物語を読み取ろう

年
6
海の命
物語を読み取ろう
「読みの観点」を「知って,使える」ようになる
●学習のねらい
◎「人物像」
,
「キーワード」,「色の対比」,「クライマックス」などの「読みの観点」を基に,人物の心情の変化を読み
取る。読 (1)エ・オ
●学習の流れ(全 9 時間)
第1次
(1時間)
第2次
(4時間)
第3次
(4時間)
○全文を通読し,学習課題をもつ。
○全場面を七つに分け,太一,おとう,与吉じいさの三人の人物像を読み取る。
①トピックセンテンスをつないで読む(「だれがどうしたか」の形で場面ごとに要約をする)。
②「おとう」と「与吉じいさ」の人物像をキーワードを基に読み取る。 ③「おとう」と「与吉じいさ」の生き方を対比して検討する。 A B
④「おとう」,「与吉じいさ」,「太一」それぞれの漁師観について検討する。
○中心人物の心情の変化をとらえ,題名の意味を検討する。
①「クエ」の目の色から,「太一」の心の葛藤を探る。 C ②「太一」の心情の転換を読み取る(クライマックス)。 D
③題名の「の」について検討する(「海の命」とは何か)。 E ④副題を付け,自分の考えを学習手引き書にまとめる。
●「国語デジタル教科書」活用の具体例
第2次③ 「おとう」と「与吉じいさ」の生き方を対比して検討する。
児童に,登場人物と海に関する言葉に着目させたところ,児童は,「海のめぐみ」,「千びきに一ぴき」,「海で生きて
いける」
,
「海に帰る」などをキーワードとしてとらえた。その際に,デジタル教科書にキーワードをマーキングする
( A )ことで,物語を俯瞰して読むことが可能となった。また,「おとう」と「与吉じいさ」の人物像を対比させるため
に,共通点,相違点を表にまとめた( B )。さらに,「おとう」が捕る「大物」は,「千びき」か「一ぴき」かという観
点から話し合わせ,それぞれの漁師観の違いを文章から抜き出していった。
児童
の
反応
●二人は「海の命」をもらっているところは同じ。「おとう」は「海のめぐみ」をもらっているけれど,
「海
の命」を縮小させているよ。
●「千」は海全体の「命」で,
「一」は「タイやイサキ」とか,小さいプランクトンとか,海に住んで
いる一つ一つの「命」にあたると思う。 ●両方とも,魚の数は同じ「一ぴき」だけど,
「おとう」の「一ぴき」は大物だから,
「与吉じいさ」の「一
ぴき」とは質が違う。
● 「与吉じいさ」 は,海に影響を与えない賢い漁のやり方をしているね。海を壊さないようにしている。
育ててるって感じがする。
●「おとう」は海の食物連鎖(海の命)に影響がある。だって頂点の「クエ」を捕るから。
●「クエ」が育つまでには,かなりの時間がかかる。「おとう」の「一ぴき」は「与吉じいさ」の「千
びき」と同じ。
6 年○海の命■物語を読み取ろう■ 1
使用画面
A
B
教科書ビュー:
「与吉じいさ」の言葉を囲み,スタンプ機能でキーワードを提示した。
また,前場面の文章を引用したり,吹き出し機能を用いて,読み進める観点を示した
りしながら,児童の思考が深まるようにした。
第3次① 「クエ」の目の色から「太一」の心の葛藤を探る。
はじめに,
「おだやかな目」,「殺されたがっている」という表現の矛盾を明確にするため,「クエ」が「瀬の主」であ
。また,「青い宝石の目」に着目し,P.192 に出てきた「光る緑色の目」を思
る様子が分かる箇所に線を引かせた( C )
い起こさせ(①)
,二匹の「クエ」を対比させる。仲間の漁師から「おとう」が捕まえようとして死んでしまったと聞
いている「光る緑色の目(クエ)」と,
「太一」が実際に見た「青い宝石の目(クエ)」は,同じ「クエ」なのかという「太
一」の心の葛藤に着目させることが可能となる(②③)。
児童
の
反応
●「おとう」が死んだ時,
「太一」はそこにいなかったよ。「緑色」に見えたのは,仲間の漁師たちだから,
見た人がちがう。
●「緑色」は,
「クエ」の体に近い色。不気味さが伝わってくるね。だから,わざと(作者が)「緑色」
にしたんだよ。
●「青色」に見えたのは,
「太一」が成長したからだよ。「村一番の漁師」になったからだよ。昔のまま
なら,「緑色」に見えたはずだよ。
●「緑色」でも「青信号」って言うよ。緑は青に近い色で「宝石」みたいだから,「太一」にとっては,
海と同じ色に見えたのではないかな。
●「クエ」は「瀬の主」で「主」と付くくらいだから,「海の命」の象徴。しかも「おとう」の命も飲
み込んだから,海と一体化した色になっている。
●「太一」の気持ちの変化が見えるように,同じ「クエ」だけど,色を変えたのだと思う。
使用画面
C
教科書ビュー:サイドライン(黒)を引き,
「クエ」のイメー
ジをつかませた。挿絵には,
マーカー機能を使い,二重囲み(白)
を行い,
「宝石の目」を目立たせた。さらには,スタンプ機能
で「クエ」の目と同色で文字を示し,色のイメージをもたせる
