1 1945年8月15日、日本に革命は起きたのか? ~憲法成立過程に

1945年8月15日、日本に革命は起きたのか?
~憲法成立過程に学ぶ日本国憲法の本質~
文責:高垣
「国があれば、必ず国を国たらしめる憲法がある。憲法ということばを実質的な意味で用
いるならば、国と憲法は時を同じくする。日本は三千年の古い国民団結の中心権威のもと
に一貫した憲法を持つ国であり、それは他国に例のないことである。日本に限らない。国
があって法律はないということもなければ、憲法はあるが国はないということもない。つ
まり、国と憲法とは不可分の関係にある。しかし、国と憲法との関係は、論理的には、国
あっての憲法であって、憲法あっての国ではない。ということは、どのような憲法も国に
役立たなければ変わるということである。」
日本国憲法史と日本国憲法(大石義雄
著)
憲法は、本来、成るものであって、こしらえるものではない。という意味は、憲法は、そ
の時代その国の社会的客観的条件に適合して成長発展してこそ、憲法としての使命を果た
しえるものだということである。憲法に限らない、全ての法が法としての使命を果たしえ
るのは、法としての権威をもつとき。そして、法の権威の基礎をなすものは、法の下に生
活する国民のその法に対する服従の精神。国民の法に対する服従の精神は、その法がその
時代のその社会の客観的社会条件に適合しているときに生ずるもの。法に対する国民の服
従の基礎となる客観的社会条件は、つまりは、その時代その国の歴史的国民感情にほかな
らない。それゆえに、法にして国民感情から遊離したようなものは、たとえ形はどのよう
に整っているとしても、国民の服従の精神に適合することはできない。従って、法として
の権威をもつことはできない。
ギリシャの法思想から鑑みる法の本質
神の掟→慣習法→制定法
実定法(制定法)
:行為規範と強制規範から成る二重構造を有する
自然法(神の掟)
:行動規範
法の本質:多様の目的の間の相互調整を実現し、秩序ある共同生活の基礎を確立
国家:社会に存在する行為規範に強制規範を加えることによって法を定立
主権:具体的な国法の内容を法の根本理念に従って決定していくべきところの、最も重大
な責任???
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天孫降臨の神話は日本国憲法史の始まり
皇祖天照大御神が皇孫ニニギニノミコトを遣わして永遠の理想国日本をつくらしめること
とされた天孫降臨の日本神話は、日本憲法史の始まりである。国あれば国たらしめる根本
法がある。これが憲法である。それが成文であるか不文であるかは、本質的な問題でない。
Cf.イギリス
皇祖天照大御神の日本国家創設の理想は、三種の神器に象徴されている。
鏡:不潔、偏見邪悪を斥け、公明正大を理想とする民族の心を象徴
剣:国家破壊の悪を追い払う勇敢な民族の心を象徴
勾玉:円満寛大の平和を理想とする民族の心を象徴
「豐葦原千五百秋之瑞穂國是吾子孫可王之地也。宜爾皇孫就而治焉。行矣。寶祚之隆、
當與天壌無窮者矣」
『日本書紀』巻二
Cf.「天壌無窮ノ皇運」(教育に関する勅語)
*日本民主主義は、船来のものではなく、日本古来からのものであるか?
