テールアルメ壁工法における 盛土材改良に関する規定

テールアルメ壁工法における
盛土材改良に関する規定
平成 25 年 12 月
日本テールアルメ協会
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無断転載禁止(日本テールアルメ協会)
1.目的
本規定は,補強土(テールアルメ)壁工法において、盛土材をセメント系固化材で安定
処理し適用する際の規定として定められたものである。
補強土(テールアルメ)壁工法設計・設計マニュアル 1)においては,盛土材料としては,
細粒分(土粒子の粒径が 75μm 未満のもの)含有率が 25%以下を、[A]材料と規定し、そ
の適用範囲としている。細粒分含有率が 25~35%の土質材料については,(1)設計定数を見
直すか,(2)摩擦効果の改善をはかる対策を施し[B]材料として適用可能としており,細粒分
が 35%を超過した場合は適用不可の材料として,原則として購入土を含め、別途検討を行
い適切な処理を講じることとされている。
しかしながら近年,建設発生土の処理が極めて困難であり,細粒分含有率がある程度高
い材料においても背面盛土材として適用せざるを得ないケースが増大している。こうした
場合の対策工の一つとしてセメント系固化材等で安定処理して用いる場合があるが、道路
土工擁壁工指針(平成 24 年度版)においては,
『改良材による土質安定処理については、
処理土が固結した場合,補強材の引抜き抵抗機構に影響し,補強土壁の特徴である柔構造
としての挙動が期待できなくなるおそれがある。さらに固結した処理土の透水性は低いた
いため、補強領域からの排水が難しくなる。このため、改良材の使用に当たっては,供用
期間中の補強土壁の安定性に問題が生じないことを確認する必要があり,安易に適用して
はならない。
』との記述がある。こうした背景から,テールアルメの盛土材にセメント系固
化材による処理土を適用する場合の規定および留意事項として定めたものである。
一般に盛土の安定処理に用いられる材料としては,図-1 に示すように,大きくセメント
系と石灰系に分類され,本規定においてはセメント系固化材のうち,汎用固化材(一般軟
弱土用)をテールアルメの盛土改良材として用いるものとする。
一般軟弱土用
汎用固化材
特殊土用
セメント系固化材
土質安定処理に
使用される改良材
セメント・石灰
複合系固化材
高有機質土用固化材
発塵抑制型固化材
石灰系固化材
その他・水ガラス等
図-1.1 改良材の種類
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2.適用条件
セメント系固化材の適用にあたっては、以下のとおり適用条件を設ける。
(1)
盛土材料が土質材料であり、かつ細粒分含有率が 50%未満とする。適用に当り土質
定数を土質試験により確認し,細粒分含有率が 35%を超え 50%未満の場合には,補強
材の引抜き試験等を実施し見掛けの摩擦係数を確認する。
(2) 固化材の添加量は 100kg/m3 以下とし、配合試験、三軸圧縮試験および pH 試験を実
施して、決定する。
(3) 細粒分含有率が 50%以上
または固化材の添加量が 100kg/m3 を越える場合は、別途
検討を要する。
(1)盛土材料(原土)
細粒分含有率の規定については,細粒分含有率が 50%未満である既往の改良土の適用実
績において,常時の作用および,降雨,地震等に起因する変状等が確認されていないこと
から,図-1 の土質区分により,[B]材料および[B2]材料に適用する。細粒分含有率が 25%
~35%の[B] 材料であれば,補強材と盛土材との摩擦抵抗に対する改良効果による設計上
の対応が可能であるとされ、35%を超え 50%未満の[B2]材料を用いる場合は,試験盛土若
しくは室内における土中引抜き試験を実施し、設計値を満足する見掛けの摩擦係数を確認
する。
土質材料 :最大粒径75mm未満の材料
[A1 ]材料
:細粒分の含有量が25%以下の材料
[B]材料
:細粒分の含有量が25%以上35%以下の材料
盛土材料
[B2]材料
:細粒分の含有量が35%以上50%未満の材料
岩石材料 :最大粒径75mm以上300mm未満でかつ75mmふるい
通過分中の細粒分の含有量が25%以下の材料
図-2.1 適用土質区分
(2)固化材添加量
盛土材の細粒分含有率と透水係数の関係については,図-2.2 に示すように細粒分含有率が
50%未満の場合、透水係数は概ね k = 1.0×10-4(cm/s)以上である。10)一方,改良土の透水係
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数は、図-2.3 に示すように、添加量の増加に伴い低下傾向にある 4)。
このため、添加量の上限は,100kg/m3 とし、透水性の著しい低下を避けるものとした。
