はじめに 本書は、犯罪心理学の分野の中で、とくに犯罪捜査に関連した分野である「捜査心理学」の主 要なキーワードについて解説を加えたものである。犯罪心理学についてのテキストとしては、私 犯罪心理 自身、すでに『ケースで学ぶ犯罪心理学』(北大路書房)と『 progress and application 学』 (サイエンス社)などを出版しているが、これらの本に対して、本書では、より深い内容と 最先端の知識をできるだけ組み入れているところが特徴である。そのため、すでに入門書レベル の知識を持った人が「中級」の知識を得るために通読してもらうというのが、ひとつの使い方に なると思う。また、もちろん、大学・大学院等での「犯罪心理学」等の講義における少し進んだ テキスト、参考書として使うこともできる。 ただし、本書の扱う分野については、第一線で活躍している警察官やその他公安職の方々、推 理小説・警察小説のマニア、海外ドラマのファン、作家、マスコミの方々なども、ダイレクト に、より深い最先端の知識を知りたいというニーズが存在するということも確かである。また、 日々報道される新しいタイプの事件に接して、「いったいなぜこんな事件が発生するのか」、「い ったいこんな事件はどんな人が行うのか」、「警察はいったいどのような方法でこのような事件を i ii 捜査していくのだろうか」などの疑問は誰もが持つものだと思われる。そこで、もちろんこのよ うなユーザーの方々にも読んでいただけるように、予備知識がほとんどなくてもある程度の最先 端の知識が理解できるように構成してみた。また、はじめから順を追って読まなくても、自分の 知りたい部分だけを読んで理解できるように、各項目の独立性を高くした。 本書の構成は大きく二つの部分に分かれている。第Ⅰ部は、「犯罪捜査の心理学」と題して、 捜査心理学のさまざまな手法、具体的には、プロファイリングや地理的プロファイリング、ポリ グラフ検査、取り調べ、人質交渉などのテーマについて、その概要と現状、問題点や最新の研究 についてまとめてある。第Ⅱ部は、「凶悪犯の人格と行動パターン」と題して、さまざまなタイ プの連続殺人、大量殺人、テロリズム、レイプ、強盗など罪種ごとの犯人の特徴と動機、行動の 特徴についてまとめてある。また、第Ⅰ部、第Ⅱ部ともできるだけ実際の事件を例にあげなが ら、解説を加えている。これはよりリアルなケースを通じて、理論や研究を理解してもらいたい と考えたからである。 まだまだ不十分なところもあるかもしれないが、現時点においては最新でかなり有用な犯罪捜 査の心理学についてのハンドブックができあがったのではないかと自負している。 年近く完成が遅れ 本書は、新曜社の森光佑有氏の熱心なすすめと励ましがあってはじめて世に出すことができ た。ここに御礼申し上げるとともに、当初設定してくださった締め切りから 理学研究室の大学院生の皆さんから、いろいろなアドバイスをいただいた。やはり、彼らの助け てしまったことをお詫び申し上げたい。また、本書の執筆にあたっては、法政大学大学院犯罪心 3 なしには完成することはできなかった。ここに感謝を捧げたい。 犯罪心理学は、犯罪という人間のダークな部分に焦点を当てた研究分野であり、しかも、テレ ビドラマで活躍するかっこいいプロファイラーとは異なり、犯罪心理学者の仕事は、地味で地道 である。しかし、犯罪を世の中からできるだけ少なくし、被害者の無念を晴らし、加害者を更正 させ社会復帰させるという重要な役割を担っている学問分野であるともいえる。そのような点で 越 智 啓 太 多くの人にこの分野に関心を持っていただければ、そして、自分ももっと学んだり研究したりし 二〇一五年 一一月 てみたいと思っていただければ、幸いである。 iii はじめに ― 犯罪捜査の心理学 目次 はじめに 連続殺人犯の犯人像を推定する どのようにして誕生したのか 心理学を使って犯罪捜査を支援する 犯罪者の心理はどのように研究されているか 38 32 26 20 12 6 2 最先端の統計学で犯罪捜査を支援する 42 第Ⅰ部 犯罪捜査の心理学 犯罪心理学 捜査心理学 なぜ犯人はその手口を使用するのか リンク分析 地理的プロファイリング 中枢神経系の指標を用いた虚偽検出 ポリグラフ検査 動作・行動からのウソの見破り プロファイリングのための統計解析 犯行テーマ分析 リヴァプール方式のプロファイリング FBI方式のプロファイリング 統計学を駆使して犯人像を推定する手法 46 プロファイリングの誕生 どの犯罪が同一犯によって行われたのかを推定する 