論文要旨

様式 8
学
位 論
文 要 旨
研究題目
(注:欧文の場合は、括弧書きで和文も記入すること)
Hemodialysis restored iron distribution that was sequestered in the spleen
by bilateral nephrectomy
(両腎摘急性腎不全モデルラットにおいて脾臓に囲い込まれた鉄は血液透析によ
り改善される)
兵庫医科大学大学院医学研究科
専攻
内科 系
腎臓病学( 指導教授 中西 健 主任教授 )
氏 名
木田 有利
近年、急性腎障害(AKI)は他の様々な臓器に影響を与える事が指摘されており重大
な問題である。 AKI により誘発された多臓器不全の機序は炎症反応、免疫反応、酸化
ストレス、可溶性メディエーター等の代謝調節障害によるものと考えられてきたが、
我々は、
「鉄の代謝障害」がこれらのプロセスを促進する因子の一つと考えている。ま
たすでに腎機能低下時に鉄代謝調節が著明に変化していることを報告している。AKI
モデルにおいても鉄の再利用低下及び網内系への鉄蓄積が増加し、造血に利用されな
い大量の鉄が酸化ストレス産生を促進し様々な細胞や臓器障害の原因となる事が知ら
れている。
近年発見された肝臓由来のペプチドホルモンであるヘプシジンは鉄の恒常性を維持す
る主要な鉄調節ホルモンとして中心的な役割を果たしていると提唱されている。我々
はヘプシジンが腎機能障害時の鉄代謝において重要な役割を呈しているとの仮説を立
てた。加えて AKI の患者は血液透析(HD)療法をしばしば必要とするが、AKI によっ
て惹起される鉄代謝調節障害が HD によってどのような影響を受けるのかは十分に検
討されていない。そこで我々は両側腎摘(BNx)ラットにおける鉄代謝調節異常を調査
し、さらに HD 療法による鉄代謝調節の変化について検討を行った。
BNx ラットは以下の 3 つの群:(1) sham-operated 群(BNx-sham)(2)BNx 群(BNx)、
(3)BNx 施行 40-45 時間後に HD 治療した群(BNx-HD)に分別した。評価項目として
採血(腎不全作成前、透析開始時、透析後に施行)では腎機能、CBC、ヘプシジンを含
む鉄関連因子を測定、組織学的検査として Berlin-blue 染色にて肝臓・脾臓における
鉄沈着を評価、また PCR 法にて肝臓・脾臓におけるヘプシジンと Ferroportin 1(FPN1)
の発現を検討した。
BNx 群では BNx-sham 群と比較して血清鉄とヘマトクリット値が有意に低下してお
り、同時に血清ヘプシジン値は有意な上昇を認めた。鉄染色では、BNx 群では BNx-Sham
群と比べて脾臓の赤色髄領域に有意な増加を認めた。一方で BNx-HD 群では血清鉄の有
意な増加と血清ヘプシジン値の有意な減少を認め、鉄染色でも脾臓での有意な鉄沈着
の減少を認めた。また PCR 法では脾臓での FPN1 の発現が BNx-sham 群と比較して BNx
群及び BNx-HD 群において有意に減少していた。
今回の検討から BNx 群では血清ヘプシジンの増加に伴い、血清鉄やヘマトクリット
の低下と共に、網内系である脾臓からの鉄の汲み出し低下により鉄沈着の増加が認め
られた。一方で単回の HD 療法により血清ヘプシジンの減少を認め同時に血清鉄は上昇
し、脾臓に沈着した鉄は減少しており、網内系細胞からの鉄の汲み出しが回復した事
が原因と考えられた。これは慢性腎不全患者に対する維持透析前後のヘプシジン濃度
の変動と矛盾のない変化であり、HD 施行による著明なヘプシジンの変動が急性腎障害
時だけでなく維持透析においても動的な鉄代謝の変化を引き起こしている可能性が示
唆された。