*民主主義の多義性
Cf.八百万の神々たちの神集(ツドイ)を背景にして行われた岩戸開きに始まる皇祖天照大御神の出現
聖徳太子の十七条憲法
① 近代法学で法という意味のものか
② 政治道徳的な意味のものか
平和主義の宣言、宗教的情操を深める、礼を本とする、無私の立場で裁判にあたる、勧善懲悪は政治の道、
役人の忠誠の義務、信は義の本たり、衆議に従え、賞罰は適正たるべし、嫉妬の弊害、政治民主化の原則
etc
近代立憲主義
徳川末期日本に影響
① 絶対君主制に対する不満
② ルネッサンス運動期に醸成された個としての自覚
→個人の自由の領域(私的領域)の誕生
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人間の幸福はそれぞれの個人の私的生活の中にこそある:私的幸福
社会契約説的発想を背景に、このような大事な個人の天賦の権利(自然権=人権)を、国
家の根本法として、成文の法典(憲法典)のかたちで確認するという方式がとられる。
幕府が倒れて、王政復古となるや、欧米の立憲主義思想の影響のもとに、近代的概念とし
ての憲法を確立することの必要が、帝国憲法という形式憲法を成立せしめるに至った。
日本成文憲法史の始まり
日本近代化は将軍徳川慶喜の大政奉還に始まる
五箇条の御誓文
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大日本帝国憲法の基本原則
旧憲法の基本原則は、万世一系の天皇を国家統治権の総攬者とする民主主義の原則である。
すなわち、旧憲法では、万世一系の天皇を国家統一の最高権威とするというのが憲法の基
本原則であり、日本の歴史的固有の政治原則である。この原則は旧憲法が制定されるまで
は、不文憲法上の基本原則であった。
Cf.道鏡
旧憲法が1889(明治22)年2月11日に制定されて、この基本原則は成文憲法上の
基本原則となった。同時に、旧憲法は政治の近代化を考えて、天皇の統治方法として議会
制を取り入れた。法律も予算も議会の議決を必要とする、というのが根本原則となってい
る。これがいわゆる日本民主化の問題であり、旧憲法は百年前、既に政治の民主化を決め
ているのである。
だからこそ、占領軍による日本占領中ではあったが、当時の幣原首相は、日本はポツダム
宣言を受諾したからとて、日本民主化のために憲法改正の必要はない、と宣言した根拠は、
ここにある。
戦後の日本では、天皇の御存在と民主主義とは矛盾するかのように錯覚する者もあるが、
それは、民主主義を君民対立のことだと独断するからである。
天皇に私なし、君民一体の国、これが民主主義の理想であることは、昔も今も変わりなし。
これこそが、日本平和の源泉である。
立法・財政で議会の協賛を得る必要
この二つの例から見ても、帝国議会の定める政治形式はデモクラシーを基礎とするもので
あることが明らかに看守せられる。けだし、立法と予算の制定は国家活動の基礎をなすも
のであって、この二つの国権の発動が議会の意思を基礎として行われるものであるべきと
いうことは、すなわち、政治形式の全体の性格を決定するものだからである。
法律主義の建前に対する例外
独立命令
緊急勅令
非常大権命令
われわれは、旧憲法を不当に曲解し、これを非難することが、あたかも新憲法の精神に徹
するゆえんだとさえ考えがちである。たとえば、旧憲法といえば、一も二もなく、封建憲
法であり、ファッショ憲法だと簡単に片付けられがちな我々の態度がすなわちそれである。
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しかし、過去時に昭和6年の満州事変を境にし、わが政治の方向が平和政治から戦争政治
への方向に代わってから太平洋戦争の終わるまでのわれわれの旧憲法に対する態度はどう
であったか。旧憲法は議会政治の憲法であり、デモクラシーの憲法であり、あまりにも個
人主義的自由主義的な19世紀の遺物なりとしてさえ非難されたのではなかったか。人に
よっては、議会制の崩壊は歴史的社会的必然の法則に基づく運命だとさえ断定し、もって
これらの非難を合理づける役割を演じたのが当時の実情ではなかったか。
第二次大戦敗戦と GHQ による占領
玉音放送の内容
