第 61 回神奈川腎炎研究会 アルコール性肝硬変に合併し, ネフローゼ症候群,急速進行性腎炎症候群を呈した 肝性 IgA 腎症の 1 例 菊 池 寛 昭 1 長 濱 清 隆 2 中 村 真理子 1 内 田 真梨子 1 山 村 知 里 1 平 澤 卓 1 安 藝 昇 太 1 青 柳 誠 1 田 中 啓 之 1 田 村 禎 一 1 病理コメンテータ 城 謙 輔 3 山 口 裕 4 日,葉酸 15mg/ 日,エソメプラゾールマグネ 症 例 シウム水和物 10mg/ 日,フロセミド 20mg/ 症 例:51 歳,女性 日,d- ク ロ ル フ ェ ニ ラ ミ ン マ レ イ ン 酸 塩 12mg/ 日,アミノ酸配合製剤 主 訴:肉眼的血尿 現病歴:16 歳から機会飲酒を開始,20 歳で 変と診断されたが,その後も飲酒を継続し,特 入 院 時 身 体 所 見: 身 長:148cm, 体 重: 47.8kg(元々 45kg) ,意識:清明,バイタルサ に加療も行っていなかった。 2013 年 4 月に低 K 血症,アルコール性肝炎, イン:T 36.7℃ BP 110/70 mmHg HR 70 回 / min, 整 アルコール依存症,40 歳でアルコール性肝硬 肝性脳症のため, 当院消化器内科入院。その際, 著明な肝・胆道系酵素上昇,Child-Pugh C (13 眼 :眼球結膜黄染(-),眼瞼結膜貧血(-) 頸部 :項部硬直(-),頸静脈怒張(-),リ ンパ節触知せず 点)と,予備能の低下を認めていたが,入院を 胸部 :心音清,心雑音(-),呼吸音清 契機に断酒を開始し,退院後も黄疸・肝胆道系 腹部 : 平坦・軟,肝・脾臓は触れず , 腹壁皮 酵素は改善傾向にあった。 静脈の怒張認めず 腎機能,尿所見は共に異常を認めていなかっ 四肢 :両側下腿浮腫を認める , 皮疹は認めず た。 6 月中旬頃から肉眼的血尿を認めるようにな り,7 月初旬,腎機能が急速に増悪し,当科紹 介受診。 既往歴:20 歳:アルコール依存症 32 歳:子宮外妊娠 40 歳:アルコール性肝硬変 48 歳:胃出血,大腸憩室症 生活歴:喫煙:5 本 / 日 17-51 歳 飲酒:焼酎 5 合 / 日 20-51 歳 内服薬:ウルソデオキシコール酸 600mg/ (1 (2 国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院 腎臓内科 横浜市立大学医学部 分子病理学 Key Word:アルコール性肝硬度,ネフローゼ症候群, 急速進行性腎炎 (3 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 (4 山口病理組織研究所 ―1― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 尿検査所見 【尿定性】 尿比重 尿pH 尿蛋白 尿潜血 1.008 5.5 3+ 3+ 【生化学】 赤血球 白血球 硝子円柱 上皮円柱 顆粒円柱 赤血球円柱 卵円形脂肪体 変形赤血球 無数 5-9 多数 10-19 5-9 1-4 1+ + /HPF /HPF /WF /WF /WF /WF /WF 【蓄尿】 Cre 1日量 蛋白量 Na 1日量 805.5 5.16 69.2 mg/日 g/日 mEq/日 【その他】 Selectivity FENa FEUN Na 1日量 0.411 3.9 51.7 69.2 % % mEq/日 18 296 8.2 149 419 251 32 15 1.1 0.28 4.2 μg/dL μg/dL mg/dL mg/dL U/L IU/L IU/L IU/L mg/dL mg/dL % 1.13 33.4 2.71 sec μg/mL 検査所見 【血算】 WBC RBC Hb Plt MCV 【生化学】 TP Alb Na K Cl Ca P UN Cr 3900 302 8.6 7.8 93.4 /μl 104/μl g/dl 104/μl fl 6.1 2.2 138 4.3 106 8.4 5.9 51 3.28 g/dl g/dl mEq/l mEq/l meq/l mg/dl mg/dl mg/dl mg/dl 血清鉄 総鉄結合能 UA T-chol ALP LDH AST ALT T-Bil CRP HbA1c(NGSP) 【凝固】 PT-INR APTT D-dimer ―2― 第 61 回神奈川腎炎研究会 免疫学的検査所見 抗核抗体 抗ds-DNA抗体 陰性 陰性 RA因子定量 14.0 免疫複合体 陰性 MPO-ANCA1.0未満 U/ml PR3-ANCA 1.0未満 U/ml 抗GBM抗体2.0未満 U/ml M蛋白 陰性 クリオグロブリン 陰性 IgG IgA IgM CH50 C3 C4 胸部X線、腹部CT 胸部X線 陰性 陰性 陰性 HBsAg HCVAb HIV 1476.8 823.7 68.8 37.7 62.4 12.2 PAS ×200 mg/dl IU/ml IU/ml CH50/ml mg/dL mg/dL PAM ×200 腹部CT 図1 図3 Trichrome, original magnification ×100 periodic acid‐Schiff (PAS), original magnification ×100 図2 図4 ―3― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 PSL 30 25 20 m PSL semi PULSE Cre (mg/dL) 腎生検 ① Alb 12 10 IgM IgA IgG C4 C3 CY 600mg pulse 4 腎生検 ② C1q 6 3 4 2 2 1 0 07月04日 0 08月13日 09月22日 図8 λ 初回 IgA1 6 5 8 図5 κ (g/dL) 尿蛋白 (g/日) IgA2 2回目 図6 図9 初回 2回目 (original magnification ×5000). PAM×200 PAS×200 図7 図 10 ―4― 11月01日 第 61 回神奈川腎炎研究会 2回目 初回 図 11 肝性IgA腎症 • 1942年 Horn,Smetanaらが肝疾患と糸球体病変の関連を指摘 • 肝硬変における糸球体病変は50%以上に認められる • 特にアルコール性肝硬変において、糸球体にIgA沈着を認める傾向 • • ネフローゼ症候群や腎機能障害を呈する例は比較的稀 肝疾患患者のうち1.6%がネフローゼ症候群様の変化を呈する • 腎不全を呈する症例では、組織学的に膜性増殖性変化を呈する Horn RD Jr et al . Am J Pathol 1942;18: 93‐102 Newell GC. Am J Kidney Dis 1987;9: 183‐190 Sinnah R. Histopathology 1984; 8: 947‐962 Nakamoto Y et al. Virchows Arch A Pathol Anat Histol 1981; 392: 45‐54 Newell GC. Am J Kidney Dis 1987;9: 183‐190 臨床像は典型的な経過とは異なるが、重度の腎機能障害を呈した肝性 IgA腎症と診断してよいか否か 図 12 ―5― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 3.28mg/dl と上昇しておりました。