数理情報学演習1:配布資料 ルベーグ積分の定義と収束定理 2015-6-25 by Kana 参考文献 [新井] 新井仁之,ルベーグ積分講義,日本評論社 [伊藤] 伊藤清三,ルベーグ積分入門,裳華房 一般の測度空間を (Ω, B, µ) とする.関数 f : Ω → R に対してルベーグの意味での積分を定 義し,その性質について解説する.とくに,極限と積分の交換 ∫ ∫ lim fn dµ = lim fn dµ n→∞ Ω n→∞ Ω が成り立つための条件について考察し,ルベーグ積分が極限操作と相性がよいことを概観する. 1 ルベーグ積分の考え方 K を Rd 内の有界な直方体として,測度空間 (K, B, µ) 上で定義された関数 f : K → R の積 分を考える.リーマン積分とルベーグ積分は,直感的にはそれぞれ以下のようにして積分を定 義する. ∑N リーマン積分 (定義域を分割): K = k=1 Ek (Ek は直方体) と分割して ∫ f (x)dx = K N ∑ lim K の分割→細かく k=1 |Ek | inf f (x). x∈Ik note: f がリーマン可積分関数なら,inf を sup にしても同じ極限をもつ. ∑ ルベーグ積分 (値域を分割): f (K) ⊂ J ⊂ R に対して J = k Jk (Jk は区間 (yk , yk+1 ]) と 分割して ∫ ∑ f (x)dµ = lim yk µ(f −1 (Jk )). K J の分割→細かく k • 積分が定義されるためには f −1 (Jk ) ∈ B となる (つまり測度 µ で測れる) 必要がある. • 測度空間の完全加法性:積分の極限計算と相性がよい. 以下でルベーグ積分の正確な定義を紹介し,その性質について議論する. リーマン積分:縦に分割 ルベーグ積分:横に分割 1 2 可測関数 上で示したように,ルベーグ積分論では値域における区間の逆像を用いて積分を定義する. したがって,区間の逆像が可測集合になる関数に対してのみ,積分を定義することができる. そのような関数を可測関数という. 定義 1 (可測関数). 測度空間 (Ω, B, µ) 上の関数 f : Ω → R = R ∪ {∞, −∞} が ∀a ∈ R, f −1 ((a, ∞]) ∈ B. 2 を満たすとき,可測関数という. note: 集合 A ⊂ R の f による逆像 f −1 (A) = {x ∈ Ω | f (x) ∈ A} を,簡単のため {f ∈ A} と表 し,また {x ∈ Ω | a < f (x)} などを {a < f } などと表す.可測関数の定義は,∀a ∈ R, {a < f } ∈ B と表せる. f が可測関数なら,任意の区間 I = (a, b), (a, b], [a, b), [a, b] ⊂ R に対して f −1 (I) ∈ B となる. 実際,(a, b] = (a, ∞] ∩ (b, ∞]c より f −1 ((a, b]) = f −1 ((a, ∞]) ∩ (f −1 ((b, ∞]))c ∈ B, ∞ ∞ ∪ ∪ さらに f −1 ((a, b)) = f −1 ( (a, b − 1/n]) = f −1 ((a, b − 1/n]) ∈ B n=1 n=1 となる.その他も同様,上の 2 番目の関係式では,B が σ-加法族であることを用いている. 例 1 (連続性と可測性). ルベーグ測度空間 (Rd , M, µ) を考える.σ-加法族 M は Rd の (通常の 意味での) 開集合を含んでいる.この性質から,Rd 上の連続関数 f は可測関数であることが分 かる.実際,I = (a, ∞] は R における開集合なので,f の連続性より f −1 (I) は Rd の開集合に なる.開集合はルベーグ可測集合なので f −1 (I) ∈ M が成り立つ. 2 定理 1 (可測関数の性質). 測度空間 (Ω, B, µ) 上の可測関数 f : Ω → R に対して,以下が成立 する. 1. 任意の区間 I = (a, b), [a, b], (a, b], [a, b), −∞ ≤ a ≤ b ≤ ∞ に対して f −1 (I) ∈ B. note: これから,定数 a, b ∈ R に対して af + b が可測関数になることも分かる. 2. f + (x) = max{f (x), 0}, f − (x) = max{−f (x), 0} は可測関数. note: f + , f − はともに非負値関数で,f = f + − f − , |f | = f + + f − となる. 3. |f |r , r ∈ R は可測.