積分の定義(pdfファイル:10ページ)

積分の定義
測度空間 (X, M, µ) をひとつ固定する.特に断らない限り,扱う X の部分集合はすべて
M に属するものとし,関数はすべて X 上の R = R ∪ {±∞} に値をとる
M-可測関数とす
∫
∫
る.可測関数 f : X −→ R の測度 µ に関する X 上の積分 (integral)
f (x)dµ(x) =
X
f dµ
X
を,4 段階に分けて定義する.
1. 特性関数の積分
最初に,A ∈ M の特性関数 χA の X 上の積分を
∫
χA dµ = µ(A)
X
と定義する.
2. 非負値単関数の積分
次に,特性関数の積分を定数倍したものの有限個の和として,任意の非負値単関数に
∑n
対して積分を定義する.f = j=1 aj χAj とする.ただし,Aj ∈ M で A1 , . . . , An は互い
に交わらないが,aj については 0 ≤ aj ∈ R で a1 , . . . , an は異なるとは限らないとする.こ
のとき,f の X 上の積分を
∫
n
∑
f dµ =
aj µ(Aj )
X
j=1
と定義する.積分の値は非負である.
µ(Aj ) = ∞ のこともある.この場合は,aj > 0 ならば aj µ(Aj ) = ∞ であるが,0×∞ = 0
と約束しているので
∫ aj = 0 のときは aj µ(Aj ) = 0 である.aj > 0, µ(Aj ) = ∞ となる j が
f dµ = ∞ となる.
ひとつでもあれば
X
ここでは
aj = 0 の場合もあり,また
a1 , . . . , an の中に同じものがあってもよいので,
∑m
∑n
f = j=1 aj χAj は別の表示 f = k=1 bk χBk も可能である.ただし,0 ≤ bk ∈ R,Bk ∈ M
で B1 , . . . , Bm は互いに交わらない.上記の積分の定義で矛盾が生じないためには,この
ような f の 2 通りの表示に対して,
n
∑
aj µ(Aj ) =
j=1
m
∑
bk µ(Bk )
k=1
が成り立つことを確認する必要がある.
aj = 0 ならば aj µ(Aj ) = 0 だから,この等式を確認する際には aj > 0 (j = 1, . . . , n),
bk > 0 (k = 1, . . . , m) としてよい.このとき,c ∈ Aj ならば f (c) = aj > 0 だから
c ∈ B1 ∪· · ·∪Bm である.よって,Aj = (Aj ∩B1 )∪· · ·∪(Aj ∩Bm ) で,Aj ∩Bk (k = 1, . . . , m)
は互いに交わらない.同様に,Bk = (A1 ∩
∩ Bk (j = 1, . . . , n)
∑Bmk ) ∪ · · · ∪ (An ∩ Bk ) で,Aj∑
n
は互いに交わらない.よって,µ(Aj ) = k=1 µ(Aj ∩ Bk ), µ(Bk ) = j=1 µ(Aj ∩ Bk ) と
なる.ある j と k について Aj ∩ Bk ̸= ∅ とすると,c ∈ Aj ∩ Bk において aj = f (c) = bk
となる.よって,
n
∑
j=1
aj µ(Aj ) =
n
∑
j=1
aj
m
(∑
m
n
m
) ∑
(∑
) ∑
µ(Aj ∩ Bk ) =
bk
µ(Aj ∩ Bk ) =
bk µ(Bk )
k=1
k=1
1
j=1
k=1
が成り立つ.
∑n
単関数の表示 f = j=1 aj χAj において,Aj ∈ M (j = 1, . . . , n) は互いに交わらない
が,0 ≤ aj ∈ R (j = 1, . . . , n) は異なるとは限らないとする.a1 , . . . , an のうち 0 以外で
異なるもの全体を aj1 , . . . , ajp とし,j = 1, . . . , n のうち aj = ajk となるもの全部の集合を
Jk とする.
