植物の葉の形作りに必要なパターンの性質に対する考察 中益 朗子 (九州大学 医学研究院) ごく単純な楕円形から複雑に入り組んだ枝分かれ構造まで、植物は様々なかたちの葉を持っ ている。葉のかたちづくりの多くは、1次元の場を空間的な繰り返しパターン依存的に2次元 (実際は3次元)空間内で変形させるシンプルなモデルで説明できる[1,2]。このモデルの確か らしさは、実際の葉でみられる枝分かれ構造における枝の分布様式や非対称性などに現れてい る。 このモデルにおいて重要な繰り返しパターンは、オーキシンの極性輸送に基づくと考えられ ている。極性輸送を実現するためには、オーキシンの輸送タンパク質 PIN が「オーキシン濃度 やオーキシンの流れ依存的に細胞内に偏在すること」と、「濃度勾配に逆らってオーキシンを輸 送すること」が必要である。しかし、PIN が自身の周囲のオーキシンを動かすことによって偏 在する際の根拠となる流れや濃度分布が変化するため、極性輸送によるパターン形成を説明し たこれまでのモデルは不自然なものが多い。また、[3]に指摘されているような問題も存在する。 一方、生物の形態形成を説明するのに広く用いられている空間パターンとして、反応拡散系に よるものがある。この系は安定解を与える反応の組み合わせに対して、反応物質の拡散速度の 違いが引き金となって空間的な秩序が生じるものである。パターン形成を説明するのに利にか なった系ではあるが、このパターンを形態形成で用いるには解決すべき問題もある。 そこで、実際の葉にみられる形態から、かたち作りの際に必要とされるパターンの性質につ いて考察をおこなう。そこから PIN の本来の役割について推測し、植物におけるパターン形成 問題の打開策を検討する。 参考文献 [1] Bilsbrough GD, Runions A, Barkoulas M, Jenkins HW, Hasson A, et al. (2011) Model for the regulation of Arabidopsis thaliana leaf margin development. Proc Natl Acad Sci USA 108: 3424–3429. [2] Nakamasu, A., Nakayama, H., Nakayama, N., Suematsu, J. N., and Kimura, S. (2014) A developmental model for branching morphogenesis of lake cress compound leaf. PlosOne e111615. [3] Van Berkel K, De Boer J R, Scheres B, Ten Tusscher K (2013) Polar auxin transport: models and mechanisms. Development 140: 2253–2268. 本発表は、京都産業大学、木村成介氏、三好彩央里氏。明治大学、末松 J.信彦氏との共同研究 に基づく。
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