ただし f = 0, r < 0 なら |f |r = ∞ とする. 4. f, g が可測関数なら {f > g}, {f ≥ g}, {f = g} ∈ B. 5. f, g が R-値可測関数のとき,a, b ∈ R に対して af + bg, f g は可測関数. note: f, g が R-値可測関数のとき,af + bg の値が定まれば (∞ − ∞ などが現れなければ) 可測関数.以下,本稿では af + bg の値が R の範囲で定まるとする. 2 Proof. 1. はすでに示した. 2. a > 0 なら {f + > a} = {f > a} ∈ B,a ≤ 0 なら {f + > a} = Ω ∈ B. f − も同様. 3. r > 0, a ≥ 0 のとき {|f (x)|r > a} = {|f (x)| > a1/r } = {f (x) > a1/r } ∪ {f (x) < −a1/r } ∈ B. その他の r, a についても同様. 4. f (x) > g(x) ⇐⇒ ∃r ∈ Q, x ∈ {f > r} ∩ {r > g} が成り立つ.f と g の可測性と 1. より {f > r}, {r > g} ∈ B となる.よって ∪ {f > g} = ({f > r} ∩ {r > g}) ∈ B. r∈Q その他の場合も同様.(加算和にするために r ∈ Q としている.r ∈ R とすると可算個の和集 合にならない) 5. αβ = 0 のとき可測性は 1. から分かる.αβ ̸= 0, α > 0 のとき,{αf + βg > a} = {f > a/α −gβ/α} となる.1. より a/α −g(x)β/α は可測関数なので 4. より {f > a/α −gβ/α} ∈ B と なる.よって αf +βg は可測関数.α, β が他の場合も同様.積に関して,f g = 41 {|f +g|2 −|f −g|2 } より f g も可測. 次の定理は,可測関数が極限操作と相性がよいことを示している.これはリーマン可積分な 関数にはない性質である. 定理 2. {fn } を可測関数列とする.sup fn , inf fn , lim fn , lim fn は可測関数である. n n n→∞ n→∞ note: 上下界,極限は各点で考えている. Proof. 上限の定義から supn fn (x) > a ⇔ ∃n, fn (x) > a,すなわち {sup fn > a} = n ∞ ∪ {fn > a} ∈ B. n=1 inf n fn = − supn (−fn ) より inf n fn も可測. lim fn = sup inf fk lim fn = inf sup fk , n→∞ n≥1 k≥n n→∞ n≥1 k≥n より lim fn , lim f も可測.よって lim fn が存在するなら可測. n→∞ n→∞ n→∞ 可測性と極限 • 測度空間 (Ω, B, µ) 上の可測関数の極限は可測関数.B の σ-加法性からしたがう. • リーマン可積分関数では成立しない性質. 例 2. A = (0, 1] ∩ Q の元に番号を付けて A = {qm | m ∈ N} と表し,An = {q1 , . . . , qn } とする. { 1, x ∈ An , fn (x) = 0, x ̸∈ An とすると,n ∈ N に対して fn (x) はリーマン可積分.しかし lim fn (x) はリーマン可積分では n→∞ ない.一方,fn , lim fn はともにルベーグ測度空間上で可測関数. n→∞ 3 2 ルベーグ測度空間において,可測関数とほとんど一致する関数は可測関数になる. 補題 1. f : Rd → R をルベーグ測度空間 (Rd , M, µ) 上の可測関数とする.関数 g : Rd → R は f = g (a.e) を満たすとする.このとき g は可測関数である. Proof. E = {f ̸= g} とすると,仮定より E ∈ M, µ(E) = 0 となる.a ∈ R に対して {g > a} = ({g > a} ∩ E) ∪ ({g > a} ∩ E c ) = ({g > a} ∩ E) ∪ ({f > a} ∩ E c ) となる.ここで {f > a} ∩ E c ∈ M である.また,{g > a} ∩ E ⊂ E かつ µ(E) = 0 となる.(外 測度から構成した) ルベーグ測度空間の性質から,測度 0 の可測集合の部分集合はすべて可測に なるので {g > a} ∩ E ∈ M となる.