朕深ク世界ノ大勢ト帝国ノ現状トニ鑑ミ非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ収拾セムト欲シ茲(ここ)ニ忠良ナル爾(なんじ)
臣民ニ告ク朕ハ帝国政府ヲシテ米英支蘇四国ニ対シ其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨通告セシメタリ
抑々(そもそも)帝国臣民ノ康寧ヲ図リ万邦共栄ノ楽ヲ偕(とも)ニスルハ皇祖皇宗ノ遺範ニシテ朕ノ拳々(けんけ
ん)措カサル所曩(さき)ニ米英二国ニ宣戦セル所以(ゆえん)モ亦(また)実ニ帝国ノ自存ト東亜ノ安定トヲ庶幾(し
ょき)スルニ出テ他国ノ主権ヲ排シ領土ヲ侵スカ如キハ固(もと)ヨリ朕カ志ニアラス然(しか)ルニ交戦已(すで)
ニ四歳ヲ閲(けみ)シ朕カ陸海将兵ノ勇戦朕カ百僚有司ノ励精朕カ一億衆庶ノ奉公各々最善ヲ尽セルニ拘ラス戦局必ス
シモ好転セス世界ノ大勢亦我ニ利アラス加之(しかのみならず)敵ハ新ニ残虐ナル爆弾ヲ使用シテ頻ニ無辜(むこ)ヲ
殺傷シ惨害ノ及フ所真ニ測ルヘカラサルニ至ル而モ尚交戦ヲ継続セムカ終ニ我カ民族ノ滅亡ヲ招来スルノミナラス延
(ひい)テ人類ノ文明ヲモ破却スヘシ斯(かく)ノ如クムハ朕何ヲ以テカ億兆ノ赤子(せきし)ヲ保シ皇祖皇宗ノ神霊
ニ謝セムヤ是レ朕カ帝国政府ヲシテ共同宣言ニ応セシムルニ至レル所以ナリ
朕ハ帝国ト共ニ終始東亜ノ解放ニ協力セル諸盟邦ニ対シ遺憾ノ意ヲ表セサルヲ得ス帝国臣民ニシテ戦陣ニ死シ職域ニ
殉シ非命ニ斃(たお)レタル者及其ノ遺族ニ想ヲ致セハ五内(ごだい)為ニ裂ク且(かつ)戦傷ヲ負ヒ災禍ヲ蒙リ家業
ヲ失ヒタル者ノ厚生ニ至リテハ朕ノ深ク軫念(しんねん)スル所ナリ惟フニ今後帝国ノ受クヘキ苦難ハ固ヨリ尋常ニア
ラス爾臣民ノ衷情(ちゅうじょう)モ朕善ク之ヲ知ル然レトモ朕ハ時運ノ趨(おもむ)ク所堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ
忍ヒ以テ万世ノ為ニ太平ヲ開カムト欲ス
朕ハ茲ニ国体ヲ護持シ得テ忠良ナル爾臣民ノ赤誠ニ信倚(しんい)シ常ニ爾臣民ト共ニ在リ若(も)シ夫(そ)レ情
ノ激スル所濫(みだり)ニ事端ヲ滋(しげ)クシ或ハ同胞排擠(はいせい)互ニ時局ヲ乱リ為ニ大道ヲ誤リ信義ヲ世界
ニ失フカ如キハ朕最モ之ヲ戒ム宜シク挙国一家子孫相伝ヘ確ク神州ノ不滅ヲ信シ任重クシテ道遠キヲ念ヒ総力ヲ将来ノ
建設ニ傾ケ道義ヲ篤(あつ)クシ志操ヲ鞏(かた)クシ誓テ国体ノ精華ヲ発揚シ世界ノ進運ニ後レサラムコトヲ期スヘ
シ爾臣民其レ克(よ)ク朕カ意ヲ体セヨ
御 名
御 璽
昭和二十年八月十四日
各国務大臣副署
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昭和20年8月15日、日本人はポツダム宣言を受諾して大東亜戦争の終わったことが、
天皇によってラジオを通じて知らされた。戦争が終わると間もなく、日本占領の占領軍が
やってきて、占領統治が始まった。
① 神道指令
② 憲法改正・教育勅語廃止
日本の歴史的国家の本質を理解し得ない占領軍は、神宮神社と国家との関係を断絶させる
ために、神宮神社も寺院や教会と同じ個人的宗教施設として扱うことを強要したのが「神
道指令」である。占領軍的憲法解釈では、神宮神社も寺院や教会などと同じ個人宗教施設
なのであって、神宮神社、それが伊勢神宮であろうと、靖国神社であろうと、寺院や教会
などと区別して、国家的に扱うことを一切認めようとしなかった。それは歴史的日本国家
の否定に他ならない。日本占領中の占領軍による日本民主化の根本方針の実体は日本弱体
化のことであった事実は何人も否定できない歴史的事実である。
朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、枢密
顧問の諮詢及び帝国憲法第七十三条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、こ
こにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十一年十一月三日(以下略)
議論が絶えないのは、日本国憲法が新憲法制定の体をとらず、あくまで明治憲法の改正手
続に乗っ取った点に起因する。民定憲法でありながら欽定憲法のニュアンスを拭い切れな
い点、どう説明するか。
① 憲法自律性の原則
② 憲法改正限界論
↓
