戦略的人事部門の必要性: リーダーによる積極的行動の実現

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戦略的人事部門の必要性:
リーダーによる積極的行動の実現
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EYからのメッセージ
ブローアップではなくグローアップ:優れた組織において人事部門はい
かに進化し、成熟に向かっているのか
「人事部門を解体してしまおう(ブローアップ)」という不満を耳にすることがあります。しかしEYは、優れた
組織では優秀な人事部門が不可欠であると考えており、それには、現状からの進化と成熟が必要です。つま
り、ビジネスの真のニーズを満たすために「人事部門を成長(グローアップ)させる」時期がやって来ている
のです。
現在、最も優れた組織では、人事部門がかつてないほど大きな役割を果たしており、経営陣や各機能及び
現場の意思決定、さらには戦略計画において、不可欠のコンピテンシーとなりつつあります。人事部門は、単
なる人事機能を超えたところにあるコンピテンシーについて成長を加速し、その存在価値を高め続けなけ
ればなりません。こうした考えは、EYの最近の「業績向上を目指した連携:CFOと人事部門」レポートでも強
調されています。このレポートでは、人事部門と財務部門のギャップを埋める(又は相互の理解を深め、コラ
ボレーションを強化する)ことにより、業績を高め、従業員の貢献意欲や生産性を含む人的資源の様々な側
面で改善を強化できることが実証されています。
「成長」の要素として、伝達方法の習得があります。財務は、大半の組織と役員会における共通の言語と
なります。人事部門のリーダーは、この言語を習得し活動の成果をこの言語で表現することにより、人事
部門がどれだけ組織の業績に影響を及ぼしているかを明らかにする必要があります。こうした伝達でテクノ
ロジーと分析が不可欠となる理由として、人的資源の価値に関する意思決定は、投資リターンが期待される
ビジネス部門の資本投資の決定と何ら変わりはないことが挙げられます。人事部門では、コストに限らず、
実際の人材、そして誤った人材を有することに起因する現場、戦略、財務、非財務面のリスクが重要となり
ます。人事部門が組織の共通言語を習得すれば、自らが組織に与える影響を測定できるようになり、投資に
値する貢献実績を証明できるようになります。業績好調な組織は、資本投資のリターンの測定方法に類似し
た指標を利用して人材投資のリターンを測定し、予測的分析を活用して人材に関する結果と行動のモデル
化を行っています。これは、人材をコストと捉える従来の考え方からの飛躍的な変化であり、人材は収益の
源泉であるという捉え方に結び付いています。
成長には、目的に基づく「活動」の習得も重要となります。
「ビジネス部門のリーダーは、人材競争において
優位に立つため、単なる管理ではなく働きかけに多くの時間を費やしたいと考えています。」人事部門は、
将来を担う人材に有効に働きかける方法を組織全体のリーダーに理解させる上で、極めて重要な役割を果
たします。今後は、異なる年代の人材がかつてない規模で混在するようになり、あらゆる面で多様化し、より
グローバルで柔軟な働き方を求める人材が増えると考えられます。こうした活動の水準と種類は、国内でも
異なる場合があり、組織の戦略によっては事業部門ごとにも異なる可能性があります。また、機能領域など
によっても異なる場合があります。そのため、すべてのリーダーが対人及び人材管理のスキル(コーチング、
能力開発、モチベーションの付与等)を備え、将来の人材を最大限に活用する必要があります。
また、人事部門を解体するのではなく、組織のあらゆる側面で成長させることが重要です。EYは、人事部門
が組織の中でキーとなる機能やビジネスユニットにおいて、今後もビジネスパートナーとして組み込まれるよ
うになると考えます。さらに重要な点としては、すべての優れたリーダーが人事的なコンピテンシーを備える
