NJP メンバーの宝物 ―メンバーが大切にしている秘蔵の品、それにまつわる思い出を紹介するコーナー 写 真 : 左 か ら 、 シ ュ ナ イ ダ ー に サ イ ン し て も ら っ た ブ ダ ペ ス ト ・ カ ル テ ッ ト の レ コ ー ド / 20 代 前 半 、 ヴ ィ オ ラ 奏 者 と し て レ コ ー デ ィ ン グ に 参加したドガレイユ・カルテットのレコード/江藤先生の書き込み入り楽譜(シューマンのヴァイオリン協奏曲、ブラームスのピアノ五重 奏 曲 ) / フ ラ イ シ ャ ー に 98 年 共 演 時 サ イ ン し て も ら っ た ブ ラ ー ム ス の ピ ア ノ 協 奏 曲 の CD Vol.47 偉大な師たちの教え―豊嶋泰嗣(ソロ・コンサートマスター) 新日本フィルに入団して、早いものでおよそ四半世紀の年月が過ぎました。新日本フィルで出会う ことのできた偉大なアーティストたちの教えが、僕の宝物です。 学生時代から室内楽を志していた僕にとって、ブダペスト・カルテットは原点とも言うべき憧れの 存在でした。そのヴァイオリン奏者アレクサンダー・シュナイダーと出会うことができたのも新日本 フィルで、彼が「大フーガ」を振った演奏会が、シュナイダーの指揮で弾いた最初で最後の機会とな りました。アンコールで、僕のヴァイオリンを取って彼が「鳥の歌」を演奏してくれたのも、懐かし い思い出です。 レオン・フライシャーとの共演も新日本フィルが最初でした。98 年当時は左手のピアニストとして 弾き振りをされていましたが、その後両手のピアニストとして見事に復帰され、4 年前ブラームスの ピアノ五重奏曲を共演することができました。感動的な演奏でした。 ブラームスのピアノ五重奏曲といえば、恩師江藤俊哉先生と共演させていただいたときの先生の強 烈な音が鮮明に記憶に残っています。江藤先生からは、テクニックや奏法から音楽家としての姿勢に 至るまで、本当にたくさんの教えを受けることができました。ソリストを多く輩出した江藤門下にあ って僕は異質な存在だったかもしれませんが、先生はいつも生徒の個性にあわせて、それぞれのいい ところを引きだす指導をしてくださっていたと思います。コンサートマスターと室内楽奏者を 2 本の 柱としてきた僕の活動をご覧になって、出光音楽賞を受賞したとき「彼は“座って”音楽のできる演 奏家です」と言ってくださった言葉が忘れられません。 自分自身が教える立場になったいま、偉大な師たちから受けた教えを、次の世代に受け渡していか なければならないと感じています。上達するのは果てしなく時間がかかりますが、下手になって崩れ るのはとても簡単です。500 回目の定期演奏会を迎えて、「常に上をめざす」精神を保ち続けなけれ ばならないと、あらためて肝に銘じています。 (2012 年 10&11 月号)
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