夜の終焉

夜の終焉
先進国にまだ存在するのか甚だ疑問
だ。昔の天文学者の装備は天体望遠
鏡だけだったが、今ではまず車が必
人工照明の時代、自然の 要だ。暗い夜空を求めて、町から遠
く離れたところに行かなければなら
暗さを探す
ないのだ。望遠鏡はその次である。
ポール・ボガード
様 々 な 光 害 の 中 で、 ポ ール ・ ボ
ガードは都会上空のオレンジ色の部
分について書いている。また、夜遠
ブランカ・ヴァン・ハッセルト
く か らで も 見 える 広 告 看 板 、 駐 車
場、ガソリンスタンド、ショッピン
夜間、私たちの町や道路は明るく グモールのネオンサインにも言及し
照明されている。このことは安全に ている。これら公共の照明だけでは
関して重要である。統計によると、 なく、個人の照明も問題である。深
人が夜にどのくらい安全に感じるか 夜のやかましい騒音や音楽が規制さ
は、町の明るさ次第のようだ。しか れているのに、寝ている隣人のベッ
し、警備会社や警察の記録は、町の ドルームを、本が読めるくらい明る
照明と事件の件数には関係がないと く照らすことが許されるだろうか?
い う こ とを 示 して い る 。 『 夜 の 終 彼はまた “ 光の漏れ ” についても書い
焉』の著者であるポール・ボガード ている。「多くのランプは設計が不
は、自分の経験をこう書いている。 備で、光線が必要のない方角にも拡
「深夜、郊外の長いまっすぐな道を 散されてしまう。」だから彼は “ 漏
高速でドライブしている時に、車の れ”という言葉を使うのである。交差
ライトを消してみた。突然暗闇にな
点の照明は交差点を超えて、広告ネ
り、反射的に、時速数マイルにまで
オンサインは広告の狙いを超えて数
急速にスピードを落とした。周りは
キロに亘って光を放っている。多く
何も変わっていない。」同じ道であ
の照明は目的以上に明る過ぎる。著
る。何故彼は突然パニックに襲わ
書の中で、彼は2枚の写真を載せて、
れ、急に減速したのだろうか。
強すぎる光によって目が眩んで、危
夜の地球が宇宙からどう見えるか
険な状況や侵入者が見えないように
は良く知られている。大都会や大陸
なることを説明している。
沿岸部とその他の地域との明暗のコ
過剰照明の影響は計り知れない。
ントラストが際立っている。 2 0 0 1
-昆虫は夜、光に惹かれて明るいとこ
年 、 ア マ チ ュア 天 文 家 の ジ ョ ン ・
ろに群がる。そして、それらの虫を
ボートルは、夜空の暗さを 1 ∼ 9 (暗
食べる鳥が遠くから集まる。研究に
い∼明るい)のレベルで測るスケー よると、鳥は何十キロも離れた田舎
ル(ボートル・スケール)を作り出 か ら 明 る い 街 へ と 飛 んで く る ら し
した。彼は、夜空の実態を知って驚 い。田舎で農作物の害虫を食べる鳥
愕 し 恐 れ る 人 も い る だ ろ う が 、 ス がいなくなると、農夫は殺虫剤の量
ケールが光害問題について人々を啓 を増やさなければならない。
発するのに役立つことを期待したの
-照明された大都会の摩天楼、モニュ
だ。レベル 9 は夜の繁華街、レベル 7 メ ン ト な どの ラ ン ド マ ー ク の 周 り
は郊外と街の境界部、レベル5は郊外
の夜空―私たちはこれらの暗さを、
暗さの基本的な概念にしている。し
かし、ボートル・スケールは、私た
ちが見失っている暗さというものを
教 えてく れ る 。 実 際 、 殆 どの 欧 米
人、特に若年者は、レベル3の夜空の
暗さを滅多に、あるいは一度も経験
したことが無い。レベル3とは、「地
平線上にわずかに光が見える僻地の
夜空の暗さ」である。レベル 2 で
「真っ暗闇」、レベル1は、「銀河が
地上にくっきりと影を落とす暗さ」
である。そのような暗さが果たして
を、鳥たちが旋回しているという報
告がある。夜が明け、照明が消える
と、光に囚われていた多くの鳥は疲
れ切って地上に落ち、体力が回復す
るのに長い時間がかかる。
-夜勤の人が、ある種の癌にかかりや
すいことは良く知られている。人工
照明に晒されることと関係があるよ
うだ。
夜空がよく見えないので、多くの
人が満天の星や銀河の存在に気が付
かない。過剰照明によって、人類は
何千年にも亘って親しんできた宇宙
や自然から隔絶されてしまった。宇
宙についての認識は、重要な文化の
源であり、人間に神話を作らせ、そ
の精神に影響を与え続けて来た。ま
た、惑星や恒星の動きを分析し、太
陽系と銀河の中での地球の位置を理
解することで科学を発達させてき
た。そして今、光害問題が次第に認
識され始めている。いくつかの都市
では、害の少ない人工照明に切り替
え始めている。例えば、ロンドンで
は、国会議事堂の近くの町の中心地
が “ 古風 ” なガス灯で照明されるよう
になった。パリでは、光の技術者、
フランコ・ジョゼが、モニュメント
や橋の内部に光源を隠し、強い光が
外に拡散しないように工夫をした。
もしあなたが暗闇を経験したいな
ら、イギリス海峡のフランス側に浮
かぶサーク島に行くといい。そこに
は車もトラックも、夜の人工照明も
ない。サーク島では、人は夜、月明
かりを頼りに歩く。月が無い時は懐
中電灯を使う。目が暗闇に慣れる
と、身の回りに存在するものがより
たくさん見えてくる:鳥、キツネ、
あるいはねずみを捕まえているフク
ロウ。暗闇にいると、音に敏感にな
る。暗くて良く見えないと、聴覚が
研ぎ澄まされ、今まで聞いたことの
無い動物がたてる音、木を揺らす風
の音に気付くだろう。郊外の夜空で
は一握りの数の星しか見えないが、
真の暗闇では、満月の月面、無数の
星の煌めきを楽しめる。あるいは天
の川に照らされてできる自分自身の
影 を は っ き り 見 る こ と もで き る 。
ポール・ボガードは、本の中で、な
ぜエコツーリズムが “ 暗闇体験 ” を含
まないのか不思議だと述べている。
訳: 神村伸子(Nobuko Kamimura)
訳:神村伸子(Nobuko Kamimura)
I-News 102 February/March 2015 The Winter Issue
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