ようになると想定しています。人事の機能的な側面だけを見れば、今後もアウトソーシングやシェアードサー
ビス、人事的な戦術的要素の集中管理といった業務を担い続けると思われます。その一方で、将来的に最も
重視されるのは、高度な人材開発センターとしての役割です。これにより組織のすべてのリーダーが組織内の
人材をより効果的に理解し、働きかけと能力開発を優れた手法で進められるようになります。
戦略的人事部門の必要性:
リーダーによる積極的行動の実現
サイクルの早いグローバル経済において、人材が主要な競争優位性となることに伴い、組織はビジネス
戦略において、人材面でリーダーシップを発揮するべき最高人事責任者(CHRO)の役割を定義し直
しています。
CHROは、給与・福利厚生といった事務処理サービスを問題なく遂行すること以上に、革新と成長を
実現し得る新たな方法で人材面での課題を特定し、人材のサプライチェーンを生み出すことを求め
られています。こうしたリーダーは、戦略的な方針とプロセスを設計し、組織に示すと同時に、測定
基準と分析方法を明らかにし、会社が人材投資や管理の効果を測定するのに必要となる洞察を経
営陣に提供しなければなりません。
CHROは、従来以上のレベルでの組織的連携を実現すると同時に、ビジネスリーダーの人材管理ス
キルの育成や、グローバル人材のためのソリューションの構築、開発、提供を実現するための能力開
発にも力を注いでいます。
こうした要望の変化は、人事部門を変化に導いています。南カリフォルニア大学の経営学部教授であ
るジョン・ブードロー氏は、これをCFOの役割の変化と比較しています。数十年前のCFOは、新たなテ
クノロジーや世界規模の投資機会の出現に伴い、より戦略的になることを求められていました。こう
した要望に応え、CFOはその守備範囲を帳簿の管理から投資の種類や質の管理、そして企業全体の
リスク管理のモニタリングへと拡大しました。同様の変化はCIOにも起こっています。テクノロジーが
競争力の重要な要因となったため、テクノロジー担当エグゼクティブが企業の革新を推進する役割を
担うようになりました。
人事部門がより戦略的になると同時に新たなスキルの構築が求められる中、これからのCHROの役
割像は既に明らかになっています。EYがスポンサーとなる今回のレポートでは、ツール、ベストプラク
ティス、人事部門のリーダーシップと他部門や役職との連携のあり方の変化について検討します。
「ビジネスパートナー」を超えて
従来、組織の主な戦略的関係といえば、CEOとCFOの関係を指していました。しかし、人材が企業の
重要課題へと変化したことに伴い、ランカスター大学経営学部の上級講師であるアンソニー・ヘス
ケス氏が指摘するように、CHROは「ゴールデントライアングル」の一角を形成しつつあります。つま
り、CHROがCEOとCFOと一緒に非公式の連合体を構成し、戦略、財務、人材に関する問題を融合さ
せビジネス戦略に落とし込んでいるのです。
戦略的人事部門の必要性:リーダーによる積極的行動の実現
1
ヘスケス氏は、最近の研究において人事部門及びその他の上級エグゼクティブを調査し、このトライ
アングルにおいて人事部門の信頼性を高める要因と、リーダーが行動で示すべき能力を特定しまし
た。1 ヘスケス氏は、人事関連業務を滞りなく行うことは基本的な期待要件であるに過ぎず、CHRO
には財務面の鋭い洞察力が不可欠であることを明らかにしました。また、ヘスケス氏は次のように
も述べています。
「ゴールデントライアングルの中にいる人事部門のリーダーは、自らのアイデアが
自部門だけでなく、企業全体に与える財務的影響について理解しています。財務は経営陣の共通言
語であり、人事部門のリーダーもこれを使いこなさなければなりません。」
ヘスケス氏は、CEOとCFOがCHROに求める重要な能力として、手持ちの能力だけでなく、高度な分
析力、戦略固有の知識、優れたコミュニケーション能力も必要であることも明らかにしています。
しかし、ゴールデントライアングルでの人事部門の成功において最も重要な能力は、企業の他のエ
グゼクティブとネットワークを構築・維持する能力です。戦略的な影響力を真に発揮するCHROは、