Jk = {j | aj = ajk }.
∪
A′k = j∈Jk Aj とすると,A′k ∈ M (k = 1, . . . , p) は互いに交わらないで,
f=
n
∑
aj χAj =
p
∑
j=1
ajk χA′k
k=1
となる.A′k = [f = ajk ] だから,この右辺の表示は f に対して一意的である.さらに,
p
∑
ajk µ(A′k )
=
k=1
p
∑
ajk
(∑
n
) ∑
µ(Aj ) =
aj µ(Aj )
j=1
j∈Jk
k=1
が成り立つ.
A ∈ M のとき,A の特性関数 χA と f の積 χA f を用いて,f の A 上の積分を
∫
∫
f dµ =
χA f dµ
A
X
∑n
∑n
と定義する.X 上の非負値単関数 f = j=1 aj χAj に対して,χA f = j=1 aj χA∩Aj は X
上の非負値単関数で,A∑∩ Aj ∈ M (j = 1, . . . , n) は互いに交わらない.A ∩ Aj = ∅ の可
n
能性もあるが,χA f = j=1 aj χA∩Aj において A ∩ Aj = ∅ となる j は除いて考える.
A1 ∪ · · · ∪ An ⊂ A のときは f = χA f となる.µ(A) = 0 ならば,測度の単調性により
µ(A ∩ Aj ) = 0 (j = 1, . . . , n) で,f の A 上の積分は 0 である.
注意 A ∈ M に対して MA = {A ∩ E | E ∈ M} とおくと,MA ⊂ M で MA は A の
部分集合の σ-加法族である.実際,
MA = {E ∈ M | E ⊂ A} である.よって (A, MA , µ)
∫
∫
は測度空間で,
χA f dµ は測度空間 (A, MA , µ) における単関数 χA f の積分の
f dµ =
A
X
定義に一致する.
補題 f, g を X 上の非負値の単関数とする.
∫
∫
∫
(1) (f + g)dµ =
f dµ + gdµ.
X
X
X
∫
(2) すべての x ∈ X に対して f (x) ≤ g(x) ならば
∫
f dµ ≤
X
(3) A, B ∈ M, A ∩ B = ∅ ならば
∫
∫
∫
f dµ =
f dµ +
f dµ.
A∪B
証明 (1): f =
∑n
j=1
aj χAj , g =
A
∑m
k=1 bk χBk
B
とすると
n ∑
m
∑
f +g =
(aj + bk )χAj ∩Bk
j=1 k=1
2
gdµ.
X
だから,
∫
(f + g)dµ =
n ∑
m
∑
X
(aj + bk )µ(Aj ∩ Bk )
j=1 k=1
=
n
∑
j=1
=
n
∑
aj
m
(∑
m
n
) ∑
(∑
)
µ(Aj ∩ Bk ) +
bk
µ(Aj ∩ Bk )
k=1
j=1
k=1
aj µ(Aj ) +
j=1
m
∑
∫
bk µ(Bk ) =
f dµ +
X
k=1
∫
gdµ
X
となり,(1) が成り立つ.
aj (j = 1, . . . , n) がすべて異なり,また bk (k = 1, . . . , m) がすべて異なる場合でも,
aj + bk (j = 1, . . . , n, k = 1, . . . , m) は一般にはすべてが異なるとは限らない.このよう
な状況も含めて,非負値単関数の積分を扱う.
(2): 非負値単関数の積分の定義から明らか.
(3): Aj ∩ (A
B) = (Aj ∩ A) ∪ (Aj ∩ B) より µ(Aj ∩ (A ∪ B)) = µ(Aj ∩ A) + µ(Aj ∩ B)
∑∪
n
だから,f = j=1 aj χAj に対して
∫
f dµ =
A∪B
=
n
∑
j=1
n
∑
aj µ(Aj ∩ (A ∪ B))
aj µ(Aj ∩ A) +
j=1
n
∑
∫
aj µ(Aj ∩ B) =
f dµ +
A
j=1
∫
f dµ.
