温度/波長スキャン測定プログラムによるリゾチームの温度変化および CD

CD application data
新しい CD 分析情報
210-CD-0023
Date
2015/03/09
温度/波長スキャン測定プログラムによるリゾチームの温度変化および CD/蛍光スペクト
ル測定
はじめに
タンパク質に由来するタンパク質性バイオ医薬品の研究・製造は近年ますます盛んにな
っています。タンパク質性バイオ医薬品の製造や品質管理においてはタンパク質の熱安定
性や変性に関する情報が重要となります。CD スペクトルはタンパク質の二次構造を敏感
に反映し、微量・高感度で測定が可能なため、タンパク質の熱安定性や pH、塩による構造
変化の解析などに広く使用されています。また、トリプトファン残基に由来する蛍光スペ
クトルはタンパク質の三次構造を反映しており、タンパク質の構造解析において CD スペ
クトルと相補的に用いられています。
日本分光 J-1500 円二色性分散計[温度/波長スキャン測定]プログラムは固定波長での温度
変化測定に加え、指定した温度での CD スペクトルの同時測定が可能です。またオプショ
ンの FMO-522 蛍光モノクロメーターを用いることでさらに蛍光スペクトルの同時測定が可
能になります。ここでは J-1500 円二色性分散計を用いたリゾチームの 222nm の温度変化お
よび CD/蛍光スペクトル測定例を紹介します。
<Keywords>
バイオ医薬品, 熱変性解析, 二次構造, 三次構造
<サンプル調製>
0.025 mg/mL の卵白由来リゾチーム水溶液を調製し、10mm×10mm 四面透過石英セルを
用いて測定を行いました。
<測定条件>
(測定装置)
J-1500 円二色性分散計
PTC-510 水冷ペルチェセルホルダ,
FMO-522 蛍光モノクロメーター,
(温度変化測定)
昇温条件:
1 ℃/min (20 - 90℃)
測定波長:
222 nm
レスポンス:
4秒
(CD スペクトル測定)
測定温度:
5℃間隔 (20 - 90℃)
データ間隔:
0.5 nm
バンド幅:
1 nm
(蛍光スペクトル測定)
測定温度:
5℃間隔 (20 - 90℃)
励起波長:
280 nm
測定範囲:
300 – 420 nm
レスポンス:
1秒
蛍光測定光学ユニット(PTC-510 用)
FDT-538 蛍光検出器
データ間隔:
バンド幅:
0.1℃
1 nm
測定範囲:
レスポンス:
走査速度:
190 – 260 nm
2秒
100 nm/min
励起バンド幅: 1 nm
蛍光バンド幅: 10 nm
データ間隔:
2 nm
本社・工場 192-8537 東京都八王子市石川町 2967-5 TEL 042(646)4111 代表 FAX 042(646)4120
東京 03(3294)0341/北海道 011(741)5285/北日本 022(748)1040/西東京 042(646)7001/筑波 029(857)5721/
神奈川 045(989)1711/名古屋 052(452)2671/大阪 06(6312)9173/広島 082(238)4011/九州 092(588)1931
<測定結果>
(CD スペクトル測定)
Fig.1 にリゾチーム水溶液の CD スペクトルの温度変化を示します。温度上昇に伴って
CD 強度が減少し、20℃では 208nm にあった負のピークが 90℃では 203nm に短波長シフト
しており、リゾチームのへリックス構造が解けてランダム構造に変化している様子が観測
されています。
30
20
20℃
10
CD [mdeg]
90℃
0
-10
90℃
20℃
-20
190 200
220
240
Wavelength [nm]
260
Fig.1 リゾチームの CD スペクトルの温度変化 (20→90℃)
Fig.2 にヘリックス構造に由来する 222 nm の CD 値の温度変化データを示します。70℃
~80℃の領域で急激に CD 強度が減少していることが分かります。[蛋白質熱変性解析]プ
ログラムによる解析の結果、変性温度 (Tm) は 74.38℃と評価されました。
次いで 90℃まで加熱したリゾチームを 20℃に冷却して、再度 CD スペクトルを測定しま
した。その結果を Fig.3 に示します。冷却によりリゾチームの構造が大部分巻き戻ってい
る(リフォールディングしている)ことが分かります。
-7
30
-8
20
Tm: 74.38℃
-10
10
CD [mdeg]
CD [mdeg]
-12
③ (冷却後 20℃)
② (90℃)
-10
-14
-15
20
0
① (20℃)
40
60
Temperature [C]
80
90
Fig.2 リゾチームの温度変化データ(222nm)
-20
190 200
220
240
Wavelength [nm]
260
Fig.3 リゾチームの CD スペクトル
(①緑:20℃initial, ②青:90℃, ③赤:20℃final)
(蛍光スペクトル測定)
トリプトファン残基は、他のアミノ酸残基に比べて非常に強い蛍光を発することが知ら
れています。多くのタンパク質では僅かな数のトリプトファン残基しか持たないため、そ
の蛍光をモニターすることにより、トリプトファン残基の置かれた微環境についての知見
を得ることができます。トリプトファン残基は 280nm 付近に吸収極大を持ちますが、その
蛍光ピークは周辺環境の極性に敏感に反応します。有機溶媒中や、タンパク質の内部に埋
まったような非極性な環境では、その蛍光ピークは 340 nm 付近に現れますが、水中やタン
パク質表面で水にさらされたような極性の高い環境に置かれると 350-360 nm 付近に蛍光ピ
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ークが長波長シフトします 1)。ここでは温度上昇に伴うリゾチームの蛍光スペクトルを測
定し、リゾチーム中のトリプトファン残基の微環境がどのように変化しているのかを観測
しました。
Fig.4 に温度上昇に伴うリゾチームの蛍光スペクトルの変化を示します。最初 20℃では
トリプトファン残基の蛍光ピークは 340nm でした。しかしながら、温度上昇に伴い長波長
側へシフトして行き、90℃では 352nm に蛍光ピークが現れました。これは、リゾチームの
熱変性によりタンパク質内部に埋まっていたトリプトファン残基がタンパク質表面に現れ
たためと考えられます。
0.9
20℃
0.8
0.6
Int.
0.4
0.2
90℃
0.1
300
350
Wavelength [nm]
400
420
Fig.4 リゾチームの蛍光スペクトルの温度変化 (20→90℃)
Fig.5 に 340 nm と 352 nm の蛍光強度のピーク比を温度に対してプロットしたものを示し
ます。70℃~75℃の温度域で最も大きく変化しており、へリックスの変性温度と同様にト
リプトファン残基の置かれた環境が 74℃付近で最も大きく変化していることが分かります。
CD スペクトル測定と同様に、90℃まで加熱したリゾチームを 20℃に冷却して、再度蛍
光スペクトルを測定しました。その結果を Fig.6 に示します。冷却により加熱前の蛍光ス
ペクトルに近い状態まで再現しており、トリプトファン残基もタンパク質内部に再び埋め
込まれたことが分かります。
1.2
0.9
0.8
1.1
0.6
Ratio
③ (冷却後 20℃)
Int.
1
② (90℃)
0.4
0.9
0.85
20
① (20℃)
0.2
40
60
Temperature [C]
80
90
Fig.5 蛍光強度比の温度変化 (352nm/340nm)
0.1
300
350
Wavelength [nm]
400
420
Fig.6 リゾチームの蛍光スペクトル
(①緑:20℃initial,②青:90℃,③赤:20℃final)
<Reference>
(1) S. V. Konev, “Fluorescence and Phosphorescence of Proteins and Nucleic Acids”, Plenum Press,
New York, p.21 (1967)
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