非公式の場においても組織の有力者と一緒になって影響力を行使します。ヘスケス氏は次のように
述べています。
「当初は意外な事実でしたが、ビジネスを理解し、価値を高めることで、エグゼクティ
ブ層から信頼を勝ち取ることが現実の差別化要因となるのは当然とも言えます。」
エクセターファイナンスの上級バイスプレジデント兼CHROであり、キンバリークラークの人事責任者
も務めたマーティン・エバンズ氏は、こうした評価に同意しています。
「ビジネスパートナー」という
言い回しは、人事部門を表現するには型にはまり過ぎており、人事部門のリーダーが他のリーダー
と効果的に連携しているかどうかについてもっともらしく聞こえる傾向があります。彼は次のように
述べています。
「実際には、上手く機能していれば成功は目に見え、感覚的に理解できるものです。
ビジネスリーダーがビジネスを理解している他のエグゼクティブと十分に話し合ったと感じ、人事部
門の職務と結び付けられること、これが成功の基準となります。」
ヘスケス氏の調査における回答者は、人事部門がゴールデントライアングルの一部となる場合、人
事部門のリーダーは戦略構築においてマーケティング部門と互角で、IT 担当ディレクターよりも重要
な役割を果たすと指摘しています。グラフ1 あるCEOは次のように述べています。
「私は、誰よりも人
事担当ディレクターと協力しています。一般的には、ゼネラルマネージャーと最も近い関係にあるの
は財務担当ディレクターですが、私は、財務責任者と人事責任者と最も緊密に協力するようにしてい
ます」。2
障害となる能力ギャップ
CHROが戦略的なリーダーシップネットワークに参加する上で、何が障害となるでしょうか? ディベ
ロプメントディメンションズインターナショナル(DDI)の最高リサーチサイエンティストであるエバ
ン・シナー氏は、人事部門のリーダーが他の幹部と比べて優れている点と劣る点を調査しています。
この調査は、あらゆる部門、経営部門のすべてのオペレーション及び戦略における3万件の体系的
な行動評価に基づき、人事部門の専門家の一般的な能力を他の部門の専門家と広く比較するこ
とを目的としています。シナー氏は次のように述べています。
「人事部門のリーダーのパフォーマン
スについて数多くのコメントが寄せられました。私たちは、大局的な視点で人材管理に取り組むに
当たり、人事部門のリーダーが埋めなければならない能力ギャップについて厳密な評価を行いまし
た。」
現在のところ、DDIの調査では、人事部門のリーダーのスコアが他の部門のリーダーを下回る分
野が主に4つあります。ここでは、ビジネス手腕が最上位となりました。CHROのパフォーマンスレ
ビューでは、ビジネスの運営に関する知識不足が多く指摘されています。財務面の洞察がこれに続
いており、人事部門が戦略面でより大きな責任を担う上で、財務知識が重要であることが明らかに
なっています。人事部門のリーダーは、グローバル洞察においても後れを取っています。この項目は、
多国籍組織においてグローバル人材プログラムを構築し、人事部門がリーダーシップを発揮する際
の適合性を意味しています。
2
ハーバードビジネスレビュー(HBR)アナリティックサービス
グラフ1
他部門と比較した場合の人事部門の戦略的役割に関する認識
設定された戦略目標に対して会社の業績を実現する上で、次の役職はどの程度重要ですか?
戦略構築プロセスにおいてはどうですか?
● 戦略実現における重要性(調整済み)
● 戦略構築における重要性(調整済み)
4.4
4.3
人事部門ディレクター
4.3
3.9
サービス部門ディレクター
3.8
3.3
調達部門ディレクター
4.1
IT部門ディレクター
3.6
4.7
4.7
オペレーション部門ディレクター
4.2
4.7
戦略部門ディレクター
4.3
4.1
マーケティング部門ディレクター
4.5
4.5
財務部門ディレクター
4.6
4.9
最高経営責任者
出典:アンソニー・ヘスケス及びクリスティン・クリーマン「TWO'S COMPANY, THREE'S A CROWD?
