伝統文化の継承に向けた地域と学校の取り組み 地域教育学科 准教授 高橋 健司 Ⅰ.はじめに 本プロジェクトは、2013 年度より山陰地方に江戸時代から続く「一式飾り」と呼ばれる地域の暮らしに 根ざした文化の価値を見直し、その継承に向けた地域と学校の取り組みを支援し、地域教育の在り方を探 ることを目ざしている。 「一式飾り」とは、暮らしの道具一式を巧みに組み合わせて、人物や動物、話題の 出来事などに見立てた作品を作り、年に一度の祭りで飾った後には解体するもので、近年は少子高齢化に よってその存続が危ぶまれ、地域の学校で何とか伝統の技を伝えようとする取り組みが始まっている。 Ⅱ.2014 年度の取り組み 2014 年も継続して地域教育学科の学生と共に島根県東部を重点的に調査し、①出雲市平田町と出雲市立 平田小学校・島根県立平田高等学校、②出雲市斐川町直江と出雲市立中部小学校・出雲市立斐川西中学校、 ③雲南市掛合町と雲南市立掛合中学校の各地域・学校において、研究室の学生たちとフィールド・ワーク 調査を実施した。そして各地の祭りにおける「一式飾り」の現状と、学校における継承の取り組みを観察・ 記録し、地域の指導者や関係者への聞き取り調査を行った。 このうち、出雲市立平田小学校と出雲市立中部小学校では、それぞれ平田一式飾保存会、直江一式飾り 保存会の皆さんと学生とが協働して、小学生の一式飾り作品の制作体験の指導に当たり、地域の学校を活 用した伝統文化の継承活動に協力して参加することができた。 また、2014 年度も調査の年次報告として、2015 年 3 月に『 「一式飾り」調査報告書Ⅱ 地域教育を通し た「一式飾り」の継承』と題した報告書を刊行して配布し、 「一式飾り」の価値と継承の意義を広く関係者 に知ってもらうことができた。 Ⅲ.成果と課題 継続して学生と共に各地域を訪ね、保存会の皆さんや学校の先生方との人間関係を深めることを通して、 「一式飾り」に対する認識が変わりつつあることを実感している。これまで見向きもされなかった身近に ある「一式飾り」に価値を見出す人間が徐々に増え、学校が取り組むべき課題として認知されるようにな ってきた。実際、島根での調査結果や制作体験をもとに、 「一式飾り」の伝統がある鳥取県南部町の南部町 立西伯小学校において、2014 年 10 月に「一式飾り」の継承に向けた授業を学生と共に開発して実践する ことができ、この結果、鳥取でも小学生による「一式飾り」の制作が地域の学校で行われるようになって、 祭りで初めて小学生の作品が飾られ大きな話題となった。このように地域教育を通して、地域の伝統文化 を次世代へ伝えることが可能であることを実感でき、また、学校での取り組みが地域社会に波及し、地域 を活性化させることにつながることを感じることができたことも大きな成果であったと言える。 その一方で、 「一式飾り」を制作している地域同士の交流の少なさを感じると共に、地域独自の型にこだ わる余り、各地の「一式飾り」に共通して重んじられてきた「見立て」の伝統が見失われつつあるのでは ないかという危機感を募らせている。 「一式飾り」の魅力は、毎年新たに制作される作品の「見立て」の発 想・アイデアのおもしろさにあるのに対し、学校では伝統の型に入れるタイプの指導に陥りやすい。 「一式 飾り」の継承と発展のためには、子どもの自由な発想を生かすことが重要ではないかと考える。それゆえ、 今後、地域間の連携を図り、より充実した教育プログラムを開発・実践することが課題である。
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