以上より {g > a} ∈ M となり,g は可測関数となる. ルベーグ積分の定義 3 ルベーグ積分を,次の順番で定義する. 1. 単関数とよばれる簡単な関数の積分を定義. 2. 非負値をとる可測関数 f : Ω → [0, ∞] の積分を定義. 3. 非負値可測関数の積分を用いて,一般の可測関数 f : Ω → R の積分を定義. 3.1 単関数の積分 まず簡単な関数である単関数の積分を考える. 定義 2 (単関数 (simple function)). 測度空間 (Ω, B, µ) において,Ω の分割 Ω = i=1 と実数 a1 , . . . , an ∈ R に対して f (x) = n ∑ n ∑ (有限和) ai 1Ei (x) i=1 と表される関数 f : Ω → R を単関数という. 単関数. 定義より,単関数は可測関数である.実際,{f > a} = ∪ i:ai >a Ei ∈ B となる. 補題 2. 単関数 f, g の線形和は単関数である. Proof. f = n ∑ i=1 ai 1Ei , g = m ∑ bj 1Fj なら αf + βg = j=1 ∑ i,j 4 (αai + βbj )1Ei ∩Fj . Ei , E i ∈ B 節の冒頭で示したように,非負値をとる可測関数に対する積分から,一般の可測関数の積分 を定義する.まず非負値をとる単関数に対する積分を定義する. 単関数の積分 測度空間 (Ω, B, µ) 上で非負値をとる単関数 f : Ω → [0, ∞) を f (x) = n ∑ a1 , . . . , an ∈ [0, ∞), Ω = ai 1Ei (x), i=1 n ∑ Ei i=1 とする.単関数 f の Ω 上での積分を ∫ n ∑ f dµ = Ω ai µ(Ei ) ∈ [0, ∞] i=1 と定義する.ただし,ai = 0, µ(Ei ) = ∞ のときは ai µ(Ei ) = 0 とする. note: 定義が well-defined であるためには,積分の値が単関数の表現に依らないことを示す必 ∑n ∑m ∑ ∑ 要がある.実際,f (x) = i=1 ai 1Ei (x) = j=1 bj 1Fj (x) のとき, i ai µ(Ei ) = j bj µ(Fj ) と なることを示すことができる. 積分に関する基本的な性質が成り立つ. 定理 3. Ω 上の非負値単関数 f, g に対して,次が成り立つ. ∫ ∫ ∫ 1. α, β ≥ 0 なら (αf + βg)dµ = α f dµ + β gdµ. Ω ∫ ∫ 2. Ω 上で 0 ≤ f ≤ g なら f dµ ≤ Ω ∫ Proof. 等式 Ω gdµ. Ω ∫ f dµ は直接確かめられる.補題 2 の証明と同様に,f = αf dµ = α Ω m ∑ Ω Ω bj 1Fj に対して f = j=1 n ∑ m ∑ ai 1Ei ∩Fj , g = i=1 j=1 m ∑ n ∑ n ∑ ai 1Ei , g = i=1 bj 1Ei ∩Fj と表すと j=1 i=1 f +g = n ∑ m ∑ (ai + bj )1Ei ∩Fj . i=1 j=1 よって ∫ n ∑ m n ∑ m n ∑ m ∑ ∑ ∑ bj µ(Ei ∩ Fj ) ai µ(Ei ∩ Fj ) + (ai + bj )µ(Ei ∩ Fj ) = (f + g)dµ = Ω = i=1 j=1 n ∑ m ∑ i=1 j=1 ai µ(Ei ) + ∫ i=1 j=1 bj µ(Fj ) = f dµ + Ω i=1 j=1 ∫ gdµ. Ω ∫ また,f ≤ g のとき Ei ∩Fj 上で ai ≤ bj となることから,1. の計算と同様にして f dµ ≤ Ω となることが分かる. ∫ gdµ Ω 一般の可測関数の積分を定義する準備として,非負値可測関数 f : Ω → [0, ∞] を単関数で近 似することを考える.ここでは次の定理を証明する. 5 定理 4. 任意の非負値可測関数 f : Ω → [0, ∞] に対して,n ∈ N に関して単調非減少な非負値 単関数列 {sn }n∈N で,任意の x ∈ Ω に対して lim sn (x) = f (x) となるものが存在する. n→∞ note: f に各点で収束 (∞ を含む) する単調非減少な関数列 {sn }n∈N を sn ↗ f (n → ∞) と表 す. 以下に示す2つの補題から定理 4 が成り立つ.