B
補題 fn (n = 1, 2, . . .) と g を X 上の非負値の単関数とする.すべての x ∈ X につい
て f1 (x) ≤ f2 (x) ≤ · · · で lim fn (x) ≥ g(x) ならば,
n→∞
∫
fn dµ ≥
lim
n→∞
∫
X
gdµ.
X
証明 E0 = {x ∈ X | g(x) = 0}, E = X − E0 とすると,X = E0 ∪ E で E0 ∩ E = ∅
だから前補題の (3) より
∫
∫
∫
∫
fn dµ ≥ fn dµ,
gdµ = gdµ
X
∫
E
X
E
∫
fn dµ ≥ gdµ を示せばよい.
となる.よって, lim
n→∞ E
E
∑m
a
χ
で,
a
>
0
(j
= 1, . . . , m),A1 , . . . , Am は互いに交わらないとし,
g =
j
A
j
j
j=1
α = min{a1 , . . . , am }, β = max{a1 , . . . , am } とおく.E の定義より,A1 ∪ · · · ∪ Am = E
である.0 < ε < α を満たす実数 ε を任意にひとつとる.g − ε は単関数で,E 上で値は
常に正である.
Fn = {x ∈ E | fn (x) > g(x) − ε}
∪∞
とおく.fn に関する仮定より F1 ⊂ F2 ⊂ · · · で n=1 Fn = E なので,測度の性質により
lim µ(Fn ) = µ(E) が成り立つ.
n→∞
3
µ(E) < ∞ の場合を考える.µ(E − Fn ) = µ(E) − µ(Fn ) は n → ∞ のとき 0 に収束す
るので,ε に対してある正の整数 K が存在して,すべての n > K について µ(E − Fn ) < ε
が成り立つ.このような n に対して
∫
∫
fn dµ ≥
fn dµ
E
Fn
∫
≥
(g − ε)dµ
Fn
∫
∫
≥
gdµ −
gdµ − εµ(E)
E
E−Fn
∫
gdµ − βµ(E − Fn ) − εµ(E)
≥
E
∫
gdµ − ε(β + µ(E))
>
E
となる.これがすべての n > K について成り立つので,
∫
∫
gdµ − ε(β + µ(E))
lim
fn dµ >
n→∞
E
E
がわかる.これが 0 < ε < α を満たす任意の ε について成り立つので,求める不等式が得
られる.
µ(E) = ∞ のときは, lim µ(Fn ) = ∞ であるが,
n→∞
∫
∫
∫
fn dµ ≥
fn dµ ≥
E
Fn
∫
fn dµ = ∞ となり,求める不等式が成り立つ.
なので, lim
n→∞
(g − ε)dµ ≥ (α − ε)µ(Fn )
Fn
E
補題 fn , gn (n = 1, 2, . . .) は X 上の非負値の単関数で,すべての x ∈ X について
f1 (x) ≤ f2 (x) ≤ · · · , g1 (x) ≤ g2 (x) ≤ · · · とする.
∫
∫
(1) すべての x ∈ X について lim fn (x) ≥ lim gn (x) ならば lim
fn dµ ≥ lim
gn dµ.
n→∞
n→∞
n→∞ X
n→∞ X
∫
∫
(2) すべての x ∈ X について lim fn (x) = lim gn (x) ならば lim
fn dµ = lim
gn dµ.
n→∞
n→∞
n→∞
X
n→∞
X
証明 (1): k をひとつ固定すると,仮定によりすべての x ∈ X について lim fn (x) ≥ gk (x)
n→∞
∫
∫
fn (x)dµ ≥
gk dµ となる.k は任意なので,
だから,前補題により lim
n→∞
X
∫
∫
fn dµ ≥ lim
lim
n→∞
X
n→∞
X
gn dµ.