犯人の居住地と次の犯行地点を推測する 生理反応で犯人を選別するテクノロジー ノンバーバルコミュニケーションでウソは見破れるか 脳から犯人を識別するテクノロジー 56 64 i 74 vi 目撃者の証言 子ども・高齢者の目撃証言 取調べ 人質交渉 子どもと高齢者から正確な目撃証言を聴取するために 目撃者の記憶はじつは脆弱である 目撃者の見た犯人の顔を再現するための技術 似顔絵/モンタージュ写真/面割り 80 人質を安全に解放し犯人を殺さずに確保する技術 犯人を自供させるためのコミュニケーション技術 86 信念が引き起こす連続殺人 妄想が引き起こす連続殺人 連続殺人犯の動機と行動、プロファイリング その殺人に大義はあるか なぜ、全員殺してやると考えるのか なぜナースが患者を殺すのか 伝統的で代表的な女性の連続殺人 なぜ性欲が連続殺人を引き起こすのか 第Ⅱ部 凶悪犯の人格と行動パターン 連続殺人 幻覚型連続殺人 使命型連続殺人 快楽型連続殺人 黒い未亡人型連続殺人 死の天使型連続殺人 大量殺人 テロリズム vii 目 次 92 102 98 148 142 138 134 126 122 118 112 放 火 レイプ 住宅街を恐怖に陥れる凶悪犯罪 被害者を守るためにストーカーの行動を分析する なぜ彼らは子どもを狙うのか レイプ犯の動機は本当に性欲なのか 子どもに対する性犯罪 ストーキング 犯人はなぜその店に押し入るのか なぜ暴力から逃れることができないのか ドメスティックバイオレンス/デートバイオレンス 人名索引 強 盗 事項索引 ■装幀=加藤光太郎 176 172 164 158 192 186 (3)(1) viii 第Ⅰ部 犯罪捜査の心理学 犯罪心理学 ― 犯罪者の心理はどのように研究されているか 犯 罪 心 理 学( criminal psychology / forensic psychology ) は、 犯 罪 を め ぐ る 人 間 ( (1 ( 行動のさまざまな側面を科学的・実証的に研究していく心理学の一分野である。ただ ( ( 犯罪原因論は、犯罪の原因について明らかにしようとする研究分野である。犯罪原 ( らにさまざまな下位分野が存在する。 し、ひとくちに犯罪心理学といってもその守備範囲は広く、犯罪心理学の中にも、さ ( 因論の中には、犯罪行動は遺伝するのか、脳のホルモンや神経伝達物質の異常と犯罪 は関係しているのか、犯罪者の脳にはどのような特徴があるかなどを研究していく生 物学的アプローチ、社会・経済的な格差や社会階層、地域特性や友人関係が犯罪とど のように関連しているのかを調べる社会学的アプローチ、性格と犯罪傾向の関連、暴 力的なテレビ番組やゲームの視聴と攻撃性の関連、養育態度や親子関係と子どもの非 行の関連などの心理学的要因について研究する心理学的アプローチがある。 捜査心理学は、心理学の知識を用いて犯罪捜査を支援するための研究分野である。 犯罪現場の状況から犯人の属性を推定する犯罪者プロファイリング、犯人の居住地や ( ) 犯罪心理学と関連する分 野として、最も重要なものは犯 罪 学( criminology ) で あ る。 犯罪学はおもに社会学的な方法 論で犯罪現象を明らかにしてい く学問であり、とくに非行現象 についての重要な理論をつくり 出してきた。社会的コントロー ル理論、分化的接触理論などは 犯罪学の中でつくられた理論で ある。 ( ) 法学部で教えられている 「刑事政策」「刑事学」という学 問は、犯罪についての社会科学 的な知見を元にして、刑事司法 制度の仕組みや法制について考 えていく学問である。 1 ( ) 大 渕 憲 一( 2006 )『 犯 罪 心理学:犯罪の原因をどこに求 めるのか』培風館 2 3 ( 2 次の犯行地点を予測する地理的プロファイリング、被疑者や目撃者に対する効果的な 取調べ方法の開発、ウソの見破り、精神疾患や記憶喪失の演技の見破り、人質立てこ ( ( もり事件における説得、突入タイミングの決定などの研究が行われている。 裁判心理学(法廷心理学)は、裁判を適切に行っていくための心理学知識の応用分 野である。陪審員や裁判員の数や評議形式の検討、証人尋問の方法、専門家証言の方 法、目撃証言の信頼性の査定やその鑑定などについての研究が行われている。日本で はこの研究分野は「法と心理学」という名称で研究されていることが多い。なお、精 神鑑定は、事件の被疑者や被告人に責任能力があるのかを診断していく分野であり、 裁判心理学と密接に関連している分野であるが、他方で責任能力は精神疾患の有無と 関係していることが多いので、この分野は犯罪心理学というよりは犯罪精神医学とい ( ( う医学の一分野と考えることができる。