なぜ、いま 「アクティブ・ ラーニング」なのか

東京大学大学院教授
市川 伸一
なぜ、いま
「アクティブ・
ラーニング」なのか
学習指導要領の改訂にあたって
﹁ ア ク テ ィ ブ・ ラ ー ニ ン グ ﹂ が 強 調
されるようになった背景には、大学
教育改革、資質・能力の育成、探究
活動の促進がある。主体的・能動的・
協同的な学習を促すねらいがある
が、高度な探究活動だけでなく、習
得の学習でも導入すること、活動の
基盤となる知識を教授しておくこと
が重要である。
アクティブ・ラーニング登場
の背景
者 は 少 な く な い は ず だ。「 い っ た い、 ア
ク テ ィ ブ・ ラ ー ニ ン グ っ て 何 で す か 」
「具体的に何をすればよいのですか」と
い う 声 が、 筆 者 の 回 り で も 多 く 聞 か れ
た。
そのこともあってか、以前には、次の
指導要領改訂の最大の論点となるかのよ
うに思われていた道徳の教科化や小学校
での英語の教科化などは、とうに既定路
線となってしまい、話題が移ってきた感
がある。
しかし、この「アクティブ・ラーニン
グ 」 は、 唐 突 に 出 て き た わ け で は な い。
その背景には、少なくとも三つの方向か
まず第一に、2012年8月に、文部
科学省関連の大きな会議としてはアクテ
らの教育界の流れがある。
にわかに教育界のキーワードとなった
「 ア ク テ ィ ブ・ ラ ー ニ ン グ 」 だ が、 そ の
ィブ・ラーニングという用語を初めて使
に下村文部科学大臣から中央教育審議会
ったと思われる答申が、中教審の高等教
の諮問文と言えよう。
このなかで頻出するアクティブ・ラー
ニングという用語にとまどった教育関係
のものから、能動的・主体的な活動を取
こ れ は、「 質 的 転 換 答 申 」 と も 言 わ れ
るように、大学教育を一方的な講義中心
育部会から出されている。
震源地ともなったのは、2014年
月
ポイント
に出された、学習指導要領改訂に向けて
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中教審「論点整理」が示す
次期学習指導要領の方向性
総力特集
─「社会に開かれた教育課程」をめざして─
Ⅰ 改訂のキーワード
教職研修 2015.11 24
中教審「論点整理」が示す次期学習指導要領の方向性
—「社会に開かれた教育課程」をめざして—
総力
特集
内 閣 府 の「 人 間 力 」
、 経 済 産 業 省 の「 社
2 0 0 0 ~ 2 0 0 5 年 ご ろ に か け て、
O E C D の「 キ ー・ コ ン ピ テ ン シ ー」、
成」という流れがある。
的 に 議 論 さ れ て き た「 資 質・ 能 力 の 育
第二には、この2~3年、次期学習指
導要領の基礎的なコンセプトとして集中
れである。
にも生かされなくてはならないという流
ながら、初等中等教育における授業改革
ブ・ラーニングを受けたものだが、当然
リカの高等教育を源流とするアクティ
いという趣旨である。もともとは、アメ
り入れたものにしていかなくてはならな
の充実・徹底ということである。
る が、「 習 得・ 活 用・ 探 究 」 の い っ そ う
そ し て 第 三 の 流 れ と し て は、 む し ろ、
現行の学習指導要領からの延長とも言え
わけだ。
がアクティブ・ラーニングであるという
るをえなくなる。その有力な方法の一つ
うに学ぶかという学習方法にも言及せざ
を列挙するだけでなく、それらをどのよ
そうなると、従来の学習指導要領のよ
うに、教育目標として教科の内容的知識
れている。
学校教育の大きな役割として位置づけら
質・能力を整理し、それを育てることが
めて浮上したということになる。
学習を促進したいというねらいがあらた
を強調することによって、能動的な探究
摘されている。アクティブ・ラーニング
と く に 高 校 で は、「 総 合 的 な 学 習 の 時
間」も本来の趣旨に沿った活動がなかな
ことは否めない。
希薄になってしまうという実態があった
達的に充実するはずの探究的学習活動が
中学校、高校と進むにつれ、本来なら発
ところが、探究に関していえば、小学
校 で は あ る 程 度 取 り 入 れ ら れ た も の の、
用・探究」というキーワードであった。
榜してつくられたのが、この「習得・活
そもそもアクティブ・ラーニング
とは
か展開されていないのではないか、と指
会人基礎力」などが、教育界でも大きく
後に学力低下論争が起こり、その後、現
1990年代に「新学力観」や「ゆと
り教育」が叫ばれたのち、2000年前
と り あ げ ら れ る よ う に な り、 最 近 で は、
世紀型スキル」と総称されるように
行指導要領が告示される2008年(高
「
もなっている。
育課程部会では審議が重ねられた。
をさすのか、その意味するところが、ど
校は2009年)までの間、中教審の教
文部科学省に設置された「育成すべき
資質・能力を踏まえた教育目標・内容と
学校教育法も改正され、基礎・基本の
確実な習得と、思考力・判断力・表現力
う も あ い ま い な こ と で あ る。 も ち ろ ん、
ただし、教育界が混乱ぎみなのは、こ
のアクティブ・ラーニングというのが何
理(2014年3月)では、これからの
の育成というバランスのとれた教育を標
評価の在り方に関する検討会」の論点整
世の中を生きる社会人として必要な資
25 教職研修 2015.11
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