がん患者さん・ご家族と 医療者のコミュニケーション 集

がん患者さん・ご家族と
医療者のコミュニケーション
集
Q&A
第3版
contents
❶ 患者さんが望むコミュニケーション SHARE
3ページ
❷ 治療の段階別コミュニケーション(共通、がんの診断、再発/進行・抗がん治療の中止、終末期)
8ページ
❸ 難しいケースのコミュニケーション(うつ、せん妄、怒り、希死念慮など)
22ページ
❹ ご家族への対応
27ページ
❺ 医療チーム間のコミュニケーション
30ページ
❻ コミュニケーションの学習法
32ページ
監修:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
精神神経病態学教室 教授 内富 庸介 先生
このQ&A集の内容を許可なく、
複製・改編・転載することを禁じます
はじ め に
がん患者さんとそのご家族の声が反映されたがん対策基本法の理念の下、患者さんの意向を尊重した医療を提供する
ことが望まれている。社会におけるライフスタイルの多様化が進み、患者さんのがんへの向きあい方も変化し続けている。
このような環境の変化に呼応し、患者さんが望む医療を提供していくためには、患者さんの声に真摯に耳を傾け、患者−医療者
の関係、特にコミュニケーションのあり方が、がん医療において問われている。
患者さんの状況に応じた治療やケアを続ける上では、患者さんの声に耳を傾け、治療やケアの目標、方向性を共有して
おくことが大切である。
人の心の機能は、知識の「知」、感情の「情」、そして意識・意思の「意」という3つの言葉でよく表される。それに対し、がん
においてさまざまな局面で重要なコミュニケーションの1つであるインフォームドコンセントは「説明と同意」と訳されて
おり、並べてみると「情」の部分、すなわち気持ちへの配慮の部分がすっぽり抜けているのがわかる。がんは、その後の人生を
根底から揺るがし、将来への見通しを大幅に変更させうる病気であるため、患者さんはさまざまな局面で気持ちが揺れ動く。
この時医療者に求められることは、患者さんの話、これまでの道程を充分に傾聴し、共感を通して患者さんの気持ちに寄り
添うことである。医療者は、知識の曲解や誤解があればもう一度後戻りして、患者さんの置かれた状況を踏まえて理解の
道筋を是正し、最終的に患者さんから同意を得るという、患者さんの意向を十分踏まえ、気持ちへ配慮したプロセスを一緒に
歩むことが望まれる。
実際に、医療者は患者さんとの様々な難しいコミュニケーションの場面に直面している。ここでは、患者・家族−医療者間
のコミュニケーションにおいて直面する課題について、そのあり方をQ&Aとして紹介していく。
本企画が、医療者の直面する課題解決の道しるべとなり、患者−医療者間のより良いコミュニケーションにつながってい
くことができれば幸いである。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 精神神経病態学教室
教授 内富
[執筆・協力]国立がんセンター東病院 臨床開発センター 精神腫瘍学開発部
小川 朝生 先生* 藤森 麻衣子 先生* 山田 祐 先生* 白井 由紀 先生* 高橋 幸子
庸介
先生*
国立がんセンター東病院 緩和医療科
木下 寛也 先生*
国立がんセンター中央病院 精神腫瘍科
清水 研 先生**
大阪医科大学 神経精神医学教室
二宮 ひとみ 先生**
国立病院機構 金沢医療センター 精神科・緩和ケアチーム
小室 龍太郎 先生***
国立がん研究センター東病院 臨床開発センター 精神腫瘍学開発部
近藤 享子 先生***
Q&Aの質問の作成について
アストラゼネカ開催のセミナーにご参加いただいた医療者
(約2,800名)
のアンケートから抽出し、
質問を設定しています。
本誌は、
アストラゼネカ医療者向けウェブサイト
(MediChannel)
上で、
ご覧いただくことも可能です。
MediChannel URL http://med.astrazeneca.co.jp/
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Copyright © 2011 AstraZeneca, All Rights Reserved.
※所属は執筆当時
* 第1版 2008年
** 第2版 2009年
*** 第3版 2011年
❶ 患者さんが望むコミュニケーション SHARE
Q1-1 SHAREとは?
SHAREとは、がん医療において、医師が患者さんに悪い知らせを伝える際の効果的なコミュニケーションを実践するため
の態度や行動から構成されています。患者さんの意向に関する調査の結果から得られた4 つのカテゴリー( Supportive
environment支持的な場の設定、How to deliver the bad news悪い知らせの伝え方、Additional information
付加的な情報、Reassurance and Emotional support安心感と情緒的サポート)を踏まえて作成されたものです。
P4∼7 参照
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.11-22, 2007
Q1-2 告知でSHAREを用いる場合、どれくらいの時間が必要でしょうか?
時間の目安はありません。患者さんにとって十分な時間が必要です。十分な時間とは人それぞれ、また面談ごとに異なり
ます。コミュニケーション・スキルを用いると、ある程度時間(15分から20分程度)はかかります。しかしコミュニケーション・
スキル・トレーニングの有効性を検討した研究では、コミュニケーション・スキルを使用しても面接時間は長くならないこと
が報告されています。
●
Jenkins V. & Fallowfield L.: J Clin Oncol. 20
(3)
: 765-9, 2002
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3
SHARE 文例
S:場の設定 H:悪い知らせの伝え方 A:付加的情報 RE:情緒的サポート
準備:重要な面談であることを伝える
プライバシーが保たれる場所(直接会っ
て伝える)、十分な時間を確保する
(電話
が鳴らないようにする)
大部屋のベッドサイドやカーテンで仕切られているだけの
外来はできるだけ避け、
面談室を使う
忙しい外来時間を避ける
あらかじめ電話を他の人に預ける
面談の始めに患者に断る。電話が鳴った場合、患者に
断ってから、電話に出る
検査結果が出揃って、最終的な判断 「7日後に検査結果が出揃い、当院の呼吸器グループで
が出るのが次回の面談であることを患 ミーティングした結果をお話しすることができますので、次の
面談は7日後の○月○日はいかがでしょうか」
など
者に伝える
「次回は検査結果をお伝えする重要な面談ですので、
ご家
族の方などどなたかご一緒にいらっしゃっていただくこともで
次回の面談は重要なので、家族など他 きます」
の人が同席できることを伝える
S
「おひとりでも結構ですが、心細いようであればご家族に同
席していただいてもかまいませんよ」
など
S
H
基本:面談中常に気をつけること
初対面のときには自己紹介する
礼儀正しく患者に接する
面談室に患者が入ってきたら挨拶をする
S
患者の目や顔を見て接する
S
患者に質問を促し、
その質問に十分答
「ご質問はありますか?」
える
H
患者の言葉を途中で遮ること
患者の質問にいらいらした様子で対応
しない
貧乏ゆすり
ペンを廻す
S
マウスをいじる、
など
●
4
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.巻頭巻末付録, 2007
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SHARE 文例
S:場の設定 H:悪い知らせの伝え方 A:付加的情報 RE:情緒的サポート
STEP1:面談を開始する
(患者が面談室に入ってから悪い知らせを伝えるまで)
起
身近なことや時節の挨拶、患者の個人的な関心事などに
ついて一言触れる
大事な話の前には患者は緊張している
などのノンバーバル・コミュニケーション
ので、患者の気持ちを和らげる言葉を 表情(微笑む)
「最近寒いですが風邪は引いていませんか?」
かける
「暑い日が続いていますが、夜は眠れていますか?」
RE
「ずいぶん長くお待たせしましたね」
など
「前の病院の先生からはどのような説明を受けましたか?」
「病気についてどのようにお考えですか?」
「前回お会いしたときの説明をどのようにご理解していらっ
しゃいますか?」
病状、
これまでの経過、面接の目的に 「初診のときの話について、その後どのように感じました
ついて振り返り、患者の病気に対する か?」
「前回お話したことについて、
おうちに帰ってからどんな風
認識を確認する
H
に感じましたか?」
「今一番のご心配は何ですか?」
「家に戻られてから奥様にはどのようにお話しましたか?」
「治療効果について、
ご自分ではどのように感じています
か?」
など
視線を向ける
家族に対しても患者と同じように配慮
する
家族が突然発言したときには、後で十分答える準備がある
ことを伝えるなど
RE
患者に、家族に対しても配慮していることを認識してもらう
ことが重要である
他の医療者(例えば、他の医師や看護 「看護師の○○を同席させてもよろしいでしょうか? 面談
師)
を同席させる場合は、患者の了承を 後にわからないことなどありましたら、何でも結構ですので、 S
私か○○にお話ください」
など
得る
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.巻頭巻末付録, 2007
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SHARE 文例
S:場の設定 H:悪い知らせの伝え方 A:付加的情報 RE:情緒的サポート
STEP2:悪い知らせを伝える
承
「大切なお話です」
「お時間は十分ありますか」
「予想されていた結果かもしれませんが」
悪い知らせを伝える前に、患者が心の準 「少し残念なお話をしなければならないのですが」
備をできるような言葉をかける
「気になっている結果をお話します」
RE
「一番ご心配されていたことをこれからお話します」
家族の同席を勧める「今日はご家族にご一緒に来ていた
だきましたが」
など
悪い知らせをわかりやすく明確に伝える
「率直に申し上げますと」
など
H
沈黙の時間をとる、患者の言葉を待つ
患者が感情を表に出しても受け止める
気持ちを聞く
RE
オープン・クエスチョン
「今、
どのようなお気持ちですか?」
「つらいでしょうね」
悪い知らせによって生じた気持ちをいた
「混乱されたでしょうか」
わる言葉をかける
RE
「驚かれたことでしょう」、
「大丈夫ですか?」
など
H
実際の写真や検査データを用いる
「ご理解いただけましたか?」
患者に理解度を確認しながら伝える
今の話の進み具合でよいか尋ねる
後から質問ができることや看護師にも質問できることを伝
える「わからないことがありましたら、後からでも結構です
からご質問ください。看護師に聞いていただいてもかまい
ません」
「話ははやくないですか?」
「はやいと感じたら、
いつでもおっしゃってください」
など
病状(例えば、進行度、症状、症状の原
因、転移の場所など)
について伝える
質問や相談があるかどうか尋ねる
●
6
H
H
H
「何かご質問はありますか?」
など
H
専門用語を用いた際には患者が理解し
ているか尋ねる
H
紙に書いて説明する
H
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.巻頭巻末付録, 2007
Copyright © 2011 AstraZeneca, All Rights Reserved.
SHARE 文例
S:場の設定 H:悪い知らせの伝え方 A:付加的情報 RE:情緒的サポート
STEP3:治療を含め今後のことについて話し合う
転
患者の今後の標準的な治療方針、選択
肢、治療の危険性や有効性を説明した
うえで、推奨する治療法を伝える
A
「治癒は非常に難しい状況で、今の生活を如何に保つか
が今後の目標です」
がんの治る見込みを伝える
患者が他のがん専門医にも相談できる
こと
(セカンド・オピニオン)
について説明
をする
誰が治療選択に関わることを望むか尋
ねる
A
A
患者本人がひとりで決める
医師にまかせる
A
家族、医師と一緒に決める、
など
患者が希望をもてるように、
「できない 「がんをやっつける治療よりも、痛みをとる治療に重点をお
きましょう」
など
RE
こと」
だけでなく
「できること」
を伝える
抗がん治療以外にも可能な医療行為があることを伝える
「痛みが取れます」
患者が希望をもてる情報も伝える
「治療効果が期待できます」
RE
「新薬が来年承認される予定です」
など
患者が利用できるサービスやサポート
(例えば、医療相談、高額医療負担、訪
問看護、
ソーシャル・ワーカー、
カウンセ
ラー)
に関する情報を提供する
A
患 者のこれからの日常 生 活や仕 事に 「例えば、
日常生活やお仕事のことなど、病気以外のことも
含めて気がかりはありますか?」
ついても話し合う
A
STEP4:面談をまとめる
結
要点をまとめて伝える
(サマリーを行う)
H
説明に用いた紙を患者に渡す
H
「私たち診療チームはあなたが良くなるように努力し続け
今後も責任をもって診療にあたること、 ます」
「今後も責任をもって診療にあたります」
見捨てないことを伝える
RE
「最善を尽くします」
など
患者の気持ちを支える言葉をかける
●
「大丈夫ですよ」
「一緒にやっていきましょうね」
など
RE
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.巻頭巻末付録, 2007
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❷ 治療の段階別コミュニケーション
(共通、がんの診断、再発/進行・抗がん治療の中止、終末期)
共通
Q2-1 限られた診療時間の中で行える、患者さんとのコミュニケーションはありますか?
コミュニケーション・スキル・トレーニングの有効性を検討した研究で、コミュニケーション・スキルを使用しても面接時間
は長くならずにスキルが増すことが示唆されており、時間が限られていても可能な範囲で行おうとする姿勢は大切です。
ただし、臨床のすべての患者さん、すべての面談において、SHARE* の 4 つの構成要素を全部取り入れようと考えるのは
非現実的です。難治がんの告知など、悪い知らせを伝えるような重要な面接では、沈黙を適切にはさむなど、SHARE の
4つの要素を可能な範囲で取り入れることを心がけましょう。その他の通常診察の際には、礼儀正しく挨拶するなどの基本
的なスキルなどを取り入れるとよいでしょう。
*:①患者さんが望むコミュニケーション SHARE 参照
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.44-45, 2007
Q2-2 患者さんとのコミュニケーションのきっかけをつくる、会話のコツはありますか?
