2016年8月号掲載

経済広報センター活動報告
不透明な時代における
経営マネジメントを議論
-米国ビジネススクール教授招聘プログラム-
経済広報センターは、5月30日から6月3日にかけて、米国のビジネススクールの教授を日本に招聘し、
経済界、政府関係者、有識者と世界経済における企業経営の課題について意見交換を行った。
今回来日したのは、デューク大学ビジネススクールのシム・シトキン教授、コロンビア大学ビジネスス
クールのギータ・ジョハール教授、ミシガン大学ビジネススクールのプニート・マンチャンダ教授、マサ
チューセッツ工科大学経営大学院のレツェフ・レヴィ教授、ノースウエスタン大学経営大学院のマイケル・
マッツェオ准教授の5名。一行は、コニカミノルタの山名昌衛代表執行役社長、JR東日本の小縣方樹取締
役副会長、トヨタ自動車の早川茂取締役専務役員をはじめ、10社の経営幹部と面会し、経営戦略や国際事業
展開などについて活発なディスカッションを行った。また、岡田直樹財務副大臣と日本の経済財政運営など
について懇談するとともに、各界の有識者と面会した。
最終日には、不透明なグローバル経済を乗り切るためのカギを議論するシンポジウム「激動する世界経済に
おけるマネジメント」に参加した。以下は、同シンポジウムにおける5名の講演概要である。
不透明な時代のリーダーシップ
シム・シトキン
文化、創造性、イノベーション
ギータ・ジョハール
デューク大学 ビジネススクール教授
コロンビア大学 ビジネススクール教授
不透明 な 時 代 の リー ダ ー
変化の激しい現代こそ、イ
は、人々に、状況の複雑さを
ノベーションを成長の原動力
認識さ せ た 上 で、 適切 な リ
としていかねばならない。世
スクをとる必要性を理解させ
界60カ 国 の 企 業1500社 の C
る役割を果たさなければな
EOを対象に、IBMが実施
らない。このために不可欠な
し た 調 査 に よ れ ば、 先 進 5
のは、リーダーに対する信頼
カ国
(日米英独仏)すべてで、
である。信頼がなければ、組織内の人々は、決して
約80%のCEOが
「イノベーションは経済成長のカ
複雑な問題に主体的に対応したり、リスクをとった
ギ」
と回答した。しかし、興味深いことに、
「CEO
りはしない。そもそもリーダーシップとは、専門知
自身が創造性のポテンシャルを十分発揮している
識や個人的特徴などに由来するものではなく、リー
か」との問いに対しては、米国では39%のCEOが
ダーとフォロワーとの関係から生まれる。
また、仮にリーダーが重要だと考えることであっ
ても、人々が同じような考えを持つとは限らない。
「Yes」と回答したのに対し、日本では17%にすぎ
なかった。
また、ミシガン大学や東京大学などが共同で実施
複雑で不透明な時代ほど、リーダーは分かりやすく
した国民の意識調査によれば、米国では35%が自
問題を説明し、その対策に関して組織内の支持を高
分自身を
「アイデアに溢れ、創造的」
と評価している
めることが求められる。
のに対し、日本では20%だった。加えて、米国で
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経済広報センター活動報告
経済広報センター活動報告
は16%が「冒険、リスクをとるなどの刺激が大切」
が直接関わった企業でも、90%以上は、十分な分
と答えたのに対し、日本では3%だった。日米の文
析をするに至らなかった。この大きな理由は、なん
化的違いはあるだろうが、創造的な活動にリスクが
のために、ビッグデータを活用するのかが、そもそ
伴うことは不可避である。日本には、積極的にリス
も明確になっていないことだ。まずは、企業として
クをとる文化が必要なのではないだろうか。
の意思決定の目的を明確にし、これを達成するため
に必要なデータは何か、どのように入手し、どう活
中国eコマースに学ぶこと
プニート・マンチャンダ
「米国ビジネススクール教授招聘プログラム」主要日程(敬称略)
5/30(月)
三浦 潤 外務省北米局北米第二課長
「日米経済関係とグローバル連携」
岡田直樹 財務副大臣/参議院議員
「日本経済と財政」
