[第20回]食物アレルギー

こどもの病気【第 20 回】
食物アレルギー
食物アレルギーとは、食物摂取により、免疫学的機序を介して生じる生体に
不利益な反応のことを言います。具体的には、卵や大豆などの特定な食べ物を
食べるとアレルギー症状が起こることです。
症状としては、食べて 2 時間以内(多くは 15 分以内)に起こる即時型反応と、
食べてから 6 から 8 時間に起こる遅発型反応、食べて 1 から 2 日後の起こる遅
延型反応があります。
具体的には、即時型反応には、唇の腫れ、皮膚の発赤、かゆみ、蕁麻疹、嘔
吐などがあり、重症になると呼吸困難や血圧低下などを起こすアナフィラキシ
ーショックと呼ばれる状態になります。遅発型や遅延型の反応としては、先に
説明したアトピー性皮膚炎や胃腸管アレルギーがあげられます。
食物アレルギーを疑ったら、必ず医師による診断を受けましょう。
【食物アレルギーの症状】
食物アレルギーの症状には様々なものがあります。
皮膚粘膜症状として口の中のかゆみや違和感、唇の腫れ、皮膚のかゆみと発
赤、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、結膜浮腫などがあります。気道症状としての
どの違和感、のどがつまる感じ、咳、かすれ声、呼吸困難、鼻水、喘鳴など、
消化器症状として嘔吐、下痢、血便、腹痛、アナフィラキシーショックなどが
あります。
子供の好き嫌いは無視できません。アレルギーがあり口の中がかゆくなった
り、のどの違和感があったりして、何か変になるという意味で食べない子もい
ます。何で嫌いなのかを聴いてあげることも大切です。
【食物アレルギーの治療】
食物アレルギーの治療は、原因アレルゲンの除去が基本です。きちんと除去
していれば、症状は軽減し、新たな食物アレルギーが起こりにくくなります。
そして、成長に伴いその食物を食べても症状が出なくなります。
除去食を卒業して、何でも食べられるようになるのが目標です。
成長するにつれて消化能力が十分になってくると、たんぱく質の分子をアレ
ルゲンとならないほど小さく分解して、ペプチドやアミノ酸にすることができ
るようになります。たんぱく質は、分子量が小さくなると即時型のアレルギー
反応を起こしにくくなります。
また、消化されたたんぱく質は、小腸粘膜でアミノ酸まで分解されて吸収さ
れます。ここには、腸管に特有な免疫システムがあります。分泌型 IgA 系とい
うシステムです。分泌型 IgA は、細菌や消化不十分なたんぱく質と結合し、体
内に吸収されないようにしています。分泌型 IgA も成長とともにだんだん増加
してきます。
つまり、赤ちゃんは成長するにつれたアレルゲンを含む食品を食べても、ア
レルギー反応を起こしにくくなるのです。
食物アレルギーは成長とともに治っていく?
