比較的早期より全身黄疸を伴へる腸「チフス」九例に就て

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一、 緒
目
言
次
實 驗及 瑣談
文
五、結
四、總
獻
論
括
東京醫 學士
俣
野
函 館市 立 中 橋 病 院
比 較 的 早 期 よ り 全 身 黄 疸 を 伴 へろ 腸 ﹁
チ フ ス﹂
九 例 に就 て
言
純
夫
M atthes,Kraus,strum pel
l 等 の 成書 に記 載 は さ れ てあ るが 、 皆 稀 れ なも の とし てあ る。 獨 逸 派
二、 腸 ﹁チ フ ス﹂黄 疸 に關 す る丈 獻 二、 三
三、 實 驗 臨 牀 例
一、 緒
腸 ﹁チ フ ス﹂に 黄 疸 を 合 併 す る 事 は
の 學 者 に は 、 腸 ﹁チ フ ス﹂に 黄 疸 を 合 併 す る 事 は 稀 れ で あ る と 云 ふ 事 は 一致 し て 居 る と こ ろ で あ る 。 Li
eberm ei
s
ter の バ ー ゼ ル の ﹁ク
リ ー ニ ッ ク﹂の 統 計 に よ れ ば 、腸 ﹁チ フ ス﹂患 者 千 四 百 二 十 例 の 内 黄 疸 を 伴 つ た も の が 、 僅 か 二 十 六 例 で あ る。 Gri
esi
nger(
1864 年 )は 六
百 例 中 黄 疸 を 合 併 し た も の 十 例 を 報 告 し て い る 。 ま た Garni
er (
1915- 1918 年 ) は 黄 疸 疾 患 千 三 百 例 中 の 四 例 が 腸 ﹁チ フ ス﹂菌 に よ つ
て起 つた黄 疸 で あ つた と報 告 し て居 る。
我 國 に 於 い て は 、 佐 藤 、 二 木 、伊 澤 諸 博 士 に よ れ ば 稀 有 な も の で は な く 年 に 二 乃 至 三 名 は 見 受 け る と 云 は る 。 此 れ も 流 行 や 地 方 的 等 の
一 一八 三
關 係 の あ る 事 は 勿 論 で あ る が 、概 し て 腸 ﹁チ フ ス ﹂に 黄 疸 を 合 併 す る 事 が 、 餘 り 多 く な い と 云 ふ 事 は 確 か で あ る 。 腸 ﹁チ フ ス﹂の 黄 疸 に 就
俣 野 = 比較 的 早 期 より 全 身 黄 疸 な 伴 へる腸 ﹁チ フ ス﹂九 例 に 就 て
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俣 野 =比 較 的 早 期 より 全 身 黄 疸 々伴 へる腸 ﹁チ フ ス﹂九例 に就 て
へ ら れ て 居 る 。 Curschm ann
一 一八 四
は原因を肝實質 の高度 の急性 腫脹
て は、 原 因 とし ては、 腸 ﹁チ フ ス﹂に依 つ て肝臟 細 胞 が 變 性 に 陷 つて機 能 障 碍 を 來 た し、黄疸を併發するもの、膽變炎膽道炎膽石等を起
つ て い る。
す 爲 め に黄 疸 を 招來 し 、 ま た 十 二指 腸 加 答 兒 を起 す 爲 めで あ る等 と考
及び其 の結 果 として肝小 葉間 の膽 汁鬱積竝びに肝膿瘍 に よ る と 云
(
Lieberm eister は こ れ を
的に肝細胞が侵
れ て い る 。 (二 )膽 襄 炎 (﹁チ
kterus と 云 つ て い る )然 し 現 在 で は 機 械 的 に 或は器質
akathektischer I
今 黄 疸 發 生 機轉 の 本態 に就 て見 る と、 (一)肝 實 質 に よ る も の は、肝 細胞 の機 能 的變 化 に よ つ て膽 汁 成 分 を膽毛細管に分泌せず して血管
内 に 分 泌 す るも の
され て膽色素の排泄作用が減 退し、其 の爲 めに血中 に膽色素 の鬱 滯 を 來 し て 黄 疸 を 惹 起 す るも の と 考 へら
ti
scher
フ ス﹂菌 が 膽 嚢 内 に 棲 む 時起 る と云 は れ る)以 前 に膽 石 に罹 つたも のは 容 易 に 此 の 膽 嚢 炎 を起 し 機 械 的 鬱 積 性 黄 疸 (Der m eehni
nger の膽 汁 鬱 積 に よ つて 膽 毛 細 管が 擴 張 し 破 綻 を起 し、 血管周圍淋巴腔内 に膽
Ikteraes
)と し て 黄 疸 を 起 す も の も 考 へ ら れ る。 Eppi
汁漏出 し更ら に血中 に移行 して黄疸を起す と云 ふ説 に 對 し て、大 野 博 士等 は 肝 臟 小 葉 間 膽 管 の破綻性或 ひは濾出性 に膽汁逸出 して淋巴
三 )體 内 赤 血球 の破 壞 増 加 し て 、 ﹁ビ
道 を介 し て ﹁ビ リ ルビ ン﹂の 血 中 に移 行 す る事 が 、 黄 疸 發 生 の有 力 な 一因 子 で あ る と云 つて 居 る。 (
ル リ ビ ン﹂の 生 成 増 加 さ れ る が 、 肝 細 胞 が ﹁ビ リ ル ビ ン﹂の排 泄 を 完 全 に な し 得 す し て 相 對 的機 能 不 全 に 陷 つ た 結 果 ﹁ビ リ ルビ ン﹂が 血 中
)を 起 す 。 以 上 の 如 く 黄 疸 發 生 の 病 理 の 内 腸 ﹁チ フ ス﹂黄 疸 が 如 何 ん な型 に屬 す る
に 蓄積 を起 し所 謂 溶 血 性 黄 疸 (
ham ol
yti
s
cher Ikterus
か は確 實 で な いが 、恐 ら く 是 等 の何 れ か 或 は 一緒 にな つ て惹 起 さ れ るも の と 思 は る 。
二 、 腸 ﹁チ フ ス﹂黄 疸 に 關 す る 文 獻 二、 三
腸 ﹁チ フ ス﹂に 合併 し た、 黄 疸 に就 て報 告 の内 臨 牀 的 のも の二 、 三 を擧 げ て見 る と、
も 黄 疸 を 件 つた 一例 を報 告 し て居
A ndral (1
839年 )は 發 病 三 日 に 黄 疸 を 併 發 し た 例 を 執 告 し 、 Casoratis (1843 年 )、 R ayer (1846 年 )
る。 我 國 で も大 正 十 年 に 雲 英氏 は 二症 例 を 述 べ、内 一例 は發 病 三 乃 至四 日 に併 發 し て 一乃 至 二週 間 で消 退 し 全治 し た と云 ふ。 大 正 十 四
年 に 伊 藤 氏 は常 病 院 で 見 た 二 例を 、 川 口氏 は黄 疸 と診 斷 さ れ た も の か ら 腸 ﹁チ フ ス﹂菌 を 證 明 し 、長 澤 氏 は 發 病 三 日 に黄 疸 を 發 生 し た 一
例 を、 加 藤 氏 は 黄 疸 併 發 の 重 症 腸 ﹁チ フ ス﹂で、 尿 中 に ﹁ビ リ ルビ ン﹂を 證 明 せ ず し て 、﹁ウ ロビ リ ン﹂を 證 明 し た 一例 を 報 告 し て 居 る 。 福
永氏 は全身黄疸を伴ひ胃出 血及び腸出血を起し て死 亡 し た 一剖 檢 例 を 報 告 し 、昭 和 三 年 に 蓮池 氏 は尿 便 十 二 腸 液 か ら 腸 ﹁チ フ ス﹂菌 を 證
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明 し、 且 つ黄 疸 を 伴 つた 三症 例 及 び 剖 檢 例 を 報 告 し て、我 國 に 於 いても 腸 ﹁チ フ ス﹂に合 併 す る黄 疸 に は 膽嚢 炎 等 に よ るも のも 多 數 存 す
る な らん も、肝 細 胞 機 能 障 碍 に 主 因 を求 め られ るも のも あ る と 結論 し て い る。 黄 疸 を合 併 し た 腸 ﹁チ フ ス﹂の豫 後 に關 し て は、 Cl
emes
は第 一週 に發 生す る も の は 豫 後 は良 好 で あ るが 、後 半期 に發 し た も の は不 良 で あ る と云 ひ、亦 Jami
eson は 反 之早 期 程 不良 で あ る と云
つて い る。 其 の他 諸 氏 の症 例 に就 て み る と豫 後 は腸 ﹁チ フ ス﹂の經 過 中 の時 期 に關 係 が あ る やう で、伊藤 福 永 氏 の例 で は 死前 特 に 増 強 し
た と云 つ て い る。 一般 に第 一乃 至 二 週 で 黄 疸 が 消 失 し た も の は豫 後 が 良 く、 後 期 に 併發し たも の は、豫後 不良 の やう で あ る。 余 は最 近
十 ケ月 間 (
昨 年 七 月 か ら 本 年 四月 迄 )當 病院 に 入院 した、 腸 ﹁チ フ ス﹂患 者 の 二 百十 例 中 全 身 黄 疸 を 伴 つた も の六 例 を 經 驗 した 。 此 の 他
動 は 左乳 線 上 第 五 肋 間 で、右 界 に 左 胸 骨繰 上 に あ る。 心音 は 第 二 大 動脈 音
桃 腺 の腫 脹 に な い。 胸 部 所 見 と して は 心 臟 上界 濁音 は第 三肋 間 で、心 尖搏
く て 居 ろ。咽 頭 粘 膜 は 輕 度 の充 血 を 見 硬 口 蓋 粘膜 は黄 色 を帶 び て いる。 扁
迅 速 で 異 常 が な い。聽 器 にも 異 常 が な い。 舌 は 著 しく 乾 燥 し煤 色 の苔 が 厚
温 三十 八度 三分 で あ ろ。 眼球 結 膜 は 充 血 して 黄色 で 、瞳 孔 反 應 は左 右 共 に
緊 張 幾 分 弱 く 百 を數 へろ も 整 調 で、呼 吸 は 二十 四 で困 難 の模 樣 に な い。 體
