2016年8月号掲載

マスコミ事情
マスコミ事情
共同通信大阪経済部の
編集方針と取材体制
高 橋 雅 哉(たかはし・まさや)
小企業・生活経済、運輸、建設、証券・商品市場、
経産局、運輸局)、エネルギーグループ(電力・ガ
ス、財界、科学・製薬、金融、日銀・財務局)の3
プレスリリースは記者との最大の接点である。大
つに分かれている。また、近畿・中国・四国の経済
阪経済部では毎日、記者1人当たり十数件のプレス
ニュースも大阪経済部が担っている。グループごと
リリースが届く。記者は9人いるので、単純計算で
に分かれてはいるが、大きなニュースには、全員で
約100件のリリースが届くことになる。その中から
取材するなど、臨機応変な体制となっている。
選ばれて記事に取り上げられるためには、
「地域目
○編集方針
線」といった大阪経済部の基準もあるが、それにも
編集方針は3つ。1つ目は「特ダネを狙う」。他社
(一社)
共同通信社 大阪支社編集局経済部長
よりも早く、発表前のニュースを報じる。全国紙に
経済広報センターは6月3日、会員企業・団体の広報担当者を対象に、大阪で「企業広報講座」を開催した。
共同通信社大阪支社の高橋雅哉経済部長が、同社大阪経済部の取材体制や関西における経済報道について講
演した。参加者は約40名。
共同通信社の組織体制
「リリース」と「人」がニュースをつくる
増して広報担当者がいかに“読まれる”
“目に留まる”
リリースをつくるかが重要になる。
載っていないニュースを加盟社に届ける。これらを
取材したくなるリリースとは、①世界初・日本
最大の目標としている。特ダネを取るための勝利の
初・関西初または最大。②防災や少子高齢化、イ
方程式はないが、社長など企業の幹部の自宅を訪問
ンバウンドなどの社会問題や流行もの。③
「高級な
する「夜討ち・朝駆け」を取材の中心としている。
ポッキー」「しゃべる自販機」などのギャップがある
朝刊会議」を開いて編集会議以降の状況の推移を点
2つ目は「地域目線」。加盟社の多くは地方紙であ
もの。④「○年ぶり復活」
「あの○が見直される」など
検するとともに、残りの作業や翌日の夕刊用のメ
り、ほかの地域ではバリューがない内容でも、ある
の懐かし系。⑤「絵になる」もの。見た目が面白そう
共同通信は、全国紙、地方紙、各地の民放各社に
ニューを確認し、25時45分ごろに朝刊用の原稿の
地域では大ニュースになることがよくある。工場の
なもの。このような内容が絡めば記者の目に留まり
記事や写真、グラフィックス、動画を提供してい
送信を終える。ただ、この後でも重大ニュースが起
増強や廃止、新店舗のオープンや、地域限定商品の
やすく、記事になりやすい。
る。そのほか、インターネットやスマートフォンな
きれば、いつでも動ける態勢を組んでいる。
発売などが典型例である。また、次期社長の出身地
ただ、これらのリリースよりもさらに重要なのは
どの新しいツールに対応して、きめ細かく記事や写
一方、夕刊用の記事は午前3時から送信が始ま
にある地方紙から手厚い記事を求められることもあ
広報担当者の「人」である。言い換えると広報担当者
真、映像を提供している。また、英語、中国語など
る。ここでは、その日に予定されている国会論戦や
る。このような要望にはできる限り応えるようにし
と記者との人間関係である。広報が会社の一部門で
に翻訳したニュースを海外メディアや在外公館にも
イベント、株主総会などのニュースを未来形で送信
ている。この点が、全国紙とは異なる。
あり、利益追求に貢献しなければいけない面もある
配信している。
している。記事はテレビのキー局も受信しており、
3つ目は
「話題もの」
。個別企業の枠にとどまら
だろう。だが内向きの論理にとらわれ、時として閉
加盟新聞社の合計発行部数は約2700万部に上る。
早朝のニュース材料として活用される。電車内のサ
ず、関西発だからこその面白い記事を多く出すこと
鎖的になりがちな企業にあって、広報は社会の常識
この部数は読売、朝日などの全国紙の部数を超え、
イネージやスマホ向けニュースなど、早朝の出勤時
を心掛けている。例えば、
「クールジャパンで街復
が通じ、社会常識に沿って活動する唯一の組織だ。
圧倒的な規模である。また、全国の地方新聞が共同
間に役立つコンテンツも配信されている。9時に朝