A 現行憲法無効論
これまでに制定され、整備された法令や制度を全て無に帰する点において妥当でない
B 現行憲法有効論
a 憲法改正無限界論
b 八月革命説:通説
c 主権顕現説
d 法定追認説
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① 改正は無効だが一種の革命として有効とみなす。現憲法は有効かつ明治憲法との関係性
はない。現憲法は純然たる民定憲法となる。多数派。
② 改正は無効、しかし現憲法は正当性を有する、とする。この説において明治憲法と現憲
法との関係性をどう説明するのかは、よく分からない。ただ、現憲法を純然たる民定憲
法として扱っている人が多いことは確か。これも比較的多数派。
③ 改正は有効とする。ここにおいて国民は主権を有すれど、それは天皇あってのものであ
る、ということになり、西欧諸国における、一般的な国民主権概念との別異性が強調さ
れることになる。超少数派。
④ 改正は無効で現憲法は無効とする。現在これを主張する憲法学者はいないと思われる。
素人の方で主張している方は時々見かける。
日本国憲法に変わってからは、天皇は国の象徴であり、また国民統合の象徴ではあるが、
国権行使の上では、憲法が定めた特定の事項、例えば法律の公布とか、国会の招集など、
限られた事項についてのみ、国務を行わせられ、その他の国務については、天皇が国権を
行使せられるということは、ありえないこととなった。
国家統治権すなわち主権は国民に存し、それは国会を通して具体的に行われることになっ
た。議会というものの地位が、極度にまで高められることになった。
日本国憲法においては、議会すなわち国会は最早天皇の翼賛機関ではなく、それ自身国家
活動の主体となる。もちろん、法律も、天皇が制定されるのではなく、国会が直接その制
定者となる。かくて、立法も予算も全て、日本国憲法の下においては、国会がその制定者
であるから、日本国憲法の下においては、直接国会の意思を基礎として行われることとな
る。国会は、もはや、天皇に従属する国家機関でなく、それ自身国務を決定する決定機関
となった。国会のこの地位は、国会が政府の活動を批判するの地位についても一緒であっ
て、帝国憲法におけるがごとく、政府の国家活動の単なる批判者であるのではなく、国会
の批判の結果政府が国会の信任を失ったときは、政府は総辞職し、その地位を去らねばな
らない。すなわち、政府の存続は、法上、国会の信任に依存している。
戦後日本のアナーキーに近い混乱の一つの原因は、国民が一般に権威というものを認めな
い傾向になってきたからである。国民が国家の権威を認めないようになれば、国家生活が
アナーキーになるのは当然のことである。宗教も一つの権威であるが、国民が国家の権威
を認めないようになれば、宗教的信念は失われてしまう。道徳もその権威を認めなければ、
社会生活は堕落するのほかはない。また、法の権威を認めないようになれば、国家の威令
は行われなくなる。人間は社会人としては不完全な存在であるから、その不完全を補い、
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人間を支えるものとしての権威は必ずこれを認めないわけにはいかないもの。しかし、権
威が行き過ぎになると、人間個人の主体性が失われて、人間としての存在意義がなくなっ
てしまう。このことは、歴史が事実において示している。権威と個人の主体性との調和が
必要なゆえんである。
国際秩序において
国際関係:各国の国益を追求する諸国家の相互作用が作り出す関係
国益:ⅰ国民生活の豊かさの追求や安定の確保という物質的側面
ⅱ比較的長期にわたり、しかも歴史性に根差した形で、その国の理念や人々が共有
している文化的な価値を実現していくという、精神的次元に関わる側面
私見
現憲法の問題
① 対外的魅力の喪失
② 道徳教育の空洞化
③ 帰属意識の喪失から派生する幸福感の欠落
④ 間違った個人主義に起因する利己主義の蔓延
⑤ 文化・古来の精神等日本に固有な価値の衰退
参考図書:日本国憲法史と日本国憲法
大石義雄
国家についての考察 佐伯啓思
日本国憲法論
佐藤幸治
ノモス主権と理性主権 時本義昭
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