患者さんと医療者との会話には基本構造があり、それを理解することで会話を効果的かつ満足できるように進めること
( 2 )質問すること、
( 3 )効果的に傾聴すること、
( 4 )聞いていることを示す
ができます。基本構造は、
( 1 )聞くための準備、
こと、
(5)応答すること、の5つの要素から成ります。
(2)は「はい」
「いいえ」でしか答えられ
具体的には、
(1)は面談を始める前に自己紹介することや時候の挨拶をすること、
ない閉じられた質問ではなく、
「ご気分はいかがですか?」などの自由に答えられる開かれた質問をすること、
(3)は適切に
( 5 )は感情に配慮し「つらいのですね」という
相槌をうつこと、
( 4 )は患者さんの言葉を反復したり言い換えたりすること、
言葉をかけるような共感的な応答をすることなどが挙げられます。
●
Buckman R: How to break bad news; a guide for health care professionals. Westwood Creative Artists,1992. 恒藤暁, 他訳:真実を伝える−コミュニケー
ション技術と精神的援助の指針.診断と治療社.40‐62, 2000
Q2-3 患者さんの心の変化が、どのような段階にあるのかわかる方法はありますか?
患者さんの心の変化を知るために、特別な方法はありません。その一因として、患者さんの心の変化は、場面ごとに異なり
さまざまな形で混ざりあって表れることが挙げられます。患者さんの死へのプロセスとして、Kübler-Ross 博士が提唱し
( 1 )否認、
( 2 )怒り、
( 3 )取り引き、
( 4 )抑うつ、
( 5 )受容がよく引用されますが、実際にはこのプロセスを
た5 つのプロセス、
順を追って経験する訳ではないことも広く知られています。患者さんの変化する心情について知るためには、会話中の
言葉だけでなく、患者さんの眼差しや表情、また態度を注意深く観察することが必要です。
●
Buckman R: How to break bad news; a guide for health care professionals. Westwood Creative Artists,1992. 恒藤暁, 他訳:真実を伝える−コミュニケー
ション技術と精神的援助の指針.診断と治療社.30‐32, 2000
Q2-4 患者さんの意向を知るために、どのようなスキルを用いて、どのように実践する必要がありますか?
悪い知らせを伝えられる際の患者さんの意向を知るためには、SHAREを用いた面接が有用です。すべての患者さんが
望むコミュニケーションが存在する一方で、患者さんごとに意向が異なるコミュニケーションも存在するため、個々のニーズ
に沿ったコミュニケーションの実践が望まれます。
わが国での研究で、意向が分かれるコミュニケーションとしては、
「余命についても伝える」
「淡々と伝える」
「悪い知らせ
を少しずつ段階的に伝える」
「その知らせの内容が不確実な段階であっても、悪い知らせを伝える」
「断定的な口調で伝える」
などがあると報告されています。
具体的な方法としては、例えば余命に関していきなり話題にするのではなく、
「これからの計画がおありでしたら教えて
ください」
「気がかりなことは?」などと尋ねることで患者さんの意向を知ることができます。さらに詳しく学びたい場合
は、コミュニケーション技術研修会などに参加し教科書などを読んで知識を得た後、ロール・プレイを通して実践的に学ぶ
のもよい方法です*。
*:Q1-2、Q6-1∼5 参照
●
8
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.11‐22, 巻末資料, 2007
Copyright © 2011 AstraZeneca, All Rights Reserved.
❷ 治療の段階別コミュニケーション
Q2-5 患者さんの本当の気持ちを聞くための方法はありますか?
日常的な人間関係においても、はじめから打ち解けて話すことは難しい方が多いのではないでしょうか。まして、医療の
場において、悪い知らせを伝えられる場面では、患者さん自らが感情を表出することは容易なことではないと考えられます。
「本当の気持ち」というと難しいですが、患者さんの気持ちを知る上で、こちらが患者さんの気持ちに関心を持っていること、
聞く準備があることを伝えるスキルは役立つと思われます。
具体的には、オープン・クエスチョンを用いる、患者さんに話してもらうよう促す、患者さんの個人的な関心事を話題にする、
患者さんの感情表出があった際、十分に沈黙をとったり患者さんの気持ちを自分の言葉で言い換えて伝えたりして共感的
に接する、
「おつらいでしょう」などと悪い知らせにより生じた気持ちをいたわる、
「つらいお気持ちを少し話してみていた
だけませんか?」と気持ちを探索するなどの対応が役立つものと考えられます。
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.16‐17, 2007
Q2-6 悪い知らせを伝えた後の患者さんへのフォローやコミュニケーションは
どのようにしたらよいのでしょうか?
悪い知らせを伝えられた直後には、患者さんは大きな心理的衝撃を受けており、
「否認」という防衛機制により医師の説明
を覚えていないことも少なくありません。まずは気持ちに十分配慮しましょう。SHARE* の RE(安心感と情緒的サポート
の提供)のスキルを用いることが有用です。また、その後の初期治療、
リハビリ、場合によっては再発、進行などの各局面で、
うつ状態や不安、不眠、食欲低下などを生じることも考えられるため、医師や家族、その他の医療者などからの継続的な
心理的サポートは不可欠です。じっくりと患者さんの話(特に気がかり、心配について)
を聞き、心身の変化を継続的に見守り、
適宜対応することが大切ですが、2週間を超えて持続する場合や日常生活への支障が大きい場合は適宜精神科医への紹介
も検討が必要です。
*:①患者さんが望むコミュニケーション SHARE 参照
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.19, 36‐43, 2007
Q2-7 治療中の患者さんとは、どのようなコミュニケーションを継続していく必要がありますか?
がんの治療は、がん種や進行度によりさまざまであり、患者さんの苦痛や不安の内容も多岐にわたるため、患者さんの
身体的・心理的・社会的状態、受けている治療の種類、起こりやすい副作用などをよく把握した上で接することが必要です。
がんの治療に対して、つらい、生命を縮めかねない危険なものというネガティブなイメージを抱く患者さんも少なくなく、
初期治療導入時や治療変更時などは特に不安が高まりやすいと考えられ、注意を要します。治療法、副作用の可能性および
その対策をあらかじめ伝えることで予期不安やそれに伴う身体愁訴の軽減を図りつつ、実際生じた不安や苦痛に対して
は、患者さんの感情表出を共感的に受け止めることが有用です。
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.38‐39, 2007
Q2-8 余命や予後に関する応対に困る質問を受けた場合、その質問に答えるべきでしょうか?
また答える場合は、どのように対応したらよいのでしょうか?
まず、患者さんが余命や予後を知りたい理由を確かめる必要があります。多くの場合、具体的な期間を知りたいわけでは
なく、背景に不安や気がかりが存在します。それを上手に言語化できないために、結果的に余命や予後の質問になると考え
られます。そのような場合は、質問の背景にある不安や気がかりについて話し合うと解決することもあります。また身辺
整理ややりたいことができるなど、患者さんにとってベネフィットが多いと判断でき、またそれを患者さんが望んでいることが
確認できたら、それを達成するために必要な体力、サポート体制、期間など総合的に考慮し、どの程度達成可能かを話し
合います。その場合には、SHARE* のスキルに基づき4 つの要素を用い、患者さんの気持ちに十分に配慮しながら伝える
ことが重要です。
*:①患者さんが望むコミュニケーション SHARE 参照
●
Buckman R: How to break bad news; a guide for health care professionals. Westwood Creative Artists,1992. 恒藤暁, 他訳:真実を伝える−コミュニケー
ション技術と精神的援助の指針.診断と治療社.117‐124, 2000
Copyright © 2011 AstraZeneca, All Rights Reserved.
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❷ 治療の段階別コミュニケーション
Q2-9 具体的にどのようにして、共感すればよいのでしょうか?その方法やスキルはありますか?
共感するスキルは、患者−医療者間の基本的なコミュニケーションに分類され、具体的には以下の3つのスキルが挙げら
れます。
(1)患者さんの気持ちを繰り返す:患者さんの気持ちを自分の言葉に置き換えて繰り返すことにより、患者さんの
気持ちを理解していると示すことが可能となります。また患者さんの気持ちを確認することにもなります。
(2)沈黙を積極的
に使う:数秒の沈黙の時間をとることにより、患者さんが気持ちを整理する時間を与えることになります。
( 3 )患者さんの
気持ちを探索し理解する:患者さんが黙っていたり平然として見えるからといって動揺していないとは限りません。患者さん
の気持ちを見た目だけで判断せず、患者さんの心理的な状態が不明瞭な場合は、
「どのようなお気持ちですか? 教えて
いただけますか?」と直接聞く方法もあります。
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.44-45, 2007
Q2-10 患者さんと接する際に、日本人においては患者さんへ触れることは有効でしょうか?
国立がんセンター東病院に通院中の患者さんを対象に行った「悪い知らせを伝える面談時の医師のコミュニケーション
に対する患者さんの意向」の研究では、医師が患者さんの手や肩に触れることを望む人は 6.7 %、どちらでもよい人は
34.6%、望まない人は58.8%という結果であり、日本人では望まない人が多いことが示されています。なお、米国において
も同様に、患者さんの意向調査の結果、医師が患者さんの「手や肩に触れる」ことへの意向が 46 項目中最も低いことが
示されています。
●
Fujimori M, Parker PA, Akechi T, Sakano Y, Baile WF, Uchitomi Y.: Japanese cancer patients' communication style preferences when receiving
bad news. Psychooncology. 2007; 16
(7)
: 617-25.
●
Parker PA, Baile WF, de Moor C, Lenzi R, Kudelka AP, Cohen L.: Breaking bad news about cancer: patients' preferences for communication. J
Clin Oncol. 2001; 19
(7)
: 2049-56.
Q2-11 どのように言葉をかけたらいいか見当たらず傾聴だけに終わることもあります。
コミュニケーションをつないでいくために、傾聴のポイントや傾聴の中で考えておくべきことはありますか?
医療者の立場になると、傾聴しているだけではコミュニケーションを図っているように思えず、患者さんへ温かい言葉を
ついついかけたくなるものですが、このような場面では、かける言葉がなくても、しっかり沈黙を挟んで傾聴することで
十分に患者さんに安心感を持っていただけることにつながります。患者さんの話を最後まで遮らずに静かに耳を傾けること
は「あなたの話をすべて聴く用意がありますよ、聞いていますよ」というサインになり得ます。患者さんの目や顔をよく
見て、うなずきながら聞くことがポイントです。
●
Buckman R: How to break bad news; a guide for health care professionals. Westwood Creative Artists,1992. 恒藤暁, 他訳:真実を伝える−コミュニケー
ション技術と精神的援助の指針.診断と治療社.47‐49, 2000
Q2-12 傾聴や共感を行うことは、患者さんに対してどのような影響をもたらすのでしょうか?
傾聴や共感を行うことによって、患者さんは自分の感情を無条件に受け入れられていると感じて癒され、信頼関係が
芽生え、安心して打ち明けられるようになる第一歩になります。医療者との関係を通して安心感を得ることによって、コミュ
ニケーションが一層豊かになり、患者さんの精神的苦痛の軽減や医療への満足感の向上などにつながると考えられます。
●
Buckman R: How to break bad news; a guide for health care professionals. Westwood Creative Artists,1992. 恒藤暁, 他訳:真実を伝える−コミュニケー
ション技術と精神的援助の指針.診断と治療社.37‐64, 2000
Q2-13 自分の意志を示さずに医療者にすべてを任せるような患者さんとは、
どのようなコミュニケーションをとることが望まれますか?
戦前生まれの高齢者ではよくある意向です。医師がすべて決めるものだという時代の反映で、尊重されるべきものかも
しれません。また、実際にご自身の意向をはっきりと出さない、出したがらない患者さんもおられます。その場合、まず大事
にしなければならないことは、
「どうして意志を示さないのか、示したくないのか」、背景にある理由を確認することです。
信頼している医療者に任せることに満足している場合もあれば、医療者や家族に遠慮して意志を示すことをためらって
いる場合もあります。その理由を確認し、対処を進めていきます。その上で、いつでも希望があれば、意向を示してほしい
ことを伝えます。
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❷ 治療の段階別コミュニケーション
Q2-14 日常の業務の中で、患者さんにどこまで寄り添ってフォローを続け、
話をしていけばよいのでしょうか?
日常業務の可能な範囲で寄り添っていただければよいと思います。ある程度時間を決めて、それ以外の時間には考えすぎ
ないことも、医療者自身の健康の維持や燃え尽きの予防として大切です。時間的に困難な場合には、チームの医療者(看護師
や心理士)を紹介することも有用です。また、精神的に脆弱な患者さんだと思われた場合には精神保健の専門家に相談して
みることも一つです。
Q2-15 個人的に相談を希望される患者さんから、メールアドレスや連絡先を求められた際はどのように
対応したらよいのでしょうか?
個人的な連絡先は教えられないことを伝え、病院の連絡先を提示します。そして、勤務中には対応可能なこと、それ以外
には他の医療者が対応することを伝えます。それでも、個人的な連絡先を求める患者さんがいた場合には、一人で抱え込ま
ずに、上司やリスクマネージャーなど病院関係者や第三者に相談しましょう。
Q2-16 時間がとれない中で患者さんとのコミュニケーションが長引く場合、話の終わりや区切りをつける
タイミングに悩むことがあります。どのように対応したらよいのでしょうか?
忙しい日常業務の中で、患者さんの話をじっくりと聞く時間をとれないことがあります。そんな時は、途中でまとめたり
無理に話を切り上げようとせず、
「申し訳ありません、他のお部屋をまわってから伺いますので一旦失礼いたします」と断り
を入れ、
「明日また聞かせてくださいね」
「○時くらいにまた伺ってもよいですか?」など、次につながる声掛けをすること、
また口約束ではなく、それを実行することが大切です。
ただし、患者さんの様子や置かれている状況を考慮し、機を逸さず患者さんの話を聞き、必要なサポートを提供すること
が重要となる時もあります。必要時は代行可能業務を他のメンバーが行うなど、
「チーム単位で患者さんをケアする」という
認識を日頃からチームで共有することも大事でしょう。
Q2-17 がん医療における患者さんとの対応において、医療者自身が疲弊しないための方法や
工夫は何かありますか?
