草月流秘蔵コレクション展 勅使河原蒼風の眼と美の潮流 いけばな草月流の創始者、勅使河原蒼風(てしがはら そうふう/1900~79年)は、華道の 概念をくつがえす独創的な仕事で、戦後の日本に前衛いけばなブームを巻き起こしました。さらに絵 画、書、立体造形へと表現世界を拡大し、異色の表現者としても活躍しました。 【蒼風の多彩な芸術活動】 本展では、勅使河原蒼風の芸術活動を、絵画、書、コラージュ、立体造形など 11 点でたどるととも に、第二代家元勅使河原霞、第三代家元勅使河原宏の作品もあわせてご紹介します。 作家名:勅使河原蒼風(1900~1979 年) 作品名: 《八雲》 制作年:1962 年 技法材質:木 寸 法:236.0×440.0×157.0cm 所蔵:一般財団法人草月会 「創造のない、いけばなはつまらない。目で、みえぬものを、いけよ。目でみえぬものが、心の中 に、たくさんある」 ( 『蒼風花伝書』 ) 。 蒼風にとって、いけるとは、造形することと同じでした。手にする素材が、花なのか、鉄あるいは 木なのかという違いだけで、いけばなも彫刻も「造形る=いける」ものだったのです。 立体造形における蒼風の仕事で注目されるのは、1960 年代から取り組んだ古事記の連作です。伊 勢神宮の神木を素材に、モニュメンタルな巨大オブジェを次々と発表しました。この作品も、そのう ちのひとつ。 横幅およそ 4 メートル 50 ㎝、 高さ 2 メートル 30 ㎝。 国内に現存する古事記連作の中で、 最大の作品です。原始的な生命体が増殖し異形の怪獣となったような、猛々しい生命力を感じさせま す。 「目にみえぬものが、心の中にたくさんある」 。蒼風は、それに形をあたえ、生命を吹き込んでい ったのです。 作家名:勅使河原蒼風(1900~1979 年) 作品名: 《半神半獣》 制作年:1955 年 技法材質:墨・屏風(六曲一隻) 寸 法:171.5×378.5cm 所蔵:一般財団法人草月会 (千葉市美術館寄託) 華道家であり、彫刻家であり、画家であり、書家であった勅使河原蒼風は、そのすべてにおいて前 衛を志向した芸術家でした。なかでも書は、ほとんど独学によるものでしたが、伝統にとらわれない 前衛的な表現を求めて、数多くの優作を残しています。書ならではの、やり直しのきかない一回性の 緊張感を好み、 型破りな大きさの書に挑戦し、 揮毫パフォーマンス(公開制作)も精力的に行いました。 この作品は、蒼風の代表的な書作の一点です。金屏風という光彩はらむ空間のなかに、野性味あふ れる「半神半獣」の四文字が墨の飛沫とからまりあい、まるで植物が、枝やつるを伸ばし、根を張り 出していくような絵画性をみせています。実際に、蒼風は、書といけばなについて、次のように語っ ています。「私はむしろ書から華がとれると思っている。そしてまた華から書がとれる、実に形で相 通ずるものがあるのです。木の枝ぶり、木の根っ子ね、本当に字になっているんだなあ」。 【草月流アートコレクション】 勅使河原蒼風は、 独自の審美眼と感性で、 東西の古代美術から日本の古美術、 優れた現代美術の数々 を収集したコレクターでもありました。本展では、蒼風から歴代家元へと受け継がれた「草月流アー トコレクション」のなかから、俵屋宗達、岡本太郎、ピカソ、ミロ、ダリ、ウォーホルなど、多彩な コレクション約 50 点を厳選、展観します。 作家名:岡本太郎(1911~1996 年) 作品名: 《足場》 制作年:1952 年 技法材質:油彩・キャンバス 寸 法:99.0×73.0cm 所蔵:一般財団法人草月会 (東京都現代美術館寄託) 勅使河原蒼風は、戦後の 1950 年代以降、土門拳、イサム・ノグチなど第一線の芸術家たちと広く 交流するとともに、 ヨーロッパからもたらされたアンフォルメル運動など新しい芸術思潮を積極的に 支援し、日本の戦後美術の発展に貢献しました。 ≪太陽の塔≫の作者として知られる芸術家、岡本太郎も、蒼風と親交を重ねた一人です。引き合わ せたのは、勅使河原宏。蒼風の長男で、当時、安部公房らと前衛美術運動を推し進め、岡本太郎とは 既知の仲でした。蒼風の要請を受けて、岡本太郎は、草月流展に初の立体造形となる陶芸作品を出品 したほか、機関誌『草月』への寄稿など、前衛いけばなへの協力を惜しみませんでした。 この作品は、岡本太郎が蒼風と交友を深めていたころに描かれたものです。原色を多用しながら、 脈絡のない事物を無機的に構成しているようにみえて、赤い舌を出した顔がダブルイメージとして浮 かびあがります。シュールな表現の背景に、血が通っているかのような生命力を感じさせます。 作家名:ジョアン・ミロ(1893~1983 年) 作品名: 《女》 制作年:1959 年頃 技法材質:リトグラフ、墨・紙 寸 法:70.0×52.0cm 所蔵:一般財団法人草月会 ©Successió Miró-Adagp,Paris & JASPAR, Tokyo, 2015 E1675 1955 年、勅使河原蒼風にとって初のパリ個展が、バガテル宮殿(パリ市主催)で開催されました。 いけばなの概念を超える破格の表現に人々は驚き、アメリカの『タイム』誌(7 月 11 日号)では、 「花 のピカソ」と紹介されるなど、国際的に高い評価を受けました。以降、蒼風は、本格的に海外での活 動を開始、サム・フランシス、ジョルジュ・マチウなど現代作家とも盛んに交流しました。スペイン の画家、ジョアン・ミロもその一人です。1959 年 4 月、蒼風は、欧米 4 カ国個展巡回のため、渡米。 同時期にニューヨーク近代美術館で個展を開催していたミロと偶然出会い、 ミロの幅広い創作活動に 感銘を受けました。 同年 5 月、パリ個展開催のためパリに移動した蒼風は、ミロと再会。この作品は、そのときに、ミ ロから贈られた一点です。墨の線は、その場でミロが描き入れたものと伝えられています。
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