1 小児在宅医療を考える 柳 原 俊 雄 超少子高齢社会の到来となり、国は在宅医療の けねばならない状態で在宅に移行する患者家族に 推進に力を注いでいる。高齢者の在宅医療は政策 とって、高次医療機関とつながりが強くなるのは 的には「医療費抑制」であり、うたい文句は「住 当然である。それゆえ小児在宅医療においては、 みなれた自宅で過ごし家族とともに死を迎える素 地域医療機関と高次医療機関との連携体制の構築 晴しさ」である。 も必須である。 この3年間私は妻と義父の介護に関わった。国 「在宅小児医療」ということばを日本医師会雑 の指定難病を持ち、自由に動くことは出来ず主に 誌の特集で前田浩利先生 (あおぞら診療所新松戸) 介護用ベッドで臥床している状態の父であった がタイトルとして使っていた。医療的ケアを必要 が、なんとか2本の杖を使い数メートル離れたト とする「在宅小児」に対して、医療提供者が、そ イレに自力で行ける状態であったため、わが家で の患者・家族の求めるものに対して応える医療と の3人の生活が始まった。義父はポータブルトイ 解釈した。高齢者においてもその意味で「在宅高 レを希望したが、動ける間は自力でトイレに行く 齢者医療」 と考えていくことが大切であると思う。 ことを勧めた。要介護度は2度、隔日でデイサー これまで私自身在宅医療というと、つい家庭に ビスを利用し、月1、 2回の病院通院の生活であっ 出向いて診療するというイメージを持っていた た。それほど手もかからず、介護保険制度を十分 が、それはごく一部であって、とりわけ小児在宅 に利用させてもらった。しかし一昨年の年末の寒 医療を考えるようになり、 全く認識を新たにした。 い日にベッドから起きてトイレに行こうとして床 そしてこれからはすべての小児科医にとって重要 に倒れてしまい失禁するという事件が起きた。妻 な診療分野になるものと考えている。 「在宅小児 はもうわが家ではみられないと言い、義父も常時 医療」に関心を向け、それに係る診療技能の習得 介護支援を受けられる施設がよいということで、 を目指すことは一般小児科医にとって今後必須の 急遽ショートステイで預かってもらうこととなっ ものとなるであろう。 た。わが家の介護力はこんなもので、とても在宅 新潟県はようやく小児在宅医療を推進するため 介護など不可能と感じたものである。 の連絡協議会を立ち上げ、 広大な新潟県において、 さて、小児在宅医療であるが、これは高齢者の まずは各地域医療機関に対して対象者の実態把握 在宅医療とどこが違うのであろうか。ひとつには のためのアンケート調査を行った。そのうえで、 高度な医療ケアの必要性が高い場合が多いこと、 これからどのような体制整備が必要かを検討する さらに小児在宅医療を行う医療機関が絶対的に不 こととなっている。重症心身障害児(者)が、そ 足していることである。また小児の訪問看護を行 れぞれの地域で家族とともに生活できる体制を、 う看護師も少なく、求められる医療水準も高くな 福祉・介護・医療の連携のもと、まずは患者・家 り、看護介入そのものが困難になるという側面も 族が何を必要としているのかを明らかにし、それ ある。わが子を懸命に介護している親との信頼関 に対して地域社会が今出来得ることを、すこしず 係を構築することも容易なことではない。高次の つでも実現していくことが望まれる。 救急医療を受けた後に長期にわたる医療ケアを受 (県医理事) 新潟県医師会報 H28.2 № 791
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