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特集:建物の外壁を維持保全する改修材料・工法 ★
健全なタイル外壁設計・施工への提言
工学院大学名誉教授/有限会社難波建築研究室/一級建築士・工学博士
難波 蓮太郎
今年、年明け早々の2月10日、夜10時10分ごろ、東京都
白色タイル張り
新宿区歌舞伎町1丁目で、またメディアを賑わす外壁タイ
ルの落下事故が発生した。直後にTVでも放映され、翌日の
新聞各紙に記事が載った。9階建ての、飲食店など入った雑
赤褐色
タイル張り
エレベーター
透視ガラス壁
タイル落下部分
居ビルで、7階付近から縦75cmほど、横約30cmの小口平タ
イル層が20mほど直下の1階入り口近くの路上に落下した。
現場はJR新宿駅の北東約200mの繁華街の一角で、2月11
日の祝日の前の晩でもあり、また、当時を含め、いつも通
行量の非常に多い場所にも拘わらず、幸い、人を直撃しな
かった。大勢の通行人が周囲におり、一時、騒然となった。
壁面には剥がれかけた外壁タイル層が2m以上の縦長に残
り、直ちに東京消防庁ははしご車でこれを除去した(写真
1、2)。ガラス張りのエレベーター外装部右方と取合う、落
下した出隅角部分の白色役ものタイル外壁は張付けモルタ
ル層とともに可なりの重さであり(写真3、4)、その右端に
は縦長の看板が数多く取り付けられている。
写真 1 歌舞伎町外壁タイル落下事故が起きたビル
この事故を受けて新宿区は繁華街の歌舞伎町と新宿3丁
目在の1100棟余りのビルを対象に緊急調査を行い、同月16
日から職員3名が一組となって路上からビルの外壁や看板、
室外機などの落下の危険性をチェックして廻ったという。
区の建築調整課によれば歌舞伎町1丁目界隈では昭和40年
以前に建てた古いビルなどが全体の20%ほどを占めている
とのことである。
事故発生の日は①気温は零下であり、屋内外の温度差が
大きかった、②エレベータータワー外部はガラス張り金属
カーテンウォールで、取合いの隣接する異種材料・構造で
あるRC外壁タイル仕上げ間で、応力集中が発生、③エレ
ベーターは常に上下動し、振動は避けられない、等の原因
が考えられた。看板の存在も考慮される。その後、補修は
吹付け仕上げとなり、看板も撤去された。
そこで1989年11月21日午前11時18分ごろ発生した北九州
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No.466 2015 年 6 月号
写真 2 1 階入り口近くの路上に落下
特集/建物の外壁を維持保全する改修材料・工法
市小倉北区昭和町での住宅都市整備公団昭和町市街地住宅
の45二丁タイル層の剥落事故が思い出されるが、当時社会
問題になって、多くの対策がなされ、その後事故防止を含
むタイル張り工法・改修技術は一段と飛躍した。1995年阪
神・淡路大震災では、それまでの教訓を活かした結果、外
壁タイルの剥落は今までの地震時の被害と比べて可なり軽
微なもので、それなりの成果は上げられた。
しかし、なお四半世紀経った現在、この問題は解決して
いない。 外壁タイルは剥がれるものという宿命は避けら
れないのだろうか。専門家でもタイルは剥がれるものであ
るとまで、極言する方はいる。
写真 3 落下タイルが散乱した歩道
北九州市での前出外壁剥落箇所は、エレベーター設置箇
所最上階の塔屋で(図1:右端上方)、縦約5m、横8.3m、厚
さ約35mm(最大50mm)、南面の外壁で、高さ31mに位置し
ていた。築17年の経年である。死者2人、重傷者1人、1台の
タクシーが大破の悲劇であった。今思うに、今回の事故に
似て、事故発生の塔屋(ペントハウス:エレベーター機械
室)は横長の本棟に付随するペンシル型構造物の最上階に
位置する、東面・東南面での日射による吸熱が相対する側
との変形量のバランスを欠き、+-の伸縮の日変化・年変
化の繰り返しで剥離応力を生じたともいえる。東京タワー
など常に東と西側が互いに交互に伸縮を激しく行うとい
う。朝は東側が伸びて凸に彎曲、夕には西日で逆に彎曲す
写真 4 小口タイルは厚く、張付けモルタルも重い
る。エレベータータワーは塔や煙突に相当する縦に連続す
8.3m
落下部分
塔屋高さ 40.9m
浮き部分
図 1 昭和町市街地住宅南面立面図
No.466 2015 年 6 月号
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