頑張りすぎないことです。もちろん目の前の患者さんに対して、一生懸命対応することは大切です。ある程度時間を決め
て、それ以外の時間には考えすぎないことも、医療者自身の健康の維持や燃え尽きの予防として大切です。チーム医療を
実践し、他の医療者(看護師や心理士)の助けを借りることも有用です。時に同僚と愚痴を語り合い、ストレスを発散しま
しょう。また、コミュニケーション・スキルを学習し、患者さんとの対応策を知っておくことも有効です。コミュニケーション・
スキルのトレーニングを十分受けたと回答した医師に比べ、不十分だったと回答した医師の燃え尽きが高いことが報告
されています。
●
Ramirez AJ, Graham J, Richards MA, Cull A, Gregory WM, Leaning MS, Snashall DC, Timothy AR.: Burnout and psychiatric disorder among
cancer clinicians. Br J Cancer. 1995 Jun; 71
(6)
: 1263-9.
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❷ 治療の段階別コミュニケーション
がんの診断
Q2-18 患者さんが告知を希望しない場合、どのように対応したらよいのでしょうか?
悪い知らせを伝える際は、患者さんの意向を伺いつつ行うことが重要です。特に、告知に関しての考え方については、
できれば事前に確認しておきたいところです。患者さんが告知を希望しないという意志をはっきりと表明している場合、
その意志は尊重しなければなりません。
しかし、一方で、患者さんが自身の病状や治療について十分な情報を得る権利を持っているという認識を患者さんと共有
することも大切です。伝えること/伝えないことのメリット/デメリットを話し合った上で、再度、告知の希望を話し合います。
告知を希望しない理由を尋ねたり、現時点で聞きたくなくても今後希望があればいつでも説明できることを伝えたりする
といった配慮も、今後の良好な治療関係につながると言えるでしょう。
●
Faulkner A, Maguire P: Talking to Cancer Patients and Their Relatives. Oxford University Press, 1994. 兵頭一之介, 江口研二訳:がん患者・家族と
の会話技術. 南江堂. 69, 2001
Q2-19 告知しないことが望ましい患者さんやケースはありますか?
告知を「しないことが望ましい」ということは基本的にはありません。ただし、
「告知」にはさまざまな情報が含まれており、
すべてを一度に伝えることが必ずしも望ましいとは言えません。患者さんが何をどの程度知りたいかという意向への配慮、
またどのように伝えるかについての配慮も必要です。
また、患者さんの認知機能、理解力、精神状態などに問題があるケースでは、いつどのように伝えるかということに関して
特に注意を要します。判断に迷うケースについては精神科へのコンサルテーションや、各診療科や病棟、緩和ケアチームの
カンファレンスなどで意見を交換し、検討するのも一つの方法でしょう。
Q2-20 未告知の患者さんとは、どのように接すればよいのでしょうか?
「未告知」の状況としては、
(1)診断確定前もしくは確定直後の受診前、
(2)告知を患者さん本人が拒否、あるいはその他
の理由で診断確定後も未告知が考えられます。
(1)の場合、患者さんがどの程度深刻な事態を予測しているかを知り、告知への心の準備をサポートすることが大切です。
( 2 )では患者さんの複雑な気持ち、家族など周囲の複雑な思惑の関与、医療者側の真実を伝えていない後ろめたさから
患者さんとの接触を避けることなどが危惧されます。
担当医の立場で関わる場合には基本的に告知の方向で対応し* 、それ以外の立場で関わる場合は、気がかりについて
尋ね患者さんの気持ちを理解し、共感を示し、気持ちを和らげるようなコミュニケーションを続けるとよいでしょう。また、
患者さんが担当医に対し告知を拒否する一方、他の医師やコメディカルから真実を聞き出そうとすることもあるため、あら
かじめチーム内で見解や対応を統一しておくことも大切です。
*:Q2-18、19 参照
●
Buckman R: How to break bad news; a guide for health care professionals. Westwood Creative Artists,1992. 恒藤暁, 他訳:真実を伝える−コミュニケー
ション技術と精神的援助の指針.診断と治療社.205‐207, 2000
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.11‐24, 2007
Q2-21 告知の場面で、患者さんがどこまで知りたいのか、その意向はどのように確認したらよいのでしょうか?
悪い知らせを伝える際、
「患者さんがどの程度知りたいか」を尋ねることで、病気が深刻であることを示唆したり不快感を
引き起こしたりするのではと懸念する医療者も少なくありません。しかし、患者さんと医師が情報を共有しない方が患者
さんの苦痛が大きいとする研究や、知ることを望む患者さんの比率は75∼97%という報告もあります。これらからも、意向
を尋ねられることを希望する患者さんも多く、また、告知を望まない患者さんが否認する機会を奪われたり患者さんの苦痛
が増したりすることも考えにくいようです。
基本的には詳しく伝えることを前提とし、具体的には、話の途中で「ここまではご理解いただけましたか」
「質問はないで
すか」
「話の進み具合が速すぎませんか」
「次に進んでよいですか」
「今日はここまでにしますか」などと質問しながら進める
ことで、患者さんの知りたい情報量を知ることもできます。
12
●
Buckman R: How to break bad news; a guide for health care professionals. Westwood Creative Artists,1992. 恒藤暁, 他訳:真実を伝える−コミュニケー
ション技術と精神的援助の指針.診断と治療社.73‐78, 2000
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.14-15, 2007
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❷ 治療の段階別コミュニケーション
Q2-22 告知したにも関わらず、告知自体を忘れた患者さんへの再告知では、
どのような点に留意し進める必要がありますか?
告知自体を患者さんが忘れるという現象については、大きく分けて(1)健忘のために告知を覚えていない場合、
(2)医療
者は告知と考えても、患者さんが告知と捉えていない場合、
( 3 )強度の否認のために“覚えていない”という言葉で表現す
る場合、の3つを考える必要があります。
(1)は健忘の原因として認知症やせん妄などの精神疾患を合併していないか鑑別し、本人の見当識に問題がないか確認
する必要があります。
(2)は「病気についてどのようにお考えになりましたか」などと患者さんの病状認識を再確認すると同時に、自身の言葉や
態度も振り返り、曖昧な伝え方をしていなかったか、患者さんの理解度を確認せずに一方的に話をしていなかったかなど、
認識が乖離した理由を明らかにし、次に話す際はその点に留意しながら伝えるとよいでしょう。
(3)は悪い知らせを受け入れることへの拒絶であり、強い防衛機制が働いていると考えられます。一方、否認は圧倒的な
脅威に対する防御反応であるという理解も大事です。したがって、否認への応答の仕方としては、否認の防衛機制をチーム
で理解し、また患者さんが悪い知らせに正面から対処するための準備が整うまで否認を尊重しましょう。これらを踏まえて
再度告知を行うとよいでしょう。
●
Buckman R: How to break bad news; a guide for health care professionals. Westwood Creative Artists,1992. 恒藤暁, 他訳:真実を伝える−コミュニケー
ション技術と精神的援助の指針.診断と治療社.117‐124, 2000
Q2-23 若年者への告知やコミュニケーションでは、注意すべきポイントはありますか?
患者さんを対象としたコミュニケーションに対する意向調査の結果から、若い人ほど医学的な情報を多く、明確に説明して
ほしい、質問を促してほしいという傾向が示唆されています。しかしながら、その影響は大きくないため、若い患者さんに
限らず個々の患者さんの意向は、その都度確認することが何よりも重要です。
●
Fujimori M, Parker PA, Akechi T, Sakano Y, Baile WF, Uchitomi Y.: Japanese cancer patients' communication style preferences when receiving
bad news. Psychooncology. 2007; 16
(7)
: 617-25.
Q2-24 がんの確定診断に伴う検査中に、患者さんが不安を訴えられる場合や
そのような段階からのコミュニケーションはどのように対応したらよいのでしょうか?
がんの精査中、患者さんは「大丈夫、きっとがんじゃない」という思いと「がんだったらどうしよう・・・」という思いの間で
揺れ動きます。また、慣れない場所で見慣れない機械や初めての医療者に囲まれての検査そのものが、患者さんにとって
大変ストレスのかかるものです。まずは検査予約や検査実施を滞りなく進め、検査に関わる患者さんのストレスを最小限に
するように努めます。負荷のかかる検査も多いため、検査終了後にはねぎらいの言葉をかけます。不安を訴えられる場合
は、その気持ちを理解していることを伝え、不安の原因が情報不足や誤解である場合は正確な情報を提供します。わが国
のがん患者さんを対象にした調査では、結果の伝え方について、
「検査結果がすべて出揃ってから話してほしい」方と
「結果が出たものから少しでも早く教えてほしい」方とに意向が分かれました。事前に患者さんの意向を確認し、意向に
沿った情報提供をすることも患者さんの不安を軽減する一助となるでしょう。
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.37, 2007
●
Fujimori M., Akechi T.: Morita T et al.: Preferences of cancer patients regarding the disclosure of bad news. Psycho-Oncology 16
(6)573-581,
2007.
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13
❷ 治療の段階別コミュニケーション
再発/進行・抗がん治療の中止
Q2-25 再発/抗がん剤の中止などの悪い知らせを伝えるのが難しいコミュニケーションは
どのようにしたらよいのでしょうか?
再発や抗がん剤治療の中止などの悪い知らせを伝える際には、SHARE*の4つの要素に配慮したコミュニケーションが
有効です。十分に時間をとって話ができる環境を整えます。外来の場合には、外来の最後に予約を入れる、PHSを看護師に
預けるなどの工夫をします。
はじめに患者さんの病状認識を確認し、これから伝えることとのギャップを認識した上で話をします。話をする際にも、
患者さんの病状認識や理解度を確認しながら、患者さんのペースに合わせて話を進めます。怒りや否認などの感情表出が
ある場合も、避けずに患者さんの話に耳を傾け、患者さんの言葉の背景にある心情や気がかりを探索します。
「驚かれまし
たよね・・・」
「信じられないというお気持ちでしょうか・・・」と共感的な態度で接します。今後のことを話し合う際には患者
さんが希望を持てるように「できないこと」だけでなく「できること」を伝えます。特に、抗がん剤治療の中止を伝える際には、
患者さんが「見捨てられる」と思うことのないよう、今後も責任を持って診療にあたること、見捨てないことを伝えます。
*:①患者さんが望むコミュニケーション SHARE 参照
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.34-43, 47-57, 2007
Q2-26 再発での入院時や入院中、どのような点に注意してコミュニケーションをとる必要がありますか?
入院時や入院中は外来に比べ十分な時間を確保しやすいこと、また入院中であれば面談室などプライバシーが保たれる
環境で面接することが可能であることから、SHARE* の Sにあたる場の設定が整えやすく、患者さんが入院している設定
の方が医療者にとってコミュニケーションがとりやすくなります。ただし、面接を行う時間帯に関しては注意が必要です。
通常、入院での面接は日常診療の後、夕方から夜にかけて行われることが多く、悪い知らせを伝えられた患者さんは面接後
に不安が増大し、不眠が生じることも考えられます。再発を伝えるような重要な面接は、可能な限り日中のスタッフが多い
時間帯に設定することをお勧めします。
*:①患者さんが望むコミュニケーション SHARE 参照
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.11-22, 2007
「自分は治療をすれば治る」と信じている患者さんに対して、
Q2-27 再発の告知を受け入れられず、
「死」という言葉を使った方がよいのか、患者さんの受け止め方のままにとどめておいた方がよいのか、
どのように対応するのが望ましいのでしょうか?
「悪い知らせを信じたくない」という拒否反応である否認は、危機に対して心理的に距離を置いて、自分を守ろうとする
合目的な対処方法です。がんの臨床経過に沿って段階的に心理過程を踏んで進んでいくというよりは否認、絶望感、怒りや
取引などの防衛機制が同時に混在し患者さんは心のバランスを保って希望を維持していきます。日本人にとって望ましい
最期を迎えるにあたり、
「死」を意識することについては個人差が大きいといわれています。
したがって「死」という言葉を使って死の受容を目標とするのではなく、患者さんの言葉、気持ちに耳を傾けることが重要
です。患者さんが悪い知らせに向きあう準備が整うまで、現実を否定する言動を認めますが、決して真実を否定するような
誤った情報を提供してはなりません。医療者はどういう状況下でも希望を支えつつ、最善の治療を継続していくこと、同時
に、苦痛はコントロールできることを繰り返し積極的に伝えましょう。
●
14
小川朝生・内富庸介編:精神腫瘍学クイックリファレンス.創造出版.49-51,2009
●
Miyashita M, Sanjo M, Morita T, et al: Good death in cancer care: a nationwide quantitative study. Ann Oncol 18 : 1090-1097, 2007.
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.119-120,2007
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❷ 治療の段階別コミュニケーション
Q2-28 過去に抗がん剤による強い副作用を経験したことのある再発患者さんに、薬剤の投与や服用を
拒否された時にはどのように対応したらよいのでしょうか?
つらい副作用を経験され、化学療法にネガティブなイメージを持ったり、これから始まる治療に対して不安も高まって
いるだろうと考えられます。抗がん剤による副作用がもたらす生活の質の低下は患者さんにとって切実な問題です。精神
状態を評価し、治療への参加を促し、生活に関する提案を行っていく上で、抗がん剤の副作用について熟知しましょう。
患者さんの苦痛に焦点を当ててお話を伺い、感情表出を共感的に受け止めることが有用です。これまでの経過を振り返り、
「つらい治療を頑張ってこられましたね」と肯定するのもよいでしょう。十分に患者さんのつらさを支えた上で、患者さんの
病状認識を確認し、新たに始まる治療への期待や不安を尋ねてみましょう。そして、副作用の可能性やその対策を伝え、
予期不安や苦痛の軽減を図りましょう。
●
小川朝生・内富庸介編:精神腫瘍学クイックリファレンス.創造出版.45,51-52,149,265-266,2009
Q2-29 再発患者さんにおいて、抗がん治療に対して過度の期待をされている場合、
どのように対応したらよいのでしょうか?