精神鑑定に関する教育はおもに医学部で行わ れている。 矯正・更生保護の心理学は、少年院や刑務所に入所した者に対する矯正教育やカウ ンセリングなど、犯罪を犯してしまった者に対する社会内での立ち直りの支援につい て研究し、実践していく分野である。日本をはじめ多くの先進国では、犯罪者を刑務 所に閉じ込めておくだけでなく、教育して再び犯罪を犯さないような人間にしていく という教育刑主義が行刑のひとつの柱となっている。彼らを教育していくためには、 受刑者や少年たちの性格特性や犯罪に至った原因について、アセスメントすることが ( ) 藤 田 政 博( 編 )( 2013 ) 『法と心理学』法律文化社 ( ) 藤 岡 淳 子( 編 )( 2007 ) 『犯罪・非行の心理学』有斐閣 犬塚石夫・松本良枝・進藤眸 ( 編 )( 2004 )『 矯 正 心 理 学: 犯 罪・非行からの回復を目指す心 理学 上・下』東京法令出版 法 務 省 矯 正 研 修 所( 編 ) ( 2013 )『矯正心理学』矯正協会 )『研修 矯正協会(編)( 2014 教材矯正心理学』矯正協会 3 犯罪心理学 4 5 ( ( ( 分野である。犯罪に関する研究と行政は長年、加害者や被疑者、被告人の権利を守っ たり、その更正を手助けすることを目的に行われてきた。その一方で、被害者に目が 向けられることは少なかった。しかし近年、このような状況が批判され、ようやく被 害者のケアについて研究や援助の取り組みが行われるようになってきた。犯罪被害者 はASD(急性ストレス障害)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)になっている ことが多いので、この状態に対するアセスメントや心理療法がこの分野の中心になっ てくるが、それだけでなく事件直後のソーシャルケースワークや法的手続きなどの分 ( ) S h e r m an, L.W. et ) E v id e nc ea l. (E d s( . ) 20 02 based crime prevention. [ L・ W・ シ ャ ー マ Routledge. ンほか(編)/津冨宏・小林寿 一(監訳)島田貴仁 ほか(訳) )『エビデンスに基づく犯 ( 2008 罪予防』社会安全研究財団] 羽 生 和 紀( 2005 )「 犯 罪 環 境 心 理 学 」 越 智 啓 太( 編 )『 犯 罪 心理学』朝倉書店 ( ) 小 西 聖 子( 2006 )『 犯 罪 被害者の心の傷』増補新版 白 水社 藤 森 和 美( 2001 )『 被 害 者 の トラウマとその支援』誠信書房 4 前提として重要になってくる。この部分を担っているのが、矯正・更生保護を専門と する心理 学者である。おもに 少年院や少年鑑別所、 刑務所などの施 設内における研 究・実践を矯正心理学、保護観察などの社会内処遇における研究・実践を更生保護の ( 心理学という。 防犯心理学は、犯罪を防ぐための方法について研究する学問である。もちろん、犯 ( 被害者心理学は、犯罪被害者に対するカウンセリングを行っていく臨床心理学の一 ( である。他には子どもを犯罪から守るための防犯教育もこの分野のひとつである。 ているのは、住居の設計や都市計画によって犯罪を起こりにくくする環境犯罪心理学 して効果的な防犯手法を開発していくのである。この分野の中で最も長い歴史を持っ 罪を防ぐためには犯罪者の行動を熟知している必要があり、そのような知識を背景に ( 野とも密接に関係している。 6 7 ( これらの 犯罪心理学の分野 の中で最も多くの研 究者、実務家を有 しているのは矯 正・更生保護の心理学である。日本犯罪心理学会の会員の大半がこの分野を研究対象 にしており、法務省管轄の少年院や少年鑑別所、刑務所などに勤務している。 犯罪心理学の方法論としては、これまでは、臨床心理学的な研究方法が用いられる ことが多かった。これはそもそも犯罪という行為が一つひとつオリジナルなものであ り、平均化したりカテゴリー化したりするのにはあまりそぐわないと思われたからで ある。また、犯罪心理学という学問が非行少年や犯罪者への処遇という実務と密接に 関わってきたことにも関係する。犯罪者処遇の実務においては、一人ひとりの犯罪者 の特性の査定と個別化した処遇計画の立案に力点が置かれるからである。