え な い。意 識は 明 瞭 で 顔 貌 は ﹁チ フ ス﹂状 無 慾 状 で、苦 痛 の樣 子 に な い。脈 搏
體 格 中 等 、榮 養 比較 的 良 で 、皮 膚 は 黄 疸 色 著 し く、乾 燥 し て ﹁ロゼ オ ラ﹂に見
入院時所見
た。 夜 分 の 睡 眠 に不 良 で あ つ た と 云 ふ。
皮 膚 の 色 が 黄 色 な 帶 び て 來 た。下痢 に 一日數 囘 續 いて 嘔 吐、 疝痛 は な か つ
に 大正 十五 年 度 伊 藤 氏 が 當 病 院 で 得 た 三 例 とを 併 せ て臨 牀 的 方 面 の 報 告 を し て見 た い と思 ふ。
理髪業
三、 實驗臨牀 例
二十 八 歳 男 子
腸 ﹁チ フ ス﹂(
合 併 症 、 腸 出 血 、黄 疸 )
第 一例
診斷
結 核 性 疾 患 膽 石 等 に 罹 つた 者 はな く 、其 他 に特 記 す る事 が な い。
昭和三年九月三 日 (
第 七 病 日)
家族歴
生 來 健 康 で 何 等 の 著 患 を 知 ら な い。 勿 論 脚 氣 、膽 嚢 炎 、肋 膜 炎 の
入院初診
既往 症
入 月 二十 八 日惡 寒が あ つて 發 熱 した 。 頭 痛 に ひど く な か つた
既 往 にな く、 ﹁チ フ ス﹂豫 防接 種 は 四 乃至 五 年前 一囘 を 向 け れ の みで あ る 。
現 症發 病
の で 仕事 に從 事 す る事 が 出 來 れ。 食 慾 は幾 分 不振 で、便 通 はな か つた 。 翌
二十 九 日 に は 全身 倦 怠 を 覺 え、體 温 は 三十 九 度 に 上 昇 し て 來 れ ので 某 醫 の
少 し 亢 進 し て いる。 他 に異 常 が な く清 澄 で あ る。肺 臟 は 左 右 共 に濁 音 羅 音
の 部 な く、上 部 に呼 吸 音 の少 し く 鋭 利 な 部 分 が あ る の みで あ る。 肺 肝 界 は
診 な受 け 、 其 の時 下 劑 の投 與 を 受け 就 牀 した 下 痢 三囘 で 血 液等 はな か つ
た 。 以 來 入 院 迄 體 温 は依 然 三十 九度 位 で 食 慾 はな く 腹 部 は緊 滿 し て 苦 し
右 乳 線 上 第 五 肋 間 に あ り て、 肝 臟 に 季 肋 下 に約 二横 指 半 大 に觸 れ 、硬 度 強
一 一八 五
み 、右 の季 肋 部 に 呼 吸 の時 に 異感 が あ つて壓 痛 が あ つた。 九月 一日頃 にに
俣 野 = 比較 的 早期 より 全身 黄 疸 を伴 へる腸 ﹁チ フ ス﹂九 例 に 就 て
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俣 野 =比 較 的 早 期 よ り全 身 黄 疸 を伴 へる 腸 ﹁チ フ ス﹂九 例 に 就 て
一 一八 六
遠藤培養)便は下痢樣便淡黄褐色で潜血反應に陰性、 蛔蟲卵多數存在
A 、 B は 共 に陰 性 で あ る。 血 液 か ら の 培 養 に ﹁チ フ ス﹂菌 陽 性 (
膽汁増菌
〇 で ヴ ィ ダ ー ル氏 反 應 ﹁チ フ ス﹂菌 に對 し て 一、六〇 〇 倍 陽 性 、
﹁パラ チ フ ス﹂
キ ー等 に な く、神 經 系統 にも 著 し い 變 化 を 認 め な か つた。白 血 球 數 六、五 〇
痛 も な い。膝 蓋 腱 反 射 は少 し く亢 進 し て いる 。其 の 他 ケ ル ニ ヒ、 バ ビ ンス
で 硬 度 ﹁デ ルブ﹂で壓 痛 は餘 り な い。 上肢 下肢 共 に浮 腫 を見 ず 、腓 腸 部 の壓
に き か な い、他部 に壓 痛 も な い。 左季 肋部 に は脾 臟 を よく 觸 れ 約 二横 指 大
九月 十 二日 (
第 十 六病 日)體 温 は 三十 八 度 六分 で 、幾分 不 安 の 状態 で脈 搏 は
た。
緊 張 幾 分 良 好 と な る。便 通 に 一囘 で 軟 便 淡 黄 褐 色 で 潜 出 血 反 應 陽性 な 示 し
た 。 腹痛 等 に な く黄 疸 に消 退 せず 依 然 と して いる 。食 慾 に 幾分 よ く脈 搏 も
る。 夜 間 の 睡 眠 に 殆 ん ど とれ な い位 で あ つ たが 、書 間 ﹁ウ トく
九月十日 (
第 十 四病 日)體 温午 前 三十 八 度 八 分 で 。 午後 三十 九 度 四分 で あ
る 。 尿 量 に約 七 〇〇 瓦 で あ つた 。
弱 と な つて 百 二十 六を 算 へた、同時 に 耳聾 と な つた、 意 識 に尚 ほ 明 瞭 で あ
あ つて時 々腹 痛 な訴 へ、下 痢 水 樣 便 四 囘食 慾 著 しく 減 じ 脈 搏も 頻 數 緊 張 微
九月 八 日 (
第 十 二病 日)黄 疸 に尚 ほ著 明 で却 つて増 強 した樣 で あ る。鼓 腸 が
して いる。 尿は 黄 褐 色 溷 濁 強 く 酸 性 で 蛋 白 は輕 度 に 陽 性、糖 (-)高 田 氏 反
-
百 十 六 で あ る が 微 弱 で あり 、 呼 吸 も 淺 表 で 三〇 で 、睡 眠 全 く 不 良 で あ る 。
靭 で 壓痛 が 中 等 度 に あ る。腹 部 は 膨 滿 して輕 度 の 鼓 腸 が あ る も、﹁グ ル レ ン﹂
應 (++)ワイ ス氏 ﹁ウ ロク ロ モー ゲ ン﹂反應 (-)﹁
ヂ ア ツオ﹂反 應 (-)﹁イ ンヂ
﹂と し て 居
カ ン﹂反 應 (+)膽 汁 色 素 強 陽 性 、 沈 渣 に は上 皮 細 胞 (黄染 した)の他 赤 血 球
な つた が 食 慾 に殆 ん どな く 睡 眠 全 く 不 良 で、心 臟機 能 の 不 全増 々加 は る 。
黄 疸 の皮 膚 色 に減 少 しれ が 眼 球 結膜 に尚 ほ著 明 で あ る。意 識 は稍 ゝ明 瞭 と
逆 は頻 々と 起 り 休 止 しな い。體 温 三十 六 度 九 分脈 搏 は 百十 八 呼 吸 三十 二、
九月 十 四 日 (
第 十 八 病 日 )此 の 日 再 度 の腸 出 血約 四 百 瓦 の凝 血 が あ つた。吃
で危 險 状 態 に陷 つ た。
ら 吃 逆 起 り約 五 分間 位繼 續 して 一時 間 隔 き 位 に起 つた 。意 識 に半は 不明 瞭
は 非 常 に 緊 張 して壓痛 を 覺 え た。 黄 疸は 少 し消 退 しれ 觀 が あ つた。夕 刻 か
數 も 二十 四 に増 加 し 一般 症 状増 惡 した 、午 後 腸 出 血 約 五 百 瓦 あり 。 廻 盲 部
體 温 三十 七 度 六分 に下 降 し、 脈 搏 非 常 に微 弱 と な り 百 二十 二を數 へ、呼 吸
九 月 十 三 日 (第 十 七病 日)
時 々腹 痛 が あ り 腸 蠕 動は 少 し亢 進 し て 來 た。
過
白 血 球 に な い、 培 養 に よ つて も 尿 か ら に ﹁チ フ ス﹂菌 を 證 明 し得 な か つた。
經
九月 四 日 (第 八病 日)體 温 三十 九 度 三分 脈 搏 數 一 一二で 緊 張 は 依 然弱 い。呼
吸 二 六 であ るが 胸 腹 式 で 苦 し い模 樣 に な い。食 慾 に 比較 的 よ く重 湯 を 一囘
二 〇 〇 瓦 位 攝取 し 得 れ。睡 眠 は夜 不 良 で 朝 少 しと る 位 の 程 度 で意 識 は明 瞭
で あ る 。 黄 疸 に 入 院時 より か増 強 した。 尿量 は僅 か 四 〇 〇 瓦 で あ る。下痢
が 三囘 あ つた 其 の 他 に は異 常 が な い。
九 月 七 日 迄 體 温 に 三 九度 乃至 三 九度 六分 の間 にあ つて 、下 痢は 毎 日 二乃 至
三 囘 で 止 ま ら な い、黄 疸 も 消 退 せず 、 依 然 と して著 明 で あ る 。 一般 症 状 も
變 り な く 時 々腹痛 を 訴 え た。﹁サ ント ゾ ー ル﹂の注 射 で 、 三條 の蛔 蟲 な 下 痢
便 に混 じ て排 出 しれ 嘔 吐 に な か つた 。
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大工業
九月 十 八 日 (第 二十 二病 肝)心 臓 衰 弱 の 下 に遂 に 鬼 籍 に 入 つた。
三十歳 男子
腸 ﹁チ フ ス﹂(
合併症、腸出血、黄疸)
第 二例
診斷
特記 すろ事 にな い。
昭和三年九月十八 日 (
第 八 病 日)
家族 歴
數 年前輕 い脚氣 に罹 つて 約 三ケ月間治療を受け六他、膿 石、膽
入院初診
既往症
九 月 九 日 か ら 發熱 三 十 八 度 で 同時 に頭 痛 輕 度 の悪 寒 な 覧 え、
嚢炎等 の疾患 に罹 つた事がな い。遺傳的關係も無 い。豫防接種な受けれ事
は な い。
現 症發 病
嘔 氣 二乃 至 三囘 あ つて 下肢 に 鈍痛 が あ つた。其 れ 以 來 入 院 時 迄 に 大 抵 夕 刻
及 び 夜 半 にな る と 體 温 の 上 昇 を 來 れ し て、 最 高 に 三十 九 度 五分 にも 達 し
た 。 食 慾 に不 振 で 下 痢 便 一日 一乃 至 二囘 宛 あ つて、重 篤 な病 氣 に罹 つた感
が し て 夢 を 絶 えず 見 て いれ。入 院前 日家 族 のも のが ﹁
眼 球 が 黄 色 だ ﹂と 云 ふ
事 に 氣 が 付 いた と 云 つて 居 る。 以 上 で 主訴 と し て は發 熱 、下痢 で あ つた 。