また,INR 討 論 は 1.13 と延長を認め,恐らく肝硬変の影響が疑 菊池 横須賀共済病院腎臓内科の菊池と申しま われました。 す。よろしくお願いします。 免疫学的検査所見ですけれども,抗核抗体や, double-stranded DNA といったところは陰性で, 症例は,51 歳の女性です。主訴は,肉眼的 な血尿です。 ANCA な ど も 陰 性 で し た。 ま た,cryoglobulin 現病歴です。16 歳から機会飲酒を開始,20 も陰性でございました。IgA が 823mg/dl と高値 を認めておりまして,C3 が 62.4mg/dl と低値を 歳でアルコール依存症,40 歳でアルコール性 肝硬変と診断されましたが,その後も飲酒を継 続し,特に加療も行われておりませんでした。 2013 年 4 月に低カリウム血症,アルコール性 肝炎,肝性脳症のため当院の消化器内科入院。 その際に,著明な肝胆道系酵素の上昇,ChildPugh が C と肝の予備能の低下を認めておりま 認めました。 胸部エックス線上は,CTR の拡大があります が,そこまで異常は目立ちませんが,腹部 CT では肝の辺縁が dull になっておりまして,また 腹水の貯留,脾腫大を認めまして,肝硬変の所 見として矛盾しないと考えられました。 腎生検を施行しました。全部で 26 個の糸球 したが,入院を契機に断酒を開始し,退院後も 黄疸や肝胆道系の酵素は改善傾向にありまし 体が取れておりました。糸球体では mesangium た。 領域の拡大が目立ちました。間質では,単核細 腎機能と尿所見は,共にこの時点では異常を 胞の浸潤,浮腫,線維化が目立ちましたが,血 認めておりませんでした。しかし,6 月の中旬 管病変はあまり目立ちませんでした。 IF で は,IgA と C3 が mesangium 領 域 に 陽 性 ごろから肉眼的血尿を認めるようになりまし て,7 月初旬,腎機能が急速に増悪し,当科紹 でした。κ・λでは,κが優位でありまして, IgA1,IgA2 は同等に染まっておりました。 介となりました。 既往歴は,アルコール依存症,アルコール性 電子顕微鏡ですが,内皮下では,mesangium 領域に deposit の沈着を認めておりまして,上 肝硬変などがありまして, 飲酒に関しては, ざっ となんですけれども焼酎 5 合を 20 歳から 51 歳 皮の空胞変性や,microvillous transformation を ぐらいまで毎日のように飲んでいらっしゃった 認めておりました。 ということです。 臨床経過です。以上から,急速進行性糸球体 腎炎,ネフローゼ症候群を合併した肝性 IgA 腎 内服薬は記載のとおりです。 入院時の身体所見です。特記すべきこととし ましては, 両側の四肢に下腿浮腫を認めまして, それ以外は,異常は認められませんでした。 尿検査所見ですが,尿蛋白・尿潜血が 3+, 赤血球円柱, 変形赤血球なども認められました。 蓄尿で蛋白量は 5.16g/ 日とネフローゼレンジの 蛋白尿を認めました。 症と診断し,ステロイドのハーフパルスと,ス テロイドの内服 30mg での投与を開始しました ところ,こちらになりますが,尿蛋白とクレア チニンが青,アルブミンが赤,尿蛋白が下の緑 のところになりますが,腎機能と尿蛋白に関し てはステロイド投与後改善が認められました。 しかし,1 カ月半たってかなり改善を認めた 血算では,恐らくは鉄欠乏性貧血と思われ ますヘモグロビンが 8.6g/dl と低下しておりま のですが,これ以上の腎機能の改善は,ステロ イド単独では難しいと考えまして,IVCY(シ クロホスファミド大量静注療法)を 1 回施行し して,また肝硬変の影響と思われますが,血 小板数の低下,そしてアルブミン値が 2.2g/dl たうえで,腎生検の 2 回目をここで施行してお と低値を示しておりまして,クレアチニンは ります。 ―6― 第 61 回神奈川腎炎研究会 初回腎生検が上,2 回目の腎生検が下になっ で発症したというふうに考えるのですか? ておりますが,一番大きな変化としましては, 菊池 そうですね。最初,消化器で入院したと サンプリングエラーの可能性もあるかもしれま せんが,間質の浮腫が,初回に比べて 2 回目の きは,全く尿蛋白は出ておりませんでしたので, 少なくとも 5 月の時点ではなくて,7 月ではネ ほうが改善している印象,また,単核細胞の浸 フローゼになったという意味では 2 カ月の間だ 潤も改善している印象でした。糸球体に関しま しては,初回も,2 回目も mesangium 領域の拡 と思います。 大はありまして,大きな変化は認められないと ですか。 考えました。 菊池 感染症は,そのときは否定的でございま 電子顕微鏡ですが,内皮や mesangium 領域に deposit を認めており,足突起の癒合も大きな変 して,特に何も感染はなかったと思います。 城 先生のデータに CRP はありましたか。 化がないと判断しました。 IVCY をさらに 2 回追加しまして,腎機能は, 菊池 そこにありませんが,今お出しします。 クレアチニンは改善して,尿蛋白も消失しまし 菊池 はい。 た。 城 薬剤の影響ですけれども,先生の呈示され 肝 性 IgA 腎 症 で す が,1942 年 に Horn や Smetana らが,肝疾患と糸球体の病変の関連を ている中に,腎障害に関係のある薬剤は何かあ 指摘したのが初めてとされます。肝硬変におけ 菊池 これに関しては,エソメプラゾールとか, る糸球体病変は,50%以上に認められますが, そういったところに関しては,確か薬剤性の腎 特にアルコール性肝硬変において,糸球体に IgA 沈着を認める傾向にあるとされます。 機能障害を呈し得る報告なんかもあるのかなと しかしながら,ネフローゼ症候群,あるいは RPGN を呈するような症例は比較的まれであり たので,特別,今回のネフローゼ症候群とは関 まして,肝疾患の患者さんのうち 1.6%がネフ 城 急激に腎機能が悪くなっていることとネフ ローゼ症候群様の変化を呈するともされます。 ローゼ発症との臨床的な関連は,如何でしょう また,腎不全を呈する症例では,組織学的には か? 膜性増殖性変化を呈することが多いとされま 菊池 腎機能に関しましては,確かに尿蛋白が す。 高度に認めたということや,もともとなかった 以上から,臨床像は典型的な経過とは異なり ますが,重度の腎機能障害を呈した肝性 IgA 腎 ような赤血球円柱とか,沈渣が派手に出たとい うことから,やはり RPGN を呈して,急速進行 症と診断してよいか,否か。この場をお借りし 性糸球体腎炎,肝性 IgA 腎症から来たものじゃ て相談させていただけましたらと思います。よ ないかなと臨床的には判断しました。 ろしくお願いいたします。 鎌田 聞き逃したのかもしれませんが,糸球体 座長 ありがとうございました。病理のほうは 全体のうち,glomerulosclerosis のパーセントと, 後ほどディスカッションいただくとして,ここ 半月体形成のパーセントは,どのくらいでした までの臨床経過で,何かご意見やご質問はあり でしょうか。 ますでしょうか。どうぞ,城先生。 城 患者の来院のときは,もう nephrotic range 菊池 ほとんど半月体は認められませんでし の蛋白尿ですね。