患者さんにとって治癒を目的とした初期治療は間違いではなかったが不成功に終わった再発の時期は、とてもつらい
時期です。この再発の時期は将来にわたる重要な決定が待ち受けている時期でもあるので、安易なコミュニケーションで
やり過ごしてすぐに治療を決めるのではなく、しっかりと受け止め十分に時間をかける必要があります。不安を回避するため
にあわてて治療を決定することは、後悔の種にもなります。まず、患者さんの抗がん治療に対する過度の期待の背景(不安
の回避など)
について探索してみましょう。治療決定を性急に行う必要がないことを伝えましょう。がんの治癒が望めません
ので患者さん・ご家族の本来の人生目標、生活信条をきちんと聴き出し、患者さんの意向に沿ったがん医療の提供が行われ
るよう努めましょう。
●
小川朝生・内富庸介編:緩和ケアチームのための精神腫瘍学入門.医薬ジャーナル社.38-39,2009
Q2-30 再発し、予後が限られている患者さんに結婚、妊娠の希望を相談された時、
どのように対応したらよいのでしょうか?
患者さんがご自身の病状に合わない希望をお話しされることは、進行・終末期によく観察される問題です。まず、患者さん
の希望の内容がどのようなものかを十分に傾聴した後に、現在の病状について医師からどのような説明を受けているのか、
ご自身の病状についてどのように理解しているのかを確認してみてはいかがでしょうか。ご本人が病状の受け入れがまだ
できていないようであれば、主治医を含めた医療チームに情報を還元し、チームとしての対応が必要となってきます。希望を
あからさまに否定するのではなく、患者さんが希望をお話ししてくれたことへの感謝の気持ちをまず伝え、患者さんの認識を
確認しながら、希望の背景にどのような気がかりや思いがあるのか、十分に間をとって尋ねてみましょう。大切なコミュニケー
ションとなってくるものと考えられます。
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2007
●
藤森麻衣子・内富庸介編:続がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2009
●
内富庸介・大西秀樹、小川朝生編:サイコオンコロジーを学びたいあなたへ. 文光堂. 2011
●
内富庸介・小川朝生編:精神腫瘍学. 医学書院. 2011
「自分はこれからどういう症状が出てつらくなっていくのか、
Q2-31 患者さんから、がんが進行し、
あるいは死んでいくのか知りたい」と言われた時、どのように対応したらよいのでしょうか?
患者さんの質問には、がんの進行による症状や死への不安があるものと考えられます。その不安の根底にある気持ちは、
患者さんによって様々です。その症状に耐えられるかどうかを心配している患者さんもいれば、死を迎える療養場所につい
て考えているのかもしれませんし、ご家族へ迷惑をかけたくないというお気持ちが強いのかもしれません。どのような気が
かりがあるのかによって、どの程度の説明をするかを医療チームとして検討するのがよいのではないでしょうか。病状の
ロードマップを知ってコントロール感が増し、落ち着かれる方もいます。
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2007
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藤森麻衣子・内富庸介編:続がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2009
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内富庸介・大西秀樹、小川朝生編:サイコオンコロジーを学びたいあなたへ. 文光堂. 2011
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❷ 治療の段階別コミュニケーション
Q2-32 患者さんが再発を受け入れるまでに時間が必要ですが、それを待つこともできず治療に入ることが
ほとんどのため、副作用に対応しながら心のケアをどうすればよいのでしょうか?
再発の時期は治療の目標が治癒から延命に変わるため最も深刻な時期です。きちんとコミュニケーションが取れていない
場合が多く、ここからボタンの掛け違いが起こりやすいのです。安易なコミュニケーションをとったり、不安を回避するために
あわてて治療を決定するのではなく、十分に時間をかける必要があります。治療決定を性急に行う必要がないことを伝え
ましょう。死と向きあい、時間が限られていることに直面する一方で多くの現実的問題に対応しなければなりません。
治療内容にもよりますが、患者さんはこれまでできていたことが難しくなり、周囲の人々の助けを借りなければならない
ことが増えてきます。これは患者さんにとっては大変な苦痛です。十分に時間をかけて患者さんと接しながら、機能を維持
し、その低下を予防するプログラムを通して患者さんの生活の質を最大限に維持することを目指し、患者さんの希望を
支える関わりを粘り強く持つことが重要です。
●
小川朝生・内富庸介編:精神腫瘍学ポケットガイド これだけは知っておきたいがん医療における心のケア.創造出版.6-7,2010
Q2-33 患者さんやご家族の治療への希望がとても強かったり、医療者側との考えが一致しない、理解して
もらえないような時にどのように対応したらよいのでしょうか。また、このような時、医療者のストレスも
大きく医療者自身のケアも必要になると考えますが、どのようにしたらよいのでしょうか?
患者さんやご家族の治療継続への希望が過度に強い場合、現状の認識や将来の見通しを受け入れたくないという気持ちが
あるのかもしれません。これまでの経過を再度ゆっくり振り返りながら、患者さん・ご家族の努力をねぎらってはいかがで
しょうか。現状の認識や将来の見通しを受け入れられるように、繰り返し説明してみるとよいでしょう。また、ご指摘のように、
患者さんやご家族と、医療チームで方針の不一致がある場合は、医療者のストレスも大きいものとなります。医療チームとして、
患者さんの症状・希望・家族の受け入れなどについての情報を共有しながら、医療チーム内のメンバーそれぞれの気持ちについ
ても共有できるように心がけることが重要だと考えられています。第三者を入れたカンファレンスを開くのもよいでしょう。
●
内富庸介・大西秀樹・小川朝生編:サイコオンコロジーを学びたいあなたへ. 文光堂. 2011
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内富庸介・小川朝生編:精神腫瘍学. 医学書院. 2011
Q2-34 再発を告知された患者さんがいろいろな代替療法などを提示してくる場合、
どのように対応したらよいのでしょうか?
再発を告知された患者さんの心理的反応は、がんの知識が豊富に整理されている分、事態は極めて深刻で、現実を否認
しきれず破局的な打撃を受けます。患者さんが代替療法を提示してくる心理的・社会的な背景を探索しましょう。主に不安
を抱えていると考えられます。医療者も治癒を目標とした治療が不成功に終わったことを患者さんとともに受け入れること
から始めましょう。患者さんやご家族の本来の人生目標、生活信条をきちんと聞き出し、それらを踏まえた上で患者さんの
意向に沿ったがん医療が提供されるよう努めましょう。
その中で代替医療のがんに対する治療効果は科学的に証明されたものではないことをお伝えし、
「患者さんにとって
合っていると思えるか、心地よいものか、施行時間の長さ、通院距離の遠さ、予約の取りやすさ、費用の問題、場所やスタッフ
の心地よさ、補完代替医療の専門家は標準的ながんの治療をサポートしてくれるかどうか」といったことを患者さんとともに
検討してはいかがでしょうか。
●
小川朝生・内富庸介編:精神腫瘍学クイックリファレンス.創造出版.54-55,2009
●
国立がん研究センターがん対策情報センター:患者必携 がんになったら手にとるガイド.学研.162-163,2011
Q2-35 外来で再発を告知された患者さんの周りに他の患者さんがいる時にどのような声掛けや、対応を
したらよいのでしょうか? また、患者さんと話す際の目線はどのようにしたらよいのでしょうか?
再発告知後の患者さんは、初発時よりもがんの知識が豊富に整理されている分、事態は極めて深刻で、現実を否認しき
れず、破局的な心理的打撃を受けています。気持ちに十分配慮することが大切です。目線は90∼120度の位置で患者さん
と同じ高さにしましょう。患者さんがゆっくり気持ちを整理できるように、できるだけプライバシーの保たれた静かな落ち
着いた場所へ移動してはいかがでしょうか。
「誰もがそういう風に感じますよ。あなただけではありませんよ」と気持ちの
動揺を患者さんの多くが経験することを伝えると、患者さんには大きな安心となります。
「否認」
(「何かの間違いではない
か!」)
という防衛機制が働き、医師の説明が十分理解されていないことも少なくありません。十分な情緒的サポートを行う
と同時に病状認識や理解度の確認を行い、情報の補足や追加が必要な場合は医療スタッフから情報提供したり、医師の
再面接を調整してみましょう。
●
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小川朝生・内富庸介編:精神腫瘍学クイックリファレンス.創造出版.36,49-51,321,2009
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❷ 治療の段階別コミュニケーション
Q2-36 外来において、時間をとって話を聞くことが業務上困難な時、話すタイミングを逃してしまうなど
1人の患者さんにゆっくり関われないこともあります。このような時の工夫は何かありますか?
「重要な情報の開示なので、ここはきちんとお話を伺っておかないといけない」と思う場面は、本来なら他の業務を中断
しても伺いたいところですが、多忙な業務の中で十分な時間が取れないことがあるでしょう。重要な面談の前には患者さん
にとっても医療者にとっても心の準備が必要です。このような場合、
「大変申し訳ないのですが、改めて時間をとってあなた
の大事なお話を伺いたいのですが、ご都合のよい日時を教えてください」と率直に話してみてはいかがでしょうか。
改めての面談の際には、プライバシーが保たれる場所や十分な時間を確保し、開始時間を守るなど基本的なコミュニ
ケーションを念頭に置きましょう。患者さんの信頼感につながるとともにコミュニケーションの促進につながります。2 回
面談することになったことを労り、中断した前回の面談の振り返りを通して病状認識の確認を行った上で患者さんの大事
なお話を伺いましょう。
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.44-46,2007
Q2-37 患者さんは再発を疑いながらも誰かに否定してほしいという思いを強く持っています。
その時に否定してあげられなかったり、声かけの内容についても前向きな言葉が出てこなかったりと、
つらく思いますが、このような時に患者さんにどのように接したらよいのでしょうか?
患者さんの思いを傾聴する中で、患者さんの思いの背景や契機を尋ねるなどしてみましょう。そして、心配、悲しみ、
不安、落胆などの感情を特定したり、治療効果が感じられないなどの感情の誘因を特定してみましょう。そして、
「同じように
おっしゃる方は多くいらっしゃいます」
「他の患者さんからも同じような悩みを聞きました」など、患者さんに起こっている
気持ちは妥当な感情であることを伝えましょう。感情面をサポートする中で患者さんが涙を流すことがあるかもしれません。
医療者との信頼関係ができているからこそ患者さんは泣くことができると考えられます。患者さんとのコミュニケーション
の中で、医療者がつらいと思う状況から逃げ出さず、沈黙の時間をとり、何も言わずに、患者さんのそばにいるだけでも
共感を示すことは可能です。言語的だけでなく非言語的コミュニケーションも試みてみましょう。
●
小川朝生・内富庸介編:精神腫瘍学クイックリファレンス.創造出版.331-333,2009
Q2-38 関わりの期間が短い方の場合、信頼関係の確立ができていないとなかなか深いところまで話を
することが難しいです。短い時間で有効的にコミュニケーションをとる工夫はありますか?
まず、カルテや看護記録などから患者さんの情報を十分に得ましょう。面接を行う場合は十分な時間をとったり、しっかり
お話を伺うためにプライバシーを守れる静かな環境を用意するといった、場の設定が重要です。面接のはじめには病歴の
振り返りを行い、患者さんについて知っていること、今の時点で理解していることを伝えましょう。その上で、患者さんが
今一番困っていること、心配していることは何かを尋ねましょう。特に患者さんの関心事については症状の有無だけで
なく、生じている障害の程度、低下した日常生活活動動作などを尋ねてみましょう。そうすることで、患者さんとの信頼関係
の構築につながり、患者さんからの重要な情報の開示につながりやすくなると考えられます。
●
小川朝生・内富庸介編:精神腫瘍学クイックリファレンス.創造出版.36-37,2009
Q2-39 看護師は、医師から再発を伝えられているはずの患者さんがどの程度まで理解されているのか
わからないことがあります。外来の中で患者さんとどのように時間をつくり、
コミュニケーションをとればよいのでしょうか?
否認、困惑、希望の混在した状況なのでしょうか。まずは、患者さん・ご家族の病状認識のギャップ、患者さん・ご家族固有の
意向を明らかにしましょう。医師および患者さん方の意向を確認して、可能であれば悪い知らせを伝えられる場面に同席し、
継続してサポートを行っていきたいことを明確に伝えましょう。面接の場に立ち会う場合は、面接に支障をきたさない、
看護師は医師と患者さん方の中間で、患者さん方に対し顔が見える場所に位置するとよいでしょう。必要時うなずいたり
アイコンタクトを行い緊迫した場を和らげましょう。
患者さん方との信頼関係ができていて、患者さん方の意向が医師に伝わっていない場合は、必要な時には、患者さんの
意向を医師に代弁してみましょう。悪い知らせが伝えられた後は意識して情緒的サポートや病状認識の確認を行いましょう。
情報の補足や追加が必要な時は医療スタッフから情報提供したり、再度医師から説明する場を調整しましょう。
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.115-119,2007
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❷ 治療の段階別コミュニケーション
Q2-40 医師が、抗がん治療中止を告げる際にどのような配慮が必要でしょうか?
