特別展「思考するアートコトバノカタチ」作品紹介やえがしとうらい作家名：八重柏冬雷／1954（昭和 29）年～作品名：《玉響 2015-1》制作年：2015（平成 27）年技法材質：墨、ボンド、ユポ紙寸法：90.0×120.0 ㎝所蔵：作家蔵墨であらわされた四角と丸。そのうえをにぎやかに動く線。何を描いたものか。これが心の風景とすれば、四角や丸の面は、しっかりとした意思の力を感じさせ、黒の滴りを散らしながら動く墨の線は、自由な感情のゆれ動きと見ることもできる。あるいは四角と丸が対話しているようにも。作品名の「玉響(たまゆら)」は、万葉集にも使われている古い言葉で、ほんの少しの時間を意味する。玉が響くと書く通り、物につけた玉がゆらぎ、触れあう音がかすかであるというところから、生まれた言葉という。「玉響」を手がかりに見れば、墨の円や点が、葉の上でふるえる露のようにも見えてくる。作者は、十勝を拠点に活躍している前衛書家。書くことと描くことの境界を飛び越えて、コトバのカタチやイメージを起点に、豊かな表現世界を拡大している。書も絵画も、知識で読もうとすれば、読み終えたときに鑑賞は終わる。柔らかな感覚で受け止め、感覚を思考に切り替えた先に、何が見えてくるか。この展覧会で探りたいことのひとつである。いけだ作家名：池田みどり緑／1943（昭和 18）年～作品名：《FOUR WORD STORIES「四つの言葉」の物語》制作年：2010-2015（平成 22-27）年技法材質：手帳 2 冊、ダイモテープ、映像、記録本、募言箱作者は、版画や写真の技術の応用、新素材の活用などによって清新な造形世界を構築してきた現代美術作家。1999 年より、ダイモテープというプラスチック製のテープに、自身の誕生の日から現在までの日付を刻字印刷したシリーズの制作を続けてきた。本作品は、同製品を用いたワークショップ“ 『「四つの言葉」の物語』をつくろう”を基にしている。この事業は、参加者が大切に思う４つの言葉をテープに刻み、それを手帳の 1 ページに自由に貼り付けるというもの。2010 年の個展の折に始まり、その後 5 年間に渡り続けられてきた。ワークショップの参加者、のべ 200 名の思いが込められた“言葉”を素材に、視覚的な表現をつくり出した作品だ。それぞれのページは、言葉の選択や配置など、同じものはひとつもなく、そこに人となりや人生が垣間見えるような物語が綴られている。ふじさわ作家名：藤沢レオ／1974（昭和 49）年～作品名：《不在の存在Ⅲ》制作年：2014（平成 26）年技法材質：水糸吊された赤い糸が、美しい弧を描いている。糸は規則正しく無数に垂れ下げられ、一つの立体作品が生み出される。鑑賞者は、重力がつくり出す美しい曲線に目を奪われると同時に、この作品の意図、意味について思考を巡らせるだろう。作者は、苫小牧市樽前を拠点に活動をしている彫刻家・金工家。アートと地域の文化や教育を結ぶ活動を行う「樽前 arty+」の代表理事も務める。私たちの周りに常に存在しながら目には見えず、取り立てて意識されずにあるものを掬い取る作品をこれまで手掛けてきた。空間に突如出現したかのように展示される作品は、見るものの思考回路を刺激する。本作品は、茶廊法邑（札幌市）での個展の際に発表したもの。私たちが普段意識しないものの存在を顕わにし、目を向けさせる本シリーズは、当館ロビーにて展示される。なるみかんり作家名：鳴海寛理／1960（昭和 35）年～作品名：《呼吸構築体－接続領域♯２》制作年：2001（平成 13）年技法材質：木、鉄、真鍮寸法：110.0×110.0×211.0 ㎝所蔵：当館蔵ユーカリの一種、カリの木を素材にしたこの作品は、彫る、削るといった手作業を積み重ねるような、いわゆる彫刻でない。デザインと設計を経た小さな構造物と呼ぶにふさわしく、この作品が理知的な印象と強い存在感をみせるのは、そのためだろう。作品名の「接続領域(インターフェース)」は、作者が近年、展開しているテーマの一つ。インターフェースといえば、コンピュータと周辺機器の接続部分を表すパソコン用語だが、作品の意図とつながるようには思えない。結局、鑑賞者は、難解な作品名を抱えながら、作品と向き合い自分なりの解釈を探すことになる。その意味でこの作品は、思考という行為により、見るものと作者をつなぐ装置といえそうだ。作者は、帯広生まれ。現在は岐阜県を拠点に意欲的な創作活動を展開している美術家。石、金属、合成樹脂、木など多様な素材を使った立体作品のほか、公共モニュメントや国内外の空間プロデュースで活躍している。