第145号

共創・共育・共感
尾鷲市教育長だより
2015.10.2.(金)
第145号
学び合い育ち合う学校
次代を担う子どもたちが過ごすこれからの時代は、今の時代からは予想の
つかない大きな変化が訪れるはずです。それは、さまざまな技術革新がもた
らしている日々の生活を見渡してみることでも実感できます。
例えば、掌に収まるサイズにまで小さくなったタブレットは、いつの間に
か私たちの生活の欠かせない一部となっています。以前には考えることがで
きないほどのスピードで情報を収集することが可能です。
そうした時代を生き抜くために、今の教育に求められてきている能力は、
実社会で活用できる能力、多様な情報から新しい考えを創造する能力、創造
的 で 批 判 的 な 考 え る 力 、 発 展 的 で さ ま ざ ま な 表 現 力 な ど 、 い わ ゆ る 「 21世 紀
型の学力」を重視した学力観であると言われています。
現 在 、 こ う し た 「 21 世 紀 型 の 学 力 」 を 育 む た め に 提 唱 さ れ て い る の が 「 ア
ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ 」で す 。
「 主 体 的 で 協 同 的 な 学 び 」と 定 義 さ れ て い ま す 。
① 子どもが自主的・主体的になっていくような指導
② 子どもが協同的になっていくような指導
③ 子どもが課題解決をしていくような指導
こうした3つの指導を大切にした指導法です。
この指導法は、昨年末の文部科学省の中央教育審議会への諮問で示され、
少なくとも今後10年間の日本の授業改革の水路となります。
子ども同士が協力して学び合う「アクティブ・ラーニング」は、現在尾鷲
中学校で取り組んでいる授業改革にも取り入れられており、尾鷲小学校をは
じめ市内の各学校にも広がりつつあります。
例えば尾鷲中学校の英語の授業では、生徒が互いに単語などを教え、英文
を作っていきます。英語の担当教諭は「一斉授業についていけなかった生徒
が、グループでは隣の子にすぐに聞くことができる。男女が気配りしながら
支 え 合 い 、 脱 線 す る こ と な く 学 習 テ ー マ に 取 り 組 め る 。」 と 効 果 を 語 り ま す 。
「アクティブ・ラーニング」の授業では、授業の課題を確認したり、全員
で考えたりする際は席をコの字形に並べ、少人数で意見を交わし合う時は4
人のグループに替え、いずれも子どもは互いに顔が見えるようにし、男女が
交互に並びます。そうすることで子ども同士で学び合う環境がつくられます。
尾鷲中は、6年前からこの取り組みはじめ、年を重ねるごとに授業妨害な
どの行為もなくなり、授業を抜け出す生徒もいなくなりました。現在では問
題行動や不登校も減り、授業が理解できずに孤立しがちであった生徒も教室
に居場所ができ、学校が落ち着いています。
このように子ども同士が協力して学び合う「アクティブ・ラーニング」は、
全 国 約 3 0 0 0 校 ほ ど で 実 施 さ れ て い て 、「 学 び の 共 同 体 」 の 授 業 改 革 ・ 学 校
改革の中核をなしています。
改革の提唱者である東京大学名誉教授・現学習院大学教授の佐藤学先生は、
「一斉授業が主流の時代から、教室で全員の学びを保障し、結果的に不登校
や問題行動を減らしてきた。
“ ア ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ ”を 広 げ て い く 際 に は 、
こ れ ま で の 蓄 積 を 活 用 し て し っ か り 取 り 組 ん で も ら い た い 。」と 話 し て い ま す 。
「学びの共同体」の授業改革・学校改革に全校体制で取り組みはじめた全
国 の 各 中 学 校 で は 、「 学 校 が 全 体 的 に 落 ち 着 き は じ め た 」「 窓 ガ ラ ス が 割 れ な
く な っ た 」「 保 健 室 に 来 る 子 ど も の 数 が 減 っ た 」「 不 登 校 や 別 室 登 校 の 生 徒 が
教 室 に 戻 り 始 め た 」と い っ た 声 や 、高 校 の 場 合 に は 、
「退学する生徒が減った」
といった話をたくさん聞くことができます。
佐藤先生が来鷲されたときはいつもお会いして話を伺っています。先生は、
「学校は内側からしか変わらない。学校も授業もそんなに簡単には変わらな
い。改革を継続するために研究者や行政など外側からの支援も借りる。とも
かく粘り強く、授業のデザインをつくる ー 実践する ー デザインをつくる
ー 実践するということを繰り返しながら、一人残らずどの子にも学びが保障
で き る 、 学 び 合 い 育 ち 合 う 学 校 に な っ て い く か ら 。」 と 励 ま し て く れ ま す 。
ま た 、「 学 校 改 革 で 一 番 大 切 な の は ビ ジ ョ ン 。 一 人 残 ら ず 子 ど も た ち の 学 び
を保障していくというビジョンを保護者・地域とも共有し、保護者・地域の
学 習 参 加 を 促 し な が ら 、 学 校 改 革 を 進 め て ほ し い 。」「 学 び で 大 切 に し た い ル
ー ル は 、 わ か ら な か っ た ら 、『 ね ぇ 、 こ こ ど う す る の ? 』 と 友 だ ち に 聞 け る 子
どもを育てること。そして、それを受け止められる子どもを育てること。子
どもたちの支え合う関係、聴き合う関係をつくりながら、まわりに依存しな
が ら 自 立 で き る 子 ど も を 育 て て ほ し い 。」 と 強 調 さ れ ま す 。