用すべきか、といったプロセスを一つひとつクリア
していくことが不可欠だ。
「アジア大競争時代における日本企業の戦略と変化」
ミシガン大学 ビジネススクール教授
現在、eコマースなどのイ
5/31(火)
板垣靖士 三菱東京UFJ銀行執行役員
ノースウエスタン大学 経営大学院准教授
企業のうち4社は中国企業だ
冨浦英一 一橋大学大学院教授
「日本の製造業による国境を越えた事業活動」
不確実性、投資と成長
マイケル・マッツェオ
ンター ネ ッ ト サ ー ビ ス10大
平賀富一 ニッセイ基礎研究所主席研究員アジア部長/新潟大学大学院教授
「MUFGのグローバルビジネス」
赤塚 庸 野村證券常務執行役員
(京東
〔ジンドン、3位〕、テ
不透明な時代には、投資を
ンセン ト〔 5 位 〕、 ア リババ
検討しても、マイナス面に意
〔6位〕、百度〔バイドゥ、7
識がいきがちで、結局は、二
位〕
)
。これらは、欧米の単な
の足を踏んでしまう、といっ
るまねや、中国固有の事情に合わせたシンプルなカ
たケースが多い。しかし、こ
スタム化という段階を既に脱している。例えばアリ
のような不透明な時代でも、
ババは、BtoC、BtoBのみならず、消費者オーク
成長のためには投資が不可欠
ションなど、幅広い分野で、地方企業の国際的発展
であり、常にポジティブな側面を正当に評価するこ
「キッコーマン社のマーケティング戦略
に資するプラットフォームなどを提供し、経済的に
とが極めて重要だ。また、不透明が故に、他社が投
も社会的にも大きな成果を挙げている。
資を行わないとすれば、自社で投資を決定すること
自体が、大きなプラス要因となる可能性もある。
「三井不動産の経営戦略」
中国企業の発展の背景には、一般的には、中国政
府の明確な政策的な支援があると考えられている。
「野村グループにおけるイノベーションへの取り組み」
森田 守 日立製作所執行役常務
「日立の成長戦略」
6/ 1(水)
平野正雄 早稲田大学商学学術院教授
「日本企業のグローバル化」
茂木 修 キッコーマン常務執行役員
佐藤雅敏 三井不動産取締役常務執行役員
加えて、固定観念にとらわれないことも必要だ。
しかし、興味深いことに、eコマース業界に対して
自社技術の活用策を柔軟に検討することによってこ
6/ 2(木)
中原俊也 JXエネルギー執行役員
は、中国政府は自由な発展を認めてきた。これが、
そ、新規分野の成功の可能性が見えてくる。米国で
「激動する石油業界におけるマネジメント」
今日の成功の基盤となっている。
は、消火用ホースを製造する中小企業が、ホースの
技術をシェールオイルの掘削分野に転用して大きな
決定のための分析
レツェフ・レヴィ
岡田直樹財務副大臣
(右から3番目)
と
-米国で醤油文化を浸透させるために」
利益を上げたケースもある。
k
早川 茂 トヨタ自動車取締役専務役員
「トヨタの持続的成長に向けた取り組み」
コニカミノルタの山名昌衛社長
(右奥)
と
6/ 3(金)
山名昌衛 コニカミノルタ代表執行役社長
「コニカミノルタの成長戦略」
マサチューセッツ工科大学 経営大学院教授
岡添 清 三菱重工業執行役員
「三菱重工業の米国での事業活動」
小売業やヘルスケアなどの
小縣方樹 JR東日本取締役副会長
広い分野で、ビッグデータの
「JR東日本の成長戦略」
分析の重要性が注目されてい
シンポジウム「激動する世界経済におけるマネジメント」
JR東日本の小縣方樹副会長
(右奥)
と
る。しかし、企業の意思決定
シンポジウムの様子
において、ビッグデータの分
(文責:国際広報部主任研究員 長谷川正彦 析結果がまだまだ十分に活用
されていないのも事実だ。私
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〔経済広報〕2016年8月号
「KKC米国ビジネススクール教授招聘プログラム」
米国のビジネススクール教授の対日理解促進と、経済界や政府・政界、学界関係者との意見交換を目的に1994年にスタート。
これまでの招聘者は約200名。
国際広報部主任研究員 藤原慎二)
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