6 月にはほとんど尿変化がな し訳ないです。 かったということで,ネフローゼは,2 カ月間 鎌田 本例は,50%以上の糸球体に半月体があ 城 CRP を示標とした感染症の疑いはいかが 城 0.28 ですか。高くなっていないですね。 りますか。 思うのですが,比較的長期に使われておりまし 係ないのかなと考えました。 た。具体的には今すぐ申し上げられなくて,申 ―7― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 る,いわゆる RPGN と診断できるような範疇に はなくて,びまん性の mesangium 増殖の範囲の か血管炎らしいという所見があって,IVCY を 糸球体病変であって,所々に crescent が見られ 菊池 1 つは,病理学的に根拠があってやった というよりは,もともとの RPGN,血管炎の治 やられたのでしょうか。 る状態ですか。 菊 池 そ う で す。 ほ と ん ど こ の よ う に mesangium 領域の拡大だけで,あまり半月体の 療ガイドライン,過去に日医の先生方が,2011 形成とか,多くは認められなかったと記憶して 年ぐらいに,ステロイドとミゾリビンを併用し た治療を行っていたところを参考にして IVCY おります。 を開始しました。 鎌田 分かりました。 木村 臨床的な所見からということですね。 座長 ほかにいかがでしょうか。もう 1 回臨床 経過をまとめさせていただきますと,2013 年 5 菊池 そうです。 月までは,腎機能と尿所見ともに正常だったと 城 アルコール性肝障害なんですけれど,アル いうことですね。 コール摂取だけで肝硬変になる場合と,途中で 菊池 はい。 座長 それから,アルコール,焼酎 5 合を 30 年 肝炎を合併する症例もあると思うのですが,こ の症例は,HCV と HBV は,両方とも陰性だっ ぐらい飲んでいたということですが,禁止され たのですか。 たのはいつからなんですか。 菊池 そうです。陰性です。 菊池 今回の消化器内科での入院を契機に禁酒 城 ウイルス性の肝炎の合併は,この症例はな しております。 かったと言ってよろしいですか。 座長 そうすると,直前というわけですよね。 腎機能が悪くなる 4 月まで飲んでいたと。 菊池 否定的と考えております。 菊池 飲まれていました。 細川 肝硬変だと,アルブミンの合成能がだい 座長 山口先生。 山口 普通,IgA は,A1,A2 は,血中は,普通ルー ぶ低下していると思うのですが,ICG テストな ティンで測っています? どうなんですか。 例えば,アルコールだと A1 が非常に多くな 菊池 今回は施行しておりません。 るといわれていますよね。この症例の,先生の ほうがどうなんでしょうか。普通の IgA 腎症に 菊 池 そ う で す。 腹 水 は,CT 上 も か な り 強 木村 ありがとうございます。 座長 どうぞ。 どは行っているんでしょうか。 細川 腹水も認めているんですか。 く認めておりまして,入院したときに,実は 48kg だったんですが,さらに浮腫がひどくなっ 比べて,A1,A2 の比率が異常に高いとか,そ ういう結果はあるのですか。 て,腹水もひどくなって,一旦 58kg まで増え 菊池 すみません。採血において,IgA,IgA2 たという経過もあります。 のほうは採っておりませんでして,比率に関し 細川 まるで禁酒したら悪化しているような感 ては,この場で言及できません。 じを受けるのですが,肝腎症候群の増悪とか, 木村 聖マリアンナ医科大学の木村です。 IVCY を 3 回やられていますね。IgA 腎症には レニン - アンジオテンシン系なのかなどの推測 普通はやらないと思うのですけれども,血管炎 による RPGN であれば,適応があるだろうと思 菊池 肝腎症候群の可能性も考えたんですけれ うのですけれども,その血管炎らしいことを, いとされて,FENa や,FEUN のほうも評価し 臨床的に,あるいは,後で病理の先生からコメ たんですけど,こちらに関しては,あまり腎前 ントがあるかと思うのですが,病理学的にも何 性を示唆するものではなかったということ。あ はいかがでしょうか。 ども,肝腎症候群は,主には腎前性の影響が強 ―8― 第 61 回神奈川腎炎研究会 るいは,尿所見などからは,肝腎症候群よりも, はかなり強かったといわれております。 それ以外の糸球体腎炎の可能性が強いと考えま 座長 GOT,GTP の値が,どのぐらいまで上 した。 がったとか,胆道系酵素がどのぐらいまで上昇 座長 ほかにいかがでしょうか。どうぞ。 したかというのは,いかがでしょうか。 鎌田 この方は,入院後に帰宅されてからの発 菊池 すみません。今,この場では覚えており 症と考えていいんですね。 ません。申し訳ございません。 菊池 そう思っております。 座長 何百という値まで上昇したというふう 鎌田 そうすると,入院中には断酒していて, に。 おうちに帰ってからも断酒は続けていられたの 菊池 だったと思います。 でしょうか? 座長 考えてよろしいですね。 菊池 消化器内科で退院した後は,飲酒は一切 菊池 はい。 されていなかったと。 座長 このときの CRP は 0.2 ですけれども,そ 鎌田 されていない。 のときは,CRP の上昇もあったと考えていいの 菊池 はい。 でしょうか。高い炎症反応があったということ 鎌田 何か薬剤を飲まれたということはありま でしょうか。 せんか。 菊池 そうですね。 菊池 それもなしでございます。 座長 そうすると,アルコール性の肝炎といっ 鎌田 ないのですか。 てもいいような状態だったかもしれないという 菊池 はい。 ことでしょうかね。 座長 ほかにいかがでしょうか。 ほかにいかがでしょうか。 福島 重井医学研究所の福島といいます。 この方のアルコール性肝硬変というのは,食 先ほど演者からもありましたけれども,通常, アルコール性の IgA 腎症というのは,そんなに 道静脈瘤があったんでしょうか。2 カ月前に激 重症にならないことが多いと文献的にはありま しい黄疸を伴う,胆道系酵素がすごく上がるよ すけれども,この症例はどうして,ネフローゼ うな,どちらかというとアルコール性肝炎とい いますか,血中に IgA が非常に負荷された状況 になり,RPGN を呈したかというところがポイ があるかと思います。急性のアルコール性肝炎 ほかには,よろしいでしょうか。そうしまし に続発して,これが起こったと理解していいで たら,病理のほうを,よろしくお願いします。 しょうか。 城 アルコール性肝硬変,それから,ネフロー 菊池 最初にご質問をいただいた点で,静脈瘤 に関してはあったということで,そちらに関し ゼ症候群,急速進行性糸球体腎炎症候群,肝 性 IgA 沈着症というキーワードが出ておりま ては消化器内科のほうで指摘されています。程 す。1 回目の生検ですが,尿細管の萎縮があ 度に関しては,私の勉強不足で細かく申し上げ られないのですが,軽度であったというコメン り,間質に少し浮腫があって,しかも炎症細胞 浸潤がある。約 30%ですね。それから,Tamm- トをいただいております。 Horsfall protein が,遠位尿細管に貯留している 今回のことに関して,肝炎の程度をどのよう ところがあります。 