まず可測関数 f に対して,単関数の列 {sn } を 次のように定義する. k − 1 , k − 1 ≤ f (x) < k , k = 1, . . . , n · 2n , 2n 2n 2n sn (x) = n, n ≤ f (x). つまり,f (x) ∈ [0, n] の範囲では f (x) の値を 1/2n の精度で近似し,n ≤ f (x) の x に対して関 数値 sn (x) を n とする.関数 sn (x) は n·2 ∑ k−1 n sn (x) = k=1 2n · 1En,k (x) + n · 1En,∞ (x), En,k = {(k − 1)/2n ≤ f < k/2n }, (1) En,∞ = {f ≥ n} と表せるので,f が可測関数であることから sn は単関数である.また定義から sn (x) ≥ 0 で ある. 単関数列 {sn }n∈N による非負値可測関数の近似. 補題 3 (可測関数の単関数近似). 非負値可測関数 f : Ω → [0, ∞] から定義される単関数 (1) は, 各 x ∈ Ω に対して lim sn (x) = f (x) n→∞ を満たす (f (x) = ∞ のときも含む). Proof. sn (x) の定義から,f (x) = ∞ のときは limn→∞ sn (x) = limn→∞ n = ∞ = f (x) となる. 0 ≤ f (x) < ∞ のときは,十分大きな n に対して f (x) < n かつ |sn (x) − f (x)| < 1/2n となる. したがって lim sn (x) = f (x) となる. n→∞ 補題 4 (単調性). (1) の単関数 sn (x) は,n に関して単調非減少である.すなわち任意の x ∈ Ω に対して sn (x) ≤ sn+1 (x), n ∈ N が成り立つ. 6 Proof. n が 1 だけ増えると,1 ≤ k ≤ n · 2n に対して En,k = En+1,2k−1 + En+1,2k となり,x ∈ En,k のとき sn+1 (x) ≥ (2k − 1 − 1)/2n+1 ≥ (k − 1)/2n = sn (x) となる.また En,∞ は En,∞ = En+1,n·2n+1 +1 + En+1,n·2n+1 +2 + · · · + En+1,(n+1)·2n+1 + En+1,∞ となり,x ∈ En,∞ に対して sn+1 (x) ≥ (n · 2n+1 + 1 − 1)/2n+1 = n = sn (x) を得る. 3.2 可測関数の積分 非負単関数から非負値可測関数の積分を定義する. 非負値可測関数 f : Ω → [0, ∞] の積分 {∫ ∫ f dµ = sup Ω Ω } sdµ s は 0 ≤ s(x) ≤ f (x) (x ∈ Ω) を満たす Ω 上の単関数 note: f (x) が非負値単関数のとき,定理 3 の 2 より,上の定義による積分値は単関数の積分値 と一致する. 定理 5. f, g を Ω 上の非負値可測関数とする.Ω 上で f ≤ g のとき ∫ ∫ f dµ ≤ gdµ Ω Ω が成り立つ. Proof. 単関数 s が 0 ≤ s ≤ f なら 0 ≤ s ≤ g も満たす.よって g のほうが上限 sup をとるとき の単関数の範囲が広くなるため,所望の不等式が成り立つ. 定理 6 (単調収束定理). {fn }n∈N を Ω 上の非負値可測関数列とし,∀x ∈ Ω に対して単調性 fn (x) ≤ fn+1 (x), n∈N を仮定する. lim fn (x) = f (x) ∈ [0, ∞] (すなわち fn ↗ f ) とするとき,f は可測関数であり n→∞ ∫ lim n→∞ ∫ fn (x)dµ = Ω f (x)dµ Ω が成り立つ. 上の定理を証明するために,まず次の補題を示す. 補題 5. s(x) を Ω 上の非負値単関数とする.また可測集合の増加列 E1 ⊂ E2 ⊂ · · · に対して ∪∞ n=1 En = Ω を仮定する.このとき単関数列 {s · 1En }n∈N に対して ∫ ∫ sdµ lim s · 1En dµ = n→∞ Ω Ω となる. 7 ∑k Proof. s = i=1 ai 1Ai とすると s · 1En = k ∑ ai 1Ai ∩En = k ∑ ai 1Ai ∩En + 0 · 1Enc i=1 i=1 となるので,s · 1En も単関数である.ここで,F1 = E1 , Fn = En \ En−1 (n ≥ 2) とすると, ∑ ∑ ∑∞ En = nm=1 Fm , Ω = ∞ n=1 Fn より Ai = m=1 Ai ∩ Fm となるので, µ(Ai ) = µ( ∞ ∑ (Ai ∩ Fm )) σ-加法性 = lim n→∞ m=1 n ∑ µ(Ai ∩ Fm ) = lim µ( n→∞ m=1 n ∑ (Ai ∩ Fm )) = lim µ(Ai ∩ En ) n→∞ m=1 となる.