マスコミ事情 マスコミ事情 産経新聞大阪本社の 編集方針と取材体制 内 田 透(うちだ・とおる) 産経新聞大阪本社 経済部長 経済広報センターは7月23日、会員企業・団体の広報担当者を対象に、大阪で 「企業広報講座」を開催し た。産経新聞大阪本社経済部長の内田透氏が、同社経済部の取材体制や関西における経済報道について講演 した。参加者は約35名。 産経新聞の組織体制・取材体制 があるため、東西で記事の内容が変わってくること 産学官の連携を含め、関西の財界セミナーでも取り メージカラーの産経ニュースと呼ばれるウェブサイ 組みを強化していくことが同意された。また、医療 トを、大阪では、産経WESTと呼ばれるピンクが 機器などは優れた技術を持つ中小企業も参入できる イメージカラーのウェブサイトをそれぞれ運営して 余地があることから関西全体で大きな力になる可能 いる。東西で記事の融通も行っているが、ライバル 性を秘めているはずである。 でもある。産経WESTでは、西日本のニュースを 2つ目は、外国人旅行客によるインバウンド需 いち早く、他紙のウェブサイトより早くアップされ 要の取り込みである。今期上半期の訪日観光客数 ることが求められている。特に社会部を中心に24 が913万人、前年同期比46%増だと発表された。通 時間体制で対応している。また、独自のコンテンツ 年で1800万人となるペースである。中国人観光客 として、「経済裏読み」というシリーズをデスクが中 による「爆買い」も大阪の百貨店や小売業は恩恵を受 心に執筆している。また、「ビジネスの裏側」という けている。ただし、先ほどのライフサイエンス産業 シリーズは担当記者が執筆しており、文字数の関係 も含め、これらの活動は関西全体でやっていかなけ で紙面に載せ切れなかった情報を裏話、舞台裏とい ればならない。大阪だけではなく、京都や神戸を含 う形でスポットライトを当て、読者により多くの情 め、関西全体で横断的な取り組みが必要であり、今 報を提供できるよう工夫している。 ある府県といった、壁を超えなければならないと考 大阪編集局、経済部の関心事 えている。 3つ目は、IR(統合型リゾート)の誘致計画であ 産経新聞は、東京本社、大阪本社の2本社制を もある。大阪編集局では、関西、西日本のニュース 現在、編集局で最大の関心事は、11月22日、大 る。国会で審議中であり、今国会で成立するかは見 取っている。大阪本社は富山県、石川県、岐阜県、 を大きく扱うケースが多い。関西ネタを原則必ず第 阪府知事選挙と大阪市長選挙が同時に行われる大阪 通せないが、IR整備による地域への経済貢献は大 愛知県以西をカバーしている。産経新聞の特徴とし 1面に入れたいという編集をしている。そのため、 ダブル選挙である。最近では、大阪都構想の住民投 きい。大阪では、湾岸の人工島にIR誘致の計画を て、両本社に編集局があり、それぞれ編集権を持っ 関西ネタについてはほかの新聞社と比べて大きく扱 票が大きな話題となり、その中身、現状を読者へ分 立てている。しかし、橋下市長によるIR実現に向 て、紙面を作成していることである。大阪本社で われる傾向がある。 かりやすい形で提供してきた。大阪維新の会の新た けた調査費が議会によって減額されたのに対し、ラ な候補者や、橋下氏の去就、自民、公明などの野 イバルとされる横浜市が既に調査結果をまとめて誘 党の動向など、まだ選挙戦の構図が固まっていない 致へ攻勢をかけているなど、後れを取り始めている が、これから情報が出てくるはずなので、分かりや ことが気掛かりである。そのほかにも、関西空港の すく、正確に読者に伝えていきたい。 民間への運営権売却や、川内原発再稼働に関連し は、編集長が2人、その補佐が2人おり、計4人で 担当している。大阪経済部は全部で20人。部長の 大阪本社と東京本社の違い 下、部次長(デスク)が4人いて、朝刊デスク、連載 大きく3つの違いがある。