③うまくつきあうのがコツ‼ 肝細胞がんの治療

「うまくつきあうのがコツ‼ 肝細胞がんの治療」
生理機能検査部部長、肝臓内科副部長
川﨑
靖子
はじめに
厚生労働省によると、平成 24 年死亡原因第一位の悪性腫瘍(28.7%)の中で、肝癌は男性 4 位(2 万 55
人)、女性 5 位(1 万 625 人)でした。近年減少傾向にありますが、まだ多くの方が肝癌で亡くなられていま
す。
肝癌には、肝臓から発生した『原発性肝癌』と、胃癌など他の臓器の癌が肝臓に転移してきた『転移性肝癌』
があります。死亡原因でいう肝癌は、主に原発性肝癌を指しています。原発性肝癌の 95%が肝細胞癌です。
肝細胞癌の特徴
肝細胞癌(以下肝癌)は他の癌と異なる特徴があります。肝臓自体がすでに肝癌ができやすい状態になって
いるので、最初にできた癌を完治しても、新たな癌がでてくることです。これを『多中心性発癌』といいます。
このため、初めての肝癌の治療後 5 年間の再発率は、80~90%と言われています。このことから、この癌は
繰り返し治療を受ける必要があります。一方、繰り返し治療することで、再発しても長生きが望める癌とも言
えます。
治療方法の種類
治療方法は大きく5つに分けられます。
(1)手術:
①肝切除、②肝移植
(2)穿刺局所療法:
①経皮的ラジオ波焼灼療法、②経皮的エタノール注入療法
(3)カテーテル治療: ①肝動脈化学塞栓療法、②肝動注化学療法
(4)全身化学療法:
①分子標的薬(内服)
(5)放射線療法:
①X 線治療、②粒子線治療(保険適応外)
この中で、(1)~(3)が全治療の各 30%前後と大部分を占めます。
治療の選び方
厚生労働省と肝臓学会から、どの肝癌治療を選択するのが良いか、一定の方向性をしめしたガイドラインが
でています。どちらのガイドラインも(1)肝癌の状態(大きさ、数、脈管侵襲の有無、肝外転移の有無)、(2)
肝臓の力(肝障害度、Child-Pugh 分類)で治療方法を決定しています。実際の治療は、このガイドラインを
基本として、患者さんの全身状態、肝癌のさらに詳しい特徴、肝癌の再発状況を総合的に判断し、治療するタ
イミングを含めて治療方針を決定しています。
肝癌とうまくつきあう方法
肝癌の 5 年生存率は、かなり進行した人も含めた場合、現在 44%と言われています。亡くなられる原因と
して、癌死が 66%、肝不全死が 18%、肝障害の進行に伴う消化管出血と食道静脈瘤破裂が 4%、肝臓以外の
原因が 11%と、癌そのもの以外の死因も比較的多いことがわかります。
癌死といっても、肝不全のために十分治療ができなかった場合、肝不全死といっても、繰り返しおこなった
肝癌治療の影響が大きい場合もあります。このことから、肝臓の力を温存し、良いタイミングで最適の治療を
すること、肝臓だけでなく全身状態を良好に整えておくおことが大切です。
肝癌患者さんは、3~4か月ごとに肝癌のチェック検査を繰り返し、再発していないかと常に心配がつきま
せん。そこで、肝癌は繰り返し治療をしながら、うまくつきあって長生きする癌と割り切って、日常生活を人
一倍楽しみ、気力を充実し、精神的にうまくつきあうことも大切です。