過去の適用実績(資料 1)について添加量は 30kg/m3~100kg/m3 であり、改良土に起因す
るテールアルメの変状が確認されていないことから、規定により盛土材改良による盛土の
固結が補強土構造物の特性および透水性能を著しく損なわず,改良効果が土質特性を維持
するとした。ここで、(社)セメント協会『セメント系固化材による地盤改良マニュアル第4
版』によれば、最小添加量は、50kg/m3 程度とされている。
固化材の添加量については、目標一軸圧縮強度に対して室内配合試験を実施して決定す
るが、テールアルメの盛土材改良の目的は,補強材と盛土材の摩擦特性の改善であること
から,三軸圧縮試験を実施して、改良土の内部摩擦角および粘着力を確認し、一軸圧縮強
度との相関性も含めて、総合的に添加量を決定する。
また、アルカリ性のセメント系固化材の添加によりテールアルメの盛土材規定である pH
値 12 を超えないことを、土懸濁液の pH 試験(JGS-0211)等の室内試験により確認する。
図-2.2 細粒分含有率と透水係数の関係 10)
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図-2.3 固化材添加量と透水係数の関係 4)
(3)適用規定外の検討
細粒分含有率が 50%を超える盛土材を安定処理により使用しなければならない場合や固
化材の添加量が 100kg/m3 を越える場合には、テールアルメの特徴に求められる柔軟性を喪
失したり、盛土材料の透水性を確保されないことが懸念されるため、別途検討を要する。
3.処理土の適用に当たっての留意事項
処理土の適用に当たっては、以下の条件において、ストリップと盛土材の引抜き抵抗が
減少したり,処理土の劣化を誘発する可能性があることが過去の知見から得られているこ
とから適用を避けるものとする。
(1)地下水位が高く、盛土内が浸水する場合
(2)塩化物含有量が 1mg/g 以上である場合
(1)水浸の影響
既往の補強材の引抜き試験)において,土槽浸水時に引抜き抵抗が浸水していない場合に
比較して非処理土、処理土ともに低下する現象が確認されている。2)3)
処理土の場合は,
非処理土に比較して、低下度合いは低いものの,添加量が減少するに従って浸水の影響が
大きくなることが推察されることから,水辺の適用等の地下水位が高い場合や,背面から
の湧水等により,盛土内が浸水する可能性がある場合には処理土は適用しないものとする。
(2)塩化物イオンの影響
処理土の経年劣化については、図-3.2 に示すように材齢 10 年の長期強度において維持
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されていることが確認されている 4)が、既往の研究成果より、条件によっては強度低下が生
じる可能性を示唆した報告 5),6)がなされており、周辺環境中の塩化物イオン濃度 が高いほ
ど Ca 溶脱に伴う劣化速度が速くなることが報告されている。そのため、塩化物含有量が高
い、いわゆる塩害対策が必要となる地域においては、改良土は適用しないものとする。な
お、塩化物含有量は水溶性成分試験(JGS 0241-2009)に従い,塩化物含有量の上限値として
は、1mg/g 以下 7)であるものとする。
図-3.2 材齢と一軸圧縮強さの関係 4)
4.施工時の留意事項
処理土を用いたテールアルメの品質は,施工条件に因るところが大きい。そのため,以
下の施工条件により,品質をする。
(1)改良材混合・攪拌から、原則として1時間以内にまき出し・転圧を行う。
(2)処理土は排水性が低下することから,水平排水層を設けるなど適切な排水工を設け、
通常の盛土材を適用した場合と同等の排水性能を確保する。
(1)混ぜ置き時間の影響
改良材と盛土材の混合・攪拌をバックホウ混合ではなくプラント安定処理で行う場合、
改良材添加からまき出しまでの時間差、いわゆる混ぜ置き時間が生じる。この混ぜ置き
時間が引抜き抵抗に及ぼす影響については、過去の研究成果 8)から図-4.1 のように混ぜ置
き時間が経過するに従って、引抜き抵抗が低下することが確認されている。従って、混
ぜ置き時間を置かないことが望ましいが、現場条件で混ぜ置き時間が発生する場合には,
改良材の混合・攪拌から 1 時間以内にまき出し、速やかに締固めを行うことが望ましい。
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図-4.1 改良材の添加後の混ぜ置き時間と最大引抜き抵抗の関係 8)
(2)処理土の排水性
処理土の排水性は、原土に比較して低下し盛土内の浸水は、テールアルメ全体の安定
性に影響を及ぼすため、図-4.2 に示すように『道路土工-擁壁工指針』や『建設発生土利
用技術マニュアル』等を参考に水平排水層を設置するなどの適切な排水工を施す必要が
ある。