X
(2): (1) の証明において fn と gn を交換すれば逆の不等号が得られるので,等号が成り
立つ.
3. 非負値可測関数の積分
4
非負値単関数の積分を用いて,任意の非負値可測関数に対して積分を定義する.f を
X 上の非負値の可測関数とする.f に対して,
(i) 0 ≤ f1 (x) ≤ f2 (x) ≤ · · · for all x ∈ X.
(ii) lim fn (x) = f (x) for all x ∈ X.
n→∞
の 2 つの条件を満たす単関数の列
fn (n = 1, 2, . . .) が存在する.条件 (i) により,R の元
∫
fn dµ (n = 1, 2, . . .) は単調増加である.その極限は ∞ に発散する場合も含めて,
の列
X
前補題により (i), (ii) の条件を満たす単関数の列の選び方に依存しないで定まる.よって,
f の X 上の積分を
∫
∫
f dµ = lim
n→∞
X
fn dµ
X
と定義して矛盾を生じない.
A ∈ M に対して,A の特性関数 χA と X 上の非負値可測関数 f の積 χA f は X 上の非
負値可測関数である.これを用いて,f の A 上の積分を
∫
∫
f dµ =
χA f dµ
A
X
と定義する.µ(A) = 0 ならば,X 上の非負値単関数 χA fn の A 上の積分は 0 だから,f の
A 上の積分も 0 である.
次の補題は,非負値単関数の積分の性質からわかる.
補題 f, g を X 上の非負値の可測関数とする.
∫
∫
∫
(1) (f + g)dµ =
f dµ + gdµ.
X
X
X
∫
(2) すべての x ∈ X に対して f (x) ≤ g(x) ならば
∫
f dµ ≤
X
gdµ.
X
(3) A, B ∈ M, A ∩ B = ∅ ならば
∫
∫
∫
f dµ =
f dµ +
f dµ.
A∪B
A
B
4. 可測関数の積分
X 上の可測関数 f に対して,f + = max(f, 0) と f − = max(−f, 0) は非負値の可測関数
で,f = f + − f − であった.よって
∫
∫
+
f dµ,
f − dµ
X
X
が定義される.この 2 つのうち少なくとも一方が ∞ でなければ
∫
∫
∫
+
f dµ =
f dµ − f − dµ
X
X
X
は意味を持つが,特に両方とも ∞ でないとき,f は X 上で測度 µ に関して積分可能 (integrable) または可積分であるという.このときの積分は有限の値,すなわち実数である.
5
A ∈ M の特性関数 χA と f の積 χA f が X 上で積分可能のとき,
∫
∫
f dµ =
χA f dµ
A
X
と定義する.これは,測度空間 (A, MA , µ) における可測関数 χA f の積分に一致する.f
が X 上で積分可能ならば,χA f は X 上で積分可能である.
非負値可測関数の積分の性質から,可測関数の積分に関する様々な性質が得られる.
定理 f を可測関数とする.
∫
(1) µ(A) = 0 ならば,f は X 上で積分可能で
f dµ = 0.
A
(2) f が X で積分可能ならば µ([f = ∞]) = 0, µ([f = −∞]) = 0.
証明 (1): µ(A) = 0 ならば,X 上の非負値の可測関数 (χA f )+ = χA f + と (χA f )− =
χA f − の A 上の積分はともに 0 だから,A における積分の定義より (1) がわかる.
(2): F = [f = ∞] とおき,α > 0 を任意にとる.f + は非負値の可測関数だから,X 上
の積分を F 上の積分と X − F 上の積分に分けると,
∫
∫
∫
∫
+
+
+
f dµ = f dµ +
f dµ ≥ αdµ = αµ(F )
X
F
X−F
F
となる.f が積分可能だから,この不等式の左辺は有限の値である.α > 0 は任意なので,
µ(F ) = 0 がわかる.同様にして,µ([f = −∞]) = 0 もわかる.