な感じで評価をすればよいか分からないのです が,Child が C であったということは,確かに この糸球体に半月体形成がありますけれど アルブミン値などは参考にならないところもあ 五十何歳かの女性ですけれども,動脈系はき るのかもしれないですけれども,予備能の低下 れいです。 ントになると思います。 も,ここだけだったと思います。 ―9― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 これは銀染色,先ほどの連続切片ですけれど イプであろうと思います。IgA,C3,κ,λは も,半月体形成が見られます。背景となってい 末梢係蹄にも付いています。 る糸球体基底膜ですけれども,部分的には二重 IgA の付き方を見ますと,糸球体末梢係蹄に 化があります。 間質,尿細管のほうですけれども,尿細管 も付いてきているところがありますので,部分 的に IgA 腎症の MPGN のタイプではないかと思 は壊死を示し,あるいは尿細管管腔内に壊死 物が充満し,そこに Tamm-Horsfall 蛋白が絡ん います。原因は,肝硬変かもわかりませんが, 形態的には IgA 腎症の focal MPGN タイプで説 でいるような cast があります。間質は,やはり edema が強いと思います。 明がつくと思います。 糸球体毛細血管管腔内では好中球もあります けれども,大半は macrophages の浸潤です。一 にどう説明するかが問題となります。2 回目で すけれども,ほぼ 1 回目と変わりません。半月 部癒着もあります。 A と C3,そしてκとλが陽性です。κが優 体が少し古くなってきております。癒着もあっ 勢です。 すみません。山口先生のご説明がありますの 電顕で見ますと,この場所は好中球の浸潤が で,ちょっと急ぎます。 結構強いところが撮られております。ここもそ 尿細管の障害も,cast も同じようにあります。 うです。好中球浸潤を伴う管内増殖性病変で す。光顕ではあまり好中球は強く出ておりませ 糸球体管内性病変は,まだ引いておりません。 免疫染色です。パターンは,1 回目と 2 回目 んでしたが,電顕のレベルでは,管内性病変の は特に変わりません。電顕で見ますと,deposit 強いところが撮影されております。 こ こ で は paramesangium,mesangium に 沈 着 が少し多くなったかなと。それから,やはり mesangium interposition が あ っ て, 基 底 膜 の 二 物がある。IgA 腎症の所見に相違はない電顕所 重化を起こしているところがあります。管内性 見です。 病変も見られます。 この写真では,尿細管傷害のひどいところを 2 回目ですけれども,mesangium 細胞の増多。 1 回目は 30%ですけれども,今回は 22%,ほぼ 1 回目の診断です。尿細管間質障害を臨床的 て。 撮ったんだろうと思います。壊死があって,管 腔の中に cast があります。 変わりません。それから,管内性病度が少し強 以上,全節性硬化が 11%。mesangium 細胞増 多が約 30%,管内性も 30%,半月体が 1 個,分 く出てきているんでしょうか。半月体の増加は ありません。癒着も 11%。1 回目,2 回目はほ 節性硬化が 1 個,癒着が 3 個あります。糸球体 基底膜では diffuse segmental に二重化があって, とんど変わらないんじゃないかと思います。 spike,bubbling はない。糸球体の大きさでは, 演者も言われたように,間質の浮腫は消えて きております。尿細管間質傷害度は 20%に引 いてきております。少量の好中球浸潤があって, 依然,Tamm-Horsfall protein の円柱が見られま 腫大はないです。尿細管萎縮は 30%で,リン パ球が主体,好酸球はありませんが,好中球が す。血管系は特に変わりません。 出ております。赤血球円柱もあります。TammHorsfall 円柱もある。しかし尿細管炎はありま せん。小葉間動脈では軽度の線維性内膜肥厚, 1 回目との比較では,少し内皮下沈着物が増 加,そして mesangium 嵌入が目立ってきている 輸入細動脈には異常はありません。 のではないかと思います。アルコール性肝硬変 免疫所見では,IgA,C3 が沈着し,κ優位の 沈着があったということで,IgA 沈着症,ある を合併した肝炎関連腎症との関連ですけれど, IgA が高くて,IgA 沈着症といってもいいのか いは IgA 腎症の巣状 mesangium 増殖性腎炎のタ も知れません。C3 も沈着しておりますし,IgA ― 10 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 腎 症 の サ ブ タ イ プ と し て の focal MPGN 型 と 尿細管上皮が障害を受けて ARF を起こすとい 言ってもいいのではないかと思います。 うことが,われわれも,経験であります。 問題は, 急速な腎機能の低下との関連ですが, それから,間質炎も意外と幅が広く起きてい ます。一部 fibrin が出るような vasculitis も見ら 尿細管間質障害が最初から出現しており,浮腫 れています。 【スライド 02】crescent の数が,私は数個あった もあるということで,何かの感染症との関連を どうしても疑います。 糸球体毛細血管管腔の中に,電顕で特に目 ように思うのですが,このような cellular な半 立ったのですけれど,好中球が強く出ており ました。通常の IgA 腎症,ないしは肝炎に伴う 月体です。それから,管内増殖で,先ほど見た IgA 沈着症では,こんなに強い管内増殖性の炎 か管内の細胞がどこかへ消えてなくなってしま 症は出てこないと思いますので,何か感染との うのです。 関連を考えてもいいのではないかと思います。 以前から,私自身,EM,グルタルですぐ固 管内増殖性腎炎があって,しかもステロイド 定するのと,ホルマリンで固定するのとちょっ にレスポンスがあったということで,急激なネ フローゼは,背景に IgA 沈着症,あるいは IgA と時間的な差異があるわけで,もしかしたら, 腎症の MPGN 型があったとして,そこに感染 と。ちゃんとロジカルに追求しないといけない 性の管内増殖性変化が加わったことが,一過性 わけです。ボウマン嚢が壊れて断裂しています。 そうすると,これは fibrous crescent の可能性も ときに電顕で見られ,PAS だと,どういうわけ 遊走性のある細胞は出ていってしまうのかな の強いネフローゼを起こして,しかもそれが治 否定できないわけです。 【スライド 03】赤血球円柱が,多発している。 療に反応したことを説明できるのではないかと 思います。 例は, 私自身は経験しておりません。以上です。 ここも癒着があるのですが,ここはちょっと cellular な反応が,やはりあります。crescent と 座長 どうもありがとうございました。続きま 思います。 ただ,それに対して IVCY を使ったという症 【 ス ラ イ ド 04】 や や fibrous な element が 加 わ っ して,山口先生,よろしくお願いいたします。 山 口 城 先 生 と 基 本 的 に 大 き な 違 い は な い ています。赤血球円柱がたまってきています。 