水平排水層にジオテキスタイル等を使用する際には、耐アルカリ性の高い材料を使用す
る。
改良土
図-4.2 処理土を用いた排水工の例
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[参考文献]
1) 補強土(テールアルメ)壁工法設計・施工マニュアル 第 3 回改訂版,土木研究センター,平
成 15 年 11 月
2) テールアルメ工法における改良土の適用上の技術課題の抽出および関連する設計・施工法
の検討,山口大学・宇部興産,平成 24 年 3 月
3) 浸水時における固化処理土からの補強材の引抜き抵抗特性,第 48 回地盤工学研究発表会
発表講演集,平成 25 年 7 月
4) セメント系固化材による地盤改良マニュアル第 4 版,セメント協会,平成 24 年 10 月
5) 石灰・セメント系安定処理土の基本特性に関する研究(第 3 報),寺師ら,港湾技術研究所報
告 vol.22 No.1,昭和 58 年 3 月
6) セメント系改良地盤のCa溶脱に伴う強度低下に関する Cl-の影響を考慮した長期予測,橋
本ら,土木学会論文集 C,vol.64 No.2,pp.226-pp.237,平成 20 年 4 月
7) 地盤材料試験の方法と解説 改訂版,地盤工学会,平成 25 年 3 月
8) 実施工を考慮した補強土壁工法における固化処理土からの補強材の引抜き特性,土木学会
第 63 回年次学術講演会発表概要集,平成 20 年 9 月
9)
固化処理土を適用した帯鋼補強土壁における補強材の引抜き抵抗特性と補強材長の設計,
田坂ら,土木学会論文集 C vol.66 No.3 pp.516-529, 平成 22 年 8 月
10) 細粒分含有率が与える土の厚密排水三軸圧縮試験への影響,池田ら,中部地質調査業協
会ミニ・フォーラム 2009,平成 21 年 11 月
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[参考資料]
資料1 処理土の適用実績
セメント系固化材で安定処理した適用実績について、資図-1 に、各現場の細粒分含有率
と添加量の関係について示す。
引抜き試験なし
120
引抜き試験有
固化材添加量(kg/m3)
100
80
60
40
20
0
0
10
20
30
40
50
60
細粒分含有率(%)
70
80
90
100
資図-1.1 処理土適用現場における細粒分と添加量の関係
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資図-1.2 施工実績の一例
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資料2 処理土適用における試験と試験方法
本文に示したように、処理土の適用に当たっては,「補強土(テールアルメ)壁工法設計・施工
マニュアル」に記載された各種試験に加えて、土質試験、配合試験等の実施が必要となる。表
-1 に示すように、盛土材区分により、必要な試験が異なるため注意が必要である。また、本表
に示す試験は、必要最低限度の試験であり、現場条件に応じて適切な試験を実施する。なお,
各試験方法については,表-2.1 に示す各試験基準・規格に準拠するものとする。
資表-2.1 処理土適用の試験
種別
配合試験
確認事項
盛土材区分
基準・規格
B
B2
○
○
三軸圧縮試験(UU)
○
○
JGS-0521
土中引抜き試験※
―
○
(室内)JGS-0942
pH
土懸濁液の pH 試験
○
○
JGS-0211
塩化物含有量
土の水溶性成分試験
○
○
JGS-0241
一軸圧縮強さ
粘着力
内部摩擦角
土質試験
試験項目
一軸圧縮試験
JIS-A1216
摩擦係数
見掛けの粘着力
見掛けの内部摩擦角
※土中引抜き試験については、着工前の室内土中引抜き試験、もしくは 施工時の現場土中引
抜き試験による。
<供試体作成時の改良材の混合・攪拌について>
処理土の各強度試験における供試体作成に当たっては、固化材を粉体にて混合し、均一
になるように混合する。まず,所定の初期含水比 w0 に調製するため加水し,ソイルミキ
サーにより 5 分間撹拌する.なお,初期含水比 w0 は土試料に応じて,自然含水比,最適
含水比,液性限界付近など適切に設定する。続いて、改良材を所定の添加量、粉体にて
添加・混合し,さらに 5 分間ソイルミキサーにて撹拌する。
ソイルミキサーでの混合・攪拌を行った後,速やかにタッピング法もしくはタンピング法にて、モ
ールドに充填、成形して供試体を作成する。なお、供試体の養生条件については、「発生土利
用促進のための改良工法マニュアル,土木研究センター 平成 9 年 12 月」等を参考に適切に定
める。
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