3Dプリンターが起こす産業革命 所属:工学ゼミ 1年4組35番 中島 洋哉 第1章 はじめに 第1節 テーマ設定の理由 今、製造、建築、教育、医療や福祉など、世界中の幅広い分野で「3Dプリンター」 が注目されている。近年急速な成長を遂げた3Dプリンターがなぜ注目されているのか に興味を持った。そして、3Dプリンターについて研究することで、これからの工業・ 産業の流れを掴めると考えたため、このテーマを選んだ。また、ときどき3Dプリンタ ー関連の事件が報道されているのを見て、3Dプリンターの問題について、研究したい と考えていた。 第2節 研究のねらい 3Dプリンターの仕組みや活用法を理解し、新たな可能性について考える。 3Dプリンターの短所・問題点について研究し、解決策を考える。 第3節 第1項 研究内容と方法 研究の内容 なぜ3Dプリンターが注目されるのか 3Dプリンターの仕組み 3Dプリンターの技術 1.光学造形方式 2.粉末焼結積層造形 3.熱溶解積層法 バイオプリンティング 3Dプリンターの持つ課題 第2項 研究の方法 文献とインターネットを使って調べる。 第2章 第1節 研究の展開 なぜ3Dプリンターが注目されるのか 「2008年から2011年にかけて、個人用の3 Dプリンター市場は毎年平均34 6%もの爆発的成長を遂げ、2013年には7万台が売られたと見積もられている」 (ウ ィキペディアより)。この言葉からも分かるように、 近年、3Dプリンターへの関心が 高まっている。注目される理由は数多くあるが、その中でも大きな理由を 挙げ てい く。 商品デザインを支援できる 3Dプリンターは既に商品デザインの現場で活用されている。試作段階の商品を3D 1 プリントし、実際に触れることで、デザイン上の欠点を見つけることができる。 また、「検証用モデル」なども作成できる。これは、各パーツの形状や動作の可否を 確認するのに必要なものだ。これらは、熟練の職人によって作られてきた。そのた め、 完成までに時間がかかり、多額のコストもかかった。しかし、3Dプリンターを活用す ることで、モデルを数時間で作成でき、コストもわずかになる。そのおかげで、時間と コストを節約してより良い商品を作れるようになった。また、従来の方法では難しかっ た中空などの複雑な造形も可能になった。 デジタル情報から製造できる これは、3Dプリンターで最終的な製品を製造してしまおうという考えである。これ はまだ実用には至っていないが、将来的に可能になると言われている。家庭に一つ3D プリンターがあれば、製品の3Dデータを入手(または作成)することで、店舗に行か ずに商品を手に入れられる。これが可能になれば、わたしたちが買いに行くものは 製品 の素材のみになるだろう…。 個人に適した製品の製造ができる 3Dデザインを修正することで一人ひとりに合った製品の製造が、少コストで可能に なった。これは義肢の製造にも活用できる。 海外では、3Dプリンターによる義顔の制作が行われた。腫瘍の摘出手術で顔の左半 分を失ったEricさんは、CTと顔面スキャナを使い顔面の3Dデータを復元し、3 Dプリンティングすることで、失った顔面左半分を取り戻した。 医療に応用できる 生きた細胞を使い、3Dプリンターで臓器を「製造」する試みもなされている。これ を「バイオプリンティング」と言う。患者自身の細胞を使うことで拒絶反応や感染症の リスクは少なくなり、臓器提供を待つ必要もなくなる。この研究は日本の有名大学や企 業の研究室でも行われている。 ※バイオプリンティングについては、第 4 節で詳しく解説する。 環境にやさしいものづくり 3Dプリンターが環境にやさしいといわれる理由は二つある。 一つは、3Dプリンターの製造法、「加算的製造法」によるためだ。従来のものづく りは、素材を切り落としたり穴を開けたりする「減算的な」製造法が主流だった。こ の 製造法では素材の余りが出てしまい、効率的ではない。