よって ∫ ∫ k k k ∑ ∑ ∑ ai µ(Ai ∩ En ) = ai lim µ(Ai ∩ En ) = ai µ(Ai ) = sdµ lim s · 1En dµ = lim n→∞ n→∞ Ω i=1 i=1 n→∞ i=1 Ω となる. 定理 6 の証明. 定理 2 より f は可測関数になる.fn の単調性から Ω 上で fn ≤ f となるので,定 理 5 より ∫ ∫ lim fn dµ ≤ f dµ n→∞ Ω Ω となる.逆向きの不等式を証明する.s(x) を 0 ≤ s(x) ≤ f (x) を満たす単関数とする.0 < α < 1 とすると α · s(x) も単関数である.x ∈ Ω に対して • s(x) > 0 のとき: lim fn (x) = f (x) ≥ s(x) > αs(x) n→∞ • s(x) = 0 のとき:fn (x) ≥ 0 = αs(x) となる.よって ∀x ∈ Ω, ∃n, fn (x) ≥ αs(x) となる.En = {fn ≥ as} とすると E1 ⊂ E2 ⊂ · · · で ∪∞ あり,上に示したことより n=1 En = Ω となる.よって,補題 5 より ∫ ∫ sdµ lim s · 1En dµ = n→∞ Ω Ω となる.また集合 En の定義より ∫ ∫ ∫ ∫ αs · 1En dµ = α s · 1En dµ. fn dµ ≥ fn · 1En dµ ≥ Ω Ω Ω Ω n → ∞ として ∫ ∫ fn dµ ≥ α lim n→∞ Ω sdµ Ω となる.ここで α は 0 < α < 1 である任意の値なので ∫ ∫ lim fn dµ ≥ sdµ n→∞ Ω Ω となる.s は 0 ≤ s ≤ f を満たす単関数なので,結局 ∫ ∫ lim fn dµ ≥ f dµ n→∞ Ω Ω を得る. 8 積分に関する基本的な性質が成り立つ. 定理 7. f, g を Ω 上の非負値可測関数とする.非負実数 α, β ≥ 0 に対して ∫ ∫ ∫ (αf + βg)dµ = α f dµ + β gdµ Ω Ω Ω が成り立つ. Proof. 定理 4 より,fn ↗ f, gn ↗ g となる非負値単関数列 {fn }, {gn } が存在する.このとき αfn ↗ αf (0 · ∞ = 0 とする) と単調収束定理と定理 3 より ∫ ∫ ∫ ∫ αf dµ = lim αfn dµ = α lim fn dµ = α f dµ. Ω n→∞ n→∞ Ω Ω Ω となる.さらに fn + gn ↗ f + g なので, ) (∫ ∫ ∫ ∫ fn dµ + gn dµ (f + g)dµ = lim (fn + gn )dµ = lim n→∞ Ω n→∞ Ω Ω Ω ∫ ∫ ∫ ∫ = lim fn dµ + lim gn dµ = f dµ + gdµ n→∞ n→∞ Ω Ω Ω Ω となる. 非負値関数の積分値が 0 になるとき,関数は零関数であると考えられる.実際には,測度 0 の集合を除いて 0 を取る関数になる.これを次の補題で示す. ∫ 補題 6. 非負可測関数 f : Ω → [0, ∞] が f dµ = 0 を満たすとき,f = 0 (a.e.) となる. Ω Proof. 正数 λ > 0 から定まる集合 {f > λ} に対応する定義関数を 1{f >λ} とすると, f (x) ≥ λ · 1{f >λ} (x) ≥ 0 が成り立つ.したがって定理 5 より ∫ ∫ 0= f dµ ≥ λ·1{f >λ} dµ = λµ({f > λ}) Ω Ω となり,∀λ > 0, µ({f > λ}) = 0 となる.{f > 0} = µ({f > 0}) ≤ ∑ ∪ q∈Q,q>0 {f > q} なので µ({f > q}) = 0 q∈Q,q>0 が成り立つ.よって f = 0 (a.e) となる. 上の補題は,変分法などさまざまな定理の証明に使われる.本稿では,リーマン積分とルベー グ積分の関連を調べるために用いられる. 次に負値も取り得る可測関数の積分を定義する. 9 可測関数の積分 可測関数 f : Ω → R を f (x) = f + (x) − f − (x), f + (x) = max{f (x), 0}, f − (x) = max{−f (x), 0} と分割する.ここで f + , f − はともに非負値可測関数である.