臨 牀決 定 で ﹁チ フ ス﹂と 決 定 し て隔 離 し た も の で あ る。
平静 で あ るが 數 が 多 い位 で あ る 、耳 鼻 に は 異 状 が な い眼球 結 膜 に 黄 色 を 呈
し て、 眼瞼 結 膜 に中 等 度 充 血 し て いる、瞳 孔 反 應 に は異 常が な い。 口 脣 は
乾 燥 し て いる、 舌 は煤 染 色 で 少 し の﹁ベ ラ ー グ﹂
が あ つて、乳 頭 に腫 脹な 見
ろ。口 臭 ば著 明 で 硬 口蓋 粘 膜 にも 黄 色 を 見 る。 咽頭 扁 桃 腺 に異 状が な い。
胸 部 所 見 と し て は 心音 ば異 状 な く 肺 臓 も 打 診 聽診 上 何 等 の變 化が な い。腹
部 は 膨満 して 腹 筋 緊 張 し廻 盲 部 には ﹁グ ル レン﹂著 明 で少 し壓 痛 が あ るが
硬 結 ば觸 れ な い。腸 蠕 動幾 分亢 進 して 居 る。 肝 臓 に 右 季 肋 下約 二横 指 硬 く
觸 れ 壓 痛 に著 し く な い。脾 臓 は肋 骨 弓 下 約 三横 指 大 に觸 れ る 壓痛 が あ ろ胃
部 も 少 し膨 満 し て いる。食 餌 た と る と 一層 膨 満 の感 が 強 く な つて 嘔 氣 な催
す と 云 つて いる。膝 蓋 反 射 ば右 は亢 進 し て いるが 、 左 は平 常 で あ る 。腓 腸
部 は握 痛 著 しく 、浮 腫 は 全 身 の何 處 にも 認 め な か つれ。 下 肢 の ﹁シビ レ﹂感
もな い。 神 經 系 の變 化 は認 め な か つた。
チ フ ス ﹂A、
B は共 に陰 性 で
﹁ヂ ア ツ オ ﹂反 應 強 陽 性、 ワイ ス氏 反 應 強 陽性 、蛋
二 時間 で 六〇 〇 倍 陽 性 で、 ﹁パ ラ
白 血球 五 五〇 〇 、 血 液 二粍 な膽 汁 増 菌 培 養 の結 果 ﹁チ フ ス﹂菌 陽性 、ヴ イ ダ
あ つた 。
尿に溷濁黄褐色酸性 で、
に多 數 の白 血 球 々 見 其 他 に
﹁イ ン ヂ カ ン ﹂
反 應 陽 性、 ﹁グ メ リ ン ﹂
﹁ア セ ト ン ﹂は陰 性 、尿 沈 渣 中
白 は輕 度 陽 性 、高 田 氏 反 應 中等 度陽 性 、
つた。便
は少 數 の 上 皮 細 胞 を 認 め た 。尿 より の培 養 は
﹁チ フ ス ﹂
菌陰性であ
體 格 榮 養 共 に 良好 な 男 子で 、 皮 膚 は 熱 感 乾 燥 し て 輕 度 の 黄 疸 な 伴 つ て い
は下痢便淡褐色潜出血反應は陽性、 培 養 結 果 は陰 性 で 、蛔蟲卵 は見えなか
反應弱陽性、 糖 、
る。 ﹁ロゼ オ ラ﹂ に前 胸 部 背 部 に 多 數 に存 在 す 。 意 識 は 至 極 明 瞭 で 顔 貌 は
經 過
一 一八 七
﹁
ゲ ヅ ン ゼ ン﹂と 云 ふ状 態 で あ る。體 温 三十 九 度 六分 脈 搏 に整 規 緊 張 よ く 九
十 二で 困 難 の模 樣 も な く 、胸 腹 型 で
俣 野 =比 較 的 早 期 よ り 全 場 黄 疸 な件 へる腸 ﹁チ フ ス﹂九例 に 就 て
〇 で あ る。 重 複 脈 で も な い。 呼 吸 は
つた 。
入院時所 見
ー
ル
氏
反
應
は
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俣 野 = 比較 的 早 期 より 全 勇 黄 疸 な件 へる腸 ﹁チ フ ス﹂九 例 に 就 て
九月十九 日(
第 九病 日)から 九月 二十 三 日(
第 十 三病 日)
迄 は體 温 三十 八 度 二
分 乃 至 三 十 九 度 な 上 下 し、下 痢 は 大 抵 一乃 至 四囘 で水 様 便 で 、尿 量 は八 百 千 瓦 で あ る。 一般 症 状 と し て は 睡 眠 は 全 く 不 夏 で、食 慾 不振 重 湯 は僅 か に
一囘 百 瓦 な 攝 取 し得 ら る ノ状 態 で あ る。嘔 氣 は 絶 えず 襲 來 む て注 射 藥 劑 で
中 止 す る事 が 出 來 な か つた 。黄 疸 の程 度 は次 第 に増 強 し て 著 明 と な つた。
九 月 二十 四 日 (
第 十 四 病 日) 體 温 四 十 度 に 上 昇 し て 苦 悶 の色 あり 不 安 状 な
一時 呈 し た 。 便 の 性質 は泥 状 に な つたが 潜 出 血 反應 は 尚 ほ著 明 で 、嘔 氣 は
依 然 と し て あり 、時 々腹痛 な 訴 へた 。 然 し これ も緩 解 して 以 前 の樣 な 状 態
な維持した。
九 月 二十 七 日 (第 十 七病 日)體 温 は 四十 度 で 脈 搏 の緊 張稍 々弱 く頻 數 とな
つて 數 も 百 十 な 算 へる樣 に な つた。第 二大 動 脈 音 が 亢 進 し て 來 た。 再 び 下
痢 便 と な り、黄 疸 は 消 退 せず 著 明 に存 在 し た。 明 ら か に 心 臓 衰 弱 の 兆 を 現
は れ て 來 た 。 浮腫 は な か つた。下 肢 腓 腸 部 の握 痛 は ﹁
ヴ イ タ ミ ン﹂B劑 の注
射 で な く な つた。食 慾 も幾 分 以前 より は増 加 して 來 た が 睡 眠 は尚 ほ 不良 で
嘔 氣 は 無 く な つた。
九 月 三十 日 (第 二十病 日)早朝 約 三 百 瓦 の腸 出 血 を な し、脈 搏 全く 微 弱 百 三
十 で 緊 張 弱 く 意 識 も 稍 々不 明 瞭 とな り 、 不 安 状 な 呈 し 腹 痛 な盛 ん に訴 へ
た 。 體 温 は 三 十 九 度 五 分で あ る。種 々 の強 心劑 止 血 劑食 注等 をな し食 餌 は
一日 中 止 し た。翌 日十 月 二日 (
第 二十 一病 日 )に な つて 三囘 に亙 つて約 五〇
〇 瓦 の腸 出血 なな し體 温 三十 七 度 八 分 に 下 降 し,脈 搏 百 三十 で虚 脱 状 態 に
陷 り 意 識も 全 然不 明 瞭 とな リ 、危 篤 に昭 つた 。 黄疸 は腸 出 血 前 より は 幾 分
十八歳女子 無 職
一 一八 八
父 母 健在 、 同胞 三人 で 、患 者 は長 女 で 他 の 二人 は 男 子 で健 存 し、
昭 和 三年 九 月 二十 日 (
第 十 六病 日)
腸 ﹁チ フ ス﹂(
合併 症 、 心内 膜 炎 、 黄 疸 、 耳 下 腺 炎 )
第三例
診斷
入院初診
家族歴
患 者 は 六歳 の 時麻 疹 な 經 過 し、種 痘 は 二囘 善 感 で 、﹁ロイ マチ ス﹂
遺 傳 的 疾 患等 特 記 す るも の はな い。
既往 症
心臓 疾 患 に罹 つた事 が な い。月 經 は 十 五歳 の時 來潮 し て以 來 變 化 も な く 、
九 月 五 日 か ら 全身 倦 怠頭 痛 腹 痛 及 び 三十 八度 五 分 の發 熱 で 就
今春健康敵男子と結婚した。 ﹁
チ フ ス﹂豫 防接 種 は 一囘 受 け た と 云 ふ。
現症發病
牀 した 。食 慾 は變 ら な か つたが 食 す う と腹 痛 が あ つた 。二乃 至 三日 し て か
ら 下 痢 を 供 つて腹 部 が 緊 張膨 満 し て來 た 。 歴 痛 は な か つた 。漸 次 頭 痛 劇 し
く な つて 睡 眠 不 良 と 腹 痛 に苦 し ん だ。 體 温 は 三十 九度 前 後 で あ つた と 云
ふ 。某 醫 の 治 療 な受 け て いた 病 名 は 腹 膜 炎 と 云は れ た。入 院 前 日 ヴ イ ダ ー
ル氏 反 應 陽性 ﹁チ フ ス﹂と決 し隔 離 し た 。黄 疸 は 誰 れ も 氣 付 かす 幾 日頃 か ら
併 發 し た か ば不 明 で あ る。
入院 時 所 見
體 格 中 等榮 養 不頁 皮 下脂 肪 組 織 は消 耗 して 、皮 膚 は 蒼白 貧 血著 明 であ る。
顔 貌 は無 慾 状 な 呈 して い るが 苦 悶 の状 態 ばな い。眼 球結 膜 は異 常 な し、 瞳
孔 反 膳 に は異 状 な く 意 識 は 明 瞭 で 聽 覺 に も 變 リが な い。舌 は乾 燥 して いる
消 退 し た、
十 月 二日 (
第 二十 二病 日)全 く 心 機 能 不 全 に 昭り 午 後 一時 死 亡 す 。 が 比較 的 ﹁ライ ン﹂で あ る 。 咽頭 は僅 に 發赤 し て いうも 、扁 桃 腺 は 腫 脹 し て
79
し く 心機 能 不 全 で 、心 臓 雑 音 著 明 と な る。 便 通 一囘 泥 状で 培 養 の結 果 ﹁チ
呼 吸 數 は 二十 六。 食 慾 少 し亢 進 して 比較 的 よ く 睡 眠 な とり 得 た。嘔 吐 一囘
フ ス﹂菌 を證 明 し 得 た。 潜 出 血反 應 は陰 性 。
いな い。 胸 部 所 見 と し て 肺 臓 は右 肺 尖 輕 濁 で 、 呼 吸 音 鋭 利 で 呼 氣 の 延 長
部 邊 に 輕 度 の腿 痛 が あ る の みで 鼓 腸 はな い。體 温 は 三十 八度 五分 脈 搏 緊 張
九月 二十 八 日 (
第 二十 四病 日) 體 温 三 十 七 度 九 分 に下 降 し て 脈 搏 も 結 滞 な
も な し 。 腹痛 も な し 下痢 四囘 、 夕 刻 蛔蟲 三條 を 口か ら 吐 出 し た、其 の 後 氣
は 良 いが 結 滞 あ り 百 十 な數 へ、呼 吸 數 は 二十 八 胸 型で あ る。 四肢 に は 何 等
