第 章 行列 この講義の主役は整数論、特に連分数とペル方程式について学習することです。しかし、そ のためにはどうしても行列についての知識が必要となります。行列について一通りの知識を持っ ている人は飛ばしてもかまいません。 いくつかの数または文字を長方形の形に並べてひとまとめにしたものを行列といいます。た とえば、P Q つの店でパン 個、牛乳 本の価格が下の表の通りであったとします。この表 の数字だけを取り出して、ひとまとめにしたものを考え、右のように表すことができます。 このように数や文字を長方形状に配列し、カッコでまとめたものを行列といいます。行列に ついての性質を追求する分野は線形代数学とよばれています。 行列とその演算 行列の定義と四則演算 個の実数または複素数を次のように長方形状に配置したものを 行列とよび、 をこの行列の型という。行列を構成する各々の数を行列の 成分といい、成分の横の並びを行、縦の並びを列という。 行と 列とが共有 する成分を、この行列の を 成分とよぶ。また、成分 で構成される行列 で表すことがある。 (定義)行列の相当、演算 (行列の相当) つの同じ型の行列 と が成り立つことをいう。このとき、 (行列の和) つの同じ型の行列 が等しいとは、すべての の対して、 で表す。 と の和、差を で定義する。 (行列のスカラー倍)行列 (行列の積)行列 の実数 と のスカラー倍を をそれぞれ 型、 で定義する。 型とする。積 は 型であり、次のように定義する。 で定義する。 例題 のとき、次の問いに答えよ。 を計算せよ。 を計算せよ。 を計算せよ。 を計算せよ。 (解答) ■ 【問題 】 を計算せよ。 を計算せよ。 【問題 】 次の計算をせよ。 のとき、次の問いに答えよ。 を計算せよ。 を計算せよ。 行列の演算に関する性質 (定義)正方行列、対角行列、零行列、単位行列 (正方行列)行と列の数が同じ行列を正方行列といい、その行(列) の数を次数という。 (対角行列)正方行列で対角成分以外の成分が全て り のとき、つま のとき、対角行列という。 (零行列)全ての成分が といい のとき、つまり のとき、零行列 で表す。 (単位行列)対角行列の対角成分が全て で,その他の成分が全て である行列を単位行列といい で表す。 (定理)行列の演算 (結合法則) (交換法則) (分配法則) (単位元) (証明)省略 例題 のとき、次の計算をせよ。 (解答) ■ 【問題 】 【問題 】 【問題 】 のとき、 のおいて とする。 と が交換可能となるように となるとき、 のとき、次の問いに答えよ。 となることを示せ を求めよ。 を の値を定めよ。 を用いて表せ。 のとき、次の問いに答えよ。 を計算せよ。 を満たす行列 を求めよ。 次の計算をせよ。 を満たす行列 次の正方行列 の 成分 について、 について、 を求めよ。 が次の様に与えられているとき、行列 が成り立つように を成分で表せ。 の値を求めよ。 が成り立つことを数学的帰納法で証明せよ。 行列式 逆行列と行列式 (定義)逆行列 正方行列 に対して となる行列 を の逆行列といい、 で表す。逆行列が存在 する行列を正則行列 あるいは正則であるという。 (定義)行列式 次正方行列 に対して の値を行列 の行列式といい、次のように表す。 (定理) 次正方行列の逆行列 次の正方行列 の逆行列 は、 のときは、逆行列が存在して、 である。 のときは、逆行列は存在しない。 (証明) に対して、等式 を満たす が存在すると仮定すると、 ∴ ∴ ∴ のとき、 のときは、逆行列は存在しない。 ■ 例題 のとき、次の行列を求めよ。 (解答) ■ (定理)逆行列に関する公式 (証明)省略 【問題 】 【問題 】 のとき、次の行列を求めよ。 が逆行列を持たないように、整数 の値を求めよ。 逆行列と連立 逆行列を使って連立 次方程式 次方程式を解くことができる。 いま連立 次方程式を とすると、 が逆行列を持つとき、 と表すことができので、 となる。もし逆行列を持たないときは、無数に多くの解を持 つ(不定)か、解を持たない(不能)のいずれかになる。 例題 次の連立方程式を行列を用いて解け。 (解答) ∴ より逆行列が存在しない。 を 倍すると となり、 と矛 盾。よって、解なし。 ■ 【問題 】次の連立方程式を行列を用いて解け。 (定理) の解 とするとき、 きには (証明) は常に解 を持つ。また のと 以外の解を持つ。 