活」という記事があった。大阪の日本橋にある電気
我々が広報にアプローチするのは、取材の深まり
通信の記事を掲載するため、東京や大阪だけではな
の編集会議が開かれる。前日夜の編集会議で大まか
街がインバウンド効果で復活し、海外から多くのア
によって、「通告」だったり「確認」だったり、形態は
く、全国一律に記事が流れることが特徴である。
な方向性を議論しているが、朝の会議では、各部の
ニメオタクが訪れるという内容であった。このよう
様々だ。取材に絶対の自信があっても、広報には通
その日の早番デスクが顔をそろえる。そして、10
な記事は、大阪経済部の特色のひとつである。
告するよう指導している。社内の関係部署と様々な
本社は東京、国内の支局は札幌、仙台、名古屋、
連絡調整が必要だろうし、他のメディアからの問い
大阪、福岡など都道府県庁所在地を中心に46カ所
時30分より編集局デスク会議が開かれ、編集局長
である。海外支局は、ニューヨーク、ロンドン、パ
が出席し、各紙の朝刊を見比べながら、共同通信全
リ、モスクワ、北京、バンコクなど、世界の主要
体の出稿が適切であったか、記事の扱いや内容に過
42都市にあり、日本メディアで唯一、平壌にも支
不足がないかを点検している。そして、14時ごろに
“看板となる記事”は自社の記者が取材し、記事にし
広報の側で絶対に避けていただきたいのは
「嘘を
局が置かれている。
は、夕刊用の記事の送信を終え、前述したような、
ている一方で、“小さめのニュース”は、共同通信が
つく」ことだ。
「当社から発表したものではありませ
翌日の朝刊向け記事の制作に入っていく。
配信した記事を使っている新聞社もある。そのた
ん」という対応も困る。間違っていれば否定し、詳
め、大阪の企業に関するニュースが共同通信を経由
細は決まってないが方向性は間違っていないのな
して、全国紙に掲載されているケースも多い。ある
ら、そう対応してほしい。
共同通信の編集の流れ
加盟社の朝刊向けの配信記事は、まずは14時45
分から始まる編集会議で議論される。編集局長など
大阪経済部の体制と編集方針
○編集体制
全国紙との関係
また、共同通信に加盟している全国紙の中には、
合わせに備える必要もあるだろう。それが信頼関係
ということだと思っている。
日の某新聞の朝刊経済面では、大阪経済部が配信し
また、広報の方々には“第二の記者”として社内を
本社だけで50人以上が出席するほか、大阪支社か
大阪支社は、支社の中で唯一編集局が置かれてい
た記事が、本数で半分ぐらい、面積で3分の1を占
取材し、記者が魅力を感じるような情報を提供して
らも支社長、編集局長、局次長、社会部長、文化部
る。大きなニュースは東京本社と連携して編集して
めることもあった。加盟している全国紙はライバル
いただけるとありがたい。社内調整など大変なこと
長、運動部長などがオンラインで出席し、見出しの
いる。大阪経済部はデスク3人、記者9人の体制。
でもあるが、より良い紙面づくりのために、意見交
が多いと思うが、生産や営業の現場を直接取材さ
イメージや解説のトーン、総合面の展開などを議論
東京本社はデスク15人、記者50人。名古屋支社は
換も積極的に行っている。関西のニュースが全国紙
せていただけると大変うれしい。事業に直結する
する。その後、大阪支社だけで会議を行い、大阪か
デスク1人、記者4人となっている。
を通じて首都圏の読者にも多く読まれていることを
ニュースだけでなく、教育研修や採用など社内の取
ご理解いただければと思う。
り組みがニュースになることもある。広報の皆さん
ら出稿する記事のメニューに過不足がないかを検
大阪経済部は機械グループ
(機械、鉄鋼、情報通
討。19時50分に
「第2朝刊会議」、22時50分に「第3
信、総合通信局)、流通グループ(食品、流通、中
には、記者に大いに提案をしてほしい。
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(文責:国内広報部主任研究員 西田大哉)
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〔経済広報〕2016年8月号
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