く緊 張 少 し よく 六 十 八 を 數 へた 。睡 眠 に 不 充 分 で書 間 少 し睡 眠 を と る事 が
が あ る ほ か異 駅が な い。心 臓 は 左 乳 線 上 第 五肋 間 に 心尖 膊 動 が あ つて、 右
の異 状が な い。 ﹁ロ ゼオ ラ﹂はな か つた 。食 慾 は不 進で 牛 乳卵 黄 重 湯 等 は 嫌
出 來た 。均 體 の 痩 せ著 明 と な つた。食 餌 は牛 乳重 湯 類 は少 し も と り 得 な い。
分 よく な つて食 餌 な と つて も 嘔 氣 腹痛 が 起 ら な か つだ。﹁サ ントゾ ー ル﹂の
悪 と て 一際 と ら な か つた。 果汁 の み な喜 んで と つた 。睡 眠不 良 で あ つた 。
尿 量 は 四百 で 尿 か ら ﹁チ フ ス﹂菌 な 證 明 し 得 た 。
界 は胸 骨 の右 縁 上 に あ る。心尖 部 に最 も 強 い收 縮 期 雑 音 を聽 き 第 二大 動脈
白 血球 數 七 五〇 〇 、血 液培 養 上 ﹁チ フ ス﹂菌 は陰 性 、ヴ イ ダ ー ル氏 反 應 は ﹁チ
九月三 十 九 日 (
第 二十 五 病 日) か ら 體 温 は 上 昇 し て十 月十 日 (
第 三十 六病
九月 二十 六日 (
第 二十 二病 日) 體 温 三 十 九 度 五 分脈 搏 五十 八 で 微 弱 結 滞 甚
フ ス﹂が 四〇 〇 倍 陽 性、 ﹁パラ チ フ ス﹂A、 B は陰 性 。
日)迄 は 大 抵 三十 八 度 七 分 か ら 三 十 九 度 六 分 の間 で、 依 然 食 慾 は不 振 睡 眠
再 注 射 な な した 。
尿 は ﹁ヂ ア ツオ﹂反 應 強 陽性 、 高 田氏 反 應 強陽 性 、 ﹁ビ リ ルビ ン﹂陰 性 、蛋 白
下 に 觸 れず 、脾 臓 は 左肋 骨 弓 下 に約 三横 指 程 ふれ 壓 痛 が あ る。 腹部 は 廻盲
陰 性 、沈 渣 は少 數 の白 血 球 の み で あ る。便 は褐 色 泥状 で 蛔 蟲 卵 な多 數 見 た 、
も 不 充 分で 下痢 が 毎 日 二乃 至 四 囘 あ つた 。此 の 間 に 兩方 の耳 下 腺 炎 を起 し
音 は亢 進 し て 居 る。深 吸 氣時 に は 左胸 部 内 の苦 悶 な 訴 え た。 肝 臓 は右 季 肋
潜 出血 反應 及 び ﹁チ フ ス﹂菌 は陰 性 であ つた 。
強 心劑 等 の注 射 な行 つた。 食 慾 は減 退 し て 下 痢 水樣 便 五囘 (
培 養 上 ﹁チ フ
居 る と 訴 へた ) で 嘔 吐 二囘 を な し た膽 汁 で あ る。此 の 日 ﹁サ ントゾ ー ル﹂及
を數 へた。 呼 吸 は 三十 二 で困 難 の状が あ つた。咽 喉 部 の 痒感 (
患 者 ば蟲 が
九月 二十 一日 (
第 十 七病 日)體 温 四十 度 一分 で 、 脈 搏 は結 滞 甚 しく 七 十 三
皮 膚 に は な か つた。 尿 の膽 汁 反 應 は 陰 性 で あ つた。
は 何 等 の 苦痛 も 訴 へなか つた。此 の 日兩 眼球 結 膜 に輕 度 の黄 疸 な 認 め た 。
赤 波 動 も な いの に、耳 内 外 聽 道 に破 れ 濃 厚 黄 色 の膿 な 自 然 排 出 し た。 患 者
十 月 十 一日 (第 三十 七 病 日) 兩 方 の 耳 下 腺 炎 の 腫 脹 が 差 程大 き く な らず 發
だ り 起 つた り し て 居 た。
て 腫 脹 し、開 口不 充 分 で 耳 聾 が 起 つて 來 た 。 脈 搏 は 一進 一退 で結 滞 は止 ん
ス﹂菌 陰 性 )尿 量 五〇 ・
〇 瓦 で 排 尿 困 難 の爲 め導 尿 を す 。 下肢 足背 に輕 度 の
十 月 十 二日 (
第 三 十 八病 日)から 體 温 三十 七 度 程 度 とな つて、十月 二 十 二日
經 過
浮 腫 が 現 はれ た意 識 は何 等 變 り が な か つた。
(
第 四 十 八 病 日)迄 は食 慾 も 幾 分 増 進 し牛 乳 も 二〇 〇 瓦 位 は攝 取 出 來、下 痢
一 一八 九
九月 二十 三 日 (
第 十 九病 日) 體 温 四十 度 脈搏 百 十 で 結 滞 な く 緊 張も よ い。
俣 野 = 比較 的 早 期 より 全 身 黄 疸 な 伴 へる 腸 ﹁
チ フ ス﹂九 例 に就 て
80
俣 野 = 比較 的 早期 よ り 全 身 黄 疸 な 伴 へる腸 ﹁チ フ ス﹂九例 に就 て
一 一九〇
入院時所見 體格榮養共佳 良な 男子であ る。體温 は三十 八度七分脈搏九
る。 腹 痛 は少 し も な か つた 發 熱 と頭 痛 が 主 訴 で あ る。
膚 の黄 色 及 び 尿 に ﹁ビ リ ルビ ン﹂強 陽 性 に 出 る樣 に な つた。
十 六 緊 張 よ く整 規 で呼 吸 二十 二安 静 で あ る 。皮膚は汚穢 黄色 を帯 び乾燥熱
も 止 み 睡 眠 も よ く 二時 小 康 の 状 態 な 示 む た が、 一方黄疸 は漸次増 強して皮
十 月 二十 三 日 (第 四 十 九病 日) か ら 三 度 心 機 能 不 全 の 症 候 著 明 に現 はれ 、
て 乾 燥 し て いる 。眼 球結 膜 は 中 等 度 の黄 疸 色 な 呈 し、瞳 孔反應は迅速であ
感 が あ る 。顔 貌 は 無慾 状で 苦 悶 の樣 子 はな い。舌 は煤 色の厚 い舌苔があ つ
は増 悪 し て 來 た。黄疸 は著 明 で 皮 膚 全 體 に 黄 疸 色 な 呈 す る やう にな つた 。
る。結 膜 は少 し 充 血 し て いる 。咽頭及 び扁桃腺ば粘膜が少 し發赤充血して
脈 搏 緊 張 微 弱 と なり 結 滞 も著 明 と な つた。加 へる に全 身 の衰 弱 甚 しく 病 勢
十 月 二十 七 日 (第 五 十 三病 日)に 至 つて 意 識 不明 に 陷り 、遂 に心臓衰弱及 び
いる か ﹁ベ ラ ー グ﹂や潰 瘍 は な い。硬 口蓋 の粘 膜 も 輕 度 の黄 疸 色 を 呈 し て い
季肋下に二横指大 に幾分硬く觸れ るが壓痛 は
觸れるのみであ
竓 を 膽 汁 増 菌 法 に よ つ て遠 藤 培 養 基 上 ﹁
チ フ ス﹂菌 が 陽性 で あ つた。ヴ ヰ ダ
い。其 の他 神 經 系 統 にも 變 り が な い。血 液 の 白 血 球 數 は 五 五〇 〇 で、血 液 二
膝蓋反射 はな
る。上肢 に は 異 常が な い下肢 にも 浮 腫 や﹁シビ レ﹂の部 はな い。
ひ ど く な い。 膽 嚢 も 觸 れ な い。脾臓 は 左肋骨弓 下に少 し
ン ﹂は な い 。肝臓 に右 乳線 で
壓 痛 、 ﹁グ ル レ
し い ﹁ロ ゼ オ ラ ﹂が あ つ た 。 腹 部 は少 し膨 満 して いるが 鼓 腸 、
數 の囎 音 (
大 小 )を 聽 いた 。 右 肺 は 異 常 が な い。胸部 の皮 膚には約 六個 の新
心 音 に は變 化 が な い。肺臓 には濁音を呈する部 分はな いが左肺の到處 に少
臓 の大 き さ に は 異 常 が な く 唯第 二肺動脈音が幾分亢進 して いる 位 の 處 で、
頭 痛 も 現 在 は さ ま で ひ ど く な い。口渇 は少 し 強 い やう で あ る 。胸部では心
る。頸 部 に は浮 腫 や淋 巴腺 の腫 脹 はな い。耳聾 もなく意識は極めて明瞭で
心 臓機 能 不 全 の 下 に 夕 刻死 亡 す。
二十二歳男 子 農業
﹁チ フ ス﹂の 豫 防 接
何 等 遺 傳 的 の疾 患 も な く 特 記 する 事 は な い。 家族中 に膽 石等 に
昭三年十月十 三日 (
第 八 病 日)
腸 ﹁チ フ ス﹂(
合併 症 黄 疸 及 び 腸 出 血、 脚 氣 )
第四例
診斷
入院初診
家族歴
生來健康で 脚氣肋膜炎膽 石等 の既往ばな い。
罹 つ た も の も な い。
既往症
十 月 五 日 か ら風 邪 氣味 で 時 々悪 寒頭 痛 な 覺 え た 。體温は始め
種 は受 け た事 が な い。
現症發病
三十 七度 五分 位 で あ つた。六 日 か ら 食 慾不 振 と發 熱 の 爲 め 就蓐 す る やう に
が 八 〇 〇 倍 陽 性 で ﹁パ ラ チ フ ス﹂ A 、B は 陰
ー ル氏 反 應 は 二時 間 で ﹁チ フ ス ﹁
﹂反
性。尿は濃厚黄褐 ﹁
ビ ー ル﹂樣 で 溷 濁 し て輕 度 の 蛋白 が あり 、
チ フ ス﹂菌 は 陰 性 で あ る。沈
應 、﹁イ ンヂ カ ン ﹂反 應 は 陰 性 で 、培 養 に よ つて ﹁
應 強 陽 性、 ワイ ス氏 反 應 強 陽 性、﹁ビ リ ル ビ ン﹂中 等 度 陽 性 で 、糖 、高 田 氏 反
﹁ヂ ァ ツ オ
便 通 ば 下 痢 二乃 至 三囘 あ つた。
な つ た 。 體 温 は 三 十 八 度 五 分 で あ つた、
熱 は 段 々上 昇 し て十 二 日
時 々咳 嗽 が 出 て 胸痛 み が 加 つた。十 二 日 か ら皮 膚 が 何 ん と な く 黄 色 を帯 び
て 來 た が、痒 感 も な いし 別 に 氣 に か け な か つた 。
に は 三十 九 度 に も 昇 つた。頭 痛 が ひ ど く 今 にも 破 れそ う だ つた と 云 つて い
81
渣 に は黄 色 に著 色 し た 上皮 細胞 の少 數 と鹽 類 の結 晶 と のみ で あ る 。