定理 可測関数 f について,f が積分可能なこと,f + と f − がともに積分可能なこと,
|f | が積分可能なことの 3 つは,互いに同値である.またこのとき,
∫
∫
|f |dµ.
f dµ ≤
X
X
証明 積分可能の定義と |f | = f + + f − からわかる.実際,
∫
∫
∫
∫
∫
∫
+
−
+
−
f dµ + f dµ =
|f |dµ.
f dµ = f dµ − f dµ ≤
X
X
X
X
X
X
定理 A, B ∈ M, A ∩ B = ∅ ならば,可測関数 f が A および B 上で積分可能なこと
と,f が A ∪ B 上で積分可能なことは同値である.またこのとき,
∫
∫
∫
f dµ = f dµ + f dµ.
A∪B
A
B
証明 f + と f − は非負値の可測関数だから,
∫
∫
∫
∫
+
+
+
f dµ = f dµ + f dµ,
A∪B
A
B
A∪B
6
−
∫
−
f dµ =
∫
f dµ +
A
B
f − dµ
が成り立つので,前半の主張がわかる.ここに現れる積分がすべて有限の値のときは,
∫
∫
∫
+
f dµ =
f dµ −
f − dµ
A∪B
∫A∪B
∫ A∪B
∫
∫
∫
∫
+
+
−
−
= f dµ + f dµ − f dµ − f dµ = f dµ + f dµ
A
B
A
B
A
B
となるので,後半の主張がわかる.
系 F が零集合,すなわち F ∈ M で µ(F ) = 0 ならば,f が X 上で積分可能なことと
X − F 上で積分可能なことは同値である.またこのとき,
∫
∫
f dµ =
f dµ.
X
X−F
証明 X = X ∪ (X − F ), F ∩ (X − F ) = ∅, X − F ∈ M で µ(F ) = 0 だから,
∫
∫
∫
∫
+
+
+
f dµ = f dµ +
f dµ =
f + dµ,
∫X
∫F
∫X−F
∫X−F
f − dµ = f − dµ +
f − dµ =
f − dµ
X
F
X−F
X−F
が成り立つことからわかる.
定理 f = g a.e. で f が X 上で積分可能ならば,g も X 上で積分可能で
∫
∫
f dµ = gdµ.
X
X
証明 F = [f ̸= g], A = [f = g] とおく.F, A ∈ M, X = F ∪ A, F ∩ A = ∅ で,仮
定により µ(F ) = 0 だから,上記の系により
∫
∫
∫
∫
+
+
−
f dµ = f dµ,
f dµ = f − dµ
X
A
X
A
となる.仮定により f は X 上で積分可能なので,これらの積分は有限の値である.同様に,
∫
∫
∫
∫
+
+
−
g dµ = g dµ,
g dµ = g − dµ
X
A
X
A
であるが,x ∈ A ならば f + (x) = g + (x), f − (x) = g − (x) なので,
∫
∫
∫
∫
+
+
−
f dµ = g dµ,
f dµ = g − dµ
A
A
A
A
が成り立つ.よって,g も X 上で積分可能で,f と g の X 上の積分は一致する.
定理 f, g が X 上で積分可能で f ≤ g a.e. でならば,
∫
∫
f dµ ≤ gdµ.
X
X
7
証明 F = [f > g], A = [f ≤ g] とおく.F, A ∈ M, X = F ∪ A, F ∩ A = ∅ で,仮
定により µ(F ) = 0 だから,
∫
∫
∫
∫
+
+
−
g dµ = g dµ,
g dµ = g − dµ
∫
X
∫
A
f + dµ =
X
X
∫
f − dµ =
f + dµ,
A
A
X
∫
f − dµ
A
である.f, g は X 上で積分可能なので,これらの積分は有限の値である.x ∈ A ならば
f (x) ≤ g(x) だから,f + (x) ≤ g + (x), f − (x) ≥ g − (x) が成り立つ.f + , f − , g + , g − は非
負値の可測関数だから,このとき
∫
∫
∫
∫
+
+
−
f dµ ≤ g dµ,
f dµ ≥ g − dµ
A
A
A
A
がわかるので,積分の定義より求める不等式が得られる.