の で す が, 今,IgA 関 連 腎 炎 と 言 い ま す か, primary,あるいは secondary,あるいは持ち込 尿細管上皮が扁平化しています。 【 ス ラ イ ド 05】cellular crescent の と こ ろ で す。 mesangial deposit はありそうで,癒着もあって, みの IgA 腎症,いろいろな hetero でない事案で すよね。やはり,そのへんを,順天堂の人たち が, こ の 間 KI で,galactosidase,IgA に 対 す る 自己抗体みたいなもので,IgA 腎症のアクティ 二重化はそんなに際立たない。mesangium の軽 い増殖はあると思います。 【スライド 06】管内に多核球が混ざっています。 ただ,電顕で見ると,この比じゃないんです。 discrepancy をどういうふうに見極めていく必要 ビティを見られるというペーパーも出ていまし たけれども,今後そういういろいろなデータか 関連腎炎というものを正確に診断してこなくて があると思っています。 【スライド 07】髄質で赤血球円柱が壊れて間質 はいけないと思います。 【スライド 01】城先生はこれを Tamm-Horsfall と に炎症が起きています。 【スライド 08】尿細管上皮の,少し扁平化があっ 言ったんだけれど,赤血球の円柱です。赤血球 て,一部 crystal な間質性の沈着があります。こ らも,classical なものと,secondary,あるいは れは,理由はよく分かりません。 の塊ですから,赤血球円柱が比較的多発して目 立っています。時々,この赤血球円柱によって 【 ス ラ イ ド 09】G,A が mesangial で, 一 部 ― 11 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 classical ですと,IgA1 でλが強いのが一般的で 間質炎が軽くなっていると思われます。 【スライド 21】再生性の尿細管の変化が出てき す。κが弱いのは,classical な IgA です。そう ています。尿細管上皮に prerenal なのか,何ら peripheral で す。C3 も 似 た パ タ ー ン で, 普 通, かの障害があったことは間違いない。 すると,唯一違うのは,κがちょっと強いとい 【スライド 22】癒着があって,糸球体もあまり 増殖性の変化がなくて,ここに crescent があり う点です。 【スライド 10】長濱先生に 2 回ぐらい送っても ます。 らったんです。A-1 が優位だと彼らが言ってい 【スライド 23】mesangium の拡大よりも,内腔 るので,本当なのかなといって,A1,A2 を送っ で一部二重化がある。 てもらいました。これは両方,少し陽性なよう 【スライド 24】主に IgA,C3,peripheral,比較 で,A1 優位とはちょっと言えないように思い 的優位で,mesangium にも出ている。 ます。 【スライド 25】電顕では,管内増殖が,まだ一 部 macrophages 系が少し入り込んで,subendo で 【スライド 11】もう 1 枚送ってもらったんです が,A1,A2 は,言えないです。 【スライド 12】電顕でこんな状態です。好中球 優位に macrophages も一緒に混ざっています。 それも,毛細血管腔が見えないぐらいにいっぱ mesangial interposition がある。 【スライド 26】内皮下に明らかな沈着があって, mesangium 領 域 か ら 内 皮 下 に か け て mesangial interposition が見られていると思います。 いになってしまっているんです。こんな像は, 光顕では見られていません。 【スライド 13】管内増殖で,恐らく mesangium の領域にまで好中球とかも入り込んできている んだろうと思います。 【スライド 14】paramesangial,mesangial,それ か ら,subendo で mesangial 沈 着 と interposition があります。一部,内皮下に沈着が強いです。 【スライド 27】interposition があちこちに,確か に好中球も出ています。 【スライド 28】deposit があります。 【スライド 29】interposition です。 【スライド 30】ちょっと多過ぎたですね。 【スライド 31】全体的にマイルドで,endocapillary mesangialで,double contour も あ る。tubular regenerative な変化があって,IgA classical なも 【スライド 15】内皮下の浮腫が一部強いところ です。washed out されたのか,内皮障害が出て のとは違うということです。 【スライド 16】cell debris と赤血球です。上皮障 【 ス ラ イ ド 32】 文 献 で, 最 近 の『Kidney international』 に, ア ル コ ー ル に よ る も の と, 害があって,遠位系の尿細管内に集まっている primary な IgA を組織学的に比較したものです。 のだろうと思います。 【スライド 17】endocapillary mesangial proliferative そうすると,IgA 腎症と同じように,アルコー ル性肝硬変でも IgA がついてくる。CD71 とい glomerulonephritis で,classical な IgA と は い え ない。IgA 関連腎炎と patchy tubular injury で赤 うのをやると,意外と陽性になりやすいという 血球円柱,calcinosis があり,典型的なものと のですが,なかなかできないということだった は言い難いと思います。 ようです。 います。 文献で,これは長濱先生に染めるように言った 質がだいぶよくなっています。赤血球円柱はや それから,Ki-67 は分裂マーカーですが,先 ほど城先生が言ったように,肝性 IgA 沈着症で はり目立つんです。 【スライド 19】crescent の数が 3 個ぐらいです。 すと,あまり増殖性の変化はないのが一般的な のです。通常の IgA のほうが圧倒的に多いとい 【スライド 20】赤血球円柱が目立って,尿細管 われています。そうすると,この症例はアルコー 【スライド 18】2 回目のは治療後で,尿細管間 ― 12 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 ル性だけで説明できる症例ではなさそうである 腎症よりも,係蹄の内皮下にもすごい deposit と思います。 があるということでした。これが特異なのかど うかということで意見をいただこうかと思った 【スライド 33】文献で,日医の先生たちが,臨 床的に RPGN を採って,治療でよくなってし のですけれども,誰も意見を言ってくれなかっ まった症例を 2 例出しています。腎機能も元 に 戻 っ た。 一 部 crescent formation が あ っ て, たので,一般的ではないのかなと思ったのです。 ascites も戻った。この症例は classical な IgA と もアルコール性ともいえない。