No. 184 海域放射能調査(生物) 公益財団法人 海洋生物環境研究所 横 田 瑞 郎 * 1. は じ め に 海洋生物環境研究所では,福島第一原子力発電所 の事故に伴う放射性物質の流出が水産物の安全性に 与える影響を調査するため,2011年9月から水産庁 委託事業として水産物の放射性物質濃度の測定を実 図2 検出器による測定 施している。事故直後には一部の魚介類から事故前 よりも高い濃度の放射性物質が検出されたが,最近 3. 結果の概要 は基準値を超えるものは極めて少なくなってきてい る。 ここでは,2011年9月∼2013年12月に放射性物質 の測定を行った魚介類の測定データのうち,特に海 2. 調査の内容 水域(東日本太平洋側)の魚介類(16,317検体,293 県が主体となって調査を実施している福島県(放 種)について,放射性物質の検出状況を紹介する。 射能濃度が低い一部の魚介類の出荷や試験操業が行 ヨウ素−131は2011年9月∼2013年12月の測定試料か われている)を除いた東日本の海水域(太平洋側) ら検出されなかった。放射性セシウム(セシウム− 及び内水域で採取された水産物について分析を行っ 134とセシウム−137の合計)の検出濃度を海生生物 ている。放射性物質測定用の試料は,魚介類の可食 の分類群間で比べると,アイナメ,ウスメバル,ク 部(筋肉,肝臓,卵巣,精巣等,種により異なる) ロダイなど一部の魚類では100 Bq/kg を超えた種が を分析に必要な量細断した後,ゲルマニウム半導体 出現したものの,その他の分類群(イカ類,タコ類, 検出器により放射性物質(ヨウ素−131,セシウム− エビ類,カニ類,貝類,オキアミ類,海藻類,クジ 134,セシウム−137)の濃度を測定している(図1,2)。 ラ類など)では基準値を超えたものはなかった。事 サンプル数が多いため,測定は当研究所の他,複数 故後3年目にはタコ類で最高0.42 Bq/kg,貝類で最 の分析機関に送付して実施している。また,測定値 高1.6 Bq/kg,クジラ類で最高3.5 Bq/kg に留まり,イ は当研究所に集め整理した後,速やかに水産庁,関 カ類,エビ類,カニ類,オキアミ類,海藻類などで 係自治体,関係漁業団体等に報告し,国や自治体か は,放射性セシウムは検出されなかった(検出限界 ら公表されている。 未満) 。なお,検出濃度を測定部位間で比べると, 全般に筋肉部が他の部位(肝臓部,精巣部,卵巣部 等)と比べて高い傾向がみられている。当研究所が 実施している水産庁委託事業の測定結果に加えて県 などが独自に測定した結果が,事故直後の2011年4 月から掲載されている水産庁ホームページ公表のデ ータ(http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/kekka.html, 水産物の放射性物質調査の結果について)によると, 図1 試料抽出 東日本太平洋側で採取された表層性魚(イワシ類, カツオ類,サバ類など)については,福島第一原子 * よこた みずろう 中央研究所 海洋生物グループ 力発電所の事故直後(2011年4月)を除くと,100 総括研究員 電 気 評 論 2014.6 46 図3 100 Bq/kg を超えた放射性セシウム濃度の検出率および検査検体数の月推移 Bq/kg を超えた検体はほとんど検出されていない は,依然として100 Bq/kg を超えるケースやそれに (図3)。また,中・底層性魚(カレイ類,タイ類, 近い値が検出されるケースがみられることから,食 タラ類など)については,事故から時間の経過とと の安全・安心の確保のために放射性物質の測定を継 もに,100 Bq/kg を超えた検体の検出率は着実に減 続して行う必要がある。 少している。しかし,中・底層性魚の一部の種類で 電 気 評 論 2014.6 47
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