法学概論第2回 法は他の社会規範とどう違うのか?

法学概論第2回
法は他の社会規範とどう違うのか?
【 1 】「 社 会 あ る と こ ろ に 法 あ り 」( 教 科 書 7 6 ~ 7 7 ペ ー ジ )
・「 社 会 規 範 」 と は ・ ・ ・ 私 た ち が 社 会 生 活 を 共 に 営 む た め に 必 要 な 「 き ま り ごと 」
社会規範には、道徳、慣習をはじめ様々なものがあり、法もその一つである。
・「 法 」 と は 何 か と い う こ と を 明 ら か に す る た め に は 、 法 と 他 の 社 会 規 範 と の 違 い や 相 互
の関係について考える必要がある。
クイ ズ ( 1 )
次のもののうち、法と呼べるものはどれだろうか?
ア エ ス カ レ ー タ ー で は 急 い で い る 人 の た め に 右 側 を 空 け て 立 た な け れ ばな ら な い 。
イ 電 車 で は 、 お 年 寄 り に 座 席 を ゆ ずら な け れ ばな ら な い 。
ウ 人 を 殺 して は な ら な い 。
エ 相 撲 の 土 俵 に 女 性 が 入 って は な ら な い 。
オ 自 転 車 は 道 路 の 左 側 よ り に 通 行 し な け れ ばな ら な い 。
【2】 法以外の主な社会規範
(1) 慣習
・人々の間で、ある行為が自然発生的に反復継続されると、しだいにその行為を「しな
け れ ば な ら な い 」と い う 意 識 が 人 々 の 間 で 形 成 さ れて く る よ う に な る 。こ の よ う な 形 で 、
社会規範となったものが「習俗」や「慣習」である。
先 ほ ど の クイ ズ ( 1 ) で い え ば 、( ①
)や(②
)がこれにあたる。
・慣習と「法」との関係・・・詳しくは第5回。
(2) 道徳
A ) 道 徳 と い う の は 、 ごく 簡 単 に い え ば 、 善 悪 の 判 断 基 準 で あ る 。 人 の 行 い を よ い 行 い と
悪 い 行 い に 分 け て 、 よ い 行 い を する よ う に 方 向 付 け る 社 会 規 範 で あ る 。
先 ほ ど の クイ ズ ( 1 ) で い え ば 、( ③
)や(④
)がこれにあたる。
B ) 道 徳 は 、 あ る 部 分 で は 「 法 」 の 内 容 と 重 な る こ と が あ る 。 先 ほ ど の クイ ズ ( 1 ) で い
え ば 、( ⑤
) は い う ま で も な く 「 法 」 で あ る 。 一 方 、( ⑥
)は「法」では
な い 。 ま た 、( ⑦
)は「法」ではあるが、道徳であるとはいえない。
C ) で は 、「 法 」 と 道 徳 と は 何 が 違 う の か ?
・「 法 は ( ⑧
) の 道 徳 で あ る 」( 教 科 書 7 7 ~ 8 0 ペ ー ジ )
= 道 徳 の 中 で も 必 要 最 小 限 度 の も の が 、「 法 」 で あ る と い う 考 え 方 。
( 道 徳 は 要 求 水 準 が 高 す ぎる た め 、 そ れ を 法 に す る こ と がよ い こ と と は 限 ら な い )
・ ・ ・ で も 、 法 の な か に は 道 徳 に 関 係 な い も の や 道 徳 に 反 する も の も あ る ・ ・ ・
(例)道路交通法における自動車の左側通行、時効制度
・ ・ ・ 最 低 限 の 道 徳 で あ って も 、 法 に 含 ま れ な い も の だ って あ る ・ ・ ・
(例)他人の不幸を喜ぶこと ≠ 刑罰の対象
・規制対象について(教科書81~83ページ)
法 =(⑨
)を規律
道徳=(⑩
)を規律
例 え ば 、「 人 を 殺 し た い 」 と 思 っ て も 、 法 的 に は 犯 罪 と は な ら な い が 、 道 徳 に は 反 して
いるといえる。
* でも、そうともいいきれないかも・・・
( 例 ) 刑 法 上 の 殺 人 罪 は 「 殺 す 」 と い う 意 思 =故 意 が あ る 場 合 に 適 用 さ れ る 。 故 意 が
な く 、 あ や ま って 人 を 死 な せ て し ま っ た 場 合 = 過 失 の 場 合 に は 適 用 さ れ な い 。
( 詳 細 は 第 9 回 )。 法 に お い て も 内 面 の 意 思 が 重 要 な 問 題 と な っ て い る 。
-1-
・権利義務関係について(教科書83~85ページ)
法 =(⑪
)
道徳=(⑫
)
以 下 の 二 つ が ど う 違 う の か 、 Aと Bで 考 えて み よ う 。
A 電車の中でお年寄りに席を譲る義務
B 交 通 事 故 で 他 人 に 怪 我 を さ せ た 場 合 、 加 害 者が 被 害 者 の 損 害 を 賠 償 する 義 務
*
ちなみに、売買契約の場合は、代金の支払と目的物の引渡という二つの権利・義務
関 係 が 生 じ る 。 代 金 の 支 払 か ら み る と 、 買 主 が 「 買 っ た 物 に 対 して お 金 を 払 い ま す 」 と
い う 意 思 表 示 を 行 っ た こ と で 、 代 金 を 支 払 う と い う 義 務 が 生 じ る の に 対 して 、 売 主 は
買 主 に 対 して 、「 お 金 を 払 っ て く だ さ い 」 と 主 張 す る こ と が で き る 。 目 的 物 の 引 渡 か ら