肝硬変状態です 誰が見てもこれは変だと,wire-loop みたいなで かいのがあるということで,アルコールの IgA といろいろなことが起きますので,そういった 腎症とはこういうものかと思ったのです。 症例になるのかなと思います。以上です。 座長 ありがとうございました。お 2 人とも 実際に今回のでは,光顕ではそれほど大粒の 最近また,同じようにかなり大粒の沈着物で, MPGN 様の激しい管内増殖を伴う腎炎で,間質 ものはなさそうですが,電顕では係蹄内皮下に 結構大粒のものがありそうなので,通常の IgA には著明な赤血球円柱を伴うような腎炎もある 腎症とはちょっと違った変化を示すのかなとい ということですね。今までのところで,何かご 意見,ご質問はありますでしょうか。 うことを感じました。 それからもう 1 つは,以前,アルコールとい 乳原 虎の門病院の乳原です。 うことで,虎の門病院の病理の原満という先生 以 前 か ら 私 も, ア ル コ ー ル の 肝 障 害 と, HCV,HBV の 肝 障 害。HCV,HBV に も IgA 腎 が,本当かどうか分かりませんが,コメントし 症はかなりの頻度で出てきますから,その IgA には,組織障害は線維化なんだと。ですから, のどこが違うのか。肝障害というものに共通の IgA なのか,それとも原疾患,アルコールとい 肺は間質性肺炎を起こすし,肝臓も線維化で肝 うものがどのぐらい関係しているか,というこ 変が強いんだということを言われていて,以前 とは常日ごろ考えていたんですけれども,ちょ は,線維化,間質病変が強いのはアルコールの うど先生が今出された症例の中で,IgA 値が臨 床的にいえば 800 ということなんです。 特徴だと思っていたんですが,今回を見ると, 私たちは,B と C の人で,IgA 腎症が出た人 を整理してみますと,300 とか 400 ぐらいまで なと思いました。 もう 1 つは,治療です。治療が,私たちも実 てくれたことがありました。アルコールの場合 線維化症。膵臓も線維化だと。腎臓も線維化病 もしかしたらそれも当たっているかもしれない しかないんです。ですから,IgA 腎症で,IgA 際には,普通の IgA 腎症でアルコールの人でス が 500 を超えるというのはまずない。大体,そ テロイドが本当に効くのかどうかというのです ういう場合はアルコールが絡んできているとい けれど,実際によく効くのです。この症例も恐 うことで,やはりアルコール性特有のものが, この B と C の IgA 腎症の差になるんじゃないか らくよく効いたので,諦めずにやると,かなり なと思っていました。 もう 1 つは,アルコールの肝障害の腎組織像 腎機能はよくなってしまう。 それで,rebiopsyre が 1 カ月以内ぐらいで短 はあまり出てこないので,見せていただけない 期間だったのですけれども,1 年ぐらい置いて やると,見事に deposit がなくなってしまって のですけれども,何人か私たちで経験しており ます。ちょうど 3 年ぐらい前に,腎臓学会のコ います。もし 1 年たったときにもう 1 回やって いただけると,本当にこの症例は IgA だったの ンサルテーションで出したことがあるんですけ だろうかと。通常の IgA 腎症では 1 年たっても そんなには消えないので,原発性の IgA とはど れども,そのときに私たちが注目したのは,か なり大粒の沈着物だということで,普通の IgA うも違うということがありましたので,ちょっ ― 13 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 とコメントをさせていただきました。 だって一過性に腎機能低下がくることもありま すので,以上の 3 つの要素が複合的に影響した 座長 ありがとうございました。城先生。 城 IgA が 800 ぐらい,それから,先ほど臨床 のではないかと私は思います。 から出ました胆道系の酵素,アルフォスが 419 座長 山口先生,いかがでしょうか。 です。このような胆道系の酵素,それから,恐 らく分泌型の IgA が血中に上がってくる。この 山口 赤血球円柱による急性腎不全です。何例 かわれわれは経験しています。GBM の断裂で 赤血球円柱で ARF を起こし,臨床的にも血尿 徴候は,かなり長いスパンのものなのか,ある いは今,乳原先生がおっしゃった,急激に上 がってきたものなのか,そこらへんはどうなの がわっと出たようなことを言っていますので, 1 つは,赤血球円柱による尿細管障害が大きい でしょうか。 ように思います。 2 ポイント,3 ポイントで測っていらっしゃ 座長 ありがとうございました。糸球体と尿細 るかどうかです。 管の障害と両方が合わさっていたのかもしれな 菊池 今回の腎臓内科に入院になる前の IgA の いということですね。 データはなかったのですが,治療を開始して 3 カ月後の IgA では,300 ぐらいまで改善してい ほかに何かありますでしょうか。よろしいで たということです。以前の,それより前のデー ますので,菊池先生,ありがとうございました。 しょうか。そうしましたら,時間も超過してい タはなかったんですが。 城 アルフォスはどうですか。胆道系の酵素の ほうは。 菊池 すみません。今は覚えておりません。 鎌田 この症例は,急速進行性腎炎症候群,血 尿で,血清クレアチニン値が 3.11 まで上がって います。この重篤な腎機能障害の原因を糸球体 病変に求めるのか。それとも,尿細管間質性腎 炎,あるいは尿細管壊死というものに求めるの か。それとも,ネフローゼになっているための prerenal factor に求めるべきか。 血清 Cr 値 3.11 は重篤だと思うのですけれど も,これを組織のうえから説明することが可能 でしょうか。教えていただければと思います。 城 糸球体病変からは,なかなか難しいです。 crescent がこの症例は 1 個,山口先生は 3 個とい うことですが,それがある。それから,尿細管 の障害もありそうだと。それから,cast。これ は赤血球円柱もありますが,Tamm-Horsfall に よる円柱もあると思います。さらに尿細管の壊 死もあるということで,恐らく主軸は間質,尿 細管でしょうけれども,じゃあ糸球体の関与が ないかというと,crescent があって,endocapillary の要素が加わった場合に,急性腎炎症候群 ― 14 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 第1回目生検 山口先生 _01 山口先生 _04 山口先生 _02 山口先生 _05 山口先生 _03 山口先生 _06 ― 15 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 IgA1 山口先生 _07 IgA2 山口先生 _10 IgA1 山口先生 _08 IgA κ 山口先生 _11 C3 λ 山口先生 _09 山口先生 _12 ― 16 ― IgA2 第 61 回神奈川腎炎研究会 山口先生 _13 山口先生 _16 病 理 診 断 (I-1-1) 1. Endocapillary & mesangial proliferative glomerulonephritis with cellular crescents and double contours (IgA-related nephritis, probable) 2. Patchy tubular regeneration with intratubular RBC casts, moderate 3. Nephrocalcinosis and interstitial THP deposits, mild cortex/medulla= 5/5, global sclerosis/glomeruli= 4/27 光顕では、糸球体には管内浸潤やメサンギウム増殖を認め、係蹄壁の二重化を伴い、3ヶに 半周に及ぶ細胞性半月体が見られ、2ヶに癒着を伴っています。 