腎臓病学 1

犬と猫の
腎臓病学
犬と猫の
1
腎臓病学
腎臓病という病気について
これだけは知っておきたい基礎知識 Part.1
宮本 賢治
メディカル茜動物クリニック 院長
日本小動物血液透析協会 会長
はじめに
使い慣れた「急性腎不全」や「慢性腎不全」という用
般にその病気に対する定義や治療法も大きく変わったこ
語が知らない間に論文や講義から消え去り、代わりに「急
こんな歯の子がきたらどうしますか?
とを意味しています。このコラムではその内容を勉強し
性腎障害」や「慢性腎臓病」という用語が使われています。
ます。
学問の世界で病気を表す用語が変わるということは、一
腎臓病の新しい概念
1.急性腎障害(Acute Kidney Injury:AKI)
でほぼ同じ(21 〜 28%の低下)
(4)乏尿の定義がヒトと犬猫でほぼ同じ(0.5 mL/kg/ 時間)
● 定義と病期
急性腎臓病(Acute Kidney Disease:AKD)は数時間か
また、この病期分類法はその後の臨床研究で病期の程
ら数週間以内に腎臓に何らかの解剖学的そしてまた機能的
度に応じて死亡率(2〜3倍)と血液透析療法の必要性
な障害が生じた状態と定義され、新規リスク(脱水、中毒、
(7〜 50 倍)が高まることを示しています。
薬物など)や既存リスク(慢性腎臓病、心臓病、糖尿病、
消耗性疾患など)から発生します。さらに、AKD の中で
● 病態生理の特徴
腎機能が 48 時間から1週間以内に著しく低下した状態を
AKI における初期の障害は虚血、低酸素症、腎毒素な
AKI と細分しています(図1)
。ヒトの臨床で考案された
どにより生じますが、その拡大や維持には様々なケモカ
AKI の定義や病期分類(表1)を獣医科の患者にそのまま
インやサイトカインによる複雑な尿細管障害が関与して
適用できるとは思えませんが、獣医科用のものがない以上、
います。AKI では GFR の低下だけではなく、尿細管の
出発点としてまずはヒト用のものを使用してみて、不都合
障害が全身臓器の生理学的応答を変化させるという特徴
があれば改良するのが得策と思います。ヒト用の診断基準
を備えており(図1)
、拡大期に炎症を阻止すれば元の状
や病期分類法を犬猫に適用しても、それほど不都合でない
態に速やかに回復し、阻止できなければ障害は全身に及
理由としては以下のようなことが挙げられます。
び、GFR の低下以外の原因でも患者は死亡し、その方向
性は刻一刻と変化します(図2)
。AKI における病態の
(1)ネフロン密度がヒトと犬猫でほぼ同じ(腎臓1g 当
たり 10,000 個)
進行は障害自体の大きさだけでなく、不適切な治療によっ
ても促進されます。その代表例は乏尿や無尿患者に対す
(2)
単一ネフロン GFR がヒトと犬でほぼ同じ
(60 nL / 分)
る無計画な輸液療法から生じる体液過剰です。体液過剰
(3)腎移植ドナーにおける腎機能低下の経過がヒトと猫
は腎障害の程度に関係なく患者の死亡率を高めます。
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Oct 2015