便 は黄 灰 色 軟 便 で蟲 卵 な く濳 血 反 應も 陰 性 で あ つた 。
經 過
診斷
二十 六 歳 男 子
漁夫
腸 ﹁チ フ ス﹂(
合併症、黄疸)
尿 に も、﹁ビ リル ビ ン﹂を證 明 し得 なく な つた 。 下 痢 も 止 み 經 過 は比 較 的 良
の と 思 に る 。反 封 に黄 疸 ば殆 ん ど消 失 し て 眼球 及 び 口 蓋 に も 黄 色 を 見 ず、
來 た 。心臓 に第 二 肺 動脈 音亢 進 し 頸部 に も 浮腫 な見 た 即 脚 氣 を併 發 し た も
側 が 著 明 で あ る。﹁シビ レ﹂
感 が あ り、 ま た 脛 骨側 に は無 感 覺 の と こ るが 出
十月 二十 四 日 (
第 十 九 病 日 )に 下 肢 足 背 に輕 度 の浮 腫 な 見 た、浮腫 ば特 に右
八 度 八 分 を 上 下 し て、患 者 に 氣分 も よ くな り 舌 も 灘 潤 し て 來 た 。
十 月 二十 一日 (
第 十 六病 日)か ら に、體 温 は弛 張 して 三 十 七 度 二分 か ら 三 十
存 在 し た の みで あ つた 。 胸 部 所 見 も な く な つた。
て全 身 の皮 膚 に は黄 疸 色 を 第 十 五病 日 に は 見 なく な り 、眼 球 結 膜 に尚 多 少
て種 々の方 法 を な し て も 止 ま な か つた 。黄 疸 に 日 一日 と消 退 の氣 味 が あ つ
變 が な く、食 慾 も な く 睡 眠 も な く 出 來 た 。 唯 泥 状便 は毎 日 二 乃 至 三同 あ つ
呼 吸 は胸 腹 型 で 十 八 を數 へ比較 的 安 静 で あ る。顔 貌 は全 然 無 慾 状 を 呈 し 一
い﹁ロゼ オ ラ﹂
が あ る。體 温 三 十 九 度 三 分 脈 搏 は緊 張 なく 整 規 で 百 二で あ る 。
身 の皮 膚 に 輕 度 の汚 稜 黄 疸 色 を 呈 こ て いる。前 胸 部 皮 膚 に十 數 個 の少 し 古
入 院 時所 見
氣 付 かな か つた と 云 つて 居 る。
は さ して 苦 痛 な 知 ら な か つた 時 々腹痛 に苦 し ん だ と 云 ふ。黄疸 は入 院 時 迄
投 與 され 數 行 の下 痢 に あ つた が、下熱 せず 却 つて高 熱 が 續 いた 。 自 覺 的 に
を 覺 え る様 に な つて十 日頃 か ら 就 蓐 し た。十 二日某 醫 の 治療 を受 け 下劑 を
思 つて尚 二 三 日 は 仕事 に從 事 して 居 た が、段 々と 高 熱 と な つて 全身 の倦 怠
現 症發 病
の疾 患 を 知 ら な い。﹁チ フ ス﹂豫 防 接 種 に 二年 前 に 一同 受 け た の み で あ る 。
既往症
家族歴
生 來 至 極 丈 夫 で 麻 疹 種 痘 を 經 過 した の みで 、
脚 氣、
膽 石、
肋膜炎等
同胞 三 人共 現 存 し て、 何 等 特 記 す る やうな 事 柄 が な い 。
昭 和 三 年 十 一月 十 六 日 (
第 十 七 病 日)
好 で あ る。此 の 日 尿 に ﹁チ フ ス﹂菌 を 證明 むた 、 發 汗 が 著 し い。
見 し て ﹁チ フ ス﹂と 思 は せ る やう な 定 型 的 の顔 貌 を して いる。舌 に 厚 い白 苔
入院初診
十 一月一 日 (
第 二十 七 病 日) に は 平 熱 とな り 食 餌 も 大 いに 進 み 脚 氣 の 症 状
で被 はれ 乾 燥 甚 し くな い。口 内 粘 膜 に ﹁
ラ イ ン﹂で 扁 桃 腺 は腫 脹 と輕 度 の 發
十 月 十 四日 (
第 九病 日)から 十月 二 十 日 (
第 十 五 病 日)迄 は、體 温 は 三十 八度
も 輕 快 し ﹁オ マジ リ﹂か ら 粥 、 菜 付 粥 と食 餌 を 進 め 體 力 も 段 々と 恢 復 し て、
赤 が あ る。 硬口 蓋 粘 膜 に僅 か に 黄 色 に 見 え る。眼 球 結 膜 に は黄 疸 は著 明 で
二分 か ら 三 十 九 度 三分 の問 を往 復 す る稽 留 熱 で、 一般 症 状 と し ても 別 に著
便 尿 から 各 三同 の菌 檢 査 が 引 續 いて 陰 性 に終 つて、 十 一月 十 九 日 (第 四 十
あ る。 瞳 孔反 應 に 異 常 が な い。聴 器 に も 異 常 が な い。胸 部 所 見 と して 心臓
一 一九 二
肺 臓 に は 打 診 聴 診 上 特 別 の變 化 が な い。腹部 に 廻盲 部 に 輕 い壓 痛 を 覺 へ皷
體格 中等 榮 養 可 良 の 男子 で 意 識 明 瞭 で 皮 膚 は乾 燥 し て 、 全
患 者 ば十 一月 一日頃 から 輕 い頭 痛 と悪 寒 が あ つた が、 風 邪 と
五 病 日)に全 治 退 院 を な し た 。
第 五例
俣 野 = 比較 的 早 期 より 全身 黄 疸 を伴 へる腸 ﹁チ フ ス﹂九 例 に就 て
82
腸 に な いが 緊 張 し て いる。肝臓ば右乳線上 で季肋下 に約 二横指半大に觸れ
性 となり 経過 良 好 で 共 の後 數 同 の 検 便 の結 果 下熱 後 第 二 週迄 に便 に ﹁チ フ
十 二月 一日 (
第 三十 二病 日)か ら 全 く 平 熱 と な つ た。尿 の ﹁
ビ リ ルビ ン﹂も陰
一 一九 二
四肢 には浮腫 や感覺異
ス﹂菌 を 證 明 し たが 、十 二月 二十 五 日 (
第 五 十 六病 日)患 者 に 全治 退 院 した 。
俣 野 = 比較 的 早 期 より 全 身 黄 疸 を 伴 へる 腸 ﹁
チ フ ス﹂九 例 に就 て
硬 く て 輕 い壓 痛 が あ る。膽嚢及 び脾膽は觸れ な い。
第六例
二十八歳女子
官吏の妻
此 の例 は 黄疸 が 下熱 時 に は消 退 して 良 経 過 を と つた も ので あ る。
常 部 な く、神 経 系 統 の 異 常 も 認 め な か つた。 黄疸 は比較的輕度 のものであ
る 。
血液 白 血 球 數 七 ・〇 〇 〇 で 、ヴ ヰ ダ ー ル 氏 反 應 は 二時 間で 一・六〇 〇 倍 陽 性
血 液 から の増
(﹁チ フ ス ﹂)で 他 の ﹁パ ラ 千 フ ス﹂A 、B は 五 〇 倍 陽 性 で あ つた。
診斷
流 産 、 膽 石、
患 者に生來健康で 二十 歳 の 時 一男 子 と結 婚 し て、 二十 三歳 の時
遺傳的 の疾患 や、膽 石疼痛 等を 起したものもなく特 記する事 が
昭 和 四 年 三月 十 三 日 (
第 十 三病 日)
腸 ﹁チ フ ス﹂及 妊 娠 五 ケ月 (
合併症、腸出血、黄疸及流産)
様色酸性で ﹁
ヂァ
菌 培 養 で に陰 性 に終 つ た。尿 に比 較 的 透 明 の 濃 厚﹁ビ ー ル﹂
入院初診
な い。
家族歴
﹁イ ン ヂ カ ン﹂反 應 (-)、﹁ビ リ ル ビ ン﹂(+ )
ツ オ ﹂反 應 (+ )、ワ イ ス氏 反 應 (+ )、
沈渣は鹽類結晶の
﹁ア セ ト ン ﹂(+ )で 、
蛋 白 (± )、 糖 ( -)、高 田 氏 反 應 (-)、
食 慾 も 充 分 あ るし 前
屎 に下痢便黄褐色 で 蟲卵 に蛔 蟲 (+)濳 血 反 應 (-)で あ る。
み で菌 を 見ず 。
經 過
第 二十 病 日 )迄は體 温は三十 九度代で
十 一月 十 九 日 (
に
罹
つ
た
事
も
な
く
健
全
で
明 し た の みで あ る。
發 汗 し て 來 た。 下痢 に全 く 止 ん
存 し て いた 。尿 中 ﹁ビ
二分 に止 つた 。 黄 疸 は證 明 出 來 な く なり 、尿 中 弱陽 性 に ﹁ビ リ ルビ ン﹂を 證
日 (
第 二十 九 病 日) に は午 前 の 體 温 は三十 六度 四分に下り午後に三十八度
十 二月 二十 八
腸 によ つて 排 便 し た 便 を 培養 し て ﹁チ フ ス ﹂菌 を 證 明 し 得 た 。
し た。此 の 日灌
リ ル ビ ン﹂ は 尚 陽 性 で あ つ た 。 尿 量 も 一・二〇 〇 瓦 位 に増 加
だ。皮 膚 の黄 疸 色 も消失 して眼球結膜の黄色が僅 かに
位 に 上 つた が 、氣分食慾等 も良好で全身に
二十 二病 日)か ら に熱 は施 張 し始 め朝に三十八度位で夕刻は三十 九度五分
る 嘔 吐 、 食 慾 不 進 、倦 怠 等 が あ つた。
三月 一日 に全 勇 倦 怠 と輕 い頭 痛 が あ つた が 意 と せず 仕 事 を し
食 餌 と して
度 で 別 に肝 臓 部 の 疾 痛 も な か つた 。 睡 眠 不 充 分 と な つて 來 た。
三月 七日 頃 から 皮 膚 が 黄 色 を帯 び て 來 たが 痒 感 に な か つた。體 温は三十九
た が 腹 痛 や悪 寒 にな か つた 。
三十 八 度 で あ つた。便通に秘結 して腹部が膨満 の度を増した やうな氣がし
段 頭 痛 が び ど く な つて 來た ので 就牀 して 某 醫 の診 を 乞 ふ た。
當時 の體温は
て い た 。 三 月 五 日 か ら食 慾 不 進 で 食 事 をと る と 胃 部 の 不 快感 が あ つて、段
現症發病
いた。 二月 頃 約 二
あ つ た 。 月 經 は十 一月 二 日最 終 月 経 を見 て 以 後 閉 止 し て