THE EXECUTIVE SOCIAL LIFE OF THE HR DIRECTOR」(連載中)。N=263
戦略的人事部門の必要性:リーダーによる積極的行動の実現
3
人事部門のリーダーは、ビジネスの言語に
基づくツールを利用し、問題との関連性を
高める必要があります。
パフォーマンスレビューにおいて人事部門の専門家が他のビジネスリーダーに劣る4番目の領域とし
て、顧客フォーカスが挙げられました。シナー氏は次のように述べています。
「採用における人事部
門の役割は、顧客と市場の理解を高めることです。しかし、人事部門の機能は独立しており、他のエ
グゼクティブと比べると顧客や市場のトレンドにそれほど配慮していないようです。」
ビジネスの言語を使いこなす人事部門
人事部門のリーダーと他の部門のエグゼクティブの間に十分な敬意とコラボレーションが存在す
れば、人事部門は組織に関する詳細な知識と経験を使って、他のエグゼクティブがそれほど気づい
ていない火種(不和の原因)を特定することができます。例えば、
マーティン・エバンズ氏が、キン
バリークラークでラテンアメリカの上級人事責任者を兼務していた時、国と地域のマネージャーが
独自の損益管理を行い、製品とブランドは地域単位で管理されていることに気付きました。その
結果、地域別のマーケティング活用や製品ニーズ管理と、損益管理が一貫性のないものになってい
ました。
エバンズ氏は、この問題を解消するため、全く新しいマトリックスを提案し、これによりマーケティン
グマネージャーと国担当のマネージャーがより緊密に連携できるようになりました。彼は当時を振り
返って、次のように述べています。
「私たちは、地域間でのパワーバランスを根本的に変革しました。
これにより、皆が相手のことを考えて仕事をするようになりました。」
タタグループの会長であるサイラス・パロンジ・ミストリー氏がグループ内の持株会社の体制変革に
取り組んでいた際、タタサンズのグループCHRO兼グループのエグゼクティブ委員であるNS・ラジャン
博士は、同様の役割を果たしました。ミストリー氏は、長期的な価値に注目した体制を望んでおり、
持株会社において、ビジネスセクターと戦略機能がどのような形で実現され、グループの目標を達成
するのかを明らかにする必要がありました。ラジャン氏は次のように述べています。
「組織は人事部
門の単純な事務処理のアウトソーシングを進めていますが、特に直接ビジネスに関わる分野に関し
ては、引き続き人事チームが特定の中核機能を遂行する必要があります。人事部門が極めて重要と
なる領域の1つに組織設計があり、この業務を戦略と業務遂行を結び付け、適切な組織設計を行う
ためには、人事部門はCEOやリーダーと緊密に連携する必要があります。」
人事部の専門知識を必要とする戦略ツール
ジョン・ブードロー氏は、著書「人事部門の改革」の中で、人事部門のリーダーは、ビジネスの言語に
基づくツールを利用し、問題との関連性を高めるべきだと推奨しています。人事部門の枠組みの概
念を変え、人材採用とリテンションをロジスティックスやサプライチェーンの視点から捉え直すのは
典型的な1例です。
多くの組織では、人材獲得と能力開発の取組みが互いに矛盾することは頻繁にあります。人材リテ
ンションの可能性が高まるとしても、またビジネス部門がキャリア構築に有益だと理解していても、
自部門の部員が他の部門への異動することに消極的です。同様に、採用担当マネージャーは、優れ
た人材の応募が少ないと感じており、人事部門に採用活動と予算を強化するよう強く要求してい
ます。
4
ハーバードビジネスレビュー(HBR)アナリティックサービス
サプライチェーンのロジスティックスは、こうした課題において新たな視点をもたらします。また、そ
のお陰で人材ソースの管理の新たな可能性が発見され、合理的な優先順位付けが可能になります。
サプライチェーンでは、原材料から完成品までの製造プロセス全体を検討します。サプライチェーン
担当マネージャーは、社内プロセスが品質とコスト水準を満たし、期限内に納品できることを目指し
ます。問題が発生すれば、改善が可能なあらゆる箇所を点検することになります。ブードロー氏は、
企業が生産ステップと同様の方法で人材を把握することを提案しています。