しかしなが ら、臨床心理学的な研究法から犯罪に関する一般的な法則を導くためには科学性や客 ( ( 8 観性という意味で大きな問題点があり、このような目的からは、むしろ、多数の犯罪 データを用いた計量的な研究のほうが望ましい。また、目撃証言の研究や裁判におけ る判断プロセスなどの研究においては実験的な研究手法が導入されたり、防犯研究に おいては実際の都市環境に対する防犯的な介入が街頭犯罪を減らすことができるかな どのフィールド研究も行われている。犯罪心理学の方法論も多様化しているといえ る。 ( ) このような立場の研究は エビデンス(証拠)に基づいた 犯罪心理学と呼ばれる。詳しく は左記の文献を参照。 越智啓太(編)( 2005 )『犯罪 心理学』朝倉書店 松 浦 直 己( 2015 )『 非 行・ 犯 罪心理学:学際的視座からの犯 罪理解』明石書店 )『 入 門 犯 罪 原 田 隆 之( 2015 心理学』ちくま新書 5 犯罪心理学 ( 捜査心理学 ( ( ― 心理学を使って犯罪捜査を支援する 子どもに対する性犯罪、放火、テロリズムなどでも用いられている。犯罪者プロファ 続殺人事件だけでなく、ストレンジャーレイプ(見ず知らずの犯人によるレイプ)、 ) 関 係 の な い、 つ ま り 被 害 者 と め に つ く り 出 し た。 と く に V ―O( Victim-Offender 犯人の間に事件前に人間関係のない行きずりの事件に威力を発揮する。現在では、連 を推定していく技術である。この方法はFBIが、当初、連続殺人事件を解決するた )は、犯行状況や犯行現場での犯人の 犯罪者プロファイリング( offender profiling 行動、遺留品や遺体の状況などから、犯人の年齢、職業、家族構成、性格などの属性 捜査心理学の研究テーマとしては、次のようなものがあげられる。 い研究についてこの名称が用いられている。 )が自らの研究アプローチに対して命名した 葉はデビット・カンター( David Canter ものであるが、現在ではカンター流のアプローチに限らず、犯罪捜査に関するより広 捜査心理学( investigative psychology )は犯罪心理学の分野のひとつであり、その 目的は心理学の知見を使用して犯罪捜査を支援することである。捜査心理学という言 ( ( ) この分野についての本は あまり多くないが、日本語の本 としては、渡辺( 2004 )が専門 書としてはスタンダードであ る。 海 外 の テ キ ス ト で は、 ( 2009 )が代 Canter & Youngs 表 的 で あ る。 ま た、 越 智 ( 2008 ) は、 こ の 分 野 の わ か り やすい入門書である。 渡辺昭一(編)( 2004 )『捜査 心理学』北大路書房 Canter, D. & Youngs, D. ( 2 0 0) 9 Investigative psychology: Offender profiling and the analysis of criminal action. John Wiley & Sons. 越 智 啓 太( 2008 )『 犯 罪 捜 査 の心理学:プロファイリングで 犯人に迫る』化学同人 1 6 イリングの方法論には、FBIで開発されたFBI方式と、イギリスのリヴァプール 大学を中心にデビット・カンターによって発展させられたリヴァプール方式がある。 テレビドラマや映画でプロファイリングが扱われる場合、ほとんどはFBI方式であ るが、研究上は、リヴァプール方式のほうが主流であり、日本をはじめとして各国の 警察機関で採用しているのもリヴァプール方式が多い。 )は、地理的な情報を分析するタ 地理的プロファイリング( geographical profiling イプのプロファイリングである。おもに連続犯行の地理パターンを用いて、犯人の居 住場所を推定したり、次の犯行現場を推定することを目的とする。犯罪者の地理的な 行動についての研究や、犯罪の発生地域を地図上にマッピングしてその傾向を把握す ( ( ( ) Rossmo, K. D. ( 2000 ) Geographic Profiling. CRC Press. R o s s m o , K . D(. 2 0 1) 4 Geographic Profiling. Encyclopedia of criminology and criminal justice. Springer Reference. pp. 1934-1942. 2 る捜査手 法は以前から存在 していたが、それを体 系的な知識に高 めたのは、デビッ ト・カンターとバンクーバーの警察官キム・ロスモの業績である。