一般 維 過 は 良 好 で あ る。黄疸 は幾
脚
氣
等
額 部 に登 汗 し、夜 の 睡 眠 も割 合 よ く と り
る
。
週間位輕 い ﹁ツ ワ リ ﹂と 思 に れ
て
い
症
十 一月 二十 二日 (
第
分減 退 の氣 味 が あ るが 、尚 皮 膚 に 黄疸 色 を 帯 び て 居 た。
し
往
既
女
子
を
分
娩
し
現
存
83
し 他醫 の診 を乞 ひ十 月 十 三日 に腸 ﹁チ フ ス﹂ と し て 當 院 へ入 院 し た も ので
に よ る も のだ と 云 にれ た と 云 つて いる。其 後 高 熱 の 持續 に 家 中 の も の 心 配
は重 湯 を と つて いた 嘔 心嘔 吐 にな か つた 。當 時 の診 繼 に黄疸 と の事 で 妊娠
謹 明 し得 た。
性、 ﹁パラ﹂A、 B に陰 性 で 、二耗 の 血 液 な増 菌 培 養 に よ つて ﹁チ フ ス﹂菌 を
血 球数 は 四 ・五〇 〇 でヴ ヰダ ー ル氏 反 磨 は 二時 間 で 八 〇 〇 倍 ﹁チ フ ス﹂に陽
蟲 卵 (一)培 養 に は ﹁
チ フ ス﹂菌 陰 性 で あ るが 潜 血 反 應 に 強 陽 性 で あ つた 。
陰 性 に終 つた 。 便 は 黄 味 な 帯 び た 灰 白 色 軟 便 で 庭 々 に褐 色 の部 分が あ り、
柱 、 鹽 類 結 晶 と 黄 色 に 著 色 し た 上皮 細 胞 た 見 た 、培 養 結 果 は ﹁チフ ス﹂菌 は
ンヂ カ ン﹂反 應 陽性 、﹁
ア セト ン﹂に陰 性 で 、沈 渣 に は 少 數 の 白 血 球顆 粒 状圓
は 陽性 、 高 田 民 反 應 は 強 陽性 、蛋 白 陽 性、糖 陰 性、 ﹁
ビ リ ルビ ン﹂強陽 性 、﹁イ
尿 に濃 厚 黄 褐 色 酸 性 で 溷 濁 に少 い。﹁
ヂ ア ツオ ﹂反 應 は 陰 性、 ワイ ス氏 反 應
體 格 中 等 榮 養 に稍 々不 良 の女 子 で、 皮 下脂 肪 ば消 耗 して 貧
あ る。
入院時所見
血 が 加 つて いる。盟 温 は 三十 八 度 脈 搏 に 整 規 で あ るが 緊 張 や ゝ弱 く 頻 數 で
百 二十 た 數 へた 。 呼 吸 に 十 八 で 胸 型 比 較 的 安 静 で あ る。意識 は明 瞭 で 聴 器
に變 化 にな い, 皮 膚 に甚 し く 乾 燥 し黄 疸 色 は 全 身 著 明 で あ る。﹁ロ ゼオ ラ﹂
は な い、 舌 は煤 色 の苔 厚 く 二個 の ﹁リ ス﹂な 生じ 乾 燥 し て、口 臭 に 高 度 で あ
る事 は 確實 で あ る。肝 臓 ば右 季 肋下 二横 半 大 に ふれ 壓 痛 が 少 い硬 度は や ゝ
で 白 線 も 同様 著 明 で 外 陰 唇 も 色 素 沈 著 あり 胎兒 心音 な聴 取 し 得 た。妊 娠 な
横 指 半 位 の と こる に あ る。子 宮 體 は硬 く 見頭 な ふれ 、 乳 房 に色 素 沈 著 著 明
二音 が 亢 進 し て第 一音 が 弱 い。腹 部 は 下腹 部 に膨 隆 し て 子 宮 底 に 臍 下 約 一
鋭 利 で、濁 音 に不 明 瞭 で あ る。 心尖 部 に第 六肋 間 にあ つて 雜 音 は な い。 第
て 肺 臓 に に 打診 聴 診 上 特 に變 化 た 認 め な いが 右 肺尖 部 の 呼 氣 が 延 長し て
腹 瞼 結 膜 ば貧 血 が 著 明 で あ る。 頸 部 淋 巴 腺 には 異 常 が な い。胸 部 所 見 と し
も 黄 疸 色 が 著 明 で あ る。瞳 孔 反 應 は鋭 敏 で眼 球 結 膜 は 甚 し く 黄 色 な 呈 し 、
三月 二十 六 日 (
第 二十 六病 日) 皮 膚 の黄 疸 色 ば 殆 ん ど 消 失 し て 僅 に眼 球 結
良 で あ つた 。
三。
月 二十 日 (第 二十 病 日)黄疸 が 少 し 消 退 し た 観が あ るが 、 一般 状態 は尚 不
た
湯 葛 湯 を 一日 量 六〇 〇 武 を とり 得 た が 睡 眠 に 不 頁 であ つた 。腹 痛 に な か つ
翌 日 に禮 温 三十 八 度 二分 とな つて 再 出血 々起 さな か つた。食 餌 と し て は重
約 四 〇〇 瓦 あ り 止血 劑 、強 心劑 等 の 注 射 々行 つて 小康 を得 る事 が 出 來 た 。
脈 搏 は緊 張弱 く 結 滞 は な いが 頻 數 で 百 十 二 な數 へた。夜 半 に至 つて 腸 出 血
黄疸 は 一暦 増 強 して 來 た 。睡 眠 に不 頁 とな つて 足 背 に輕 い浮 腫 が 起 つた。
三月 十 五 日 (
第 十 五 病 日 )に 體 温 三十 七 度 に 下 降 し下 腹 部 の緊満 を 訴 へた。
過
硬 い、膽 嚢 は ふれ な か つた 。 脾 臓 は 左季 肋 下 に 一横 指 大 で ﹁テ ルブ ﹂に ふれ
膜 等 に 存 し て 居 る 状 態 に なり 、體 温も 三十 七 度 七 分 位 に 下 降 、
して來 た 。 書
経
た 、壓 痛 は な いが 、 體 位為 變 え る 時 に 牽 引痛 が あ る と 云 ふ。 食 慾 は 比較 的
る。口 内粘 膜 に貧 血 と黄 色 を 呈 し て いる。扁 桃 腺 は異 常 が な い。硬 口 蓋 粘 膜
よ く 睡 眠 に 不 冥 で 腓 腸 部 の壓 感 を 絶 へず 苦 に し て いた 。 四肢 特 に下 肢 に
間 ウ トく
一 一九 三
と し て 睡 眠 す る やう にな つた 。脈 搏 は 依 然悪 く 心音 に雑 音 なき
は 浮 腫 等 に な く 排 張部 の握 痛 も な い。其 他 に異 常 な 見な か つた 。 血 液 の白
俣 野 = 比較 的 早期 より 全 身 黄疸 な 伴 へる腸 ﹁チ フ スし九 例 に就 て
84
俣 野 =比 較 的 早 期 より 全 均 黄 疸 な 伴 ヘろ 腸﹁チ フ ス﹂九 例 に 就 て
く や う に な つれ。加 ふ ろ に 下 腹 部 胎 皃 の部 分 緊 張 して 苦 しみ 人 工 流 産 な 切
望 しれ が 行 ば ず 、其 後 著變 な く經 過 した。
四月 一日 (
第 三 十 二病 日)に 全 身 衰 弱及 び 心臓 衰 弱 の 兆が 現 はれ て 來 れ 。體
温に三十七度五分で 此 の 日食 餌 に關 係 な く 二囘 の 嘔 吐 を な し た。
四月十四日 (
第 四 十 三病 日) には譫 語を發し耳聾 あり 意識は不明瞭で興奮
の状 態 を 示 し た 。 黄 疸 に眼 球 結 膜 に 輕 度 にあ るの み で あ る。食慾 は全 く不
良 に 陷 つた 。 牛 乳 卵 黄 重 湯 等 を 嫌 ひ ﹁スー プ﹂の み を 喜 ん だ。全 身 の衰 弱 は
度 を増 し て來 た 。
四月 十 九 日 (
第 五 十 病 日) に な つて 黄 疸 が 再 び著 明 と な つて皮 膚 にも 黄 色
の著 色 を 見 る やう にな つた 。意識稍 々不明瞭で睡眠な とり得ず 輕 い脳症 を
起 して 來 た 。夕刻に は體温 三十 九度 に 上 つて 失禁 を 伴 な つて 來 た。心臓 は
段 々と 衰 弱 加 は つて、脈搏は百三十を數 へ非常に微弱 とな つれ容態 に重 馬
に な つて來 れ。
四月 二十 七 日 (
第 五 十 入 病 日 )夜 半 に 流 産 (男 兒)し た。胎 兒 は羊 膜 に包 ま れ
れま 、多 少 の 出 血 と共 に生 れ れ 。 意 識 に 全 く な し、胎 盤、 臍 帯 等 から 培 養
を行 つた が ﹁チ フ ス﹂菌 は陰 性 で あ つた 。
四 月 二十 九 日 (第 六 十病 日) 午 前 心臓 衰 弱 に 陷 いり 全 く 心機 能 不 全 と なり
死 亡 す。
此 の 例 の黄 疸 は 早 期 か ら 合 併 し、半 頃 輕 快 して 再 び 増 強 した も の で死 前 迄
存在した。
以下三症例 ば大正十 五年當病院で伊藤氏が 經 驗 し た 例 で、氏 の厚 意 に よ つ
て此處 に概略 々記 して追 加報 告 す る事 にす る。
二 十 六歳 男 子
漁夫
腸 ﹁チ フ ス﹂(
合 併症 、 黄 疸 、 腸 出 血 )
第 七例
診斷
一 一九 四
大 正 十 五 年 一月 二 十 日 (
第 十 九 病 日)
特記す る事な し。
入院初診
家族歴
數 年 前 脚 氣 に罹 つれ ほか に 著 患 を知 ら な い至 極 元 氣 で あ つた と
一月 二日 頃 か ら感 冒 の 氣 味 で 殊 に劇 し い頭 痛 に悩 ん だ 。 三 日
既往症
云 ふ。
現症發病
に土 地 の 醫 者 を 訪 れ た 五 日 に函 館市 某 病 院 に 入 院 し た。便 通 はな か つれが
入 院 中 一月 十 六日 腸 出 血 を 起 し ,凝 血 を 主 と して少 量 で はあ つたが 十 八 日
迄 三囘 腸 出 血 を な し た。 其 後 腸 出 血、便 通 を 見 な い食 慾 は不 振で 睡 眠 良 好
體 格良 榮 養 も 可 良 で、 舌 苔 に 厚 く 口内 悪 臭が 強 い。 咽 頭 一
な らす 然 も 神 經 症 状 は な か つた と 云ふ 。 酒 煙 草 に 用 ひ な か つた。
入院時所見
般 に 發 赤 して いる が腫 脹 は な い。 多 少 の 嚥 下 時 の 疼痛 が あ つた。硬 口蓋 粘