可測関数 f の積分を ∫ ∫ ∫ + f dµ = f dµ − f − dµ Ω Ω Ω と定義する.上式で ∞ − ∞ のとき以外は,積分値が ±∞ となる場合も含めて確定する.こ のとき f は定積分をもつという. f の分解:f = f + − f − . 定義 3 (可積分). 可測関数 f = f + − f − において, ∫ ∫ + f dµ < ∞, かつ f − dµ < ∞ Ω Ω 2 となるとき,f の積分は有限値となる.このとき f を可積分 (関数) という. |f | = f + + f − なので定理 7 より,次が成り立つ. ∫ ∫ ∫ + f が可積分 ⇐⇒ |f |dµ = f dµ + f − dµ < ∞ Ω Ω Ω 定理 8. 定積分をもつ可測関数 f : Ω → R に対して ∫ ∫ f dµ ≤ |f |dµ Ω Ω が成り立つ. ∫ ∫ ∫ Proof. Ω f dµ = ±∞ のとき, Ω f + dµ = ∞ と Ω f − dµ = ∞ のどちらか一方が成り立つ.この ∫ ∫ ∫ とき左辺と右辺はともに ∞ となる. Ω f dµ ∈ R のとき Ω f + dµ < ∞ かつ Ω f − dµ < ∞ とな る.したがって ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ + − − + + − f dµ − f dµ ≤ f dµ + f dµ = f dµ + f dµ = |f |dµ Ω Ω Ω Ω となる. 10 Ω Ω Ω 定理 9. f, g を Ω 上の R-値可積分関数とする.実数 α, β ∈ R に対して ∫ ∫ ∫ (αf + βg)dµ = α f dµ + β gdµ Ω Ω Ω が成り立つ. Proof. α < 0 のとき:αf = |α|f − − |α|f + となるので ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ − + − + αf dµ = |α|f dµ − |α|f dµ = |α| f dµ − |α| f dµ = −|α| f dµ = α f dµ. Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω α ≥ 0 のときは,αf = αf + − αf − として同様に示せる. 次に f + g の積分について考える.f = f + − f − , g = g + − g − , h = f + g とする.非負値可 測関数に対して成り立つ性質 (定理 5,定理 7) を用いると,不等式 |h| ≤ |f | + |g| から ∫ ∫ ∫ |h|dµ ≤ |f |dµ + |g|dµ < ∞ Ω Ω Ω が得られ,h は可積分となることが分かる.ここで h+ − h− = h = f + g = f + − f − + g + − g − =⇒ h+ + f − + g − = h− + f + + g + より,定理 7 から ∫ ∫ + h dµ + Ω ∫ − f dµ + Ω ∫ − − g dµ = Ω ∫ h dµ + Ω ∫ + g + dµ f dµ + Ω Ω となり,全ての項は有限値なので (移項しても値が確定するので), ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ + − + − + (f + g)dµ = h dµ − h dµ = f dµ − f dµ + g dµ − g − dµ Ω Ω Ω Ω Ω ∫Ω ∫ Ω = f dµ + gdµ Ω Ω が得られる. 定理 10. f, g を Ω 上の R-値可測関数とする.f ≤ g であり,かつ f, g が定積分をもつなら ∫ ∫ f dµ ≤ gdµ Ω Ω が成り立つ. Proof. f ≤ g から f + ≤ g + かつ f − ≥ g − となる.よって ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ + + − − f dµ ≤ g dµ, f dµ ≥ g dµ =⇒ f dµ ≤ gdµ Ω Ω Ω Ω となる. 11 Ω Ω 結果をまとめておく. 積分の線形性 • f, g がともに非負値 可測 関数かつ α, β ≥ 0 のとき,または • f, g がともに R-値 可積分 関数かつ α, β ∈ R のとき ∫ ∫ ∫ (αf + βg)dµ = α f dµ + β Ω 関数の大小と積分値 Ω gdµ Ω • f, g がともに R-値可測関数で定積分をもつとき ∫ f ≤ g =⇒ f dµ ≤ gdµ Ω 4 ∫ Ω 収束定理 単調収束定理として,非負値可測関数について適当な条件のもとで積分と極限が交換できる ことを示した.