ここ数年、コンピ lie ュータによる地理情報システム(GIS)が急速に発展したこともあり、より高度な 研究と実践が行われるようになってきている。 犯 罪 捜 査 の 心 理 学 の 中 で 最 も 長 い 歴 史 を 持 っ て い る 分 野 が、 虚 偽 検 出( ) 研 究 で あ る。 こ れ は ウ ソ を 見 破 る 方 法 を 開 発 す る研 究 分 野 で あ る。犯 罪 detection 捜査場面はまさにウソのあふれている現場である。被疑者は自分が犯人であるにもか かわらず、ウソをついて犯人でないと主張することは多いし、また、実際には精神疾 患ではないのに罪を軽くするために精神疾患のふりをすることも少なくない。被疑者 7 捜査心理学 ( ( ( ) 厳島行雄・仲真紀子・原 )『目撃証言の心理学』 聰( 2003 北大路書房 渡部保夫(監修)( 2001 )『目 撃証言の研究:法と心理学の架 け橋をもとめて』北大路書房 ( Lindsay, R. C. L., Ross, D. F., Read, J. D. & Toglia, M. P. ) . The handbook of Eye2007 witness Psychology. L. E. A. Sporer, S. L., Malpass, R. S. ) . Psy& Koehnken, ( G. 1996 chological Issues in Eyewitness Identification. L. E. [ A.S・ス ポラー、R・マルパス、G・ケ ーンケン/箱田裕司・伊東裕司 ( 監 訳 )( 2003 )『 目 撃 証 言 の 心 理学』ブレーン出版] 3 8 でなくても、犯人の知人や家族は、犯人についてのウソのアリバイを証言するし、ま た目撃者も見ていないことまで事細かく話すことがある。彼らの証言がどの程度本当 であるのかがわかれば、犯罪捜査に大きく貢献できるのは明らかであろう。 虚偽検出の研究は、大きくふたつの流れに分けることができる。ひとつは動作や表 情などのノンバーバル(非言語的)な手がかりを使用してウソを見破っていくという 研究である。ウソをついているときには、ついていないときに比べて身体の反応や動 作が異なってくるだろうという前提のもとにその手がかりを発見し、ウソ読み取りの トレーニングを行っていくというのがこの研究の流れである。もうひとつは、何らか の装置を使用してウソを検出しようという研究であり、いわゆるウソ発見器をつくる ( 試みである。現在、犯罪捜査で使用されているポリグラフ検査はこの流れの中でつく り出されたものである。 ことも必要である。ほかにも、情動的ストレス状況下における目撃証言の特性に関す とるのが難しいケースも少なくない。このような場合の供述聴取手法を開発しておく 場合や、高齢者や障害者が被害者や目撃者である場合など、目撃者から適切な供述を もに対する性犯罪や虐待事件の場合などのように幼い子どもが被害者や目撃者である を知覚し、記憶し、検索するのかについて明らかにしておく必要がある。また、子ど )研究も、捜査心理学の主要な研究分野のひとつである。事 目撃証言( eyewitness 件の情報の多くは被害者や目撃者から得られる。そのため、目撃者がどのように事件 ( る研究、事後的に入力された情報による目撃者の記憶の変容に関する研究、似顔絵や モンタージュ写真の構成方法に関する研究など多くのテーマで研究が行われている。 また、裁判心理学と重複する分野であるが、公判において目撃者の証言がどの程度信 頼できるものなのかについて専門家証言を行ったり(とくにアメリカの裁判)、その ( ( 信頼性について鑑定を行ったり(とくに日本の裁判)することなども行われている。 ) 研 究 は、 事 件 の 被 疑 者 や 参 考 人( 目 撃 者 や 被 害 者、 関 係 取 調 べ( interrogation 者)に対して取調べを行い、彼らから適切な情報を聴取するための方法に関する研究 である。被疑者(被告人)の自白は法律上、公判においては必ずしも不可欠とされる ものではないが、現実問題としては、起訴したり、有罪にするためには、自白の有無 は非常に大きな影響を与える。そのため、警察における取調べにおいても自白をとる ことに重点が置かれる場合が少なくなく、その結果として自白をとるための過度に厳 しい取調べが行われてきた過去がある。そして、犯罪を行っていないのに虚偽の自白 をしてしまい冤罪がつくられてしまったケースも生じてしまった。