ようにした。スタンプ機能で人物のイラストを作成し,視点人
物の認識の違いに着目させた。
6 年○海の命■物語を読み取ろう■ 2
第3次② 「太一」の心情の転換を読み取る(クライマックス)。
「太一」の生き方は,「クエ」に出会うことによって方向づけられる。「泣きそうになりながら」も,カタルシスが訪
れる。一瞬にして,父の境地,「クエ」の存在(畏敬の念),「千びきに一ぴき」の本意,そして進むべき自分の生き方
を知る。そこで,
「本当の一人前の漁師」,「泣きそう」,「えがおを作った」,「海の命だと思えた」という叙述にマーキ
ングし( D )
,
「太一」の心情が転換した内実に迫らせる。さらに,以下の三つの発問を行う。1.「太一」が「クエ」を
殺さなかったのはなぜか。2.「太一」は「瀬の主」に何を見たのか。3. 最初と最後の「村一番の漁師」は,同じか,違
うか。
児童
の
反応
●「太一」は「クエ」の向こうに,
「おとう」を見たと思う。「瀬の主」を殺すことは,「おとう」の命
もなくなることに気づいたと思う。 ●「自分に殺されたがっているのだ」と思えるほど,「太一」が成長したのではないかな。だから,「え
がおを作った」と書いてある。「なった」とは書いていない。
●「太一」は「おとう」の生き方じゃなくて,「与吉じいさ」の生き方を選んだ。だから,殺さなかっ
たと思う。
●「海で生きる」
,
「海に帰る」ことができるのは,海に住む全部,「海の命」を大事にするからじゃな
いかな。
「太一」は,ここでやっと「与吉じいさ」の「千びきに一ぴき」の意味を本当に分かったの
だと思う。だから「クエ」の向こうに「与吉じいさ」を見たかもしれない。
●最初の「村一番」と最後の「村一番」は違うと思う。「おとう」のように大物を仕留めることは,村
の漁師仲間に認められる「一人前」。最後の「村一番」は,
「与吉じいさ」の言った本当に意味を分かっ
た「村一番」
。だから,
「あり続けた」と書いてある。まわりから(漁師や村の人間から)認められる
より,自分の道を進み続けた感じがする。
使用画面
D
自作のワークシート
教科書ビュー:スタンプ機能を用いて,
心情の転換となる表現(「本当の一人前の漁師」)
を中央に置き,
「村一番の漁師」を対極に配置した。「太一」の葛藤に着目させるため
に,マーカー機能で目立つようにした(①~④)。画面の中央を境に,「太一」の心情
の転換を視覚化した。スタンプ機能で,「クエ」の呼び名が変化していることにも気
づかせていく。
6 年○海の命■物語を読み取ろう■ 3
第3次③ 題名の「の」について検討する。
「海の命」が,最後に二度登場する。「海」は分かる。「命」の意味も分かる。「海の命」となるとその意味は複雑にな
る。題名が何を指し示すのか,どのような使われ方がされているのか,読み取らせる必要がある。そこで,各場面ごと
に,「海」に関するキーワードを書き出させる( E )。その後,A「海の命(だと思えた)」と B「海の命(は全く変わら
ない)
」の違いについて,話し合わせる。注目すべきは「の」の解釈にある(主格または所有格)。
児童
の
反応
● A は,魚一匹一匹の「命」であって,B は海全体の「命」だと思う。「与吉じいさ」の「千」が B,
「一」
が A にあたる。
●「おとう」も「与吉じいさ」も「海へ帰っていった」。だから,「太一」も「海の命」(の一部)だと
思う。海がなければ,「太一」もその子どもたちもずっと,海で生きることができないから。 ● A は「海(がもっているそれぞれ)の命」,B は「海そのものが命」だと思う。作者は,両方のバラ
ンスを言いたかったんだろうな。 ●「命」は,自分一人だけじゃなく,多くの「命」のおかげで生かされている。今を生きているのは,
祖先から受け継がれてきた「命」
。だから,人間のバトン(縦のつながりの「命」)と海のバトン(横
のつながりの「命」)が交わっているような気がする。
使用画面
E
教科書ビュー:A,B の「海の命」をマーカー機能で色づけをし,目立つようにした。
さらに,海に関するキーワードをスタンプ機能で書き出し,題名の意味を考えやすく
している。教科書ビュー(見開き)に観点やキーワードを「見える化」することで,
児童が俯瞰して作品を読む手助けをしている。
授業をした感想
デジタル教科書の活用は,授業の効率を上げる。例えば,板書をする時間や説明にかけ
る時間を短縮することができる。様々な機能を使い,
「消える言葉」を「見える言葉」とし
て提示することができる。学習の振り返りをさせたり,
保存して授業記録に使ったりすることができる。しかし,
使い方を十分に考えないと,教師の目線が下がる,発問 ・ 指示のリズムやテンポが鈍るなど,目標に到達させ
るには,ほど遠い授業になりかねない。綿密な教材分析を経て,デジタル教科書を効果的に使いこなす,操作
の習熟を含めた授業技術の向上が求められているようだ。
6 年○海の命■物語を読み取ろう■ 4