皮髄質部に亘り新旧の血球円柱が多発し、尿細管内に上皮の脱落や顆粒或いは硝子円柱 が散在し、尿細管上皮の再生変化を認め、一部ではTHP間質逸脱を伴っています。間質にも 小石灰化巣が散在し、単核球や多核球浸潤を散在して認めます。 中位動脈硬化と細動脈硝子化を軽度認めます。 蛍光抗体法では、IgA(+), IgA1(±), IgA2(+), C3(+), κ(+), λ(±): mesangial & peripheral patternで す。 電顕では、観察糸球体は管内に好中球や単核球など浸潤が目立ち、内皮下沈着物や内皮 下浮腫が見られ、メサンギウム間入を認めます。メサンギウム域には傍メサンギウム域と基質 に沈着物を認め、メサンギウム細胞増生と基質増加が見られます。尿細管系には近位尿細管 に上皮に変性や剥脱が見られます。 以上、定型IgA腎炎とは言えず、上記の診断が考えられ、血球円柱が散在し、肝腎症候群な どが加わって尿細管間質障害で急性腎不全を呈したと思われます. 山口先生 _14 山口先生 _17 第2回目生検 山口先生 _15 山口先生 _18 ― 17 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 山口先生 _19 山口先生 _22 IgA C3 山口先生 _20 山口先生 _23 山口先生 _21 山口先生 _24 ― 18 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 山口先生 _25 山口先生 _28 山口先生 _26 山口先生 _29 病 理 診 断 (I-1-2) 1. Mild endocapillary & mesangial proliferative glomerulonephritis with crescents and double contours (IgA-related nephritis, probable) 2. Patchy tubular regeneration with nephrocalcinosis and intratubular RBC casts, moderate cortex/medulla= 9/1, global sclerosis/glomeruli= 2/16 光顕では、糸球体には軽度の管内浸潤やメサンギウム増殖を認め、係蹄壁の二重化を伴い、 2ヶに半周に及ぶ線維細胞性半月体が見られ、2ヶに癒着を伴っています。 皮質部に新旧の血球円柱が散在し、顆粒或いは硝子円柱が散見し、尿細管上皮の再生変 化を認めます。間質に小石灰化巣が散在し、単核球や多核球浸潤を散見して認めます。 中位動脈硬化と細動脈硝子化を軽度認めます。 蛍光抗体法では、IgA(+), C3(+): mesangial & peripheral patternです。 電顕では、観察糸球体は管内に好中球や単核球など浸潤が所により認め、内皮下沈着物や 内皮下浮腫が見られ、メサンギウム間入が目立ちます。メサンギウム域には傍メサンギウム 域と基質に沈着物を認め、メサンギウム細胞増生と基質増加が見られます。尿細管系には近 位尿細管に上皮に変性や剥脱が見られます。 以上、上記の診断が考えられます。 山口先生 _27 山口先生 _30 ― 19 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 山口先生 _31 城先生 _02 Nihon Jinzo Gakkai Shi. 2011;53(1):60-7. [Two cases of rapidly progressive nephritic syndrome complicated with alcoholic liver cirrhosis]. It has been reported that glomerulosclerosis with IgA deposition is likely to be complicated with alcoholic liver cirrhosis. On the other hand, it is said that complications of nephrotic syndrome or rapidly progressive glomerulonephritis (RPGN) are relatively rare. We experienced two patients with alcoholic liver cirrhosis complicated with RPGN syndrome who had obtained favorable outcomes through the use of steroids and immune system suppressors. Case 1 was a 55-year-old male. He was being treated for alcoholic liver cirrhosis, but as bloody urine was noticed macroscopically, his renal function rapidly decreased. Specimens from a renal biopsy showed endocapillary proliferative lesions accompanying necrotic lesions. Granular deposition of IgA (IgA1) and C3 was seen along the capillary walls and in the mesangial areas. After the combined treatments of bilateral palatotonsillectomy, three courses of steroid semipulse therapy and post-therapy with steroids and mizoribin (MZR)were started, his hematuria and proteinuria disappeared and renal function improved markedly. Case 2 was a 37-year-old male with alcoholic liver cirrhosis complicated with hepatic encephalopathy. Although he was being treated at another hospital, nephritic syndrome occurred with rapidly worsening