講義資料

市場と経済A
1
第2回
経済学者らしく考える(教科書第2章)
2015年4月20日(月)
担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)
2
科学者としての経済学者
 経済学者は自然科学者と同様に、理論を生み出し、データを集め、それを分析して理論を確かめたり棄却
したりする。
 経済学と自然科学に共通する科学的方法:物事の仕組みに関する理論を構築し、検証する。
 しかし、自然科学とは異なり、経済学において実験を行うことは多くの場合困難もしくは不可能。
 その代りに、過去の歴史における出来事に注目する。
 過去の経済に対する洞察とともに、経済理論を評価するための材料を与えてくれる。
 経済学は仮定を置くことによって、複雑な世界を単純化して理解しやすくしようとする。
 どのような仮定を置くかが重要な問題となってくる。
 置くべき仮定は分析の目的に応じて変化する。
経済モデル(1)
3
 複雑な経済現象を理解するために、経済学者はさまざまなモデルを構築。
 フロー循環図
 経済は、購入、販売、労働、雇用、製造といった多様な活動に従事する多くの経済主体によって構成されている。
 そうした経済の構造や、経済主体が相互にどのように関わりあっているのかを説明するモデルが必要。
 フロー循環図は、家計と企業という二つの経済主体、財・サービス市場と生産要素市場という二つの市場によって
構成される(スライド4)。
 生産要素:労働・土地・資本という、財・サービスの生産に必要な要素。家計が所有する。
 財・サービス市場では家計が買い手で、企業が売り手。生産要素市場では家計が売り手で、企業が買い手。
 企業:生産要素市場で購入した生産要素を投入して財・サービスを生産し、財・サービス市場で販売。そうして得た収入を生
産要素市場での支払いに充てる。
 家計:家計は所有する生産要素を生産要素市場で販売し、そうして得た収入で財・サービス市場で財・サービスを購入。
4
経済モデル(2)
フロー循環図
収入
支出
財・サービス市場
財・サービス
財・サービス
企業
家計
生産要素
労働・土地・資本
生産要素市場
賃金・賃貸料・利潤
お金の流れ
収入
財・ サービスの流れ
5
経済モデル(3)
 生産可能性フロンティア
 経済は二つの財だけを生産していると仮定。
 生産可能性フロンティアは、利用可能な生産要素と、その生産要素を用いて生産物を生み出すのに利用可能な生産
技術を所与とした場合に、経済が生産できる生産物のさまざまな組み合わせを示すグラフ(スライド6)。
 所与:研究などの出発点として異議なく受け取られる事実・原理(『広辞苑』)
 経済はフロンティア上の点やその内側の点であれば生産できるが、外側の点では生産できない。
 C点では生産不可能。
 経済が利用可能な希少な資源から最大限のものを得ている場合、その状態は効率的と呼ばれる。
 フロンティア上にあるA、B、E、F点は効率的。その内側にあるD点は非効率的。
 効率的な点では、一方の財の生産を増やすためにはもう一方の財の生産を減らさなければならないが(スライド6)、非効率的な点では、
一方の財の生産を増やすためにもう一方の財の生産を減らす必要はなく、両方の財の生産を増やすことも可能(スライド7)。
 生産可能性フロンティアは二つの財の生産の間のトレードオフを、その傾きの大きさは機会費用を示している。
 E点やF点のような点では、一方の財の生産を増やすためには、他方の財の生産をかなり大きく減らさなければならない(スラ
イド8)。
 生産可能性フロンティアは、ある一時点における二つの財の生産の間のトレードオフを示すもの。しかし、時間と
ともに変化することもある。
 技術進歩によって生産性が高まり、フロンティアが外側にシフト(スライド9)。
経済モデル(4)
6
生産可能性フロンティア
コンピュータの
生産台数
3,000
C
F
A
2,200
2,000
1,000
B
D
E
0
300
600
700
1,000
自動車の
生産台数
経済モデル(5)
7
生産可能性フロンティア
コンピュータの
生産台数
3,000
C
F
A
2,200
2,000
1,000
B
D
E
0
300
600
700
1,000
自動車の
生産台数
経済モデル(6)
8
生産可能性フロンティア
コンピュータの
生産台数
3,000
C
F
A
2,200
2,000
1,000
B
D
E
0
300
600
700
1,000
自動車の
生産台数
経済モデル(7)
9
4,000
コンピュータの
生産台数
生産可能性フロンティア
3,000
G
2,300
2,200
0
A
600 650
1,000
自動車の
生産台数
10
経済学の分析方法と価値判断
 実証的な主張と規範的な主張
 実証的な主張(positive statements):社会がどのようになっているか(説明的)
