Japanese Psychological Review 2014,Vol. 57, No. 2, 258 - 272 本邦心理学の創始者元良勇次郎の足跡を辿って 大 山 正・大 元東京大学 泉 溥 元日本福祉大学 Contributions of Yujiro Motora, the earliest scientific psychologist in Japan Tadasu OYAMA and University of Tokyo Hiroshi OIZUMI Nihon Fukushi University Yujiro Motora (1858-1912) studied psychology under the guidance of Stanley Hall in Johns Hopkins University and obtained his Ph. D. degree in 1888, after having received some oriental and westernized education in Japan. Subsequently he taught psychology at the University of Tokyo and founded the first laboratory of psychology in Japan. He studied psychophysics, attention, reading and writing of Japanese words in vertical versus horizontal directions, visual perception after operation of a congenitally blind patient, theoretical relations between mind and body, and some educational and social problems. He then returned to oriental thoughts and presented the paper, “Concept of Ego in the Oriental Philosophy”, at the 5th International Congress of Psychology in 1905. Key words : history of psychology, Japanese psychology, psychophysics, Yujiro Motora, attention, reading and writing, mind-body relation. キーワード:心理学史,日本の心理学,精神物理学,元良勇次郎,注意,読み書き,心身関係 (2013) に従って,彼の初期の足跡を辿ってみよ 本邦最初の専門的心理学者元良勇次郎 (もと う。 ら・ゆうじろう) の没後 100 年を記念し,彼の足 跡と貢献を述べたい。元良勇次郎の業績について 元良勇次郎は幕末の安政 5 年 (1858) に三田藩 は,すでに苧阪良二 (1998),大山 (2001, 2004) (現兵庫県三田〈さんだ〉市) で藩校所属の儒学 がその一部を本誌で論じているが,さらに現在ほ 者杉田泰 (ゆたか) の次男として生まれ,少年期 ぼ全著作を現代語に訳した「元良勇次郎著作集」 には漢学を学んだ。明治維新による開国後,彼は (大山正監修,大泉溥編集主幹,全 14 巻,別巻 2, 洋学に強い関心を抱き,川本幸民・清一父子に学 クレス出版。2013 年 4 月より順次刊行中 (ISBN : び,さらに神戸のアメリカ人宣教師 J. D. Davis 9784877337483) の出版も進んでいる。 宅に住み込みながら英語と洋学の指導をうけ,明 本稿は元良勇次郎の広義の心理学上の貢献を中 治 7 年 (1874) 16 歳で洗礼を受けてキリスト教 心として論じるが,彼はその他,文明開化期に 徒となった。明治 8 年には,アメリカ留学から帰 あった日本の社会,教育,倫理,宗教の諸問題に 国した新島襄が京都に創設した同志社英学校 (現 ついても,当時の一流文化人として活発な発言を 同志社大学の前身) に第一期生として入学する。 しており,それらも元良著作集に収録されている。 徳富猪一郎 (蘇峰) や中島力造 (後の東大倫理学 教授) らが同学であった。元良は,数学・科学に 出生より留学まで 特に興味を示したとのことである。この当時のこ とは,昨年の NHK テレビの「八重の桜」にも描 かれている。明治 12 年 (1879) に,東京に移り, まず彼の没後に門下生により出版された「元良 中島力造の後任として,津田仙 (津田塾創始者梅 博 士 と 現 代 の 心 理 学」(1913) と 著 作 集 別 巻 1 ― 258 ―
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