renal function and massive ascites. After continuous drainage of the ascites, we performed a renal biopsy. Mild proliferative lesions and notable wrinkling, thickening and doubling of the basal membrane were seen. Crescent formations were found in about half of the glomeruli. The fluorescent antibody technique showed positive pictures of IgA (IgA1) and C3. When three courses of steroid semi-pulse therapy and post therapy with steroids and MZR were combined, his proteinuria and serum Cre level decreased and stagnated ascites markedly decreased. The two cases were diagnosed as having secondary IgA nephropathy induced by the deposition of the IgA1 derived mainly from the intestinal tract, which had increased in the blood due to alcoholic liver cirrhosis. Active use of immune system suppressor therapy was effective. 山口先生 _32 城先生 _03 第1回目 腎生検 城先生 _01 城先生 _04 ― 20 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 城先生 _05 城先生 _08 第ᵏ回目 ᵧᶅᵥ ᵡᵑ ᵧᶅᵫ κ λ 城先生 _06 城先生 _09 城先生 _07 城先生 _10 ― 21 ― ᵧᶅᵟ 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 城先生 _11 城先生 _14 <光顕> 標本はᵐ切片採取。 糸球体 全節性硬化:ᵐᵍᵏᵗ個 ᵆᵏᵏᵃᵇ。 残存糸球体において、メサンギウム細胞増多をᵓᵍᵏᵕ個(ᵐᵗᵃᵇ、 管内性細胞増多をᵓᵍᵏᵕ個(ᵐᵗᵃ)。 半月体形成ᵏ個(5%)、分節性硬化ᵏ個(5%) 、虚脱はない。癒着をᵑᵍᵏᵕ個 ᵆᵏᵖᵃᵇ。 糸球体基底膜は肥厚し、ᶂᶇᶄᶄᶓᶑᶃᴾᴾᶑᶃᶅᶋᶃᶌᶒᵿᶊに二重化、ᶑᶎᶇᶉᶃならびにᶀᶓᶀᶀᶊᶇᶌᶅはない。 糸球体の腫大はない(200μm)。 尿細管・間質 尿細管の萎縮ならびに間質の線維性・浮腫性拡大中等度(ᵑᵎᵃ)、 同域にリンパ球浸潤をᵔᵎᵃ。好酸球なし、一部に好中球の浸潤と赤血球の出血巣。 炎症細胞の拡がりはびまん性。尿細管炎はない。急性尿細管壊死(ᵲᵦᵮ円柱) 血管系 小葉間動脈に軽度の内膜の線維性肥厚、輸入細動脈に異常なし。 免疫染色にてᵧᶅᵟ・ᵡᵑが沈着し、κの沈着が優位。 以上の所見から、ᵧᶅᵟ腎症 の巣状膜性増殖性糸球体腎炎型と診断。 城先生 _12 城先生 _15 <免疫> ᵧᶅᵟ・ᵡᵑ・κが優性で、λがメサンギウム領域ならびに糸球体末梢毛細血管係蹄に 顆粒状に弱陽性。ᵧᶅᵟ腎症のᵫᵮᵥᵬ型にᶁᶍᶋᶎᵿᶒᶇᶀᶊᶃ。 <電顕 ᵆᵮᵏᵑᵋᵐᵒᵐᵑᵇ> ᵧᶅᵟと思われるᶂᶃᶌᶑᶃᴾᶂᶃᶎᶍᶑᶇᶒがメサンギウム領域・傍メサンギウム領域・内皮下に見られ、 それに伴いメサンギウム間入が見られる。ᵧᶅᵟ腎症 ᵫᵮᵥᵬ型にᶁᶍᶋᶎᵿᶒᶇᶀᶊᶃ。 一部に著明な好中球の浸潤巣があり、感染性腎炎の合併の可能性があり。 城先生 _13 城先生 _16 ― 22 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 <第ᵏ回目腎生検(ᵮᵏᵑᵋᵓᵐᵔᵏ)> 臨床診断 ネフローゼ症候群、アルコール性肝硬変、 低カリウム血症、肝性脳症 病因分類 ᵧᶅᵟ腎症 病型分類 ᵧᶅᵟ腎症 巣状膜性増殖性糸球体腎炎型。 急性尿細管間質性傷害 城先生 _17 第2回目 城先生 _20 腎生検 城先生 _18 城先生 _21 城先生 _19 城先生 _22 ― 23 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 第ᵐ回目 ᵧᶅᵥ ᵡᵏq ᵧᶅᵫ ᵧᶅᵟ ᵡᵑ 城先生 _23 城先生 _26 城先生 _24 城先生 _27 城先生 _25 城先生 _28 ― 24 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 <免疫> 観察糸球体は個です。ᵧᶅᵟ・ᵡᵑが陽性で、メサンギウム領域ならびに糸球体末梢毛細血管係蹄 に顆粒状に陽性です。ᵫᵮᵥᵬ型ᵧᶅᵟ腎症にᶁᶍᶋᶎᵿᶒᶇᶀᶊᶃ。 <電顕 ᵆᵮᵏᵑᵋᵑᵑᵗᵐᵇ> メサンギウム領域・傍メサンギウム領域・内皮下にᶂᶃᶌᶑᶃᴾᶂᶃᶎᶍᶑᶇᶒを認める。 前回(ᵮᵏᵑᵋᵐᵒᵐᵑᵇに比して、内皮下沈着物ならびにメサンギウム間入が目立ってきており、 脚突起消失も目立つ。 城先生 _29 城先生 _32 <第ᵐ回目腎生検 ᵆᵮᵏᵑᵋᵔᵕᵒᵑᵇ> 臨床診断: 慢性腎炎症候群、アルコール性肝硬変、 シクロフォスファミドパルス療法 病因分類 原発性糸球体腎炎 病型分類 ᵧᶅᵟ腎症(ᵧᶅᵟ沈着症)、巣状膜性増殖性腎炎+ 管内増殖性糸球体腎炎、 肝炎関連腎症の疑い 考察 アルコール性肝硬変が合併しており、肝炎関連腎症の1亜型の疑い。 第1回目腎生検にて 尿細管・間質の炎症と壊死がみられ、 急速な腎機能低下との関連が疑われる。 通常のᵧᶅᵟ腎症ないしは肝炎にともなうᵧᶅᵟ沈着症では、好中球主体の 炎症細胞浸潤が、糸球体管内性ないしは間質性腎炎のかたちでは来ない。 尿細管間質性傷害の原因は不明。感染性間質性腎炎の可能性もある。 城先生 _30 城先生 _33 <光顕> 標本はᵏ切片採取。 糸球体 ᵏᵍᵏᵎ個 ᵆᵏᵎᵃ)に全節性硬化。 残存糸球体において、メサンギウム細胞増多をᵐᵍᵗ個(ᵐᵐᵃᵇ、 管内性細胞増多をᵖᵍᵗ個(ᵖᵗᵃᵇ。半月体形成ᵏᵍᵗ個(ᵏᵏᵃᵇならびに分節性硬化、虚脱はない。 癒着をᵏᵍᵗ個(ᵏᵏᵃᵇ。糸球体基底膜の肥厚はなく、ᵮᵟᵫ染色にて一部に二重化。 ᶑᶎᶇᶉᶃ・ᶀᶓᶀᶀᶊᶇᶌᶅも見られません。糸球体の腫大はない(180μm)。 半球状沈着物は目立たない。 尿細管・間質 尿細管の萎縮ならびに間質の線維性拡大を軽度に認めᵆᵐᵎᵃᵇ、 同域に炎症細胞浸潤をᵐᵎᵃ。炎症細胞の種類はリンパ球と少量の好中球。 好中球は糸球体にも浸潤している。また、遠位尿細管内に炎症細胞を含む円柱を認める。 血管系 小葉間動脈に軽度の内膜の線維性肥厚、 輸入細動脈に異常なし。免疫染色にてᵧᶅᵟが陽性。 以上の所見から、感染後性糸球体腎炎(ᵧᶅᵟ沈着症)、びまん性管内増殖性糸球体腎炎と診断。 城先生 _31 ― 25 ―
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