注意 f, g が X 上で積分可能であっても,ある c ∈ X において f (c) = ∞, g(c) = −∞
という可能性がある.このような場合,c において f + g は意味を持たない.よって,f + g
を扱う際にはこのような X の元を除いて考える必要がある.なお,f が X で積分可能な
らば µ([f = ∞]) = 0, µ([f = −∞]) = 0 であることに注意する.
定理 (積分の線型性) f, g は X 上で積分可能とし,
(
) (
)
F = [f = ∞] ∩ [g = ∞] ∪ [f = ∞] ∩ [g = −∞]
(
) (
)
∪ [f = −∞] ∩ [g = ∞] ∪ [f = −∞] ∩ [g = −∞]
とおく.このとき,α, β ∈ R に対して αf + βg は X − F 上で積分可能で,
∫
∫
∫
(αf + βg)dµ = α
f dµ + β
gdµ.
X−F
X−F
∫
X−F
∫
証明 αf が積分可能で
f dµ が成り立つことは明らかなので,α = β = 1
αf dµ = α
X
X
の場合を考える.
E = [f = ∞] ∪ [f = −∞] ∪ [g = ∞] ∪ [g = −∞]
とおく.F, E ∈ M, F ⊂ E で,f, g が X 上で積分可能だから µ(E) = 0 である.A = X −E
とおく.A 上では f, g の値は実数だから,x ∈ A ならば
(
)
(
)
f + (x) = f (x) + |f (x)| /2,
f − (x) = − f (x) + |f (x)| /2
が成り立つ.(注意 f (c) = −∞ のとき f (c) + |f (c)| は意味を持たない.また,f (c) = ∞
のとき −f (c) + |f (c)| は意味を持たない.) g + , g − , (f + g)+ , (f + g)− についても,A 上
で同様の等式が成り立つ.任意の x ∈ A について |f (x) + g(x)| ≤ |f (x)| + |g(x)| だから,
これより
(f + g)− (x) ≤ f − (x) + g − (x)
(f + g)+ (x) ≤ f + (x) + g + (x),
8
が得られる.f + , f − , g + , g − , (f + g)+ , (f + g)− はどれも非負値の可測関数だから,
∫
∫
∫
∫
∫
∫
+
+
+
−
−
(f + g) dµ ≤ f dµ + g dµ,
(f + g) dµ ≤ f dµ + g − dµ
A
A
A
A
A
A
となる.仮定により f, g が積分可能だから,ここに現れる積分はすべて有限の値である.
よって,f + g も積分可能である.
x ∈ A に対して
(f + g)+ (x) − (f + g)− (x) = (f + g)(x) = f + (x) − f − (x) + g + (x) − g − (x)
であるが,各項は有限の値だから,移項して
(f + g)+ (x) + f − (x) + g − (x) = (f + g)− (x) + f + (x) + g + (x)
がわかる.よって,非負値可測関数の積分の性質により,
∫
∫
∫
∫
∫
∫
+
−
−
−
+
(f + g) dµ + f dµ + g dµ = (f + g) dµ + f dµ + g + dµ
A
A
A
A
A
A
が得られる.各項は有限の値だから,移項すると
∫
∫
∫
(f + g)dµ = f dµ + gdµ
A
A
A
となる.A における積分と X − F = A ∪ (E − F ) における積分は一致するので,α = β = 1
の場合の求める等式が成り立つ.
定理 f が X 上で積分可能ならば,[f ̸= 0] は可算個の測度が有限な可測集合の和集合
で表せる.
∫
∪∞
証明 En = [|f | ≥ 1/n] とおく.[f ̸= 0] = n=1 En である.仮定により |f |dµ < ∞
X
だから,
1
µ(En ) ≤
n
∫
∫
|f |dµ ≤
En
|f |dµ < ∞.