一方、取調べが十 ( ( ) Milne, R. & Bull, R. ( 1 9 9) 9 Investigative interviewing: Psychology and practice. J. Wiley. [ R・ ミ ル ン、 R・ ブ ル / 原 )『取調べの心 聰(編訳)( 2003 理学:事実聴取のための捜査面 接法』北大路書房] ( ) S l a t k i n , A(. 2 0 1) 0 Communication in crisis and hostage negotiations. charles C Thomas Pub LTD. 9 捜査心理学 分でなく、自白を得ることができず、起訴できなかった事件も少なくない。このよう ( な状況を引き起こさないためにも、取調べ手法に関する科学的な研究は不可欠なもの である。 )研究は、犯人が人質をとって立てこもった場合に 人質交渉( hostage negotiation おける交渉技術に関する研究である。警察官は、犯人と交渉し人質を解放させるとと ( 4 5 ( ( 研 1 ( ) 宮崎勤事件 一九八八~一九八九年にかけ て埼玉県入間市、飯能市、川越 市、東京都江東区で連続して 名の女児が誘拐され殺害された 事件。犯人の宮崎勤は、女児の 遺骨を遺族の家に届けたり「今 田勇子」というペンネームで新 聞社などに犯行声明文を送っ た。宮崎は、遺体にさまざまな 猟奇行為を行ったり遺体の一部 を食べたという。死刑確定。 6 4 10 もに犯人を投降させるための説得的なコミュニケーションを行う必要がある。そのた めには、犯人がなぜ人質立てこもり状況になったのかという状況要因や犯人の性格特 性や行動特性、精神疾患の状況などを正確に把握して交渉を進めていく必要がある。 もちろん、人質一人ひとりの心理的精神的状態も考慮しなければならない。また、人 質交渉は最終的には突入によって事態を収拾させなければならない場合がある。立て こもり場所の特性、突入時の犯人や人質の行動を予測し、突入の意思決定を支援する ことも必要である。このような技術を研究し、捜査に助言していくのである。 日本の捜査心理学の中心は警察庁の科学警察研究所である。日本の捜査心理学(当 ( 時は捜査心理学という言葉はなかったが)はポリグラフ検査の導入から始まったが、 その後、宮崎勤事件などの特異な凶悪事件の発生を契機として、一九九四年頃から科 究室(ポリグラフ検査)などである。 取調べ手法)と犯罪予防研究室(おもに地理的プロファイリング)、情報科学第 学研究を担っているのは、とくに捜査支援研究室(おもに犯罪者プロファイリング・ し、FBI的な考え方は、補助的に使用している。科学警察研究所の中で、捜査心理 た。なお、日本の警察では、基本的にはリヴァプール方式のプロファイリングを使用 ル大学などに研究員を派遣し、日本へのプロファイリングの導入の基礎がつくられ イリングの研究が行われるようになった。科学警察研究所では、FBIやリヴァプー 学警察研究所において、バラバラ殺人事件や年少者強姦事件などについてのプロファ ( ( ( 7 また、警視庁および道府県の刑事部には、科学捜査研究所が設置されており、その 中には心理学を用いた科学捜査を行うセクションが存在する。科学警察研究所が基礎 的な研究をおもに行っているのに対して、科学捜査研究所の研究員は、実際の事件を 担当し、第一線の捜査官と協力しつつ、直接、事件解決に貢献している。科学捜査研 究所においても、従来は、ポリグラフ検査を中心として捜査支援が行われてきたが、 6 最近では プロファイリング による捜査支援も増 加している。また、 いくつかの県で 11 捜査心理学 は、プロファイリングや地理的情報システム(GIS)技術などの手法を使用して捜 査を支援するためのセクションがつくられている。 ( ) 科学捜査研究所には、法 医係、化学係、物理係、電気係 など専門分野ごとにさまざまな 係が存在する(係の構成は県警 ご と に 若 干 異 な っ て い る )。 そ の中で心理係が犯罪捜査実務に おける心理学の応用を担ってい る部門である。各県に ~ 人 程度の研究員がいる。採用は地 方公務員上級試験(心理職)や 警 察 職 員 Ⅰ 種 採 用 試 験( 心 理 学 )、 警 視 庁 Ⅰ 種 専 門 職 試 験 な どの試験に合格したものの中か ら採用されるが、そのシステム は各県ごとに異なっている。 1 (
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