赤
ち
ゃ
ん
消化能力が低い
たんぱく質を十分に小さくできない。
分泌型IgAが少ない
食物アレルギーが
おきやすい
腸からいろいろなものが入る
分泌型IgA : 変なものを吸収しにくくし、腸を守る物質
消化能力が上がる
幼
児
たんぱく質を十分に小さくできる
分泌型IgAが多い
食物アレルギーが
おきにくい
腸のバリア機能が上がる
いつごろから食べられるようになるかは、症状の程度、アトピー素因の強さ、
特異型 IgE 抗体の量、食物のアレルゲン性の強さなどによって異なります。多
くの場合は 2 歳頃から食べられるようになることが多いです。
「卵を食べさせるとアトピーになる」などというお母さんたちがいますが、
アトピー素因がない赤ちゃんが卵を食べてもアレルギーを起こすことはありま
せん。
一方、アレルゲンとなる可能性を持った食物は、卵や牛乳以外にもたくさん
あります。たんぱく質を含む食物はアレルゲンとなる可能性があります。肉や
魚以外にも豆や穀類、野菜、果物にもたんぱく質は含まれ手いるため、アレル
ゲンとなる可能性があります。分子量が小さすぎたり大きすぎたりすると、ア
レルギー反応はおきにくくなります。そのため、消化しづらいたんぱく質がア
レルゲンになりやすくなります。
アレルゲンとなる食物は、食生活を反映し、
国によっても時代によっても異なります。10
その他
卵
年以上前の日本における3大アレルゲンは
27.3% 28.2%
「卵、牛乳、大豆」といわれていましたが、
パスタやパンを食べる機械が多くなった現在 そば
牛乳
4.2%
では「卵、牛乳、小麦」が3大アレルゲンに
22.8%
魚類
なっています。
6.6%
小麦
食べてすぐに症状が出る即時型アレルギー
10.9%
を起こすアレルゲンは、乳幼児では卵、牛乳、
小麦の順番です。学童や成人の場合は、そば、ピーナツ、えびやかになどの甲
殻類が多くなります。そばやピーナツのアレルギーは一度なると成長しても治
ることは卵、牛乳、小麦に比べてはるかに少ないです。
即時型アレルギーの中に呼吸がしにくくなったり、血圧が下がったり、胸が
苦しくなったり、けいれんや意識障害などを循環障害を引き起こし、生命を脅
かす危険な状態になってしまう重症なタイプのアナフィラキシーというものが
あります。アナフィラキシーが現れた時に自分でアドレナリンという薬を注射
して重症化を防ぐ『エピペン』というペン型の薬もあります。当院でも処方す
ることができます。ご相談ください。
【アレルゲンの除去(除去食)】
食物アレルギーも他のアレルギー疾患と同じようにアレルゲンを除去するこ
とが治療の基本です。アレルゲンを食べないでいると、症状が出にくくなった
り軽くなったりしてきます。また、アレルゲンの除去をきちんとすれば、腸管
の透過性が正常化し、他の食物が新しいアレルゲンとなるのを防ぐことができ
ます。1歳を過ぎると、消化の力も腸管の力も発達してくるので、新しい食物
がアレルゲンとなることが少なくなり、アレルゲンだった食物もだんだん食べ
ることができるようになります。
むやみに食物を除去すると、栄養のバランスが崩れ、子どもの発育発達に悪
影響を与える可能性があります。食物除去をするときは、アレルギーに詳しい
小児科医に相談しましょう。そして、除去すべき食品、除去の程度、代替食品
として何を食べればいいのかを具体的に聞いておきましょう。
原因となる食物がたくさんあるときは、経口インタールなどの抗アレルギー
薬も併用すると食品の除去を緩和できます。
いろいろな食物をバランスよく食べることが、子どもの成長には大切です。
主治医とよく相談し、除去をやめるタイミングを逃さないようにしましょう。
食物アレルギーは、子ども自身が成長すれば自然に治っていくことが多いも
のです。
「早く治してあげたい」、
「治るなら何でもしてあげたい」というお母さ
んの気持ちもわかりますが、必要な除去だけ行って、後は子どもが成長するの
を待つことが大切です。
アレルゲンの除去は必要ですが、それ以外の食物は食べられます。冷凍食品
やレトルト食品などの加工食品やインスタント食品はできるだけ避けて、新鮮
な食材を使いましょう。ご飯を主食にした和食中心の食生活にするといいでし
ょう。
除去食は、症状の軽減に大変有効な手段です。しかし、手間的にも経済的に
も負担は大きいですし、親子ともども精神的なストレスも感じることでしょう。
治療のゴールは、症状を起こさずに食べられるようになることです。症状がよ
くなったら、除去をやめていくことを主治医と相談しましょう。
食物アレルギーやアトピー性皮膚炎のある子は、ダニやハウスダストなどの
吸入アレルゲンの影響を受けることも多いようです。気管支喘息予防のために
も、ダニ・カビ対策やペット対策、家族の禁煙なども重要です。
行徳総合病院小児科 佐藤俊彦