膜 に僅 か に 黄 色 な 呈 した 。眼 球 結 膜 に異 常 が な か つれ 。 胸 部 は心 悸 動 を 認
め る 外 に 所 見 が な い。 腹 部 は 緊 張 は 強 いが 壓 痛 はな い。肝 脾 は觸 れ な い。
胸 部 の皮 膚 に は、 古 い﹁ロゼ オ ラ﹂な認 む。脈 搏 は早 いが 整 緊 張 中 等 で 一二
〇 、重 複 脈 は な い。 體 温 は 三 十 七 度 九分 呼 吸 は淺 表 で 二〇 を 數 ふ 。 膝 反 射
入 院 翌 日數 囘 の下 痢 が あ つた 。 便 に 凝 血 を 混 じ 少 量 で あ る。 鞭 蟲
は兩 側 共 減 ず 下 肢 に浮 腫 に見 え な か つた 。
經過
卵 な 認 め た 。 體 温 は下 降せ ず 、不 眠 、腹 部 緊 満 を 訴 へ、 二 十 二 日 (
第 二十 一
85
病 日 ) 朝 死 亡 した 。顔 面 稍 々蒼白 で 顔 面 、 粘 膜 、 胸 部 に は著 明 の黄 疸 を 呈
して居た。
一月 二十 一日 の 尿 所 見 。帯 褐黄 色 、溷 濁 、酸 性 で 振盪 し て黄 色 の泡 を 生 じ な
か つた。﹁ヂ ァ ツオ﹂(-)ワイ ス (-)﹁グ メ リ ン﹂(-)蛋 白 一・〇 ‰ の 陽 性 で多
數 の 顆 粒 状圓 柱 、少 數 の 硝子 樣 圓 柱 白 血 球 及 び輕 く 黄 染 した 上皮 細 胞 を 認
めた 。二十 一日 の細 菌 檢 査 結 果 は 尿 及 び 便 か ら ﹁チ フ ス﹂菌 を 多數 證明 し得
﹂A、 B は 陰 性 。
會社員
た。血 液 よ り の培 養 は 陰 性、ヴ ヰダ ール 氏 反 應 は 一 六〇 〇 位 陽性 (チ フ ス)、
﹁パラ
三十九歳男子
腸 ﹁チ フ ス﹂(
合 併症 、 黄 疸 、 腸 出 血 )
第 八例
診斷
不詳
大 正 十 五 年 四月 十 九 日
家族歴
約 五 年前 か ら 胃 酸 過多 症 に 悩 ん で いた 。 某 醫 には 胃 潰 瘍 で あ る
入院初診
既往症
約 七 日 前か ら悪 感 を覺 え就 蓐 し た。 次 いて 腹 部 膨満 、 疼痛 、
と 云 は れ た。
現症發病
悪 心、 嘔 吐 等 に苦 し んだ 便 通 は 全 く な か つた 。意 識 は明 瞭 で あ つた が 時 々
第 九例
二十八歳男子
船大工
不 詳、 入 院 大 正 十 五 年 入月 二 十 一日
腸 ﹁チ フ ス ﹂(
合併症、黄疸)
家族歴
十 八 年前 突 然 睾 丸 の 腫 脹 を起 した 事 が あ つた が、 其 れ 以 來著 患
診斷
既往症
八月 十 三 日 に輕 い頭 痛 と倦 怠 を 感 じ た 。 十 九 日 か ら 就蓐 した
を 知 ら な い。
現 癌 發病
體 格 榮 養 共 に中 等 で 顔 貌 は 多 少 浮 腫 状 を呈 し た。
便 通 は秘 結 し て食 慾 睡 眠 は不 良 で 神 經 症 状 はな か つた 。數 日前 か ら發 汗 が
あ つた。
入院時所見及經過
舌 は苔 を 有 す る が 濕 潤 して いた。 胸部 所 見 はな い。 腹 部 も 別 に 異 常 が な
い。 右 季 肋 下 に 肝 臓 を約 二横 指 觸 れ 多 少 の 壓 痛 が あ つた 。脾 は深 呼 吸僅
か に ふれ た 、 胸 部 上 腹 部 の皮 膚 に少 數 の ﹁ロ ゼ オ ラ﹂を 見 た 。眼 球 結 膜 硬 口
蓋 上 腹 部 、 上 臆 に 着 明 の 黄 疸 を 見 た が痙 痒 は な い。何 時 頃 か ら 生じ た か は
不 明 で あ る。 體 温 三十 六 度 二分 脈 搏 は 一〇〇 を數 へた。體 温 は 入 院 後 上 昇
して 入 月 三十 目 に は 四 十 度 一分 と な り、脈摶 も 做 弱頻 數 百 二十 と なり 遂 に
九月 六 日死 の 轉歸 を と つた。 黄疸 は増 強 し て少 しも 消 退 し なか つた 。尿量
は八 月 二十 九 日 の 五 〇 〇 瓦 の他 は 一〇 〇 〇 乃 至 一五〇 〇 瓦 で あ つた、二十
九日 の尿 所 見 は 褐 黄 色 酸 性 強 濁 で ﹁
ヂ ァ ツオ﹂反應 (+)、 ワイ ス氏 反應 (-)
譫 語 を 發 し 、 睡 眠 不 良 、 嘔 吐 の 爲 め食 餌 はと り 得 な か つた と 云 ふ。
入 院 時 所 見 及經 過
高 田 氏 反 應 (-)、 ﹁
ピ サ ルビ ン﹂(+++)、 蛋白 (
+ )、沈 渣 に は 黄染 した 顆 粒 状
四 月 十 八 日 ﹁チ フ ス﹂と決 定 十 九 日 書 入 院 したが 、同
時 に多 量 の腸 出 血 を 起 し殆 ん ど 失血 死 と 思 は れ ろ状 態 で 遂 に死 亡 した 。黄
圓 柱 と桿 菌 を 認 め た 。 臨 牀 上 全 く ﹁
チ フ ス﹂の症 状 を 呈 した も ので あ る。
一 一九 五
疸 は其 の時 着 明 で あ つた 。
俣 野 = 比較 的 早 期 より 全 身 黄 疸 を伴 へる腸 ﹁チ フ ス﹂九例 に就 て
86
括
﹁チ フ ス ﹂ミ確 診
一 一九 六
され た も の であ る。 他 の 二症 例 も 臨 牀 的 に は ﹁チ フ ス﹂々見 ら れ る も の
俣 野 = 比較 的 早 期 より 全 身 黄 疸 を 伴 へる腸﹁チ フ ス﹂九 例 に就 て
四 、總
以上九症例 の内七例 は血清學 細菌學 及び臨牀上
で、 皆合 併 症 々 し て黄 疸 を併 發し て居 る。 然 も 尿 中 ﹁ビ リ ルビ ン﹂は 一例 を 除 く 他 全 症 例 に 證 明 さ れ て 居 る 。 腸 ﹁チ フ ス﹂に 併 發 し た 黄
疽 を見 る 々左 の 三 型が 區 別 さ れ る 々思 ふ即 ち
一、 早 期 か ら併 發 し て中 途 で消 退 す るも の、
二 、 中途 か ら併 發 し て經 過 中 消 退 し な いも の、
三、 早期 か ら併 發 し て 全 經 過 中存 在 す るも の、
例 外 に 早 期 か ら併 發 し 伴 頃 輕 快 し て 再 び 増 強 す るも のが あ り 、 余 の症 例 に 付 いて見 れ ば 第 二第 三 は 豫 後 不 良 に終 つ て い る。 黄 疸 を 併
發 し た も に の は腸 出 血 を起 すも のが 多 く 重 症 で 豫 後 は 不 良 で あ る。 腸 出 血 の 原 因 を 何 に求 め る か は甚 だ 六 ケ敷 し い問 題 で 、 ﹁チ フ ス﹂
菌 の性 質 毒 力 及 び 各 個 人 の體 質 に も よ るも の 々思 は れ るが 、一而黄 疸 發 生 原 因 を緒 言 に述 べた 所 か ら し て 血 中 に 移 行 した ﹁ビ リ ルビ ン﹂
の爲 め出 血 性 素 因 々 な つて 出 血 を起 し や す く な る の に原 因 す るも のも あ る事 は 否定 さ れ な い事 々信 ず る。 腸 ﹁チ フ ス﹂に併 發 す る黄 疸
の頻 度 に 就 て、 我 國 で は 約 一乃 至 二 % (
流 行 に も 依 るが )位 の も の 々 され て居 るが 、 大 正 十 五 年 に當 院 で 伊 藤 氏 の 々 つ た統 計 によ れ ば
二 ・七 % で余 の昭 和 三年 七 月 から 昭 和 四 年 四 月 迄 の統 計 で は 二 ・八 五 % で あ る 、故 に當 函 舘 地 方 に流 行 す る腸 ﹁チ フ ス﹂に は 黄 疸 を 併 發
す るも のが他 の 土 地 よ り か 多 い事 は 原 因 は何 に 存 す る か不 詳 で あ るが 確 かで あ る。 男 女 性 別 に は 余 の症 例 で は 男 子 七 例、女 子 二 例 で 男
子 は女 子 よ り か多 い。 年齢 は 二 十 二歳 か ら三 十 歳 迄 のも のが 七 例、 三 十 一歳 か ら 四十 歳 が 一例、 十 一歳 か ら 一 十 歳迄 が 二例 で 、要 す る
に 二十 一歳 から 三 十 歳 迄 のも のに 多 い。 之 れ は腸 ﹁チ フ ス﹂が 壮 年 の も の に多 いか ら た いした 意 義 も な い事 々思 ふが 壮 年 者 に多 か つた 。
腸 出 血 を 起 し た も の は 九 症 例 中 六 例 で 皆下 痢 を 件 つ て居 九 も ので あ る。 季 節 に は 影響 が 餘 り な いや う で 一月 、三月 、四 月、八 月 、 十 月、
十 一月 の各 一例 宛 と九 月 が 三 例 で あ る。 唯 九 月 に は患 者 が 多 い爲 め 々思 は れ る。 既 往 に膽 石 、膽 嚢 炎、膽 道 炎等 の黄 疸 に關 係 のあ る疾
し て は 居な いか ら 腸 ﹁チ フ ス﹂の黄 疸 が果 し て何 れ に歸 せら れ るか 々云 ふ事 は興 味 あ る問 題 に 連 ひ な い 々思 は れ る。 各 例 の黄 疸 の清長
患 を有 し たも の は 一例 も な か つた。 余 の六 例 で は これ 等 の諸 疾 患が 時 た ま 合 併 した やう な 特別 の症 状、例 へば 體 温 上昇 白 血球 増 加 を起
を見 る と、第 一々第 二 例 は 早期 か ら消 失 す る事 な く し て繼 續 し て死 亡 時 迄 存 在 し て い る。 第 三 例 は 腸 ﹁チ フ ス﹂以 外 に 黄 疸 の原 因 を求