難治がんを伝える時、再発を伝える時と同様な配慮が必要となってきます。
抗がん治療中止を告げる際には、これまでの経過についてまずは十分時間をかけて振り返りましょう
(例:あの時の治療
はつらかったですが、よく頑張られましたよね、本当にご家族も大変でしたよね)。患者さん、ご家族の努力を労い、思いを
受け止めること、患者さんが希望を持てる情報を伝えること、患者さんのこれからの生活や利用できるサービスやサポートに
関する情報を提供すること、今後も責任を持って診療にあたること、患者さんの気持ちを支える言葉をかけること、などに
ついて配慮があることが望ましいとされています。
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2007
Q2-41 治療ができることで生きる希望を持っている場合、新たな目標を持ってもらうこと、それを見いだす
こと、希望をなくしてしまわないようにするためにどのようにしたらよいのでしょうか?
治療ができることで生きる希望を持っている患者さんが、抗がん治療中止という方針の大転換を迎える際、この状況を
すぐに受け入れられないかもしれませんし、新たに目標を掲げることも困難を伴うことでしょう。患者さんの気持ちに寄り添
い、患者さんが必要としていることを探してみてはいかがでしょうか。例えば、患者さんが希望を持てるように、
「できないこ
と」だけでなく「できること」を伝えることや、今後も医療チームとして、責任を持ってサポートを継続することを保証する。
また場合によっては積極的な目標の提示よりも、ただ気持ちを受け止め見守ることを必要とされているかもしれません。
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2007
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藤森麻衣子・内富庸介編:続がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2009
「抗がん治療中止=死」と思われるため、残された時間をどう過ごしたいか
Q2-42 患者さんやご家族は、
などについてのコミュニケーションが取りづらいことがあります。
今後の希望について、どのように引き出したらよいのでしょうか?
「抗がん治療中止 = 死」というイメージをお持ちの場合は少なくありません。事実、抗がん治療に専心してきたわけです
から、大変つらい時期を患者さん、ご家族そして医療者と十二分に時間をとって受け止めなければなりません。初回治療から
全経過の振り返りを行って、これまでの努力を労い、患者さん、ご家族の気持ちの表出に努めます。そうして初めて、残され
た時間をどう過ごしたいか、などの希望についての話題が出てくることもあります。急にその話題を持ち出すと患者さん
やご家族も戸惑われる方がいらっしゃいますので、場合によっては、抗がん剤中止となるずっと前から、少しずつ話題に出せ
るとよいのかもしれません。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2007
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藤森麻衣子・内富庸介編:続がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2009
「医師に見放された」と患者さんから言われた時、また、その後、患者さんの
Q2-43 「抗がん治療中止=死」
不安が強くなり抗不安薬等の処方となった場合、どのように対応したらよいのでしょうか?
患者さんが「抗がん治療中止 = 死」
「医師に見放された」とおっしゃった時は、まずはその気持ちに寄り添い、患者さんと
一緒に受け止めてみましょう。患者さんの気持ちが落ち着いて整理がつくと、希望を持てるように、
「できないこと」だけ
でなく「できること」を伝えることや、今後も一緒に責任を持ってサポートを継続することを保証する。また場合によっては
積極的な目標の提示よりも、ただ気持ちを受け止め見守ることが必要なのかもしれません。
患者さんの不安が強くなり、抗不安薬等の処方となった場合、必要があれば精神科などの専門家に相談してみましょう。
18
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2007
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藤森麻衣子・内富庸介編:続がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2009
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❷ 治療の段階別コミュニケーション
Q2-44 乳がん、血液疾患は生存期間も長くなり、長期間、治療が繰り返されます。抗がん剤を何度も変更して
頑張ってこられた方ほど、抗がん剤を中止する時期を分からず悩まれています。このような時に
どのように関わり、コミュニケーションをとればよいのでしょうか?
抗がん剤治療で治癒が望めない際の抗がん剤の中止時期について、医療チーム内でディスカッションしてみるのはいかが
でしょうか。
患者さんとの関わりとしては、これまでの治療経過を共有し、患者さんの病気に対する認識を確認してみることが重要に
なってきます。治癒は望めず、時間は限られているという認識がある方は、やり遂げておきたいことや気がかりが必ずあり
ますので、具体的な計画を聞き出せると、治療の中止について明確に話し合いができることがあります。相談できなかったと
いうご家族の後悔もよく聞かれますので、場合によっては、抗がん剤治療中から、病状の認識を共有し、少しずつ話題に
出せるとよいのかもしれません。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2007
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藤森麻衣子・内富庸介編:続がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2009
「化学療法の中止=ただ死を待つだけ」
「もうダメなんだ」と考えられています。
Q2-45 多くの患者さんが、
化学療法で治癒が望めない時期でも化学療法を希望される場合があります。このような時に
どのように関わりコミュニケーションをとればよいのでしょうか?
患者さんが「抗がん治療中止 =ただ死を待つだけ」
「もうダメなんだ」とお考えの時は、絶望感をただ聴いてもらいたい
時もありますので、まずその気持ちを受け止めるよう努力してみましょう。話題が展開しない場合や、繰り返される場合
はうつ病が疑われますので、専門医に相談するのも良いでしょう。
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内富庸介・大西秀樹・小川朝生編:サイコオンコロジーを学びたいあなたへ. 文光堂. 2011
Q2-46 治療の継続が希望につながっていたご家族が、抗がん治療の中止を伝えられても治療の継続を
強く希望している場合、どのように対応したらよいのでしょうか?
(主治医との話し合いも拒んでいるような場合の対応)
ご家族の治療継続への希望が過度に強い場合、現状の認識や将来の見通しを受け入れたくないという気持ちがあるのかも
しれません。ご家族の感情を十分時間をかけ受け止め、どのような気がかりや懸念をお持ちなのかを尋ねてみてください。
家族の重度の不安により希望している場合は専門医のアドバイスを受けてみましょう。
そして、治療の中心の患者さんご本人はどのようなお気持ちでいるのかを確認し、ご家族が患者さんのお気持ちを把握
しているのかを確認してください。
治療は、患者さんと主治医を中心として、ご家族や医療チームが一丸となって行っていく必要がありますので、その旨を
お伝えし、皆で患者さんをサポートしていく方針を再確認してみてはいかがでしょうか。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2007
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藤森麻衣子・内富庸介編:続がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2009
Q2-47 患者さんから「もう治療の手段、治療薬がないから治療をしないのか」と問われた時、
また、治療手段を失ったと思う患者さんに看護師が緩和の話を出してよいのか、医師の方針と
逸脱してはいけないと考えることがあります。どのように対応するのが望ましいのでしょうか?
十分に間を取って、患者さんの言葉を受け止めた上で、医師からどのような説明があったのか、患者さんご自身がどのよ
うに受け止めているのか、どのような情報を必要としているのか、ということを確認してみてはいかがでしょうか。その上で、
一貫した方針・対応を行う必要がありますので、一旦医療チームに持ち帰って、どのような病状で、今後どのような方針で、
患者さんにはどのように説明がされているのかを、まずは主治医を含めた医療チーム内で確認して情報を共有しましょう。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2007
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藤森麻衣子・内富庸介編:続がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2009
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❷ 治療の段階別コミュニケーション
Q2-48 抗がん治療を中止した方が患者さんの苦痛が軽減されるのではないかと感じながら、
主治医と患者さんに上手に伝えることができなかったことがあります。
このような場面ではどのように対応したらよいのでしょうか?
抗がん治療中止の選択肢を受け入れたくない場合、自然とその話題を避けようとする力が、患者さん、ご家族から、そして
医療者からも働くことがあります。医療チームとして、一貫した方針・対応を行う必要がありますので、どのような病状なのか、
患者さん、ご家族はどのような説明を受けているのか、患者さん、ご家族の意向はどのようなものかを、まずは主治医を含めた
医療チーム内で再確認してみましょう。その上で、抗がん剤の中止時期について、医療チーム内でディスカッションしてみる
のはいかがでしょうか。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル. 医学書院. 2007
Q2-49 抗がん剤治療ができず、緩和ケアを勧めるが受け入れられないようなケースでは
どのように話せばよいのでしょうか?
抗がん治療の中止を告げられた際、
「もっと治療があるに違いない」
「何かの間違いではないか」といった否認は、患者さん
が心のバランスを保ち希望を持ち続けるための対処法です。このような場合は、じっくりと患者さんの言葉、気持ちに耳を
傾けることが重要です。患者さんの多くは、死に直面する一方で、残される家族のこと、自立/自律を失うことへの恐怖など
多くの問題を抱えています。医療者は患者さんの気持ちを共感的・支持的姿勢で受け止め、背景にある気がかりや心残りを
探索します。緩和ケアに対する認識についても把握するよう努めます。対処可能な問題には適切に対処し、緩和ケアに対する
誤解がある場合には訂正することも有用です。
また、これまでの経過を一緒に振り返り、
「頑張ってこられましたね」とこれまでの道程を肯定することも、患者さんが
現在の状況を受け止める一助になります。再発後早い段階から、抗がん剤治療中止のタイミングやその後の生活について
の話し合いを持つことも重要です。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.22,34-43,47-57,96-102, 2007
Q2-50 進行の早いがんの場合、患者さんへ話すタイミングやどこまで話す必要があるのかなど、
どのように対応したらよいのでしょうか?
基本的には、がんの進行の早さにより、患者さんへ話すタイミングやどこまで話すかを変える必要はありません。
SHARE* の 4 つの構成要素を用いて、悪い知らせなど伝えるべきことを適切なタイミングで話すことが重要です。進行の
早いがんでは、病状の変化に患者さんやご家族の気持ちがついていかない状況をしばしば認めます。SHAREの4つの構成
要素の中でも、特に患者さんの病状認識の程度、心の準備、また説明に対する理解度を慎重に確認しながら、患者さんの
気持ちに十分に配慮し伝えることが重要です。
*:①患者さんが望むコミュニケーション SHARE 参照
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❷ 治療の段階別コミュニケーション
終末期
Q2-51 積極的な治療の選択肢がない状況であるが、緩和ケアまで至らない状況の患者さんの場合、
定期的な外来でのコミュニケーションをとる難しさやつらさを感じます。
どのようなコミュニケーションをとることが必要でしょうか?
患者さんに今の気がかりや今後の心配を聞きながら、
「がんと付き合いながら可能な限り日々の生活を快適に過ごす
ために一緒に考えていきましょう」
「そのために我々医療者は最善を尽くします」というメッセージを伝えることが大切で
あると考えます。身体状況だけに目を向けているのではなく、病気によって生じる生活上の困難、変化について話し合うこと
もよいでしょう。また症状が目立たない状況にある時に、患者さんのこれまでの人生、家族関係、価値観などを話題にする
ようなコミュニケーションをとることが、今後の療養を一緒に考えていく上で参考になると考えます。
「死を意識せず普段
通りの生活を続ける」
「他人に迷惑をかけずに過ごしたい」といった希望や、やっておきたいこと、目標などについても伺っ
ておくとよいでしょう。
Q2-52 緩和ケアを受け入れられない患者さんとは、どのようにコミュニケーションをとり、
対応したらよいのでしょうか?
病状を否認する患者さんへの対応の基本はその背景にある感情に気づくことから始まります。そして患者さんの否認を
否定することなく、感情に対して支持的に接していくことが重要です。ただし、否認により患者さんが明らかに危険にさら
されたり、不利益を被ってしまう場合にはご家族、医療スタッフと十分に話し合った上で、介入が必要となる場合もまれにあり
ます。また、具体的に緩和ケアが提供できることを説明することも重要です。
Q2-53 余命が短いと推測される場合、本人には伝えるべきなのでしょうか?
またそのような意向は、どのように確認したらよいのでしょうか?
推測される余命を長さにより伝える、伝えないという決定をすることはありません。また、余命を伝えるかどうかに関して
もコンセンサスはありません。患者さんの意向調査の結果では伝えてほしいと回答した人は全体の 50.4% でした。まずは
患者さんの意向を確認することが大切ですが、直接「余命を知りたいですか?」と面と向かって聞くことは得策ではなく、
なかなか難しい作業です。ただし、限りある時間の中で患者さんの希望を可能な限り実現していただくためには、推測され
る余命を知っていただくことが重要になる場合もあります。
意向の確認に関しては、患者さんの病状に関する認識を確かめていく中や、今後について気がかりなことなどを話し合う
中で、余命に関する話題が出てくることも多いようです。また、患者さん自ら余命を聞いてきた場合には、余命のみを即答
するのではなく、聞きたい理由を確かめたり背景にある感情を理解する必要があります。
Q2-54 終末期において、患者さんに希望をもっていただくにはどのようなコミュニケーションをとれば
よいのでしょうか? またご家族との対応のポイントはありますか?
どんなにつらい状況にあっても、希望があることが患者さんの支えになると考えます。たとえ医療者から見て実現不可能
な希望であったとしても、それを否定せずに患者さんの希望に理解を示す必要があると思います。希望が実現できるか
どうかではなく、希望の実現に向けて試行錯誤する過程が重要ではないでしょうか。また、希望はないと言われる患者さん
に対しても、
「何か少しでも私にできることがあれば伝えてください」といつも準備があるという態度を呈示する必要が
あります。
ご家族に関しては、ご家族の存在自体が患者さんの支えになっていることを伝えることが重要であると考えます。終末期に
おいては患者さんの自立性の喪失、
「他人に迷惑をかけたくない」という生活信条、役に立ちたいという気持ちなどとともに、
ご家族が患者さんに対してできることが少なくなるという自己効力感の喪失に対しても十分な配慮が必要です。
Q2-55 終末期において、患者さんとこれまでのことを振り返りながら話すタイミングで注意することは
ありますか? 振り返ることで希望をなくすのではないかと不安です。
身体的につらい症状が目立つ時に、これまでのことを振り返りながら話すのは患者さんにとってかなり負担になることが
多いと思われます。したがって、無理に聞き出すことは得策ではありません。ただし、患者さんが精神的なつらさを語り出し
た時には、その思いを十分に聞く心を準備しておく必要があると思います。患者さんにとってつらい体験ではありますが、
その感情に焦点を当て共感を示すことは重要です。振り返りながら、今までの考え、行動が決して間違ったものではなかっ
たこと、患者さんやご家族、医療者が精一杯頑張ったことを、感情に寄り添いながら支持していくことが、希望を取り戻す
第一歩と考えます。
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❸ 難しいケースのコミュニケーション
(うつ、せん妄、怒り、希死念慮など)
うつ、せん妄
Q3-1 患者さん本人がコミュニケーションを取れない状態や状況の場合(うつやせん妄、他症状など)、
どのように対応したらよいのでしょうか?