したがって、人材供給をプロセス全体で検討すると、新たな機会と工夫の可能性が明らかになり
ます。例えば、応募者のプールが十分な規模である場合、人事部門のリーダーは、採用担当マネー
ジャーが十分な交渉スキルを備えているか確認することができます。応募者の質が問題である場合
は、企業はプロセスの入口において他のソースに目を向けることができます。人材開発に対する政
府の投資を利用することを目指し、例えばGEは、軍隊から多くの人材を採用しています。最終的に、
組織のニーズを明確にし、すべての人に恩恵をもたらす透明なプロセスにより客観性を実現し、人
材サプライチェーンを全社的視点で捉え直すことで、健全な昇進、異動の意思決定を下すことが可
能になります。
バランスシートにおける人材
人事組織、会計基準委員会、ランカスター大学のコンソーシアムである「人材評価プロジェクト」
は、企業が他の資本と同様の原則を人材投資に適用できるようにするためのツールと指標に関し
て調査を行っています。エグゼクティブ、取締役、アナリストは、企業の人材管理がどれくらい効果を
上げているかに大きな興味を持っています。そんな中、プロジェクトの主席研究員であるヘスケス氏
は、人材の見方をコスト指標から、人材投資に対するリターンへの測定へシフトすることを勧めてい
ます。
ここで課題となるのは、大半の企業が人材をコストとして捉え、財務指標を使って管理していること
です。例えば、こうした企業は、従業員1人当たりの収益、利益を計測し、業界ベンチマークまで引き
下げることに注目しがちです。しかし、人材は、研究・開発、生産能力、戦略的パートナーシップと同
様に企業のリソースです。したがって、ここでは、リソースの生産性を高め、この目的で行った投資へ
のリターンを理解することが重要となります。ヘスケス氏によれば、将来志向の企業は、
「人材投資
からの収益率」などの指標を利用しています。こうした指標は、人材に対して行った投資とそれによ
るリターンの比率を意味し、投下資本利益率に近い概念です。
究極的には、人材管理指標は、経営陣の疑問に答える必要があります。人材指標は、投資が戦略と
整合していることを定量的に示し、リターンが減少し始める時期を明示する必要があります。ヘスケ
ス氏は、次のように指摘しています。
「人事部門は、1980年代のマーケティング部門のような状態に
あります。当時のマーケティング部門はブランド価値の定量化に苦慮していましたが、現在は、人事
部門が人材に関して同じ取組みを行っています。」
数値の利用
洗練された分析は、ビジネスに直結したツールを重要視します。しかし、全ての人材データが同じ価
値を持つわけではありません。シナー氏は現在、どんな種類のデータであればエグゼクティブが自
信を持って使えるかの検討をしています。最も重要となるのは、将来のリーダーシップのニーズに関
する情報です。それが明確になれば、適切な採用、能力開発、引継ぎ計画を構築することができま
す。リーダーシップの資質に関するデータも同様に重要となります。上級エグゼクティブは、成長して
いるリーダーに関するデータは価値があると考えています。同時に、改善を目指さないリーダーに
どんな結果が待ち受けているかを明らかにしたいと考えています。
戦略的人事部門の必要性:リーダーによる積極的行動の実現
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現在、人事部門のアナリティクス分野での能力は他の部門よりも劣っていますが、このギャップは埋
まりつつあり、多くの人の予想よりも早く追いつく可能性があります。シナー氏は、ビッグデータに
翻弄され、多くの企業が機能不全に陥っている中、人事部門がタレントアナリティクスにおいて多大
な貢献ができる可能性があるとしています。人事部門は、給与、ソーシャルメディア、従業員のエン
ゲージメントに関する調査、リーダーシップの評価及び能力開発、パフォーマンスレビュー、採用、
退職時の聞き取り調査などの豊富なデータにアクセスできるため、ビジネスとタレントアナリティク
スの最前線に一瞬にして立つことができます。人事部門にアナリティクスの専門家を配置する企業