負値もとり得る可積分関数に対して,同様の関係式を導出する.リーマン積分 の場合より,簡単で使い易い条件が得られる. 収束定理を示す準備として,次の補題を紹介する. 補題 7 (ファトゥーの補題). このとき {fn }n∈N を測度空間 (Ω, B, µ) 上の非負値可測関数列とする. ∫ ∫ lim fn dµ ≤ lim Ω n→∞ fn dµ n→∞ Ω が成り立つ. Proof. gn = inf fm とすると gn は非負値可測関数で n について単調非減少,また 0 ≤ gn ≤ fn m≥n となる.さらに各点で lim gn = lim fn となる.単調収束定理より n→∞ ∫ lim n→∞ n→∞ ∫ gn dµ = Ω よって定理 5 より ∫ ∫ lim gn dµ = Ω n→∞ ∫ ∫ lim fn dµ = lim Ω n→∞ n→∞ Ω ∫ gn dµ ≤ lim gn dµ = lim n→∞ lim fn dµ Ω n→∞ Ω n→∞ fn dµ. Ω となる. 定理 11 (ルベーグの収束定理 (優収束定理ともいう)). 測度空間 (Ω, B, µ) 上の可測関数列 {fn }n∈N に対して,可積分関数 g : Ω → R が存在して Ω 上で supn |fn | ≤ g を満たすと仮定する.この ∫ とき,f = lim fn が存在するなら f は可積分であり,さらに極限値 lim n→∞ ∫ ∫ f dµ = lim Ω n→∞ n→∞ 12 fn dµ Ω fn dµ が存在して Ω が成り立つ. Proof. |fn | ≤ g より fn と f = lim fn は可積分関数,さらに g + fn , g − fn は非負値可測関数と n→∞ なる.よって,ファトゥーの補題と積分の線形性 (定理 9) より ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ fn dµ = lim (g + fn )dµ ≥ (g + f )dµ = g + f dµ, gdµ + lim n→∞ Ω n→∞ Ω Ω Ω Ω ∫ ∫ ∫ ∫ ∫Ω ∫ gdµ − lim (g − fn )dµ ≥ (g − f )dµ = g − f dµ fn dµ = lim Ω n→∞ n→∞ Ω となる.よって Ω Ω ∫ Ω より Ω ∫ fn dµ ≤ lim n→∞ ∫ Ω f dµ ≤ lim n→∞ Ω ∫ fn dµ Ω ∫ f dµ = lim fn dµ n→∞ Ω Ω となる. note: リーマン積分では,積分と極限の交換可能性を証明するために,fn が f に一様収束する こと (supx |fn (x) − f (x)| → 0 (n → ∞)) を仮定することが多い.ルベーグ積分では各点収束を 考えている. ルベーグの収束定理はさまざまな応用をもつ重要な定理である.積分と微分の交換が成り立 つための簡単な条件などを導出することができる. 定理 12. パラメータ t ∈ (a, b) に対して,可積分関数 ft : Ω → R が対応し,各 x ∈ Ω に対して ∂ft t が存在すると仮定する.また可積分関数 g : Ω → R が存在して,t ∈ (a, b) に対して | ∂f |≤g ∂t ∂t ∫ とする.このとき ft dµ は t に関して微分可能であり, Ω ∫ d dt ∫ ft dµ = Ω が成り立つ. t 以下の証明で定理 9 を使うために,∂f ∂t Ω ∂ft dµ ∂t ∫ だけでなく ft にも可積分性を仮定してる.また, ft dµ Ω の微分可能性がルベーグの収束定理から保証される. Proof. ∂ft ∂t の t = t0 での値を ∂ft | ∂t t=t0 と書く.t0 ∈ (a, b) を固定して gn (x) = ft0 + 1 (x) − ft0 (x) n 1/n , n∈N とおく.t0 + 1/n ∈ (a, b) となるような十分大きな n を考える.このとき gn は可測関数となり, t t また limn→∞ gn = ∂f | も可測関数となる.平均値の定理より gn (x) = ∂f | ,0<θ<1 ∂t t=t0 ∂t t=t0 +θ/n となる θ が存在する (θ は x, t0 , n に依存).よって |gn | ≤ g となる.