1つは、東京本社では 企画の最終出稿を担当している。また、夕刊デス 夕刊を発行せず、大阪本社のみが夕刊を発行してい ク、 『フジサンケイビジネスアイ』を支援する編集委 る。これは、当社だけの特徴である。午後2時まで 員・専門記者が2人おり、実際に現場へ出向く記者 のニュースは当然夕刊で取り上げるが、東京は翌朝 は13人。これらは主に、エネルギー、財界、医療・ 刊が第1報となる。そのため、大阪の翌日の朝刊で 関西経済は地盤沈下を続けている。平成7年から 製薬、住宅関連などを担当するチーム、機械、金融 は、夕刊で取り上げた記事を外し、大胆な組み換え 平成17年までの名目GDP (国内総生産)の成長率 記者が重視するポイントは、社会性、話題性、独 関連を担当するチーム、空港・交通インフラ・流 が必要になることもあり、大阪のデスクは苦労す を見ると、東京、愛知がプラスなのに対し、大阪は 占性である。記者は読者にどれだけアピールできる 通、サービス業などを担当するチームの3つに分か る。一方で、朝刊で新たな記事を掲載できるため、 逆にマイナスと、1人負けだ。併せて、平成24年 か、どういう見出しが取れるのかを常に意識してい れている。ただし、大きな案件が起きたときは、経 他社に比べて、関西ネタが扱いやすくなるというメ 度1人当たり県民所得も東京が442万円のところ、 る。そのひとつの要素として世界初、日本初などの 済部全体で協力し、総力取材を行っている。 リットがある。 大阪府は294万円と148万円もの差が生まれている。 冠があると記者も食いつきやすい。話題性とは、今 関西経済界に期待をかける「3つの可能性」 た、関西圏の原発再稼働の動きにも注目している。 記者が求める情報とは 毎日の紙面作成について説明する。朝刊を例に取 2つ目は各社共通であるが、大阪には中央省庁が また、資本金100億円以上の大企業が本社機能を大 のトレンドとどう関わっているかということであ ると、午後4時ごろに、東京、大阪の両編集長がテ ない点。大阪での政治ネタは社会部が担当してお 阪から移すという傾向も続いている。このようなネ る。インバウンド、健康医療、教育問題などが絡む レビ会議を行い、その日のニュースを確認し、第1 り、それに加えて、西日本エリアの選挙報道も行っ ガティブな要因を抱える関西経済の復権には関西経 と記事として大きくなりやすい。最後に独占性であ 面から第3面に掲載する記事を決める。その後、大 ている。大阪本社経済部では、日銀、財務省、経済 済の成長が不可欠である。その中で大きく3つの可 るが、記者が一番求めているものは特ダネである。 阪本社では午後6時から朝刊早版の編集会議を開催 産業省といった取材先はない。企業報道こそが命で 能性について期待している。 情報を大きなネタにできるかは記者の感性、センス し、編集長、各部のデスクが、社会面、経済面につ ある。そのため、関西の企業ネタ取材に全力を挙げ 1つは、ライフサイエンス産業である。関西に に直結しているが、広報担当の皆さんには記者にこ いて綿密に記事の方向性を決めていく。その後、新 て取り組んでおり、他紙ともその分野でしのぎを は、iPS細胞研究所を有する京都大学を筆頭に、 のような社会性、話題性、独占性に富んだ情報を迅 しいニュース情報が入ってきた場合には、その情報 削っている。 大阪大学、理化学研究所といった優れた研究機関が 速、正確に提供していただければと思う。 を盛り込むかなど適宜打ち合わせをしながら紙面を 8 作成していく。このように、東西それぞれに編集権 集、運営している点である。東京では、ブルーがイ 〔経済広報〕2015年10月号 3つ目は東京、大阪でそれぞれウェブサイトを編 あり、大阪には歴史ある製薬会社が集積している。 k (文責:国内広報部主任研究員 西田大哉) 2015年10月号〔経済広報〕 9
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