No.A007 発生ガス挙動分析:難燃剤 【 はじめに 】 樹脂材料は火災予防のために難燃剤が添加剤 として添加されているものがある。燃焼機構は燃焼場を中心に 連鎖反応を形成しており、燃焼場で酸素を消費し、同時に樹脂 表面に熱が伝わることで樹脂が分解する。この樹脂の分解ガス と酸素が燃焼場に供給され続けることで燃焼場が維持される。 この連鎖反応を断ち切る機能を持つ添加剤が難燃剤であり、そ の難燃機構として代表的なものを右図の模式図に示す。 本報告では、この難燃機構の観点からの評価にフラグメントレ スイオン化(ソフトイオン化)化質量分析法による発生ガス分析 を適用した例を紹介します。 【測定試料】 測定試料は市販の難燃剤2種を使用した。 【測定条件】 ThermoMass Photo [リガク] イオン化法: 光イオン化 (PI)法, 電子イオン化 (EI)法 測定モード: SCAN m/z範囲: 10~200 測定環境: 大気圧下での昇温加熱 昇温条件: 20℃/min → 800℃ キャリアガス:模擬大気 (ヘリウム:酸素=80:20) 試料: 粉末試料(約5mg) 試料セル: アルミナ EI 【測定結果】 (a) CO2 [臭素系難燃剤 ] テトラブロモビスフェノール A_アリルエーテ ル HBr 臭素系の難燃剤はラジカルトラップによる難燃作用を発揮する 代表的な難燃剤タイプである。 EI法とPI法で測定した多重グ ラフを右図に示す。 EI法では主に無機ガスを、 PI法では有機ガス成分をモニターし たところ、 Br2 1) 分解初期では臭素化合物の脱離が観察され、 2) 次いで、酸化・燃焼による発熱ピークと連動して多量の CO2 が発生した。 3) 分解初期での臭素化合物は PI法から、フェノール、ブロモ フェノール、ジブロモフェノールなどと推定できた。 臭素化難燃剤の分解初期では不活性ガス(Br2, HBr)の他、フェノー ル、ブロモフェノール、ジブロモフェノールなどが 発 生 してお り、不活性ガスによる希釈効果と、ラジカルトラップによる酸素 消費などが起こることで難燃機構が作用していると推察され る。 一方、分解後半では臭素化物成分が少なくなることで難燃作 用が低下し、酸化・燃焼反応が進行したと考えられる。 PI (b) [リン系難燃剤 ] ビスフェノール A ビニルフォスフェート EI リン系の難燃剤はチャー形成による難燃作用を発揮する代表 的な難燃剤タイプである。 EI法とPI法で測定した多重グラフ を右図に示す。 CO2 EI法では主に無機ガスを、 PI法では有機ガス成分をモニターし たところ、 1) 1段階の重量減少を示し、分解初期では CO2の発生ガスが優 勢に観察され、 2) 次いで、臭素系難燃剤に比べて大きな吸熱ピークを伴い、 有機ガスが発生した。 3) この有機ガスは PI法から、EI法でm/z 94(フェノール )以外に 多 数 確 認 されたシグナルはフラグメントピークイオンであり、 発 生する有 機ガス成 分はほぼフェノールであると推 定でき た。 PI 4) また、熱重量減少挙動では臭素系難燃剤がほぼ 100wt%の 重量減少を示すのに対して、高温まで炭化物残渣が認めら れ、チャー形成を示すと考えられる (測定終了後、アルミナ試 料セルは黒色に変色している)。 リン系難燃剤の場合、チャー形成による分解ガスの拡散阻害効果の他 に、吸熱反応による冷却効果が認められた。また、有機ガス成分として フェノールが優勢に発生しており、ラジカルトラップの効果もあると推測 される。 unknown 【まとめ】 フラグメントレスイオン化(ソフトイオン化)化質量分析法により、発生ガス成分のピーク同定が比較的に容易に なった。また、本 TG/MS複合分析システムでは、熱物性情報とその際の発生ガス成分を同時にモニタリングでき るため、酸化分解環境下の難燃剤の燃焼機構評価として、以下の点からの検討が可能であり、反応挙動解析に 有効であると考える。 1) EI法による発生ガス成分: 分解,燃焼等に起因する無機ガス成分 2) PI法による発生ガス成分: EI法では同定困難であった有機ガス成分(分子量から推定) → 不活性ガス種、ラジカルトラップ系の反応生成物種の評価 3) TG-DTAによる熱重量減少挙動,示差熱挙動 → チャー形成 (炭化物形成)による熱重量の残渣 → 難燃剤分解時の吸熱・発熱反応の評価 2015年12月作成 無断転記禁止 【問合せ先】株式会社神戸工業試験場 技術研究推進センター 東京分室 〒110-0015 東京都台東区東上野4-10-3 ASANOビル 1階 101号室 TEL: 03-3843-5691, FAX: 03-3843-5690 E-mail:[email protected]
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