 規範的な主張(normative statements):社会がどうあるべきか(処方的)
 実証的な分析に加えて価値判断が関わる。倫理、宗教、政治哲学など、経済学以外の考え方も必要に。
 なぜ経済学者の意見は一致しないのか
 科学的判断における相違
 要因:前提とする仮定の違い、重要と考える説明変数の違い、分析の材料となるデータの違い、など。
 価値観の相違
 例:パイを大きくすること(経済成長)を重視するか、パイの切り分け方(所得再分配)を重視するか。
グラフの用法(1)
11
 経済学における概念の多くは数量化が可能であり、そのためグラフや数式が多用される。
 単一変数のグラフ
 円グラフ、棒グラフ、折れ線グラフ(教科書p65,図2A-1)
 2変数のグラフ
 経済学者は変数間の関係に興味。座標系を用いることで2変数の組み合わせを図示可能。
 散布図(教科書p66,図2A-2)。横軸をx座標、縦軸をy座標、 x座標もy座標もゼロの点を原点と呼ぶ。
 散らばりが右上がりになっている場合、正の相関関係があると言い、右下がりになっている場合、負の相関関係があると言う
(スライド12)。
 座標系の中の曲線
 2変数以外の諸要因を一定に保った上で、一つの変数のもう一つの変数への影響をみる。
 例:所得と価格に応じて、小説の購入冊数が変化(スライド13)。
 所得を3万ドルに保った上で、価格と購入冊数の関係(需要曲線)を図示(スライド14)。
 所得が4万ドルになると需要曲線は右にシフトし、2万ドルになると左にシフト(スライド15)。
 2変数以外の要因が変化した場合、曲線はシフト。
 曲線上の動きと曲線のシフトを区別することが重要。
12
グラフの用法(2)
Y
Y
正の相関関係
0
負の相関関係
X
0
X
13
グラフの用法(3)
エンマが購入する小説冊数
小説の価格
所得
(ドル)
2万ドル
3万ドル
4万ドル
10
2冊
5冊
8冊
9
6冊
9冊
12冊
8
10冊
13冊
16冊
7
14冊
17冊
20冊
6
18冊
21冊
24冊
5
22冊
25冊
28冊
需要曲線
D3
D1
D2
グラフの用法(4)
14
需要曲線
小説の価格
(ドル)
11
(5, 10)
10
(9, 9)
9
(13, 8)
8
(17,7)
7
(21,6)
6
(25, 5)
5
D1
4
3
2
1
0
5
10
15
20
25
30
小説の購入冊数
グラフの用法(5)
15
需要曲線のシフト
需要曲線
小説の価格
(ドル)
11
(13, 8)
10
9
(16, 8)
8
(10, 8)
7
6
5
D3
4
D1
D2
3
2
1
0
5
10
15
20
25
30
小説の購入冊数
グラフの用法(6)
16
 一つの変数の変化に対して、もう一つの変数がどれだけ反応するか:「傾き」という概念。
 傾き = Δy / Δx
 Δ(デルタ)は変数の変化分であることを示している。
 需要曲線は右下がりなので、傾きはマイナスになる。
 需要曲線の傾きがゆるやかな場合(傾きの絶対値が小)、価格の変化に対して需要が大きく変化。需要曲線の傾き
がきつい場合(傾きの絶対値が大)、価格の変化に対して需要が小さく変化(スライド18)。
 直線の場合、傾きは常に一定。
 因果関係をめぐる問題(スライド19)
 本当は図示されていない変数(捨象された変数)が変化を引き起こしているのに、グラフ上の一方の変数がもう一
方の変数の変化を生じさせていると見誤る可能性。
 二つの変数以外の変数を一定に保つことができないことから生じる。
 実際には変数Aの変化が変数Bの変化を引き起こしているのに、変数Bの変化が変数Aの変化を引き起こしていると
見誤る可能性(逆因果関係)。
 相関関係と因果関係を区別することが重要。
グラフの用法(7)
17
傾きの計算
需要曲線
小説の価格
(ドル)
11
(5, 10)
10
(9, 9)
9
(13, 8)
8
(17,7)
6-8=-2
7
(21,6)
6
(25, 5)
5
21-13=8
D1
4
3
傾き=
2
1
0
5
10
𝛥𝛥𝛥𝛥
𝛥𝛥𝛥𝛥
15
= 1組目のy 座標-2組目のy 座標 =
1組目のx 座標-2組目のx 座標
20
6−8
21−13
25
=
−2
8
30
小説の購入冊数
グラフの用法(8)
18
さまざまな傾きの需要曲線
需要曲線
小説の価格
(ドル)
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
5
10
15
20
25
30
小説の購入冊数
グラフの用法(9)
19
 捨象された変数
C
B
A
 逆因果関係
A
真の因果関係
見せかけの因果関係
※AがCの変化を引き起こした真の要因(捨象された変
数)であるにもかかわらず、Bが要因であると見誤る。
B
真の因果関係
見せかけの因果関係