そのような時のご家族とのコミュニケーションはどうしたらよいのでしょうか?
うつ病はQOLの低下や治療選択などに影響するため、適切な治療が重要になります。精神症状の評価に加え「何が一番
ご心配ですか?」と、患者さん自身の問題やニーズを評価する必要があります。専門家への紹介が必要な場合、患者さんが
拒否することがありますが、心のつらさのケアは、本来のがん治療を円滑に進めるために有益であることを患者さんの
気持ちに共感しながら伝えます。
せん妄の治療は原因の同定とそれに対する治療が原則です。同時に、せん妄により患者さんが苦痛と感じている状況
(見当識障害、妄想など)を評価し、対応・ケアをスタッフ間で統一することも大切です。
ご家族の負担についても、
「今どのようにお感じになっていますか?」「ご家族のご心配についても遠慮なくお話しください」
と言葉を掛け、ご家族の心理的負担の程度や現状に対する理解度、事実とのギャップを把握します。その上で、うつ病やせん妄
の原因や経過、治療について繰り返し説明し、ご家族の動揺を和らげ、協力を求めることが重要です。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.76‐90, 2007
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Colleoni M, Mandala M, Peruzzotti G, et al: Depression and degree of acceptance of adjuvant cytotoxic drugs. Lancet 2000; 356: 1326-1327
Q3-2 精神的な苦痛を伴う患者さんの場合、医療者としてその状況に言葉を掛け共感を示すことが
難しく感じます。どのような共感を示すコミュニケーションをとればよいのでしょうか?
何も言わずに、そばにいるだけでも共感を示すことは可能です。患者さんが何か発言するまで沈黙の時間をとることは
有効な共感的対応です。患者さんがつらい気持ちを話した際に、患者さんの気持ちが理解できたら、あなたが患者さんの
気持ちを理解できたことをあなたの言葉で伝えることによって共感を示すことができます。精神的苦痛が強い患者さんに
対しては、早めに精神科の受診を勧め、専門的な治療を行うことによって苦痛を軽減することが期待されます。
Q3-3 抑うつ状態などが見られ、精神科などの専門家への紹介が必要と判断されても患者さんに
受け入れてもらえないことがあります。コミュニケーションや対応のポイントはありますか?
まずは心のケアの専門家に診てもらおうと思っていることを率直に伝えることが大切です。その上で患者さんが拒否する
場合、受診したくないということを尊重した上で、その理由を把握します。次のような誤解がある場合は訂正をします。
(2)心を見透かされる、
(3)心の良し悪しを評価される、
(4)受診
たとえば、
(1)重い精神病の患者のみが治療の対象となる、
( 6 )弱者のレッテルを貼られる、などです。
したことが皆に知られる、
( 5 )薬を飲み始めるとやめられなくなる、
それでも受診を拒否される場合は、日を改めて勧めることとして、精神科医に状況を伝えて、間接的にアドバイスをもらう
ことも一つの方法です。また、
「うつ病かもしれないから」と勧めるよりは、
「眠れていないようだから」、
「食欲が出なくて
体重を減らしているようだから」と、不眠や食思不振に焦点を当てて受診を推奨することも一つの方法でしょう。
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日本サイコオンコロジー学会PEACE Project教材 M7a 気持のつらさ http://www.jspm-peace.jp/
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❸ 難しいケースのコミュニケーション
Q3-4 強い落ち込みのみられる患者さんへは、どのように声を掛けたらよいのでしょうか?
最初から気持ちに焦点を当てると患者さんは緊張してしまうので、
「最近体の調子はどうですか? 睡眠はいかがです
か?」など、まずは当たり障りのない開かれた質問を用いて声を掛けます。次いで、
「気持ちがつらかったりすることはあり
ませんか?」
「何か不安に感じていらっしゃることはありませんか?」などと少しずつ焦点を絞っていくとよいでしょう。患者
さんから表出があれば、まずはじっと患者さんの思いに耳を傾け、できる限り理解しようと努力することが肝要です。自身の
思いが医療者に伝わったという感覚を持てた時に、患者さんの苦悩は少し解放され、癒されます。また、うつ病の中核症状
(2)興味喜びの喪失が出現していないかを次のように尋ねます。
である
(1)抑うつ気分、
(1)一日中気持ちが落ち込んでいませんか?
(2)今まで好きだったことが楽しめなくなっていませんか?
いずれかに「はい」と答えられた場合は、専門家へのコンサルトを考慮しましょう。
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日本サイコオンコロジー学会PEACE Project教材 M7a 気持のつらさ http://www.jspm-peace.jp/
Q3-5 患者さん自身から、心のつらさについて訴えられた時どのように対応したらよいのでしょうか?
患者さんが心のつらさに関して質問をする理由によって、回答が異なります。ですので、どのようなことが気になるのか
を率直に尋ねてみましょう。
多くの場合は、
「自分一人がこんなに弱いのではないか」と、つらさを抱え込んでしまい自信を失っていることがあります。
そういう場合には、
「こういう状況の場合であれば皆さんひどくつらくお感じになっておられますよ」と保証・説明しましょう。
例えば「精神的に落ち込んでいると、がんが進んでしまうのではないか?」と心配している方がいらっしゃいます。これに
関しては、精神的ストレスと、がんの予後には有意な関係がないという大規模疫学研究の結果がありますので、明確に
「心配しなくても大丈夫」と伝えましょう。この声掛けでかなり安心されます。
また、
「他の人は平気そうに見えるから、自分だけが異常に精神的に弱いのではないか?」という疎外感を感じている方
も多くいらっしゃいます。このような場合は「誰でもこのような状況では落ち込みますよ」、
「気持ちが暗くなるのも無理も
ないことですよ」と声を掛けることで、自分だけじゃないんだと心強く思われます。その上で、精神面の苦痛が強い場合は、
専門家によるケアを勧めてみましょう。
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Nakaya N, Saito-Nakaya K, Akechi T, et al.: Negative psychological aspects and survival in lung cancer patients. Psychooncology. 17
(5)
:
466-73, 2008
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日本サイコオンコロジー学会PEACE Project教材 M8 コミュニケーション http://www.jspm-peace.jp/
怒り
Q3-6 怒りなど(攻撃的、暴言、暴力、怒り)の対応をどのように受け止め、
コミュニケーションをとればよいのでしょうか?
医療者が患者さんの怒りに巻き込まれ、自分に向けられた個人的怒りと認識してしまうと、自分を擁護する言葉に終始し
たり、顔を合わせないようにしたり、怒りを向け返したりしてしまい、問題が深刻化することもあります。
まず、自分の感情と言語的(言葉)
・非言語的(表情・姿勢など)表現に注意して、患者さんの話に集中します。患者さんの
話を途中で遮ったり反論することなく、最後まで聞きましょう。患者さんの話をよく聞き、問題点を明らかにするとともに、
患者さんと一緒に問題を解決していこうとする姿勢、共感の姿勢を患者さんに示しましょう。
医療者に非がある場合は謝罪しましょう。怒りの原因が誤解にあると考えられたなら、自分の感情や表現に注意しながら
ゆっくりと説明します。時に、怒りの背景には、病前からの精神科的問題や薬剤の副作用、脳転移や意識障害が関係している
ことがあります。そのような可能性も念頭に置き、患者さんの怒りの原因を探索するようにしましょう。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.91‐95, 2007
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Houston RE: The angry dying patient. Prim Care Companion J Clin Psychiatry 1999; 1: 5-8
●
Kübler-Ross E: On death and dying. Macmillan publishing, 1969
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❸ 難しいケースのコミュニケーション
希死念慮
「あなたにはわからない」
「もう頑張れない」など感情を表出した
Q3-7 「もう死にたい」
難しいコミュニケーションはどのように対応したらよいのでしょうか?
患者さんのこのような感情表出の背景には、痛みなどの身体症状、うつ病や絶望感などの精神症状、自立性の喪失など
の実存的な苦痛など多彩な苦痛が存在していることが示唆されています。
「死にたい」
「もう頑張れない」という言葉を
即座にかわそうとせず、避けずに向き合う姿勢を示しましょう。具体的には、
「今、感じていらっしゃることを、もう少しお話し
いただけますか?」といった言葉で話を続ける姿勢を示します。
話し合う際は、安易な説得や価値観の押し付けはせず、非審判的な態度で臨みます。そして、患者さんの苦痛に共感的に
関わり続けましょう。適切な言葉が見つからないこともありますが、患者さんの思いを感じながら、かたわらに座っている
ことも有用な非言語的コミュニケーションになり得ます。患者さんの苦痛やニーズを理解する、あるいは理解しようとする
コミュニケーションのプロセスこそが、患者さんの苦痛を緩和するケアとなり得ます。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.103‐107, 2007
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Akechi T, Okuyama T, Sugawara Y, et al: Suicidality in terminally ill Japanese patients with cancer. Cancer 2004; 100: 183-191
Q3-8 希死念慮が認められる患者さんとは、どのような点に注意して対応する必要がありますか?
「死にたい」と患者さんが訴えるのは、医療者に対し助けてほしいというサインを出しているからです。まずは慌てずに、
「死にたいと思うくらいつらいことがおありなのでしょうね」などと声を掛け、患者さんのつらさを受け入れ、理解しようと
する準備があることを伝えます。
患者さんからもう少し言葉を引き出せそうであれば、
「きっと何か気がかりなことや、心配なことがおありなのでしょうね。
今一番ご心配なことをお話しいただけませんか?」などと尋ね、何が患者さんを苦しめているのかを把握できると、具体的な
介入を行う糸口が見えるかもしれません。さらに、
「このような気がかりやご心配では、死にたくなるぐらいつらくなるのも
当たり前ですね。さぞや、おつらかったでしょう」などと、患者さんのつらさに共感すると、苦悩も少し和らぐかもしれません。
希死念慮の表出がある場合は自殺のリスクがあるため、可能な限り精神科医などの専門家と連携してケアにあたること
をお勧めします。
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日本サイコオンコロジー学会PEACE Project教材 M7a 気持のつらさ http://www.jspm-peace.jp/
Q3-9 死への恐怖を訴えられた時、どのように対応したらよいのでしょうか?
心理療法において実存的問題を扱ったYalomによれば、
「死は誰にでも訪れるものであり、人生は有限である」という困難
な事実に対して、仲間と共有しながら正面から向き合う中で、徐々に受け入れられるようになり、恐怖は和らぐとのことです。
しかしながら、死の恐怖が強い患者さんの場合、正面から向き合えるようになるまでには大きな困難を伴い、時間を要
するものです。ですので、死について少しでも考えないでよいように、仕事や家事、趣味など、どんなことでもよいのです
が、現実的なことに没頭して気持ちをそらす方法が有効です。
また、上記のような対処ではうまくいかない時には、眠気やふらつきなどの副作用が生じない程度に抗不安薬を用いて
恐怖感そのものを抑えてしまうとよいでしょう。
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Yalom, I.D. The Theory and Practice of Group Psychotherapy. Third Edition. Basic, New York. 1980.
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❸ 難しいケースのコミュニケーション
その他
Q3-10 感情を表出しない、口を閉ざすなど、コミュニケーションがとり難い患者さんとは
どのようにコミュニケーションをとればよいのでしょうか?
自身の心情を他者に伝えることをよしとしない患者さんもいます。無理に質問を投げかけたり詮索することはせずに、かと
いって距離を置くのではなく、面談中に患者さんが言葉を発しやすいような会話の間を意識的にとったり、
「何かご心配事
や気にかかることがありましたらお話しくださいね」と、いつも話を聞く準備があることを伝えます。なかには、自身の心情
を他者に話すことに慣れていないために口に出せずにいる患者さんもいるので、そういう場合は、
「昨日は眠れましたか?」
「考えごとをして眠れなかったのですか?」といったクローズド・クエスチョンを多用して、不安なことについて話すことに
慣れてもらうことも有用です。
また、一方で、背景にうつ病などの精神疾患がある可能性も念頭に置き、評価を行うことも必要です。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.47-51,96-102, 2007
Q3-11 患者さんが自身の病状について聞くことを拒否し、治療に進めないなどの状況では
どのように患者さんとコミュニケーションをとればよいのでしょうか?
患者さんはいかなる状況でも、病状やその治療に関する情報を得る権利を行使することができます。ただしそれは、情報を
得る権利を行使しない、権利を放棄するという選択肢があることも意味します。病状を聞きたくないと言う患者さんには、
事情があるはずですから、丁寧に尋ねて確認し、意向を尊重しなければなりません。しかしながら、患者さんによっては病状
を聞かないことのデメリットを知らない場合があります。メリットとデメリットを説明し、よく話し合った上で、再度、病状説明
に関する意向を確認します。今の時点で病状を聞きたくなくても、今後聞きたくなればいつでも説明を受けられることを
伝えるなど十分に配慮することによって、今後のよい治療関係が維持できると考えられます。
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Faulkner A, Maguire P: Talking to Cancer Patients and Their Relatives. Oxford University Press, 1994. 兵頭一之介, 江口研二訳:がん患者・家族と
の会話技術. 南江堂. 68-82, 2001
Q3-12 身体症状が悪く、話もつらそうな場合、どのような言葉掛けや対応ができるでしょうか?
