航空宇宙応用の RF 絶縁破壊シミュレーション

Application Note | CST
航空宇宙応用の RF 絶縁破壊シミュレーション
人工衛星用観測機器の出力部に使用されるフィルタやマルチプレクサなどの高周波高出力部品は、絶縁
破壊を起こす危険をはらんでいます。絶縁破壊が起きるとその部品は使用不能となり、最終的には衛星
自体の信頼性が低下します。そのような事態を避けるために、航空宇宙分野で使用されるすべての高出
力部品について絶縁破壊特性の解析を行う必要があります。二種類の解析ツール CST STUDIO SUITE と
SPARK3D を使用し、シミュレーションによって絶縁破壊特性を解析した事例をご紹介します。
絶縁破壊のメカニズム
航空宇宙応用で問題となる絶縁破壊にはマルチパク
ションとコロナの二種類があります。マルチパクシ
ョンは、真空中の自由電子と高周波信号が共振状態
にある場合に生じます(図 1)
。電界放出や太陽風を
受けた衛星の機器類には自由電子が生じます。部品
図 1: マルチパクションの模式図。● =電子
の壁面に向けて加速された自由電子のエネルギーが
十分である場合は二次電子放出が生じます。共振状
態ではこのプロセスが繰り返され、電流が自己増幅
し、最終的に放電が起きます。一回の衝突で放出さ
れる二次電子量は壁面に使用されている材質によっ
て決まり、二次電子放出率(SEY)で表されます。
フルウェイブシミュレーション
以下では L バンド 3 ポールフィルタ(図 2)の解析
例をもとに絶縁解析の基本概念を説明します。図の
真空において重要なマルチパクションとは対照的に、
フィルタモデルの設計、製造、試験解析は、フラン
コロナは衛星打ち上げ時に気体がイオン化すること
ス国立宇宙研究センター(CNES)の調整により、
により生じます。このプロセスは基本的にガスの形
ESA/ESTEC EVEREST プロジェクト[1]の枠組みで行
状と特性、圧力、電界強度に依存します。
われました。
図 2: L バンドフィルタの四面体メッシュ(カーブメッシュ含む)断面。COM DEV Europe Ltd.のご厚意により掲載。
1
Application Note | CST
図 4: 1.4 GHz の電界強度
手始めに S パラメータの評価解析を行います。CST
ロ ExportFieldstoSpark3D を使用して電磁界情報を
STUDIO SUITE [2] 周波数領域ソルバーによる計算
SPARK3D [3]に送ります。SPARK3D はファイルをイ
にカーブメッシュを含む四面体メッシュを使用する
ンポートして情報を可視表示することができます。
ことにより高精度の結果が得られます。
さらに、ユーザーが定義した電子の数と材質によっ
フルウェイブシミュレーションの結果として通過帯
域(図 3)のほか、S パラメータと 3D 電磁界分布が
求められます。絶縁破壊の応用に向けては、位相に
依存しない電界強度の表示(図 4)から、最も危険
性の高い箇所を直接判別できます。3D 電界分布では、
ギャップに沿った電圧の評価によりマルチパクショ
ンの予測が可能です。電磁界値はピーク入力電力
1W に正規化された値です。絶縁破壊の閾値となる
電力値を求めたら、シミュレーションで計算した電
力の値をその閾値に応じてスケーリングします。
て電力を掃引して、マルチパクション絶縁破壊の閾
値が得られます。上記操作は SPARK3D インターフ
ェイスで容易に行えます(図 5)
。絶縁破壊は、時間
経過とともに電子集団が増加する場合に生じると言
われています。マルチパクター絶縁破壊の電力レベ
ルは、測定では 32W、シミュレーションでは 27.5W
との結果が得られました。先に行った平行板を使用
した数値計算では 10W であり、この方法では控えめ
な値になることが確かめられました。また、フル数
値解析の有用性が示されました。
上記はシンプルで非常に有用な解析法ですが、平行
板形状を前提とするため衛星機器の解析には適しま
せん。電磁界分布が示すように、このような部品で
はフリンジング電界が支配的となり、上記解析法に
よると絶縁破壊の電力レベルが非常に低めに出ます。
信頼性の高い結果を得るには厳密な PIC シミュレー
ションを行う必要があります。
SPARK3D によるマルチパクション解析
S パラメータ応答による部品設計の完了後、高電力
解析が可能となります。CST STUDIO SUITE のマク
図 3: L バンドフィルタの S パラメータ応答
2
Application Note | CST
図 5: SPARK3D インターフェイス:特定コンポーネントのマルチパクター絶縁破壊。時間経過に伴う電子の漸進的変化
を、電力レベル別に表示。
図 6: SPARK3D インターフェイス:特定コンポーネントのコロナ絶縁破壊。圧力に伴う変化を表示。
3
Application Note | CST
SPARK3D によるコロナ解析
前節のマルチパクション解析と同様にして、CST
STUDIO SUITE で計算した電磁界を SPARK3D にエ
クスポートしてコロナ放電解析を行います。この場
合は絶縁破壊の電力レベルが特定ガスの圧力の関数
として自動的に求められます(図 6)
。この部品の試
験は臨界圧力(4 mBar)で行われ、絶縁破壊の電力
レベルは測定では 1.9W、シミュレーションでは
1.6W を示す結果が得られました。
まとめ
本事例では、航空宇宙応用において課題となる絶縁
破壊について、複雑なマイクロ波構造を解く CST
STUDIO SUITE のソルバー機能と SPARK3D の解析
機能の連携により破壊レベルを特定する方法をご紹
介しました。他の解析技術や測定による結果との比
較を通じて数値計算の重要性を説くことに力点を置
いて説明しました。
参考文献
[1] ESA/ESTEC project, EVEREST, coordinated by
CNES:
“Evaluation
and
Validation
of
Electro-
magnetic Software, Test Facilities and Test Standard
in Europe to Predict and Test RF Breakdown and
Passive Intermodulation.“
CST と AURORASAT は EVEREST プロジェクトの結
果を掲載する機会を得たことについて、欧州宇宙機
[2] www.cst.com
[3] www.fest3d.com/spark3d.php
関(ESA)、フランス国立宇宙研究センター(CNES)、
ならびに EVEREST コンソーシアムに感謝の意を表
します。
執筆者
Carlos Vicente
Technical Director,
Aurorasat
Monika Balk
Principal Engineer,
CST AG
www.cst.com/emit
禁無断転載
株式会社エーイーティー 〒215-0033
神奈川県川崎市麻生区栗木 2-7-6
TEL (044) 980 – 0505 (代)
不許複製
©2015 AET,Inc