が存在するとき、 が存在しないとき、 したものであるから、 の両辺に左から より、 をかけて ∴ は を実数倍 を満たす全ての実数が解となる。 ■ 例題 連立方程式 が 以外の解を持つように定数 の値を定め、その解を求 めよ。 (解答) ∴ ∴ のとき、 のとき、 【問題 】連立方程式 を求めよ。 ∴ ∴ ■ が 以外の解を持つように定数 の値を定め、その解 が逆行列を持たないとき、 の値を定めよ。 が逆行列を持たないように、 次の等式を満たす行列 の整数値を定めよ。 を求めよ。 のとき、次の行列を求めよ。 次の連立方程式を行列を用いて解け。 連立方程式 求めよ。 が 以外の解を持つように定数 の値を定め、その解を 行列を用いた変換 次変換 (定義) 次変換 座標平面上の点 に点 を対応させる変換 が、 で定められるとき、 を 一次変換という。 この関係式を行列で表すと、 となり、 を一次変換を表す行列という。 例題 行列 の表す 次変換によって点 (解答) が移される点の座標を求めよ。 ■ 【問題 】行列 【問題 】直線 の表す 次変換によって点 が移される点の座標を求めよ。 に関して対称に移動する変換を表す行列を求めよ。 (定義)逆変換 行列 が逆行列 をもつならば、座標平面上の点 で定められるとき、 る。 の表す変換を に対して を対応させる変換が、 は によって求めることができ の逆変換と呼ぶ。 例題 で表される 次変換 点 を へ、点 がある。 によって点 を (解答) へ移すような に移される元の点 次変換を表す行列を求めよ。 ∴ ∴ 【問題 の座標を求めよ。 ■ 】 で表される 】点 を 次変換 がある。 によって点 に移される元の点 の座標を 求めよ。 【問題 へ、点 を へ移すような 次変換を表す行列を求めよ。 次分数変換 (定義) 次分数(メビウス)変換 実数 に対して、成分が実数の行列 換またはメビウス変換とよび によって、実数 と記す。この値は を対応させる変換を 以外の全ての実数で定義される。 (定理)メビウス変換 ならば (証明)省略 例題 次の値を求めよ。 (解答) ■ 【問題 】次の値を求めよ。 例題 をメビウス変換で表すと で表されることを示せ。 (解答) 【問題 】 次分数変 ■ をそれぞれメビウス変換を用いて表せ。 次の行列の表す 次変換による、与えられたが移される点の座標を求めよ。 で表される 点 を 平面上の点 次変換 へ、点 を を、次の様な点 点 は点 の 点 は点 を通る傾き 次の値を求めよ。 がある。 によって点 へ移すような に移す との交点 の座標を求めよ。 次変換を表す行列を求めよ。 次変換の行列を求めよ。 軸上への正射影 の直線と直線 に移される元の点 行列の対角化 固有値と固有ベクトル (定義)固有値と固有ベクトル 次正方行列 に対して、 を満たすとき, を を の固有値 が の固有値, を に対する の固有ベクトルという。また、固有値 に対し に関する固有空間という。 (定義)固有多項式 に関する多項式 を の固有多項式と呼ぶ。 (定理)固有多項式 実数 が正方行列 (証明) の固有値であるための必要十分条件は となり、 は逆行列を持たない。すなわち、 ■ 例題 行列 の固有値と固有ベクトルを求めよ。 (解答) ① ∴ のとき、 ∴ ② 【問題 とすると、 ∴ のとき、 ∴ の解であることである。 より、 が逆行列を持つとすると、 よって、 が ∴ とすると、 ■ 】次の行列の固有値と固有ベクトルを求めよ。 に矛盾する。 行列の対角化 (定義)行列の対角化 正方行列 が与えられたとき、 ることを行列 が対角行列になるような正則行列 と対角行列 を求め の対角化という。 (定理) 次正方行列の対角化 次の正方行列 の つの異なる固有値 を持つとする。それぞれの固有値に対する固有ベクトル を列ベクトルに持つ正則行列 を用いて、行列 を次のように対角化す ることができる。 (証明) は固有値なので、 ∴ は正則なので、左から をかけて、 ■ 例題 行列 について、 を求めよ。 (解答) ① ∴ のとき、 ∴ ② とすると、 ∴ のとき、 ∴ とすると、 ∴ とおくと、 ∴ ∴ ∴ ∴ 【問題 ■ 】次の行列 について、 を求めよ。 次の行列の固有値と固有ベクトルを求めよ。 次の行列は対角化可能か。可能なものは対角化せよ。 次の行列 について、 を求めよ。 がともに正方行列であるとする。このとき、 と は同じ固有値を持つことを示せ。
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