身体症状が悪い場合は、無理に患者さんと会話する必要はありません。まず、悪化している身体症状に対する治療を
行い、症状が改善してコミュニケーションをとることが可能な状態まで待ちます。しかし、終末期などでは身体症状が改善
しない場合も少なくありません。その場合、患者さんが長い時間話せない時には話すべき内容をコンパクトにまとめる、
また全く会話できない時は言葉を掛けず患者さんの状態をただ見守ること、またご家族と現状について話すことなどが
実践できる対応です。
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Chochinov, HM 編, 内富庸介監訳:緩和医療における精神医学ハンドブック.星和書店.15-28, 2001
Q3-13 不穏行動が見られる患者さんとは、どのようにして話の機会を持ち、
落ち着いてもらうためのコミュニケーションをとればよいのでしょうか?
不穏行動への対応で大事な点は、まず興奮がエスカレートして、暴力的な行動が生じる可能性のある徴候を知り、その
評価をすることです。外見や言葉の様子から、生理的な変化(呼吸数の増加、発汗)、全身の緊張感・振戦、話し方の変化
(大声、急に怒鳴る)、混乱の度合い、注意力の度合い、いらいら・焦燥感、行動の変化(落ち着きがない、同じことを何度も
繰り返す、物にあたるなど)を観察します。次に、患者さんの混乱・不穏の原因となっている要因に気づき、その調整を行い
ます。具体的には職員や周囲の人の態度、ソーシャルサポート、行動や生活に関わる制限、環境などがあります。その上で、
心理学的知見に則り、怒りや衝動性を和らげる対応をします。
(2)挑発的な態度・振る舞いを避ける
(凝視を避ける、淡々とした表情、
具体的なポイントとして、
(1)周囲の環境の管理、
高圧的な態度を避ける、ゆっくりと移動する)、
( 3 )相手のパーソナルスペースを尊重する(警告なしに相手に触れない、
(5)関係性を築くような会話をする
(穏やかにはっきりと、具体的に
相手に背を向けない)、
(4)自分自身の安全を確保する、
話す)、を注意します。
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❸ 難しいケースのコミュニケーション
Q3-14 患者さんはどのような身体・精神状態の時に、医療者とのコミュニケーションがストレスとなりますか?
またそのような場面では医療者は何に注意するべきでしょうか?
非常に強い痛みを有するなど身体症状が悪い場合は、患者さんは医療者とのコミュニケーションをストレスと感じる可能
性があります。また、うつ病で精神運動制止の状態に至り他者とのコミュニケーション自体がストレスになる場合や、元来
他者とコミュニケーションをとることが難しい患者さんもおられます。いずれのケースも、その時点の身体・精神状態を正し
く評価し、コミュニケーションを阻害するような症状に対して適切な治療・対処を行うことが重要です。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.76-82, 2007
Q3-15 改善されない身体的な苦痛や症状が悪化している患者さんと、
どのようにコミュニケーションをとることが望まれますか?
改善されない身体的な苦痛や症状が悪化しているような患者さんに対しては、抱えている苦痛を十分に認識し、つらい
感情に対して共感することが重要です。共感することは、
「つらいですね」などと単に共感的な言葉を掛けるだけではなく、
沈黙してじっと患者さんの言葉に耳を傾けること、また患者さんからの発言がない場合などはただ見守ることも含まれます。
患者さんが意識障害を有する場合には、周りのご家族と話をすることにより情報を共有し、場合によってはご家族の精神的
なサポートを行うことも効果的です。
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Chochinov, HM 編, 内富庸介監訳:緩和医療における精神医学ハンドブック.星和書店.315-326, 2001
Q3-16 医療者に対して不信を抱いているような態度を示す患者さんとは、
どのようにコミュニケーションをとり関係を構築していく必要がありますか?
患者さんが医療者に不信を抱いているような態度を示す理由を考えます。医療者が説明したと思っていることが患者さん
に伝わっていなかったり、誤解されているのかもしれません。医療者ごとに説明する内容が異なり、患者さんが混乱して
不信感を募らせていることもあります。時に、過去の経験から医療者に強い不信感を抱いている患者さんもいます。
医療者は患者さんの感情に巻き込まれることなく、話を注意深く聞き、患者さんの心理的な状態が不明瞭な場合は「どの
ように思われたのですか? 教えていただけますか?」など、時に探索的な質問をはさみながら不信の理由を明らかにします。
患者さんのつらい気持ちに共感を示すことが大事です。医療者に非がある場合は謝罪をし、改善策を提示しましょう。誤解
が原因であれば、自分の感情や表現(言葉・表情・姿勢など)
に注意しながら丁寧に説明をしましょう。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.91-95, 2007
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❹ ご家族への対応
Q4-1 告知直後、ご家族にはどのようなコミュニケーションや対応が望ましいのでしょうか?
悪い知らせを伝えられた直後は、患者さん同様ご家族も大きな精神的苦痛にさいなまれます。しかしながら、
「自分は患者
ではないのだから」とつらい気持ちを押し込め、気丈に振る舞うことが多くみられます。医療者はご家族を「介護者」として
捉え患者さんのサポートを望むだけではなく、
「第 2 の患者」という側面からご家族の苦痛に対しても配慮することが必要
です。具体的には、告知後のご家族の気持ちを慮りながら「ご家族の気持ちの上での負担についても遠慮なくお話しくだ
さいね」など、ご家族が自身の悩みを話しやすくするためのメッセージを積極的に伝えることが重要です。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.108-114, 2007
Q4-2 告知は、患者さん本人とご家族のどちらに先にすべきなのでしょうか?
患者さんの意向調査の結果から、ご家族とともに伝えられたい患者さんが 78 %、自分だけに伝えられたい患者さんが
13.1%、ご家族だけに伝えられることを望む患者さんは7.5%でした。このことからも、患者さん、ご家族一緒の場で伝える
ことが推奨されます。そうすることによって、皆が同じ情報を共有することも可能となります。
●
Fujimori M, Akechi T, Morita T, Inagaki M, Akizuki N, Sakano Y, Uchitomi Y.: Preferences of cancer patients regarding the disclosure of bad
news. Psychooncology. 2007; 16
(6)
: 573-8.
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.5-9, 2007
Q4-3 ご家族が告知を希望しない場合、どのように対応したらよいのでしょうか?
ご家族が患者さんに悪い知らせを聞かせたくない理由(多くは悪い知らせの後の患者さんの気持ちを気遣って、あるいは
患者さんへの対処に自信が持てないというご家族の心配や不安に理由があると思われる)について話し合います。まず、
ご家族に対して十分共感を示します。その上で、患者さんに伝えることで想定される利益と、今後起こりうるがん治療経過
のいろいろな局面での不利益について話し合います。
患者さんの意向という点から考えると、ご家族と一緒に伝えられたいという意向が多く、一人で聞きたいという意見が次
に多く、ご家族だけに伝えてほしいと考えている患者さんは極めて少ないことが示されています。もちろん難渋する場合も
ありますが、あきらめずに話し合いを重ね、患者さんとご家族一緒の場で情報を共有できるように、あらかじめ場を設定する
準備をしていく努力が大切です。
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Fujimori M, Akechi T, Morita T, Inagaki M, Akizuki N, Sakano Y, Uchitomi Y.: Preferences of cancer patients regarding the disclosure of bad
news. Psychooncology. 2007; 16
(6)
: 573-8.
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.108-114, 2007
Q4-4 告知について、患者さんがご家族に伝えてほしくないという場合、
どのように対応したらよいのでしょうか?
ご家族が反対する時と同様、患者さんがご家族に聞かせたくない理由について話し合います。そして患者さんに対して
十分共感を示します。その上で、ご家族に伝えることで想定される利益と不利益について話し合います。その上で、あなたが
納得できると判断でき、緊急時の対応法を共有できたら、患者さんの意向を尊重し、今はご家族には伝えないという選択も
あるでしょう。ただし、定期的に時間を設けて、話し合いを持ちましょう。
Q4-5 患者さんとご家族の意向が異なる場合、どのように対応したらよいのでしょうか?
患者さん、ご家族の同席の上で、お互いの考えを十分な時間をかけて話し合いましょう。基本的には患者さんの意向を
尊重できるように、患者さんが自分の気持ちをご家族に伝える手助けをします。また、ご家族が患者さんのことを思い余って
の対応であることに対して十分共感を示します。患者さんの意向があまり現実的でない場合にも、そのような考えに至っ
た経緯を十分聞き、患者さんの気持ちに共感を示します。可能であれば、患者さんとご家族が歩み寄れるように話し合いを
促進することによって、話し合いがまとまるかもしれません。
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❹ ご家族への対応
(会話や対応など)
Q4-6 ご家族とのコミュニケーションにおいて、注意すべきポイントはありますか?
患者さん、ご家族、ご家族のメンバー間の情報が異ならないように気をつけましょう。誤解が生じたり、信頼関係が揺らぐ
原因となります。また、ご家族は「第2の患者」と呼ばれるように、ご家族自身もつらい経験をしています。ですから、ご家族
に対しても患者さんと同様の配慮を示すことが期待されます。このことは多くの患者さんが望んでいることでもあります。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.108-114, 2007
Q4-7 ご家族/近親者がいない患者さんの場合、どのような点に注意して
コミュニケーションをとっていく必要がありますか?
どのような事情でご家族、近親者がいないのか情報を収集しましょう。長年、独居なのでしょうか。あるいは最近、ご家族
を亡くしたり、別離したのでしょうか。後者であれば、よりサポートが必要かもしれません。そして、心配事がある時に相談
に乗ってくれる相手がいるかどうか確認しましょう。いない場合には、いつでも相談に乗れることを伝え、定期的に声を
かけるように気をつけます。
Q4-8 医療者からの提案やコミュニケーションに対して、ご家族が拒否的あるいは非協力的である場合、
どのように接していけばよいのでしょうか?
ご家族に拒否的あるいは非協力的な態度を取られると、医療者は焦ったり、いらだったりします。医療者自身の揺れ動く
感情を客観的に捉え、冷静になってご家族に向き合うことが大切です。また、ご家族がこのような態度を取る背景には何らか
(2)病状の否認、
(3)患者さんへのケアに負担を感じ
の理由があると思われます。推測される理由として
(1)医療への不信感、
て忌避的である、などが考えられます。
(1)の場合、不信感の解消には時間がかかりますが、ご家族とコミュニケーションを取る際に落ち着いて傾聴し、不信感を
持つに至った理由を探索することが必要です。ささいなことでも誤解が生じていれば、素直に謝ることが大切です。
( 2 )の
場合は、患者さんの病気や将来についてのご家族の気持ちに共感することが肝要です。ただし「今、どのようなお気持ちで
すか」と気持ちに焦点を当てた質問を直接的にするよりは、
「夜はよく眠れますか」などと気軽な声掛けから始めると、ご家族
が返答しやすく、気持ちを聞き出すきっかけにもなります。
( 3 )の場合は共感的に傾聴するとともに、看護師やケースワー
カーの協力を得てご家族の負担軽減を図ることも重要です。いずれの理由であっても、ご家族の背景を十分に把握し、ご家族
の話を傾聴することが重要です。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.108-114, 2007
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藤森麻衣子・内富庸介編:続・がん医療におけるコミュニケーション・スキル −実践に学ぶ悪い知らせの伝え方−.医学書院.140-148, 2009
Q4-9 終末期など、ご家族が患者さんの症状や置かれた状況を受け入れられない場合、
どのように対応したらよいのでしょうか?
ご家族は「第2の患者」と言われます。ご家族は終末期などで患者さんの悪化した症状や状況を知ることで、衝撃を受けて
ひどく傷つきます。ご家族の感情に十分な配慮をすることが大切です。ご家族の話を傾聴し、患者さんの症状や状況を受け
入れられない背景にある感情を探索し共感することによって、ご家族は患者さんの現実に少しずつ目を向けることができる
ようになると思われます。また、時間をかけてご家族の話を聞くことができれば理想的ですが、日常業務に多忙な状況で、
家族対応に時間をかけることが難しいのが実際のところかと思います。
「お疲れではありませんか」など体調を気遣ったり、
「わからないことはありませんか」と質問を促したりし、普段から一言でも声を掛けて話しやすい関係性を形成しておくこと
が大切です。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.108-114, 2007
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❹ ご家族への対応
Q4-10 若年患者さんのご家族とのコミュニケーションは、どのような点に注意したらよいでしょうか?
若年患者さんのご家族は、自分が身代りになってでも患者さんをがんの苦しみから救い出したいと願っています。特に
若年患者さんの親は、はかり知れない思いを有しています。医療者はがんに苦しむ子を持つ親の苦悩に寄り添い、親が子を
支持することができるように配慮した関わりが必要です。若年患者さんの将来について、親が持つ期待や希望は大きなもの
であり、それだけに親の不安も強くなると思われます。親とは情報を綿密に共有しながら、親の希望や心配事などを折に
触れて確認するなど、温かい情緒的なやりとりが大切です。
また、親以外に、同胞、配偶者、子どもらなど他のご家族もいる場合は、そのご家族についても家族内での役割を把握し、
ご家族が混乱しないようにコミュニケーションを取る必要があります。治療の早い段階から、家族背景や、ご家族と患者さん
との関係性などについて情報を収集することが若年患者さんのご家族との有意義なコミュニケーションの一助となる
でしょう。
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内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.108-114, 2007
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藤森麻衣子・内富庸介編:続・がん医療におけるコミュニケーション・スキル −実践に学ぶ悪い知らせの伝え方−.医学書院.140-148, 2009
Q4-11 ご家族が悲嘆し、強い気持ちのつらさ(適応障害・うつ)がご家族自身にみられる場合
どのようにコミュニケーションをとり、サポートを考えた方がよいのでしょうか?