はますます増えており(他の部門からの配置換えを含む)、人事機能全体と共に、タレントアナリ
ティクスの能力が強化されています。シナー氏は、
「人事部門は後れを取っているかもしれません
が、貢献できることはたくさんあります」と指摘しています。
人材競争を強化するビジネスリーダー
ビジネスリーダーに対して、従業員の効果的かつ効率的な管理を行う要求が高まっていますが、
多くのリーダーはそのスキルを備えていないことを認めています。DDI及びコンファレンスボードの
「2014/2015年グローバルリーダーシップ予想」によれば、人的資源の課題に取り組む準備が十
分整っていると答えたビジネスリーダーの割合はわずか27%でした。3
しかし、これらのリーダーは、人材マネジメントスキルを高め、従業員を単に管理するのではなく、
双方向のコミュニケーションに時間を費やしたいと答えています。同じ調査で、スタッフを管理する
のではなく(権限委譲や管理プロジェクト)、コーチング、コミュニケーション、創造性の育成に多く
の時間を費やしているマネージャーはわずか25%でした。4 管理に多くの時間を費やしているが、他
の方法への転換を進めたいと答えた割合は41%に達しました。彼らの取り組みは、組織に根付く価
値観によって妨げられることが多くあります。組織は双方向のコミュニケーションよりも管理を重視
していると答えた回答者は半分近くに及びました。グラフ2
ヤマハアメリカの財務・総務担当上級バイスプレジデントであるブライアン・ジェメリアン氏は、
リーダーの人材スキル向上は、全社的な取組みとして行い、上級エグゼクティブが主導する必要が
あると指摘しています。同社の社長である福留斎氏は、人材マネジメントの改善を会社の必須の課
題としています。この課題を実現するために、ヤマハはトレーニングと能力開発において新たな取組
みを行っています。人事部門のバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーであるトレーシー・バル
ギェルスキー氏は、組織の有効性に取り組むためのCoE(Center of Excellence)を人事部門内に新
たに設置しました。
ジェメリアン氏は、次のように述べています。
「社長が人材への明確な取組みを開始する前は、リー
ダーシップトレーニングプログラムへの上級エグゼクティブの出席率が100%に達することはほとん
どありませんでした。現在、ごく一部の例外はありますが、忙しいスケジュールや予定外の仕事があ
るにもかかわらず、多くの上級管理職が主要コースに出席しています。」ヤマハは、スキルを習得さ
せ、人材管理の共通の言語を創り出すために、従業員にライブのオンラインコースを提供していま
す。マネージャーには、組織全体で考え方、価値観、行動を改善することが期待されています。
組織の効率性推進グループは、トレーニングと能力開発プログラムを強化し、現在は人事システム、
ワークフロー、体制の整備を進めています。正式なコーチングとメンタリングプログラムでは、マ
ネージャーがその他の従業員を指導します。組織の効率性推進グループの効果を測定するために、
部門向けにサービスレベルの定義と指標を個別に作成し、これらに基づく評価を行っています。人
事組織は、要員計画やサクセッションプランニング(後継者計画)を進めており、これらの目標を事
業部門の目標と関連付けています。
最後に、ヤマハではパフォーマンスマネジメントも重視しています。同社は、人事部門に報告された
リテンションに関する問題において、人数と緊急度を追跡しており、これにより進捗をモニタリング
し、改善策へ着手しています。
6
ハーバードビジネスレビュー(HBR)アナリティックサービス
新たなテクノロジーは、ヤマハをはじめとする企業のCoE(Center of Excellence)を加速させ、効率
を高めると思われます。システム化とその分析により、コーチングとサポートに対するオンタイムのア
クセスを実現し、人事部門の専門性が高まると期待されます。パーソナライゼーション技術の高度
化に伴い、人事部門は、困難な対話から交渉スキルの向上まで、あらゆる側面で基本的なアドバイ
スをリアルタイムで提供できるようになります。ビジネスリーダーは、オフィス又はモバイルデバイス
