(公開学習 Ⅱ) 第2学年 B組 音楽科学習指導案 授業者 廣冨恵美子 音楽室 1 題材名 「君もオペラ歌手」~“聴く”から“表現する”へ~ 2 育成したい「たくましさ」と「しなやかさ」 音楽科において育成したい「たくましさ」とは,「多様な音や音楽のよさや特質について受容しようとする こと」,「しなやかさ」とは「多様な音や音楽に対して,自分とは異なる価値観も柔軟に受け止めようとする こと」であると考える。 音楽活動の基本は,まっすぐな心を持って多様な音や音楽作品と対峙することである。聴覚機能を通して伝 えられる「音や音楽」の世界の意味を知るためには,受け手である私たちが,まずはひたむきに,真摯に耳を 傾けることから始める必要がある。 その上で,音楽を形づくっている諸要素(音色・リズム・速度・旋律・強弱・形式・拍の流れやフレーズ・ 和声を含む音と音とのかかわりあいなど)を感受し,あわせて,音や音楽作品を作品たらしめている美的側面 (雰囲気・曲想・豊かさ・美しさなど)を感得するといった,高次の活動へと進めることが必要である。 つまり,「たくましさ」と「しなやかさ」は,音楽の諸活動をする際の心の状態というべきものであり,こ れらの育成によって,より主体的な学習活動を発展させることができる。 また, 主体的に学習に取り組む学習活動を積み重ねていくという合唱の活動は,まさに「たくましさ」と「し なやかさ」の両輪によって学習が展開されており,活動そのものが「たくましさ」と「しなやかさ」の育成で あり,より主体的な学習活動を発展させていくことができると考える。 3 授業構成 (1) 教師と教材 本題材は,新学習指導要領の第2学年及び第3学年の表現領域では「(1)ア 歌詞の内容や曲想を味わ い,曲にふさわしい表現を工夫して歌うこと」「イ 曲種に応じた発声や言葉の特性を理解して,それらを 生かしてうたうこと」鑑賞領域では「(1)イ 音楽の特徴をその背景となる文化・歴史や他の芸術と関連 づけて理解して,鑑賞すること」と位置づけられている。 日頃の歌唱活動では,その中心が「音取り」「音程を整える」「発音」「曲弱をつける」にとどまってし まいがちで, 歌詞の意味を深く考たり,歌詞を味わいながら歌う段階まで,意欲的に深められていないのが 現状であり課題である。その現状を抜け出し,さらには次のステップに進むためにも,歌曲を単なる「歌」 としてとらえるのではなく,その楽曲を作品たらしめている美的側面を感得し,さらに表現の技能を伸ばし, 創意工夫して表現する能力を育成したい。 本題材で扱う鑑賞教材 「アイーダ」は,ヴェルディ(1913-1901,伊)作曲のオペラの一つで,スエズ運 河開通を記念して立てられたカイロの歌劇場から委嘱を受けて作曲されたオペラで, 古代エジプトを舞台に, 戦乱に巻き込まれた恋人達の悲劇を壮大なスケールで描いた作品となっている。「歌」を演劇の大きな構成 要素に仕立て,バレエも効果的に取り入れられているこの作品は,彼の集大成といわれる作品である。 ドラマの展開と音楽の密接な結びつきに自らのオペラの本質を求めたヴェルディのオペラは,輝かしく明 快な「歌」がいつもその中心に据えられている。 「アイーダ」の中に出てくる“清きアイーダ”は,テノール歌手の独唱曲のアリアで,その役柄が自身の 胸の思いをロマンティックに歌い上げるアリアであり,“おお,我が故郷”は,ソプラノ歌手のアリアで, その役柄が故郷への思いを表現する歌曲である。 ベルカント唱法によるアリア“清きアイーダ” “おお,我が故郷”で知覚したことをもとに,その歌い方 に近づくように「真似る」や「工夫する」ことが,歌唱表現への意欲や技能の向上につながるのではないか と考えた。 本来ならオペラの名曲で歌唱表現にチャレンジすることも考えられるが,何年もの練習を経て作り出され るオペラの曲よりも,同じイタリアの文化である,カンツォーネの方が取り組みやすいのではないかと考え, “サンタルチア”を取り上げ,その一部分に限定して活動をすることが,ベルカント唱法へ近づくための表 現を工夫する活動がしやすいのではないかと考え,この歌曲を選んだ。 また曲の終わりの“サンタルチア”と歌い上げる部分の 2 小節を活動の中心として取り上げ,鑑賞活動か ら感じ取ったことを歌唱表現の工夫につなげる活動を展開することとした。そのためには,「鑑賞活動をい かに深めるか」という大変大きなテーマのもと,音楽の雰囲気といった抽象的なものを扱いながら,なるべ く具体的な活動を展開したいと考える。 また,「鑑賞」と「歌唱」の活動を互いに有効に関連させるために。授業の導入の仕方,学習活動の展開 の工夫を行いたい。 (2)子どもと教師 本校音楽科では,「たくましさ」と「しなやかさ」の育成を通して,生徒が様々な音や音楽と対峙し,主 体的にその音や音楽のよさや特質をとらえていく学習活動のあり方を研究しており,1時間単位の中でどの ような学習活動を中心として授業を構成し, どのように支援していけばよいのかを考えながら実践している。 本学年は,昨年,歌曲“魔王”のピアノの表現に着目した鑑賞の活動を通して,共通事項である音楽を形 づくっている諸要素や音楽的用語と関連させて,自分が感じたことに対して根拠を持って自分の言葉で伝え る学習を行った。 