目白大学大学院 修了論文概要 所属 心理学研究科 臨床心理学専攻 修士課程 修了年度 平成 26 年度 氏名 田邉 美和子 指導教員 (主査) 小池 眞規子 論文題目 がん患者が就労復帰に際して直面する心理的苦悩からの成長 ―半構造化面接による就労がん患者の体験から― 本 文 概 要 問題と目的 近年,生産年齢人口(15 歳~64 歳)の新規がん患者数は毎年 22 万人にのぼっており,新たながん患者の約 3 割となっている(国立がん研究センターがん対策情報センター,2012) 。そして,定年年齢の引き上げ,再 雇用義務化から,がん好発年齢である高年齢労働者増加が見込まれている(高橋,2012) 。また,治療の進 歩や検診普及から,5 年相対生存率の平均は,男性 55.4%,女性 62.9%に達し(国立がん研究センターがん 対策情報センター,2010) ,がん罹患は「死に直結する病」から「長く付き合う慢性病」に変化し,がん患者の 支援は QOL 向上を目指すものとなっている(高橋,2013) 。がん医療は,副作用の軽い抗がん剤開発,診療 報酬の改定等から,通院治療が増えている(田中・田中,2012) 。しかし,がん患者の就業は依願退職者 30.5%, 解雇者 4.2%,自営者の休業等 31%など(がんの社会学に関する合同研究班,2004) ,社会政策や職場支援, 就業環境は十分ではなく,就労がん患者は一定の日常生活が送れるようになった後も,苦悩を感じ,折り合 いをつけながら就業生活を過ごしていると推測される。そこで本研究はがん告知を受け,就労しながら現在 に至るまでの連続性に着目し,就労復帰後直面する苦悩や葛藤から起こる心理的変容に,人間的成長の観点 も加え,内面に即したプロセス理論の生成を目的とした。 研究方法 分析方法 “がん罹患前に就業生活や治療しながら給与支給の伴う就業生活が有り,身体障害者手帳取得程 度の機能障害のない者”の条件を満たす 16 名を対象者とした。 “がん罹患を知った後,就業に関する苦悩や 感情はどのように変化していったか”をリサーチクエスチョンとし,半構造化面接(60 分)を実施した。面接 データの分析は,木下(2003)の修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下 M-GTA)を用い, “就労 復帰にともなう感情体験や人間的成長”の観点から分析を行った。 倫理事項 目白大学「人及び動物を対象とする研究に係る倫理審査委員会」の承認を得て実施した。 結果と考察 M-GTA による分析の結果,13 カテゴリー,35 概念から なる心理変容プロセスが得られた(右図) 。就労がん患者は, 復帰後,がん罹患をカミングアウトしたことで,身体的変容 や副作用からの不適応に,同僚の支援的サポートを得て適応 して行くというプロセスが見出された。仕事に新しい使命感 を見出し,仕事に行くことで気持ちのバランスを得,元気や 張り合いが持て,就労復帰者にとって働くことは生きる励み となっていた。仕事を続けていく心理変容プロセスでは,職 場でのカミングアウトの有無が,サポートや適応に影響し, 意思決定過程の問題整理や,職場からの理解を得るための自 己開示方法の支援の重要性が示唆された。また就労生活で同 僚の有難さ,生きる意味を考えたことが示され,人生を振り 返る機会を得て,成長することにつながっていた。 主要な引用文献 木下康仁(2003). グラウンデッド・セオリー・アプローチの 実践――質的研究への誘い―― 弘文堂. ⦅がん罹患前の就労⦆ 変化の方向 【仕事は日常生活の一部】 影響の方向 がん告知 ⦅不安と慌ただしさ⦆ ▼ 【元のように復職できるだろうか】 【不在中の業務が滞らないように準備と引継ぎ】 【現職の雇用保障に安心感】 【復職を前提にした行動】 ⦅仕事を続ける選択⦆ 【就労復帰以外は頭になかった】 【働き甲斐を取り戻す】 入院・手術 【 【食べていくために辞められない仕事】 或いは通院治療 【体力が働くことを許した】 ⦅がん罹患のカミングアウト⦆ ⦅病態と復帰具合の調整⦆ 【以前とは異なる自分を伝える必要】 【取得できた長期休暇】 【 「がん」と言う言葉が 【会社側の懸念との調整】 与える衝撃の懸念】 【職場で療養の肯定と復職を 求められている感覚】 【副作用で現れた機能低下で ⦅協力と疎外感⦆ 感じた不自由さ】 【同僚からの支援的サポート】 【日々変動する心身の状態】 【がん罹患をどう思われて 【日々の体調に合わせた いるかのストレス】 柔軟な職務形態】 ⦅就労継続できた理由⦆ 【がん罹患を忘れるまで働ける嬉しさと得られた希望】 【生きる励みとしての仕事】 【気持や体調に寄り添うように働けた】 【活かせた職種経験や人脈】 【励みとこなせた仕事量】 ⦅人生を振り返る機会⦆ 【がんで立ち止まったことの肯定的意味づけ】 人 Figure 1 結果図 間 的 成 【再発転移で就労が左右される不安】 長 就労復帰から現在に至るまでの心理的変容プロセス
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