ものづくり施設の利用目的・活動履歴データから見える 実態と学習促進へ

2015 PC Conference
ものづくり施設の利用目的・活動履歴データから見える
実態と学習促進への更なる一歩
尾関智恵*1・土屋衛治郎*2
Email: [email protected][email protected]
*1: 滋賀文教短期大学 子ども学科
*2: 九州工業大学学習教育センター
◎Key Words パーソナルファブリケーション、ものづくり、活動分析
1. はじめに
・ オープンエンドな創作実習を実施するための環境
整備
製品開発・生産において企業中心による大規模大量
生産(マス・プロダクション)が主流であったが、一
般家庭の趣味レベルでも購入可能な3D プリンターな
どの機器が登場したことで、個人・少人数でもアイデ
アを形にして製品化でできるパーソナル・ファブリケ
ーションの思想と環境が広まりを見せている。
一方、日本技術者教育認定機構(JABEE)は 2009 年
よりエンジニアリング・デザイン教育を推奨しており、
高等教育機関は高度な技術者養成のために今以上の実
践環境整備とカリキュラム構築が求められている。
この流れの中、加工機類を揃えた「工房」と呼ばれ
る施設が整備されるようになってきた。
「工房」ではプ
ロダクト製作に付随し、Learn(使い方を学ぶ)/Make
(実際に作る)/Share(成果を他者と分かち合う)とい
うデザインサイクルと、様々な専門性を持つ人が集ま
る創造的コミュニティを形成することも重要視されて
いる。その際、学生同士・教員間だけでなく、施設外
の専門家とも協同できる機会をもつことによって多様
な創造活動を経験することも可能となる。
本研究は、九州工業大学のものづくり支援施設「デ
ザイン工房」で収集されている利用者データから見え
てくる利用の実態と傾向をまとめ、創造的コミュニテ
ィの促進のための考察を行う。学生・教員利用者の間
で行われる製作プロセスと活動を整理し、工房外の教
育研究者と工房管理者がそれぞれの視点を持ちよるこ
とで検討を行う。
2.2
設備
設置機器は、3D プリンター・レーザーカッター・
ミリングマシン・カッティングマシン・各種工具など
があり、常時利用可能な状態が保たれている(図1)
。
図1 工房にある加工機類
利用方法と支援体制
授業利用の場合は、受講生であれば利用できる。授
業時間外については、登録手続きを行えば誰でも利用
できるセミオープンな運用となっている。
デザイン工房には専門スタッフのほか、学生による
ボランティアスタッフ数名の体制で運営をしている。
利用時間は 10:00~20:00 のうちスタッフが在籍して
いる間である。そのため利用の際は、学生も含めた専
門スタッフが待機し、機器利用の支援が受けられる。
また、ものづくりの際の相談対応も随時行われている。
2.3
2. ものづくり支援施設「デザイン工房」
2.1 施設概要
デザイン工房は、九州工業大学学習教育センター内
にエンジニアリング・デザイン教育の実践活用の場の
一つとして構築されている。戸畑キャンパス・飯塚キ
ャンパスそれぞれに設置されている。施設の目的とし
て具体的には以下の3点を掲げ、エンジニアリング・
デザイン教育強化のためのカリキュラム整備、スキル
や能力などの学習成果評価方法の確立、オープンエン
ドな制作実習を可能とする工房の拡充整備を目指して
いる。
・ エンジニアリング・デザイン教育強化のためのカリ
キュラムの整備
・ スキルや能力などの学習成果評価方法の確立
3. 利用状況
3.1 利用者数の推移
開設当時より利用者の推移は長期休暇を除けば1日
平均10名程度の利用がみられる。平成26(201
4)年度の利用の推移をみると前・後期授業期間中で
ある4~7月/10~1月の利用が多いことから授業
利用で活用されている様子がみられる(表1)
。夏・春
季休暇期間である8~9月/2~3月においては1日
平均4名程度の利用に減少しているが、年間を通して
ものづくり活動環境を提供できているといえる。
3.2
利用の目的
利用の目的別の割合は、ほとんどが授業利用である