87
む れば 急 性 心 内膜 炎を 起 し て 心臓 機 能 不 全 か ら惹 起 さ れ た も の 々も 考 へられ な い事 も な いが 、此 の黄 疸 は中 途 か ら起 つ て死 亡迄 續 いた
も の で、 第 四 乃 至第 五例 は下 熱 期 前 後 に黄 疸 が 消 失し て 全 治 した も ので あ る。 第 六 例 は 妊 娠 中 に 腸 ﹁チ フ ス﹂に罹 つ て黄 疸 を 伴 つたも
ので 、妊娠 それ 自 身 が 多 く ﹁チ フ ス﹂の豫 後 を 不良 にす る 事が 多 いの に黄 疸 を併 發 し て尚 更 ら 不良 に終 つたも の 々考 へら れ る。 黄 疸 は 半
論
頃 輕 快 し て 再 び 増 惡 し て 死 前迄 持 續 し た も の で あ る。 第 七 乃 至 第 九 例 は早期 か ら死 亡迄 黄 疸 が 存 在 し た も の であ る。
五、 結
一、 腸 ﹁チ フ ス ﹂
に 黄 疸 を 合併 す る事 は 我國 で は稀 れ で は な い。 季 節 は 影響 が 少 いや う で あ る。
二 、黄 疸 を 伴 ふ腸 ﹁チ フ ス﹂の 豫後 は、併 發 の時 期 と消 退 の 如何 に關 係 す るが 早 期 か ら 伴 つて持 續 す る も の 々中 途 か ら 併發 す る も の は豫
後 は 一般 に 不 良 で あ る。 前 半期 の み の黄 疸 は 必 す し も不 良 で は な い。
三 、 黄 疸 を併 發 し た腸 ﹁チ フ ス﹂に は 腸 出 血 を 起 す も の 大多 數 で あ る。 腸 出血 後 は 黄疸 は輕 快 す る やう で あ る。
て も 腸 ﹁チ フ ス ﹂に罹
つ た際 黄疸 を 伴 ふ事が あ る。
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6) Lemke, Vi
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3) Strum pell,
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フ ァー ジ﹂を檢 査 し て確 診 を下 す べ き で あ
四 、 腸 ﹁チ フ ス﹂に 黄 疸 を 伴 ふ 場 合 に ヴ ヰ ダ ー ル氏 反 應 は 促 進 さ れ る 故 必 ず細 菌 的檢 査 々 ﹁
る 。
五、膽石 及び膽曩疾患の既 往症を有 せざ るものに
六、 黄 疸 を 伴 ふ腸 ﹁チ フ ス﹂は 下痢 を來 す も のが 多 い。
Stem berg、
擱 筆に際 して症例 を提供 され種 々便 宜を與 へられた函館柏野療養所伊藤學兄 に感謝 の意 を表す (昭 和 四 年 七 月 十 四 日脱 稿 )
文 獻
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8) L.Mohr,R.Stac
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5)
7) Sternberg, Bei
tr. z. pa
th. A nat.u.algl
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1918.
4) Frankel, Ebenda. 36. Bd. 192
3.
1) Kauf
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Therapie. 1 Band.
Arc
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.
923.
16) 大 野 , 日 新 醫 學 .第 16
13) 長 興 ,
er,D i
e verschiedene Formen von Gel
bsucht.Di
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10) Eppin
15) 伊 藤 , 治 療 及 處 方 .第 6巻 .第 10冊 .
11
) 田 中, 九州 醫 學 會 雜 誌 .(
明 治 42年 ). 12) 加 藤 , 治 療 及 處 方 .第 6巻 .第 8冊 .
fi
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ag.Inn.Krh.4 auf.
Inn.Med.2auf
. 9)M.Ma
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h d.difD
hepa
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lnalen Erkrankungen.Berli
n. 1920.
一 一九 七
8) 二
1 木 ,伊 澤, 岩 井 , 診 斷 と治 療 ,13巻 .第 8冊 -148冊 . 19) 蒲 地 , 日本 傳 染 病 學 會 雜 誌 .第 2
14) 雲 英 , 治 療 及 處 方 ,第 4巻 .第 9冊 .
17) 緒 方 , 日新 醫 學 .第 3年 .1號 .
治 療 及 處 方 .第 6巻 .第 4冊 .
年 .4號 .
俣 野 = 比較 的 早期 より 全 身 黄 疸 を 伴 へる 腸 ﹁チ フ ス﹂九 例 に 就 て
88
21) 川 口
田
一 一九 八
禮
藏
, 日本 傳 染病 學 會雜 誌.第 1
2
2) 戸 田
.第 2年 .第 12號 .
, 日本 傳 染 病 學 會 雜 誌 .第 1巻 .第 3號 .
吉
生物 界 に 大な る影 響 あ るべ し とな し、 競 ふ て 其 の研 究 に浸 頭 し、
醫學士
東京市立大久保病院醫局
24) 角 尾 , グ レ ン ツ ゲ ビ ー ト
﹁バ ク テ リ オ フ ァ ー ジ ﹂發 見 以 來 之 れ が 溶 菌 作 用 は微
細 菌 性 赤 痢 の ﹁フ ァー ジ ﹂
療 法
23) 平 松 , 東 京 醫 事 新 誌 .No.2437-N o
.2438.
20) 福 永 , 東 京 醫 事 新 誌 .No.2513號 .
吉 田 =細 菌 性 赤 痢 の ﹁フ ァー ジ﹂療 法
巻 .第 5號 .
巻 .第 9號 .
d'
H erelle 氏 の
或 は其 の生物學的性質 を研 め或 は之れを細菌學 上の診 斷に用ひ、 延 いて は其 の溶 菌 性 は 必す 治 療 的 に 效 果 あ ら ん と て、之 れ を 實 驗 治 療
に 試 み た る報 告 東 西 を通 じ て 枚 擧 に遑 あ ら ざ るべ し 。 而 し て、そ の結 果 に至 り ては 、 或は 效 あ り 々云 ひ、 あ る ひ は效 無 し 々云 ふ。其 の
間 區 々 とし て判 然 た る は少 し。 d'Herel
el氏 は鷄 ﹁チ フ ス﹂に 對 し て其 の 菌 の 特 異 性 ﹁フ ァー ジ ﹂を 經 口 的 に 與 へて 、
治療的竝に豫防的 兩
方 面 の效 果 を擧 け た り と 報 告 せり。 又氏 は 特 異 性 を有 す る ﹁フ ァー ジ ﹂を 以 つ て水 牛 を Bgrbo
ne に 免疫 す る を 得 たり 々 報 告 せり 。
を 經 口的 に 與 へて好 影 響 を 得 た るを 記 載 せり。 又 Smith
B eckerich u.H anduroy の 二 氏 は 人 間 の 腸 ﹁チ フ ス﹂患 者 に ﹁チ フ ス フ ァ ー ジ ﹁
フ ス フ ァー ジ ﹂を 與 ふ る 時 は 、そ
の與 ふる期 間 中 は菌 排 出 中 絶 す るを 實 驗 せ り。 又 腸
氏 は 、 腸 ﹁チ フ ス﹂患 者 に ﹁フ ァ ー ジ ﹂を 與 ふ る 時 は 、 屎 尿 の菌 排 出 止 む 々な し、
長尾恒介博士も亦 尿中菌排出 に就 きて同樣 の實驗をなせ
り。 又 同 僚岡 村 學 士 は腸 ﹁チ フ ス﹂菌保 菌 者 に ﹁チ
を 注 入 使 用す れ ば 效 あ り 々の報 告 は 往 々見 ら る ゝ所 な り 。
ァー ジ﹂を 與 ふ るも 之 れ に よ り て格 別 の 效 果 を齎 ら さ ざ り し
等 諸 氏 の實 驗 に よれ ば 葡 萄 状 球 菌 に よ る皮 膚 病 及 び 内臟 疾 患 の際 は該 菌 の ﹁フ ァ
B oaso 氏 の ﹁パ ラ チ フ ス﹂に よ る 實 驗 に て は 、相 當 大 量 の ﹁フ
﹁チ フ ス﹂菌 に よ る 膿 瘍 、 又 は 骨膜 炎等 に際 し て其 局 所 に そ の菌 の ﹁フ ァー ジ﹂
M eibner 氏 と
を 述 べ た り 。 Bruyno he,M aison,Gratia u. N el
son
ー ジ﹂を 適 用 し て 相 等 の 效 果 を 擧 け 得 た り と報 告 せり 。之 れ に 反 し Schum
m 氏 と Coo
ke 氏 々 は、副鼻 腔 内 に 於 け る葡 萄状 球 菌 感 染 に
そ の菌 の ﹁フ ァー ジ﹂を 以 て 洗 滌 せ るも、何等 の效 果 な かり き 々記 載 せり。膀 胱 加 答 兒 、腎 孟 炎等 に 大腸 菌 ﹁フ ァ
ージ﹂
を應 用し て效 果 あ り