悪魔の証明

悪魔の証明
201214023 福島 啓奨
指導教員 黒木 宏一
00. プロローグ
「生命」 とはなんだろう。 幼い頃から疑問だった。 親族が
死ぬと生について深く考える。 目の前にある死は、 生命を
2-2. 建築の生命化
人と建築には物理的な距離がある。 その距離があるこ
なく、生命も感じ無い。 一方で私は、死ぬことを何よりも恐れ、
とにより、 建築が人の感覚からスケールアウトしてしまい、
無意識の内に建築を記憶から除外している。 そこで、 建
築と人間の距離をスケール調整を用いて縮め、 建築を人間
死について敏感な臆病者である。
の記憶の中に鮮明に残していくという操作を行う。
人が創造するものは必ず終焉を持つ。 建築なら廃墟が思
い浮かぶ。 廃墟が建築の死と感じるなら、 生はどこに当ては
3. 記憶に残る建築と生命の伝達
建築を使用し、 記憶の中で生き、 そして伝わる。 建築が記
まるのだろうか。
憶を媒介にして、 他者に伝達していく様は、 人間における細
1. 背景と目的
紙で指を切った時、 その傷が引き起こす反応は、 建築を
胞分裂のように、 生命を生み出す操作と類似している。 その
中に建築の価値が生まれ、それを人間が肌で感じ取っていく。
建てるプロセスと類似している。 この時私は、 生命に建築を
生命の建築化と建築の生命化はお互い混ざり合い、 記憶の
感じた。この経験を踏まえ、私が生命から建築を感じたように、
連鎖が建築に生をもたらしていく。 そして今一度、 従来の建
建築から生命を感じる瞬間もあると感じ、 建築の新しい価値
築を考えた時に、 建築に新しい価値観が生まれる。
を見出すことを目的とする。
4. エピローグ
私は建築が生命を持てるとは思っていない。 本設計で私が
感じさせる不思議なものがある。 しかし虫を殺しても悲しくも
2. 建築における生命の有無の証明方法
建築が生命を持てる可能性を模索する。 生命と建築がお
最も訴えかけたいことは、 建築の生命の有無やその可能性に
互いに歩み寄り、 同化させ、 その状態と建築を比較した時、
ついてではない。 こういった悪魔の証明注 1) によって、 建築が
建築に生命を感じる瞬間が訪れると考え、 生命の建築化と
未知化注 2) され、 新たな議論や発想が生まれる。 そういった
建築の生命化を行う。
ことに目を向ける必要性を見出していくことに本設計の意義が
2-1. 生命の建築化
生命と建築は一見すると共通点はない。 しかし、 細胞単位
あるのである。
<注釈及び参考文献>
1 ) ある事実・現象が「全くない(なかった)」というような、それを証明することが非常に
困難な命題を証明すること。 2 ) 知らせる、分からせるのではなく、「いかに知らないかを分からせる」、あるいは、
まるで初めてそのものを見たり体験したりするような新鮮さで、物事の様相を伝え
てゆく営みである。
3 ) アダム・ラザフォード 松井信彦訳、『生命創造 起源と未来』、株式会社ディスカ
ヴァー・トゥエンティワン、2014.12
の小さなものから比較していくと、 炭素という接点がでてくる。
このように、 生命と建築の構成を読み解き、 接点を挙げ、 生
命が建築に歩み寄れる条件を考える。
<創傷プロセスと建築の類似>
切り傷
血小板
<生命の建築化>
マクロファージ
赤血球
捕食
人
建築
コラーゲン
繊維芽細胞
かさぶた
1
2
傷ができる
血小板が集合
傷をふさぎ、止血する。
異物を捕食して消化
傷口の掃除をする。
大量のコラーゲンを作り、肉芽組織が瘢痕組織へ
修正への足場を作る。
傷が安定していく。
破損する
悪化しないように、
応急処置が行われる。
破損部位を捨て、
掃除が行われる。
大量の材料が運ばれ、
足場が作られる。
細胞単位で捉え、接点を探し、
人間を建築に近づける。
物理的な接点は見えない
修復作業が安定し、
建築が安定していく。
生命体の原点は
炭素である。又、
炭素自体色々な
形になれるため、
建築の原点も炭
素だといえる。
C
炭素
×
細菌等
核
核
核
分裂前
<建築における生命の有無の証明方法>
④
⑤
③
①
⑥
⑧
記憶
②
⑦
人間 ( 他者 )
①:生命の建築化
人間
生命体
②:建築の生命化
⑤:生命体から人間が除かれた建築
⑧:記憶の連鎖が建築に価値を見出す
建築が生命を持ち得るか、
持ち得ないかの判断
価値
建築
③:同化して生まれた生命体
⑥:人間から他者への建築(記憶)の伝達
染色体が
自分自身を
コピーし
中央で整列
染色体が
分かれて
離れていく
染色体が
両端で
集まる
くびれができる
分裂後
<建築の生命化>
天井
物理的な距離
壁
×
空間
×
○
肌で感じ取れるもの
×
地面
④:記憶に残った建築(生命体)
⑦:生命体と建築の比較
核の中で
染色体が
つくられる
生命を持つもの
は、その定義に、
細胞分裂を無意
識に行うというこ
とがある。
そうやって遺伝子
等の情報を伝承
させている。
絵
ある美術館に行った後、
絵のことは覚えているが
建築空間の記憶はあや
ふやであったりする。
絵
建築が、人の感
覚から、
スケー
ルアウトしてい
るため記憶から
除外されている。
建築のスケールを人スケールに合わせる。
そうすることで、人と建築の距離が埋まり、
建築が記憶に残る。
天井
匂い
絵
温度
空間
○
明るさ 建築
圧迫感
壁
○
○
△
絵
地面
スケール調整後 : 記憶には建築の匂いや温度
現在の建築 : 建築は建物として、空間を包む大きさを持つ。
そのため、建築と人間の間に物理的な距離が生じる。 の建築 といった建築の状態も残っていく。
図 1 設計プロセス