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2015 PC Conference
表1 平成 26 年度月間利用者数の推移
月
ブラーニング教室とを行き来しながら活動を進める他
施設併用型の利用が中心である。授業時間外も含め、
授業で出題された課題遂行のために学生のみが工房を
訪れる課題実施型も見られた。
開放日数
利用者数
1 日平均(人)
4月
13
105
8.08
5月
18
178
9.89
6月
20
278
13.90
7月
22
324
14.73
8月
10
44
4.40
9月
15
71
4.73
10 月
21
279
13.29
4. 創造的コミュニティ形成のきざし
11 月
13
251
19.31
12 月
18
205
11.39
1月
18
192
10.67
2月
12
46
3.83
3月
10
38
3.80
利用者の活動の中で活発な製作プロセスが見られた
事例を紹介する。学部1年生と3年製の合同授業とし
て行われた PBL 型授業において、図4左のように、デ
ザイン工房の利用経験が豊富な学生が未経験の学生に
対し工房機材の使い方のサポートを自然に行う様子が
見られた。この時は、工房スタッフが試作した木製の
箱を授業履修者が参考にして小型マイコンの収納箱を
作製するのが授業での目的であったが、図4右のよう
に工房内に展示してある完成品を閲覧・試用する例が
豊富に発生した。
利用者の経験やアイデアが、人づて・完成品経由で
他者に伝達されていく創造的コミュニティの発生の証
拠といえる。
3.4
サークル・個人での利用
授業時間外など特定の利用予約がない場合は、サー
クル及び個人での利用も可能である。主に自主的製作
活動を目的とした利用が多く、利用時間は内容によっ
てまちまちである。
合計
190
2,011
10.58
が、約半分がサークルをはじめとした個人・小グルー
プの利用が見られた(図2)
。その他はワークショップ
や見学会などが含まれ、単なるイベントの色が強いが、
これよりもサークルなどの活動利用のほうが多いこと
から、なんらかの創作活動に利用されている可能性が
高い。これにより工房の設置目的であるパーソナル・
ファブリケーションの活動支援を達成しつつある様子
がうかがえる。
その他
14%
図4 天井カメラで観察された自主的な制作活動
授業
54%
サークル
31%
5. おわりに
デザイン工房は授業利用も含め一定数の利用があり、
授業目的に応じた利用形態と個人のニーズに応じた製
作活動が行われている様子が天井カメラの利用記録か
らも確認できた。これらのことから、1で示したエン
ジニアリング・デザイン教育の実践支援が可能な環境
が整えられていると評価できる。
更に効果的な実践支援をするためには、4で述べた
ような利用事例を収集し、活動プロセスを分析してそ
の要因や課題を元に、パーソナル・ファブリケーショ
ン活性化に向けた学習デザインと評価方法を検討する
必要がある。今後引き続き利用履歴を収集し、エンジ
ニアリング・デザイン教育の方略提案につなげたい。
研究
1%
図2 利用目的の種類と割合
3.3
授業での利用
前期・後期と授業で定期的に利用されている。利用
形態として、工房内で教員の教示に従いながら活動を
進める一般的な講義型と(図3)
、一般教室やアクティ
参考文献
(1) Clive L. Dym, Patrick Little, Engineering Design: A
Project-Based Introduction, Third Edition, WILEY, 2008
(2) 大中, 「JABEE におけるエンジニアリング・デザイン教
育への対応
基 本 方 針 ( 2010 年 改 訂 )」 ,
http://www.jabee.org/news_archive/news2009/20090318-2/235
6/, 2010
(3) 三宅なほみ・白水始 :
“学習科学とテクノロジ”
,放送大
学教育振興会 (2003).
図3 授業利用の様子
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