において、必要時にこうしたアドバイスが利用できるようになります。
また企業は、分析を利用してリスクのある従業員を特定しています。ブードロー氏によれば、Google
からクレディ・スイスに至る様々な企業が、新しいポジションに就くことができる従業員を彼らのプ
ロフィールから特定しています。これにより人事部門は、
マネージャーにリスクのある従業員を伝え、
キャリア構築、報酬、インセンティブに関して個別の推奨を行うことができます。
グラフ2
習うより慣れよ
現実
41%
管理
34%
同等
25%
働きかけ
理想
22%
管理
38%
同等
40%
働きかけ
会社の評価
45%
管理
34%
同等
21%
働きかけ
働きかけに多くの時間を費やすリーダーは、以下のスキルで優れています。
> 他者に対するコーチングと能力開発
> 他者とのコミュニケーション及び働きかけ
> 強力なネットワーク/パートナーシップの構築
> 従業員の創造性と革新の育成
> 将来の人材の特定と能力開発
出典:「READY-NOW LEADERS: MEETING TOMORROW'S BUSINESS CHALLENGES」
ディベロプメントディメンションズインターナショナル及びコンファレンスボード、2014 年
戦略的人事部門の必要性:リーダーによる積極的行動の実現
7
エバンズ氏は、人間的な接触の重要性を強調しています。人材開発とエンゲージメントに関する意識を高める上で、ビジネ
スリーダーの心と意識に注目しており、人事部門は方法を示すことができるものの、単独であらゆる人のエンゲージメント
を引き出すことはできないと指摘しています。彼は次のようにも述べています。
「私たちは、ビジネス部門の責任者に、最
も有益だった自らの能力開発の経験を考察するよう指示しています。また、彼らが部下のためにこうした経験を整理する
ための支援を行っています。」
人事部門の将来
新たなタイプのパートナーシップが生まれ、発展するのに伴い、人事部門の構造が変化する可能性が高くなります。コン
ファレンスボードの上級バイスプレジデントであるレベッカ・レイ氏は、組織の主な人事ニーズとして残るものが、テクノロ
ジーによって予想されていると考えています。彼女は「多くの機能がテクノロジーによって遂行され、こうした機能の重要
性は減少しています。給与/福利厚生などの機能ではアウトソーシングを利用することが多くなり、こうした分野での社内
の優れた専門性は必要でなくなりつつあります」と述べています。 結果として、給与/福利厚生の管理などの事務処理では、今後もアウトソーシングの利用が増えると考えられます。一方、タ
レントマネジメントは、個別の企業や業種によって大きく異なるため、企業は人事部門のリーダーが人材の視点を持ち、極
めて具体的な戦略的ニーズを満たすことを要求するでしょう。人事部門のリーダーは、ビジネスにさらに深く関与すること
になります。
しかし、人事部門とビジネス部門では、依然としてタレントマネジメントの支援が必要となります。こうした支援は、ヤマハ
が構築したようなCoE(Center of Excellence)として提供されることが多くなると思われます。企業は、リーダーの能力開
発を図り、文化と行動を変える方法について、常に深い専門性を必要とします。レイ氏は次のように述べています。
「リー
ダーシップと文化は外部に委託できません。これらは、優れたパフォーマンスにおいて不可欠であり、ビジネスリーダーが
数カ月や数年で習得することは期待できません。」
脚注
1
アンソニー・ヘスケス及びクリスティン・クリーマン「Two’s Company, Three’s a Crowd? The Executive Social Life of the HR Director」
(連
載中)
2 同上
3 「Ready-Now Leaders: Meeting Tomorrow’s Business Challenges」ディベロプメントディメンションズインターナショナル及びコンファレ
ンスボード、2014 年
4 同上
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