両眼の悪性黒色種が認められた犬の 1 例

両眼の悪性黒色種が認められた犬の 1 例
○中原美喜 1)上嶋飛鳥 1)小林義崇 1)2) 林宝謙治 1)
1)埼玉動物医療センター 2)アニマルアイケア・東京動物眼科醫院
【はじめに】
犬のぶどう膜のメラノーマは、犬の眼内原発性腫瘍で最も多い腫瘍である。ぶどう膜
のうち虹彩、毛様体に多く発生し、まれに脈絡膜にも発生する。通常片眼に発生し、比較
的転移は少ないとされている。今回、ぶどう膜炎を呈し、両眼の悪性黒色腫と診断した犬
に遭遇したので、その概要を報告する。
【症例】
症例は、パピヨン、避妊雌、12 歳齢。両眼が赤く、開かなくなり、見えなくなったと
いうことを主訴に来院した。初診時には、両眼には眼瞼痙攣と重度の結膜および上強膜の
充血が認められた。角膜は重度の浮腫を呈しており、重度の前房フレアーと前房蓄膿のた
め、後眼部の透見はできなかった。両眼とも眼圧は高値であり、威嚇瞬き反応は陰性を示
した。超音波検査では前・後ぶどう膜の腫脹が認められるものの、明らかな腫瘤性病変は
認められなかった。両眼のぶどう膜炎と診断し、原因追求のため全身的な検査を実施した
が、CRP の上昇以外に特異所見は得られなかった。ステロイドによる治療を実施したところ、
眼圧は正常化し、ぶどう膜炎は改善傾向を示したが、視覚の回復は得られなかった。腫瘍
の可能性も否定できなかったものの、角膜潰瘍も併発したため、疼痛緩和を目的に第 32 病
日に両眼の眼内シリコン義眼挿入術を実施した。摘出した眼球内容物の病理組織検査を実
施したところ、強膜への浸潤を伴う両眼の悪性黒色腫という結果であった。そのため、再
度腫瘍の原発巣や転移巣がないかを精査したが、眼以外に明らかな病変は認められず、第
57 病日に両眼の眼球摘出術を実施した。病理組織検査の結果は同様に両眼の悪性黒色腫で
あった。術後は 2 ヵ月毎に定期検査を実施しているが、16 ヵ月を経過した現在、局所再発
や転移は認められていない。
【考察】
今回、原発性悪性黒色腫が両眼に発症した、もしくは片眼に原発した悪性黒色腫が対側
眼に転移したと考えられる稀な症例に遭遇した。眼内の悪性黒色腫は通常片眼の発症であ
り、両側性の発症では転移性病変であることが疑われるが、本症例では眼以外に明らかな
腫瘍性病変は認められなかった。通常、犬の眼内の悪性黒色腫の術後の予後は比較的良好
であるが、両眼発症の悪性黒色腫の報告はなく、通常の病態とは異なる挙動を示す可能性
が考えられた。化学療法も提示したが、ご家族は希望されなかったため、今後の挙動には
十分注意していく必要がある。また、本症例を通し、ぶどう膜炎の基礎疾患を正確に評価
することの重要性と、眼内シリコン義眼挿入術時に病理組織検査を実施する必要性を再認
識した。
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