X
よって,En (n = 1, 2, . . .) は求める条件を満たす.
∫
定理
|f |dµ = 0 となるための必要十分条件は,f = 0 a.e. である.
X
∫
証明 必要条件であること:
|f |dµ = 0 と仮定すると,前定理の証明の記号で µ(En ) =
X
∑
0 となる.よって,測度の σ-劣加法性により µ([f ̸= 0]) ≤ ∞
n=1 µ(En ) = 0 となるので,
f = 0 a.e. である.
十分条件であること: f = 0 a.e. と仮定すると,µ([f ̸= 0]) = 0 である.よって,
[f ̸= 0] 上の f の積分は 0 である.[f = 0] 上の f の積分は 0 だから,X = [f ̸= 0] ∪ [f = 0]
上の f の積分も 0 である.
∫
定理 f が非負値の可測関数で f dµ < ∞ を満たすならば,任意に正の実数 ε > 0 が
X
∫
与えられたとき,
A ∈ M, µ(A) < δ =⇒
f dµ < ε
A
9
が成り立つような δ > 0 が存在する.
∫
∫
証明
f dµ = 0 ならば,すべての A ∈ M について f dµ = 0 なので,δ > 0 は任意
A
∫X
でよい. f dµ > 0 と仮定する.非負値可測関数の積分の定義より,すべての x ∈ X に
X
ついて 0 ≤ f1 (x) ≤ f2 (x) ≤ · · · で lim fn (x) = f (x) となる単関数の列 fn (n = 1, 2, . . .)
n→∞
∫
∫
が存在して, f dµ = lim
fn dµ である.ここで,fn (n = 1, 2, . . .) に関する条件より
n→∞ X
X
∫
fn dµ (n = 1, 2, . . .) は単調増加である.よって,与えられた ε > 0 に対して
X
∫
∫
f dµ −
X
fp dµ < ε/2
X
∫
∫
が成り立つような p が存在する. f dµ > 0 だから, fp dµ > 0 としてよい.単関数 fp
X
X
∑m
を fp = j=1 aj χAj とする.ここで,aj > 0 で Aj ∈ M (j = 1, 2, . . .) は互いに交わらな
∫
い.β = max{a1 , . . . , am } とおく. fp dµ > 0 だから β > 0 である.0 < δ < ε/2β を満
X
たす∫ δ をとる.
f dµ < ∞ だから,µ([fn = ∞]) = 0 (n = 1, 2, . . .), µ([f = ∞]) = 0 である.よって,
X
F =
(∪ ∞
)
[f
=
∞]
∪ [f = ∞],
n
n=1
E =X −F
とおくと,µ(F ) = 0 で,X = E ∪ F , E ∩ F = ∅ である.E 上では,fn (n = 1, 2, . . .) と
f の値は実数なので f − fp は意味を持ち,積分の線型性が適用できる.
A ∈ M, µ(A) < δ とする.A 上での積分の値と A ∩ E 上での積分の値は等しく,また
X 上での積分の値と E 上での積分の値は等しので,
∫
∫
∫
∫
∫
f dµ − fp dµ =
f dµ −
fp dµ =
(f − fp )dµ,
A
A
∫
A∩E
∫
f dµ −
X
A∩E
∫
∫
f dµ −
fp dµ =
X
E
A∩E
∫
(f − fp )dµ
fp dµ =
E
E
となる.x ∈ E ならば f (x) − fp (x) ≥ 0 だから,
∫
∫
(f − fp )dµ ≤ (f − fp )dµ
A∩E
E
である.よって,
∫
∫
∫
∫
f dµ = f dµ − fp dµ + fp dµ
A
∫A
∫A
∫A
≤
f dµ − fp dµ + fp dµ < ε/2 + βµ(A) < ε/2 + ε/2 = ε.
X
X
A
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