最愛の人を喪失することほど大きなストレスはないと言われており、ご家族の悲嘆反応は時に著しいもので、医療者が戸惑
うようなこともあります。このような場合、医療者はご家族を「第 2 の患者」ととらえ、ケアを行う必要があります。悲しみ、
怒り、絶望など、去来するさまざまな感情を表出することによって、気持ちの整理がなされるものですので、医療者はまずは
ご家族の思いに傾聴・共感した上で、今までのご家族の労をねぎらうなどの支持的な関わりを行うことが基本となります。
一部の悲嘆反応は、病的悲嘆や、うつ病に移行して、長期化することがあります。通常の悲嘆反応はあまり長引かないの
ですが、一貫して気持ちの落ち込みが出現している場合や、亡くなった後2か月を過ぎても悲嘆反応が続いている場合は、
専門家によるケアが必要な可能性が高いので、注意が必要です。
●
Kissane DW, Bloch S, McKenzie M, et al.: Family grief therapy: a preliminary account of a new model to promote healthy family functioning
during palliative care and bereavement. Psychooncology. 7
(1)
: 14-25. 1998
Q4-12 せん妄がみられる患者さんのご家族には、どのような点に注意し
説明や理解を得るコミュニケーションをとることが望ましいのでしょうか?
患者さんがせん妄になった場合、ご家族の方は大きな動揺を感じます。特にご家族の心配には、痛みが取れないからおか
しくなったのではないか、薬(特にオピオイド)のせいでおかしくなったのではないか、不安に耐えられなくなったせいでは
ないか、認知症になったのではないかなどがあります。
このような心配に対して、医療スタッフはまずご家族の不安に対して共感を示し、ご家族にせん妄の説明を聞く余裕が生じ
ているか推し量りながら、せん妄が身体の病気の症状の一つとして出ていること、痛みが続いたり薬のせいで生じているもの
ではないこと、身体の症状が落ち着けばせん妄も改善することを説明します。さらにご家族の苦労をねぎらいつつ、せん妄
状態では周囲の状況がつかめないことで患者さんが不安になること、そばに親しい人がいるだけでも患者さんが安心する
こと、幻視や妄想の症状には無理に否定する必要はないことなど関わり方を説明しつつ、ご家族の積極的な関わりを促します。
●
小川朝生・内富庸介編:緩和ケアチームのための精神腫瘍学入門. 医薬ジャーナル社. 146-147, 2009
Q4-13 患者さんのご家族にうつ症状がみられる場合、どのような点に注意し
サポートやコミュニケーションをとることが望まれますか?
がん罹患に対するご家族の精神的苦痛は本人以上であることも少なくありません。しかし、強いうつ症状があるにも関わ
らず、私のことはいいからと言って本人のケアを優先してあげてほしいからと、自分自身を省みないことがあります。また、
話を聞こうとしても、ご本人のもとを離れることに抵抗を示されることもあります。このようなご家族の場合、看病を中断
してしまうと後々の後悔の原因となることも多いので、できれば看病を続けられるようなサポートを考えます。
ベッドサイドに赴く時に、
「非常に献身的に看病されていますね」と、さりげなく労をねぎらうのがよいでしょう。さらに、
「本人を支えるあなたがつぶれてしまってはいけない」と、あくまでも患者本人のためであると説明して、週に1 ∼ 2 回は
適度な休養を取るように伝えましょう。不眠があれば、看病を続けるために十分な睡眠を取ることの重要性を伝え、専門家
と相談するための動機づけにするのもよいでしょう。
●
小川朝生・内富庸介編:緩和ケアチームのための精神腫瘍学入門. 医薬ジャーナル社. 316-343, 2009
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❺ 医療チーム間のコミュニケーション
Q5-1 患者さんとより良いコミュニケーションをとるためには、どのようにチームでその重要性を理解し、
どのようなタイミングで医療者間は接し、患者情報を共有したらよいのでしょうか?
患者さんと良好なコミュニケーションを取ることはあらゆるケアの基本となります。特に多職種チームで関わり、複雑な
問題を解決しなければならないような場合には、チームメンバーそれぞれが持っている情報を共有して、全体を見渡す
ような視点をメンバー間で共有することが重要です。情報を共有するために、メンバーが意見交換できるカンファレンスを
定期的に行うこと、ケアに関連して新しい情報を得たならば、メンバーに向けて情報を発信することを意識して進めること
がチーム内の協調を高めます。
●
Payne M: Team building: how, why and where? In:
(Speck P eds.)teamwork in palliative care
Q5-2 医師の説明事項と患者さんの理解が異なる場合、他医療者は患者さんと、
どのようにコミュニケーションをとる必要がありますか?
医師に限らず医療者が説明したと思っている事項と患者さんが受け取られた内容はしばしば異なっていることがあり
ます。また、医療者ごとに説明する内容が変わると、患者さんを混乱させたり、信頼関係を損ねたりすることもあります。
緩和ケアチームで関わる時など、他の医療者は、病状や重要な事項に関してはまず患者さんがどのように受け取られたの
か、どのように理解されたのかを最初に伺います。その上で理解が異なるようであれば、再度主治医に尋ねるよう働きかけ
たり、理解のずれを主治医に返して、まずは主治医と患者さんの間から認識のずれを修正するよう働きかけます。
Q5-3 医師以外の医療者が患者さんの意向や想いを知り得た場合、どのようにその情報を医師に伝えたら
よいのでしょうか?
(患者さんが医師への情報伝達を望まない場合も含む)
患者さんが主治医にご自身の意向や想いを伝えることを躊躇することがあります。もしも他の医療者が患者さんのそう
いった意向を知った場合には、まずチームでその情報を共有することが大事です。主治医に直接伝えにくい場合には、緩和
ケアチームの医師など同じ職種から伝えるようにすることもあります。また、患者さんが主治医に伝えることを望まない
場合には、
「どうして伝えることを望まないのか」を確認します。その上で伝えた方がよいと思われるならば、患者さんから
直接主治医に伝えることを促すのもよいでしょう。
Q5-4 地域の医療資源が得にくい患者さんに対しては、どのような点に注意して
チームでコミュニケーションをとればよいのでしょうか?
残念ながら地域により利用できる医療資源には差があるのが現実です。地域の医療資源が得にくい場合には、できるだけ
早い段階から移行の時期、必要なサポートを予測し、早めに準備する必要があります。予想される症状とその対策に関する
医学知識、患者さん固有の情報を合わせてチームで共有すること、明確な目標をチームで立てて協同で進めることが重要です。
Q5-5 患者−医師間のコミュニケーションが十分でない場合、看護師として
どのように患者さんとのコミュニケーションをとっていけばよいのでしょうか?
患者−医師間のコミュニケーションは、医師と患者さんがいるだけでは成り立たず、多職種のメンバーの協力を得てはじ
めて進んでいきます。看護師には患者さんおよびご家族の想いを汲み取り、ご家族を含めたケアを提供する視点が求めら
れています。患者さんが十分に意向を伝えられていない場合には、その理由を探り、まず問題点をチームで共有します。
多数の目で問題点を検討した後に、コミュニケーションを進めるために協同で働きかけていきましょう。
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❺ 医療チーム間のコミュニケーション
Q5-6 患者−医師間のコミュニケーションが十分でない場合、薬剤師として
どのように患者さんとのコミュニケーションをとっていけばよいのでしょうか?
患者−医師間のコミュニケーションは、医師と患者さんがいるだけでは成り立たず、多職種のメンバーの協力を得て初め
て進んでいきます。薬剤師は服薬指導を通して、患者さんの意向を知り、アドヒアランス*を高めるためにその専門性を発揮
することが求められています。患者さんが十分に意向を伝えられていない場合には、その理由を探り、まず問題点をチーム
で共有します。多数の目で問題点を検討した後に、コミュニケーションを進めるために協同で働きかけていきましょう。
『自分自身の医療に自分で責任を持って治療法を遵守する』
という考え方です。同じ「治療遵守」を意味する用語
*:アドヒアランスとは、患者さんが主体となり
で、従来用いられてきた“コンプライアンス”には、患者さんが医療者の決定に従うとの印象があったのに対し、
“アドヒアランス”は、患者さんが積極的に治療
方針の決定に参加し、自らの決定に従い治療を実行する姿勢を重視した用語であるといえます。
Q5-7 かかりつけ医などのもとで患者さんをフォローしていく際、
患者さんへ見捨てられ感を抱かせないようにするコミュニケーション・スキルはありますか?
主治医や病院が代わることが将来予想される場合には、
「今後考えられる選択肢の一つ」として早めの段階で伝える
ことがまず大事です。その上で、主治医が交代する選択肢を、患者さんにとってのメリットや必要としていることに焦点を
合わせて伝えます。かかりつけ医でどのような治療が行われるのかあらかじめ調べて伝え、治療が終わるのではなく、治療
が継続されることを保障します。
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❻ コミュニケーションの学習法
Q6-1 共感や患者さんを思いやる心を育むための教育方法はありますか?
現在、有効性が報告されている方法の一つとして、講義とロール・プレイを含むコミュニケーション・スキル・トレーニング
法があります。まずは、資料を用いて知識を獲得し、得た知識を行動に移すために、ロール・プレイを行います。知識は大切で
すが、知識だけでは行動は変わらないという報告がありますので、ロール・プレイを行うことが重要であると考えられます。
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.125-134, 2007
Q6-2 自己の面接態度やスキルを客観的に評価する方法はありますか?
ロール・プレイを行い、第3者からフィードバックを得る方法があります。ロール・プレイが難しい場合には、自身の面談をビデオ
で撮影し、後に評価する方法もありますが、患者さんの同意を得る、
ビデオテープの管理に責任を持つことなど準備が必要です。
Q6-3 他医師のコミュニケーション実践例を学ぶ機会はありますか?
先輩の面談に陪席することで学ぶ機会が得られます。その際、医師の視点で観察することと、患者さんの視点で観察する
ことで学習できるポイントも変わると思います。しかし、面談に陪席することでは自身の苦手なところを学ぶ機会は少ない
かもしれません。そのような時には、ロール・プレイを用いることによって、他の医師のコミュニケーションをヒントに学んだ
り、自らのコミュニケーションにフィードバックをもらったりすることが可能となり、学習効果が大きいと考えられています。
●
内富庸介・藤森麻衣子編:がん医療におけるコミュニケーション・スキル −悪い知らせをどう伝えるか−.医学書院.125-134, 2007
「コミュニケーション技術研修会テキスト SHARE1.2版」医療研修推進財団2008
●
Q6-4 コミュニケーション・スキル・トレーニングは医師以外でも参加できますか?
現在行われている厚生労働省委託事業医療研修推進財団主催の「コミュニケーション技術研修会」は医師を対象とした
プログラムになっていますので参加することはできません。コミュニケーション・スキル・トレーニングはあらゆる医療者に
必要であると考えられますが、参加者の職種によって、患者さんとのコミュニケーションの状況に差がありますので、医師
向け、看護師向けと対象者によりプログラムは異なります。
ベルギーでは看護師向けのコミュニケーション・スキル・トレーニングの有効性が報告されており、わが国でも2007 年
から日本サイコオンコロジー学会主催「看護師のためのがん患者とのコミュニケーション・トレーニング・セミナー」などが
開催されています。その他、薬剤師や検査技師などのプログラムの開発も期待されています。
●
Delvaux N, Razavi D, Marchal S, Brédart A, Farvacques C, Slachmuylder JL.: Effects of a 105 hours psychological training program on attitudes,
communication skills and occupational stress in oncology: a randomised study. Br J Cancer. 2004; 90
(1)
: 106-14.
●
日本サイコオンコロジー学会ウェブサイト:http://www.jpos-society.org/
Q6-5 コミュニケーション技術研修会のファシリテーター養成講習会は医師以外でも参加できるのでしょうか?
参加できます。日本サイコオンコロジー学会主催ファシリテーター養成講習会の参加対象者は、過去にコミュニケーション技
術研修会を受講したがん専門医、または、過去にコミュニケーション技術研修会を見学研修し臨床経験5年以上、且つがん臨床
(精神科医、心療内科医、
リエゾン精神看護専門看護師、心理職などメンタルヘルス専門
経験満3年以上のサイコオンコロジスト
の方)
です。8日間の講習会に参加し、修了証を得た方がコミュニケーション技術研修会のファシリテーターとして活動しています。
(この内容は2011年12月現在のものです。最新の情報は日本サイコオンコロジー学会のウェブサイトにてご確認ください。)
●
日本サイコオンコロジー学会ウェブサイト:http://www.jpos-society.org/
Q6-6 コミュニケーション・スキル・トレーニング受講後の医療者自身の変化に示される、
『自己効力感』
とはどのようなことを指すのでしょうか?
自己効力とは、平たくいえば「自信」です。ある具体的な状況においてこれだけのことができるであろうという効力期待で
あり、行動の実効性に影響を与えるものであると考えられます。すなわち、自己効力の高さが、遂行行動の強さを決定すると
考えられています。コミュニケーション・スキル・トレーニングの際には、悪い知らせを伝える際に望ましいコミュニケーション
行動をどの程度行うことができるかという自己効力感を参加者に回答していただいています。
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心理学事典. 平凡社. 2003
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アストラゼネカのウェブサイト
患者さん・ご家族向け
「がんになっても」 http://www.az-oncology.jp/
医療者向け
「MediChannel」 http://med.astrazeneca.co.jp/
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ON211イ B312 2011年12月作成