それに比べて3Dプリンターは、 製品をゼロから作るため、無駄な素材を消費しない。 2 もう一つは、運輸コストがかからない点だ。商品を消費者に届けるためには、「運輸」 が必要不可欠となる。この運輸のために、石油をはじめとする多くの資源が費やされ、 環境問題へとつながっている。それに比べて3Dプリンターは、3Dデータを送受信す るのみなので、運輸コストがかからない。 このよう理由から、3Dプリンターは世界中の多くの分野から注目されているのだ。 第2節 3Dプリンターの仕組み ここからは3Dプリンターの典型的な仕組みについて説明する。 基本的な仕組みは、コンピュータ上で作った3Dデータを設計図として、断面形状を 何層にも重ねることで立体物を作成する。金属やプラスチック、石膏など、様々なもの を素材にできる。チョコレートなども素材にできる。 <大まかな流れ> 造形ベッド(各層を造形するための作業台のようなもの)の上に、 最下層が形成される ↓ 造形ベッドが一段下がる←--┐ ↓ |繰り返し 前の層の上に次の層が形成される―┘ しかし、「突出部」や「孤立部」がある場合、どうするのか。「L」「Y」「T」「M」 を例にして考える。まず、「L」は積層部が土台となるので問題ない。「Y」は斜めの突 出部があるが、45°以下の角度は作成できる。しかし、 「T」は横棒が90°に伸びて おり、このままでは作成できない。同様に「M」でも造形中に中心部が浮いた状態にな ってしまうため、作成できない。 この問題を解決するため に、「サポート材」が使用されている。ハイエンドのモデル では、サポート材噴出用の二つ目のノズルが備わっている。このノズルから「突出部」、 「孤立部」を支えるほかの素材を噴出することで、難しい形状も作成できる。 サポート 材は水につけて溶かすことで取り除くことができる。 第3節 3Dプリンターの技術 1 . 光学造形方式 3Dプリンターの初期からあり、業務用3Dプリンターとして広く普及している方式 だ。紫外線の光などに当たると硬化する硬化性樹脂(フォトポリマー)を素材とする。 3 この液状のフォトポリマーを造形ベッド(水面間際に設置される)の入ったタンクの中 にため、3Dデータをもとにして紫外線センサーが断面形状を形成していく。 長所 非常に精密な作業ができる。(各層 0.05mm、レーザー精度 0.025mm) 短所 太陽光に弱い。 素材・本体ともに高価である。 2.粉末焼結積層造形 ローラーを使って粉末の層を用意し、レーザーを断面形状に当てる。レーザーの熱に よって粉末が「焼結」、すなわち部分的に融解し、周囲の粒と結合する。この方式では、 プラスチックやナイロン、金属、砂など様々な素材を使用で きる。ナイロンなどのプラ スチック素材を使えば、非常に精密な造形が可能だ。 長所 航空機の部品の製造にも利用できる。 短所 表面がざらざらした質感になる。 3.熱溶解積層法 「サーモプラスチック」や「バイオプラスチック」などを素材とし、熱せられたプリ ントヘッドから造形ベッドへ素材を噴出して各層を造形する。個人用3Dプリンターで 主流となっている方式である。 4 長所 素材は様々な色があり、安価である。 短所 ほかの方式に比べて精度が低く、表面に凹凸が見られる。 第4節 バイオプリンティング 将来実現すると期待されている3Dプリンターの応用技術が、「バイオプリンティン グ」である。バイオプリンティングは、生きた細胞の自然の力を活かす。方法は様々だ が、あるバイオプリンターでは「バイオペーパー」を使う。 そして、目的の器官や内臓 を作るのに必要な細胞をすべて混ぜ合わせた「球状バイオインク」を使う。 バイオプリンティングは図のように進められる。まず片方のプリントヘッドからバイ オペーパーが押し出され、層を形成する。次にもう片方のヘッドから球状バイオインク が出力される。これを繰り返すことで、3次元の物体が形成 されるのである。 (図は血管のバイオプリンティングのイメージ) 海外ではすでに人間の肝臓のレプリカの製造にも成功しており、決して遠い未来の話 ではないことが分かる。 第5節 3Dプリンターの持つ課題 ここまで3Dプリンターの持つ利点について書いてきた。しかし、3Dプリンターに は今後解決しなければならない大きな課題がある。 違法物の作成 5 2014年、国内で「3Dプリンターで拳銃を作成して逮捕される」という事件が発 生した。驚いた人も多いだろうが、もともと3Dプリンター業界では懸念されていたこ とだ。海外には3Dプリンターで作れる 拳銃の3Dデータもアップロードされており、 入手するのは難しくない。また、個人用の3Dプリンターの精度が上がるにつれて、 「鍵」 や「印鑑」の作成も容易になるだろう。 この問題を解決するために、私は3Ⅾプリンター本体に「フィルタリング」機能を付 けるのが良いと考えた。あらかじめ拳銃などの形状を違法物として登録しておけば、そ れらを出力しようとしたときに、規制をかけることができると思う。 知的所有権の侵害 そして、もう一つの問題は「知的所有権の侵害 」だ。3Dプリンターが普及すれば、 個人用の「3Dスキャナ」も普及するだろう。身の回りにあるものを3Dスキャナで取 り込み、3Dプリンターで出力する…。こんなことが可能になったら、知的所有権は保 護できなくなるだろう。 この問題は現在インターネット上であふれている、音楽や動画の違法アップロード・ 著作権侵害の問題に似ていると思った。この問題は決定的な解決策もなく、大きなネッ トモラルの問題となっている。知的所有権の問題は、3Ⅾプリンターが普及すれば避け られない問題になるだろう。 この問題のために「購入した3Ⅾデータを保存できない仕組み」を作るべきだと思 う。 3Ⅾデータを保存させないことで「1度の購入で大量の生産」、「第三者への3Ⅾデータ の転売」を防ぐことができる。しかし、各家庭に3Ⅾスキャナが普及してしまえば、こ の対策も効果がなくなってしまうと思う。知的所有権の問題は、非常に難しい問題だと いうことが分かった。 第2章 感想 まとめ 今回「3Ⅾプリンター」について調べて、各方式の特徴について理解したが、いずれも 欠点が目立つように感じた。現在の用途に合わせての使用ではなく、様々な場面で使える 3Ⅾプリンターが求められると思う。また、3Ⅾプリンターの品質の改良とともに、法律 やモラルに関する問題の解決が重要だということに気付いた。現在インターネット上で起 こっているような問題が3Ⅾプリンターでも起こらないようにするために、早くからの法 律や対策ソフトの整備が効果的であると思う。そして、今回最も衝撃を受けたのが、 「バイ オプリンティング」だ。今まで想像できなかった画期的な方法で先進医療に影響を与える 技術に期待するとともに、機械で作られた臓器で生活するということに、抵抗感を抱いた。 自分の細胞から作れる安心感と、機械が作る抵抗感に、社会はどのような反応をするのか にも興味を持った。 今回調べたことで、10 年後には3ⅮプリンターがPCのように社会になじんでいると確 信した。今では考えられないような、画期的な方式が主流になっているかもしれない。3 Ⅾプリンターが抱えている問題は大きいが、期待が大きいのも事実だ。これからも3Ⅾプ リンターの進化に目を向けて、より理解を深めていきたい。 6 第3章 参考文献 クリストファー・バーナット「3Dプリンターが創る未来」日経BP社 武内孝夫「3Dプリンターがわかる本」洋泉社 ウィキペディア「3Dプリンター」 「3Dプリンターによって顔と生活を取り戻した男の話」 http://www.gizmodo.jp/2013/04/3d_67.html 「方式別3Dプリンターの特徴」 http://makerslove.com/118.html 7
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