第三者意見 東レグループでは、 「新しい価値の創造を通じて社会に貢献する」 という企業理念の下、長期経営ビ ジョン “AP-Growth TORAY 2020” によって、 ビジネスモデルの転換が強力に進められています。 持続可能な社会の実現はグローバルな最優先課題であり、 とくに気候変動問題は喫緊の政策的テー マになっています。その解決に資する製品・サービスの関連市場は、近年、拡大の一途をたどっているた め、企業が長期的に成長しようとすれば、持続可能な社会に適合するビジネスモデルへの転換は不可避 と言わざるを得ません。 今年度の CSR レポートには、 “プロジェクト AP-G 2016” の初年度成果が報告されていますが、新た 上妻 義直 氏 上智大学 経済学部 教授 上智大学大学院経済学研究科 博士後期課程単位取得後、名 古屋工業大学助手、 オランダ・ リンパーク研究所客員研究員、 静岡県立大学経営情報学部助 教授、上智大学経済学部助教 授を経て現在に至る。環境省、 経済産業省、国土交通省、農林 水産省、内閣府、 日本公認会計 士協会などのCSR・環境関係 の審議会・検討会・研究会など で座長・委員などを歴任。 なビジネスモデルの核となるグリーンイノベーション事業では、 2010 年比で 44% も売上高が増加し、 2020 年近傍の売上高目標 1 兆円の達成を確信させる勢いを見せています。 また、 製品の削減貢献量は 59 百万トン-CO2 に達し、東レグループ全体の GHG 排出量 5.23 百万トンの 11 倍を超えています。 いずれも今後の展開が期待される取り組み成果です。 もう一つの評価ポイントは、GRIガイドライン第4版にもとづいて、 マテリアリティ選定が行われたことで す。19の重要課題がCSRガイドラインに関連付けて選定されており、CSRマネジメントの系統性・透明性 が今後さらに向上すると期待されます。 しかし、重要課題に選定された 「人権の尊重」 では、教育・訓練の基礎となる人権研修の実施状況が国 内グループに限定して報告されるだけで、グループ従業員数の62%を占める海外は報告範囲から除外 されています。CSR調達ガイドラインがサプライヤーに人権尊重の取り組みを求めていることからすると、 まずはグループ全体での報告体制を整えることが今後の課題です。同様に、 ダイバーシティ推進について も報告範囲が単体なので、 グループの性別従業員数を開示することと併せて、一層の改善が望まれます。 また、2014年度は、残念ながら重大な法令違反、製品事故、労働災害が発生しましたが、東レグループ にとって 「安全・防災・環境保全」 「企業倫理・法令遵守」 は経営の最優先課題とされており、再発防止に向 けた取り組みをさらに強化されることを期待しております。 本レポートでは、第5次CSRロードマップに沿って項目ごとのKPI達成状況の説明がされているため、 わ かりやすさが増しました。数値だけでは判断しにくい項目もあるため、読者により伝わるようになったと 思います。 ここ数年、 サプライチェーンにおけるCSRの重要性が急激に増しており、環境負荷の軽減、人権、労働 慣行などへの配慮は、原材料の生産・採取から消費・廃棄までのバリューチェーンで取り組む必要性が高 まっています。 また、企業には、深刻化、複雑化する地球規模課題の解決に向けた貢献や持続可能な発展 のための価値創造が求められています。 この両面において、東レグループが、素材メーカーとしての役割 黒田 かをり 氏 一般財団法人 CSOネットワーク 事務局長・理事 民間企業、コロンビア大学経 営大学院日本経済経営研究 所、アジア財団日本事務所の 勤務を経て、 2004年より現職。 2006年、SA8000の策定と認 定を行う米国の人権団体ソー シャル・アカウンタビリティ・イン ターナショナルのシニアフェ ロー。ISO26000 (国際標準化 機構) の策定や同規格のJIS化 委員会に関わる。経済産業省 BOPビジネス支援センター委 員、経済産業省 「ISO/SR幹事 会」 委員などを務める。米国公 認会計士協会会員。 85 東レグループ CSRレポート 2015 と機会を十二分に認識し、CSRを企業理念、経営戦略と一体化させて推進していることが、本レポートか ら伝わってきます。 東レグループの事業を通じた社会的課題解決への貢献は、最先端技術による環境・エネルギー分野や 医療・ヘルスケア分野が代表的ですが、同時に、開発途上国で必要とされているイノベーティブかつ汎用 性の高い適正技術による貢献も高く評価されています。南アフリカでミツカワ (株) とともに進めてきたポ リ乳酸繊維製ロールプランター®による荒廃地の農地化と緑化への取り組みは、2013年6月に横浜で開 催されたアフリカ開発会議 (TICAD) でも最良事例として大きく取り上げられました。今年9月には、国連 総会で2030年に向けて国際社会が達成に取り組むべき 「持続可能な開発目標」 が採択されます。今後 も、途上国の課題解決に向けた革新的な貢献に期待します。 サプライチェーンにおけるCSR推進に関しては、環境負荷低減を物流パートナーととともに積極的に 実施し、成果につなげています。CSR調達に関しても、ガイドラインや基本方針を定めて、購買先、外注 先、販売先などと協力・連携しています。サプライチェーンにおけるマイナスの影響やリスクを特定、予防、 緩和、是正するためには、直接の取引関係にない地域社会やNGOなどとの対話も欠かせません。環境 面ではすでに先進的な取り組みが成果を生んでいます。人権や労働などの社会面においても更なる CSRの推進を期待しております。
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