したがってルベーグの収束 定理より ∫ ∫ ∫ ∂ft lim gn dµ = lim gn dµ = dµ n→∞ Ω Ω n→∞ Ω ∂t t=t0 13 となる.一方, ∫ 1 lim gn dµ = lim n→∞ Ω n→∞ 1/n 定理 9 (∫ ) ∫ ft0 + 1 dµ − n Ω ft0 dµ Ω d = dt ∫ Ω ft dµ t=t0 となる. リーマン可積分とルベーグ可積分 5 ルベーグの収束定理を用いて,Rd 上でのリーマン積分とルベーグ積分の関係を調べる.以 下,一般の測度空間ではなくルベーグ測度空間 (Rd , M, µ) 上での積分を考える.本節では,次 の定理を証明する. 定理:リーマン可積分関数のルベーグ可積分性 K を Rd の有界な区間 (直方体) とする.関数 f : Rd → R について,ある M > 0 が存在して |f | ≤ M · 1K を満たすと仮定する.このとき,f が K 上の関数としてリーマン可積分なら f はルベーグ ∫ 可積分である.またリーマン積分の意味での積分値 ∫ 積分値 f dµ は一致する. f (x)dx とルベーグ積分の意味での K Rd 関数 f : K → R はリーマン可積分なので,K の分割の列 {∆n }n∈N (∆n+1 は ∆n の細分) が存 在して ∫ f (x)dx, (n → ∞) s∆n [f ], S∆n [f ] −→ K となる.ただし右辺はリーマン積分の意味での積分値とする.ここで,s∆n [f ], S∆n [f ] を単関 数のルベーグ積分で表現する.関数列 {gn }, {hn } をそれぞれ ∑ gn (x) = inf f (x) · 1I (x) + 0 · 1K c , I∈∆n hn (x) = ∑ I∈∆n x∈I sup f (x) · 1I (x) + 0 · 1K c x∈I とすると,gn , hn は Rd 上の単関数で gn ≤ f ≤ hn が成り立つ.ここで gn は n について単調非 減少,hn は単調非増加である.またルベーグ積分の意味で ∫ ∫ hn dµ gn dµ, S∆n [f ] = s∆n [f ] = Rd Rd となる.このとき以下が成立する. 1. |f | ≤ M · 1K なので |gn |, |hn | ≤ M · 1K . 2. gn , hn は可測関数の単調列なので,gn ↗ g, hn ↘ h であるような R-値可測関数 g, h が存 在する.さらに g ≤ h となる. 14 M · 1K はルベーグ可積分なので,ルベーグの収束定理より g, h は可積分であり, ∫ ∫ ∫ gdµ, gn dµ = f dx = lim s∆n [f ] = lim n→∞ Rd n→∞ d R K ∫ ∫ ∫ hn dµ = hdµ, f dx = lim S∆n [f ] = lim K n→∞ n→∞ Rd Rd となり,その結果 ∫ Rd (h − g)dµ = 0 が得られる.補題 6 と h − g ≥ 0 から h − g = 0 (a.e.) となる.また g ≤ f ≤ h なので f は g, h と a.e. で一致し,補題 1 より f は可測関数となる.また g ≤ f ≤ h から |f | ≤ |g| + |h| と なるので,f は可積分である.さらに 0 ≤ f − g ≤ h − g より ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ 0≤ (f − g)dµ ≤ (h − g)dµ = 0 =⇒ f dµ = gdµ = f dx Rd Rd Rd Rd K となる.以上で定理 (リーマン可積分関数のルベーグ可積分性) が示された. 上の結果を用いると,ジョルダン可測集合がルベーグ可測であることが分かる. 定理 13. 有界な直方体 K におけるジョルダン可測集合からなる有限加法的測度空間を (K, FJ , mJ ) とする.このとき FJ ⊂ M となる.また A ∈ FJ に対して mJ (A) = µ(A) となる. Proof. A ∈ FJ , A ⊂ K に対して,1A は K 上リーマン可積分なのでルベーグ可積分となる.し たがって A = {1A > 0} ∈ M となる.また積分値が一致するので ∫ ∫ mJ (A) = 1A dx = 1A dµ = µ(A) Rd K が成り立つ (最後の等式は単関数の積分の定義) 15
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