みると、売主が「お金を払えば売った物を引き渡します」という意思表示を行ったこと
で 、 商 品 を 引 き 渡 す と い う 義 務 が 生 じ る の に 対 して 、 買 主 は 売 主 に 対 して 、「 買 っ た の
だ か ら 引 き 渡 して く だ さ い 」 と 主 張 す る こ と が で き る 。
*やはり、そうともいいきれないかも・・・
法の中には、権利と義務が片方ずつしかない場合もある。例えば、憲法において納税の
義 務 ( 憲 法 30条 ) が あ る が 、 国 民 に 納 税 の 義 務 は あ っ て も 、 国 家 の 方 に 税 金 を 受 け 取
る 権 利 が あ る わ け で は な い ! ! 逆 に 、 勤 労 者 の 団 結 する 権 利 及 び 団 体 交 渉 そ の 他 の
団 体 行 動 を す る 権 利 ( 憲 法 28条 ) が あ る か ら と い っ て 、 そ の 権 利 を 実 現 さ せ る 義 務 を
だ れ か が 負 って い る わ け で は な い 。
・強制の有無について(教科書85~87ページ)
法 =(⑬
道徳=(⑭
)
)
法 の もつ 強 制 力 ・ ・ ・ 刑 罰 、 損 害 賠 償 、 強 制 執 行 な ど
* で も 、 法 の 中 に だ って 、 強 制 力 が な い も の も 存 在 する ・ ・ ・
(例)未成年者飲酒禁止法・未成年者喫煙禁止法・・・飲酒・喫煙した本人には
罰 則 規 定 が な い 。( た だ し 販 売 者 と 親 権 者 は 処 罰 さ れ る 。)
D)道徳の守備範囲と「法」の守備範囲は、重ならない場合がある。一方で、重なる場合
も あ る 。 た だ 、 そ の 重 な り 方 に は 二 種 類 あ っ て 、 一 つ は 、「 人 を 殺 して は な ら な い 」
と い う よ う に 、人 に 特 定 の 行 為 を 命 令 し た り 、禁 止 し た り す る 場 面 で あ る 。も う 一 つ は 、
判決のような法的な判断の場面で、道徳的な価値判断が表面に出てくる場合である。
(例)最高裁判所による刑法175条の「わいせつ」の定義
①徒に性欲を興奮又は刺激させ
②普通人の正常な性的羞恥心を害し、かつ、
③ 善 良 な 性 的 道 義 観 念 に 反 する こ と
民 法 9 0 条 の 条 文 ・ ・ ・「 公 の 秩 序 又 は 善 良 の 風 俗 」
【 3 】「 法 」 と は 何 か
① 法 と は 、 社 会 の 秩 序 ( 日 常 生 活 や 社 会 生 活 の ル ー ル ) を 維 持 する た め の 必 要 最 小限 度
の規範である。
② 法 は 、 違 反 行 為 に 対 して は 強 制 力 を 行 使 す る こ と が で き る 。
あらゆる法規範が強制力をもっているわけではないが、法規範を守らせるために、
警 察 や 検 察 や 裁 判 所 な ど の 国 家 機 関 が 存 在 して い る 。
③ 法 は 、 国 家 や そ の 他 同 様 の 正 統 性 を もつ 政 治 体 の 定 め る 規 範 で あ る 。
* 「 正 統 性 」・ ・ ・ 主 権 者 で あ る 我 々 が 「 正 し い 」 と 承 認 して い る こ と
↓
民 主 主 義 国 家 に お い て は 、 個 人 や 特 定 集 団 の 恣 意 に よ っ て 、 法 が 左 右 さ れて は な ら な
い。万人が主権者である以上、主権者である我々が認めた社会規範だけが、守られる
べき最小限度の規範となる。
-2-
*
講 義 第 1 回 の クイ ズ ( 2 ) の 解 答
クイ ズ ( 2 )
次 の 文 章 は い ろ い ろ 間 違 えて い ま す 。 何 が ど う 間 違 えて い る の か を
考 えて み よ う 。
知 り 合 い の X さ ん に 、 二 〇 〇 八 年 一 二 月 末 ま で に 返 すと い う 約 束 で 1 0 万 円 の お 金
を 貸 し た 。 し か し 、 一 向 に 返 して く れ な い 。 そ こ で 、 裁 判 所 に 訴 えて や っ た 。 裁 判 所
の判決でXさんは懲役一年で有罪となった。
その上で、Xさんの家に行き、Xさんの預金通帳を取り上げて、Xさんの口座から
1 0 万 円 引 き 落 と し た ( も ち ろ ん そ の 後 預 金 通 帳 は X さ ん に 返 し た )。
間違いは二カ所
① 「裁判所の判決でXさんは懲役一年で有罪となった」というところ。
貸したお金の返済を求めたり、代金の支払や商品の引渡を求めたり、損害賠償を
請 求 し た り と い っ た 訴 訟 は 、 民 事 訴 訟 で あ る 。 一 方 、 犯 罪 に 対 して 刑 罰 を 科 す た め
の訴訟は刑事訴訟である。
② 「Xさんの家に行き、Xさんの預金通帳を取り上げて、Xさんの口座から
10万円引き落とした」というところ。
民事訴訟の判決に当事者が従わない場合、裁判所に強制執行の申し立てをしなけれ
ば な ら な い 。 Y さ ん が 司 法 の 手 続 を 使 わ ず に 、 X さ ん の 意 思 に 反 して 、 自 ら の 権 利
を 実 現 す る こ と 、 い わ ゆ る 自 力 救 済 は 禁 止 さ れて い る 。
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