日頃の歌唱活動では,その中心が「音取り」「音程を整える」「発音」「曲弱をつける」にとどまってし まいがちで, 歌詞の意味を深く考たり,歌詞を味わいながら歌う段階までなかなか進めていないのが現状で あり課題である。また,生徒は楽曲の雰囲気を感覚的にとらえるこができるが,歌詞をなぞって歌う事に終 始しており,大きな声を出して歌おうと努力しているが,その現状で満足してしまっており,さらに高い表 現を意欲的・積極的に全身で行おうという生徒の数はまだ限られている。 自身の声は口腔や頭蓋骨に響くためか,それは自分の中では“できている“と実感していても,他者には 充分に伝わっていないことがよくある。そのためか,表現の意欲はあっても,生徒自身の自己満足で終わっ ているようにもとれ,さらに良くなるためのヒントや工夫を提示しても受け止める意欲が低く,聞き手に伝 えるように表現するにはまだまだ未熟であるととれなくもない。 第 2 学年の今年は,オペラ歌手による歌唱を聴き,その美しさの特徴(ベルカント唱法)を感得し,さら に表現の技能を伸ばし,創意工夫して表現する能力を育成するために「鑑賞」と「歌唱」を相互に関連させ た学習活動の展開を試みていきたい。 (3)子どもと教材 本学年は,昨年,校内文化祭の合唱コンクールに向けて, 自分たちが思う「よい合唱」をめざして取り組 む経験をした。また,異学年(上級生)の合唱を聴く機会や, 文化祭直前のプレ大会では同学年の合唱を聴 く機会もあり,さらに自分たちが「よい合唱」と思っていたもの以外の「よい合唱」のイメージを多角的・ 多層的に持つことができる。 そして練習をしていく中で, 自分たちの合唱がより質の高いものになり,こ れらを繰り返して「よい合唱」を作っていく活動を経験した。 本題材では,ベルカント唱法で歌われる声の魅力を味わい,その歌い方に近づくように「真似る」や「工 夫する」体験を通じて,今後の歌唱表現への意欲や技能の向上に生かしたいと考えた。 このように「たくましく」練習を展開し「しなやかに」次にどうしたらいいか考えるという繰り返しの中 に「たくましさ」と「しなやかさ」が共存しており,この「音楽練習⇔音楽探究の活動」こそが「たくま しさ」と「しなやかさ」であると考える。 そこで, まず自分なりにベルカント唱法の特徴に気づき,それをもとに自分がどのように「真似てみるこ と」や「工夫してみる」ことで,本物により近づいていけるよう工夫していく活動を行いたい。 男声と女声でも響かせやすい音の高さが違うので,特に女子生徒は自分の声が響かせやすい音域に転調し, また,一人では心細い生徒には,数人でグループを組ませるなどして学習に取り組ませたい。 4 題材の目標 ・オペラに興味を持ち,総合芸術としてのオペラの特徴を理解するとともに,ベルカント唱法による歌唱に 関心を持つことができる。 ・オペラ歌手の歌声を聞き,ベルカント唱法の特徴について理解することができる。 ・ベルカント唱法の発声や声の出し方を生かし,曲にふさわしい歌唱表現を工夫することができる。 5 学習計画(全4時間) 第1次 総合芸術としてのオペラを知る【鑑賞】1時間 第2次 オペラ歌手の発声・歌唱力に興味・関心を持ち,声を響かせて歌うためにはどうしたらいいかを考 え,工夫する(何をどう工夫すると同じように声が出せるのか)【鑑賞】1時間・・・本時 第3次 サンタルチア独唱【歌唱】1時間 第4次 サンタルチアを披露する【歌唱】1時間 6 本時の学習について (1)本時の目標 ・ベルカント唱法に関心を持ち,その雰囲気や特質を感受したうえで,歌唱表現を工夫することができる。 (2)期待される生徒の様相 A 声を響かせるための表現の仕方を工夫して歌うことができる。 B 声を響かせるための表現を工夫しようとすることができる。 C 声を響かせるための表現の仕方を理解することができる。 (3)本時の展開 学 習 活 動 教 師 の 支 援 ・ 意 図 1 前時の学習を思い出し,本時の学習内容 ○前回の授業で,生徒から出た感想や意見を紹介する。 を知る。 ○本時はオペラ歌手の歌声に着目することを伝える。 2 オペラ歌手の歌声にはどのような特徴 があるかに注意しながら,アリア「清きア ○男声の歌手だけでなく,女性の歌手の歌声も鑑賞し,男女 ともに興味を持って鑑賞できるようにする。 イーダ」と「おお,わが故郷」の2曲を鑑 賞する。 どんな工夫をするとオペラ歌手のように歌えるだろう 3 オペラ歌手の歌声の特徴について意見 ○どんな特徴があったか,生徒の発表を板書する。 を出し合う。 4 何をどう工夫したら,オペラ歌手と同じ ○特徴ごとに,生徒から出された意見を板書する。 ように,声を響かせて歌えるのか考える。 5 実際に声を出しながら,オペラ歌手と同 ○全員で,「姿勢」「息の吸い方」など,比較的取り組みや じように歌えるか工夫し,各自の表現力を すいことから挑戦する。 向上する。 6 本時のまとめと次時の予告 ・みんなで歌ってみる。 ・次時の学習内容を知る。 ○「サンタルチア」の最後の2小節を各自が披露することを 伝える。
© Copyright 2025 ExpyDoc