると感じました.
6.
本日の講義は,慢性疾患をテーマとした内容で,慢性疾患医療の倫理,課題に関する内容
であった.特に,慢性疾患医療の課題に関しては,ミクロ,マクロレベルの課題が挙げられ
た.ミクロレベルの問題としては,定期健診で糖尿病を疑われ,医師から食事療法を勧めら
れたものの,仕事の多さによるストレスから,実行に移せない事例が挙げられた.労働時間
が世界の中でも多い部類に属する日本において,顕在,潜在を含め非常に多く存在するケー
スだと思う.また,マクロレベルの問題としては,格差の問題が挙げられた.これは,世界
的に大きな問題となっていることであるが,経済的格差が健康格差につながっている現状は
早急に解決しなければならないと感じた.
7.
慢性疾患に関しては私も他人事ではなく、幼少の頃気管支喘息を発症し治癒には非常に長
い時間を要したことを覚えている。当時は幼稚園・小学生で社会的な責任もなく入院などの
治療に時間がかかっても問題がなかったが、本講義を聴講し社会人になるとそうもいかなく
なることに気が付いた。私は今、喘息がほぼ完治して(10 歳以来発症していない)いるか
らよいものの、自己責任ではなく大人になっても喘息が完治していない人は、その主治医と
ともにバランスの調整に苦心しているのだろうと思う。また、それ以外の慢性疾患に関して
も同様に思う。
8.
This is the first time for me to hear the word “chronic conditions”. From the word itself, I
can somehow think of the diseases which would be classified as chronic condition. However,
when the examples are given, some examples such as lower back pain and shoulder pain
surprises me since I don’t think that they can also be called as a ‘disease’. Actually I
often have the pain on both lower back and shoulder due to my research which mainly
needs to sit on a table and write a computer program. The pain go away if I go exercises or
move around a lot, but it become very badly if I sit for very long time to finish the program
before deadline. Regarding the class, I think that it is a little difficult because of the
diseases name, but I was able to understand the explanation about ethics and issues about
medical services of chronic conditions.
9.
この講義では倫理について考えてきたが,改めて倫理という言葉について考えるのは新鮮
であった.今まで私は事実問題と価値問題の間にある境界に関してハッキリと区別して考え
ていなかったと思う.日常生活においては規範に従い生活しているものの,非日常的な事象
が発生した場合に問題となる.そのとき問題となる価値が他の主体に対し正当化可能である
ことを示すのが倫理問題の解決であると考える.これまでシステマチックに倫理について考
えることがなかったので,ある程度の規範を参考に自分の考え方も改めて行ければと考える.
10.
病気といえば治療技術や発見の早さが問題であると思っていたが,慢性疾患の場合はそれ
らよりもむしろ患者自身が療養行動を継続することの方が重要であることを知り,病気に対
する考え方が広がった.最後の質疑応答で交わされたように,治療技術の進歩で解決しよう
と考えがちな工学部の学生としては驚きだったが,情報管理システムの強化など療養行動の
継続のためにエンジニアにできることがあるという話を聞けて良かった.課題の解決には何
が本当に問題で何が求められているのかを知ることが大切であるという良い例だと思った.
今後の研究やエンジニアとしての仕事において非常に重要な視点を得ることができたと思
う.