(提案) 消費者行政改革について ~ 与野党案に係る論点と妥協ライン ~ 2009年3月 消費者行政改革の理念 経済社会の変化・発展に伴い、我々の消費生活に関わる様々 なトラブルも多様化してきている。そうした中で、消費者行政の役 割は以下の3つが機軸。 ①様々な消費者トラブルが極力発生しないよう、制度面で の環境を適時適切に整備していくこと〔=事前対処〕 ②消費者トラブルが発生した際、迅速な解決への誘導と側 面支援を行える体制を整備しておくこと〔=事後対処〕 ③消費者行政の推進が(他の行政にも共通だが)、国民生 活や企業活動に対して不当な足枷にならないよう常時監 視すること〔=経済社会への配慮〕 与野党提出法案の概要 <政府・与党> <民主党> ・「消費者庁設置法案」(内閣府の外 局として消費者行政の企画など) ・「消費者安全法案」(消費者事故情 報集約、消費者被害防止措置など) ・「整備法案」(表示・取引・安全など 29法令を消費者庁に移管) ・「消費者権利院法案」(内閣から独 立して行政を監視) ・「消費者団体訴訟法案」(違法収益 を回収するため適格消費者団体に よる損害賠償等団体訴訟制度を導 入) ・与野党案ともに、新たな行政機関の設置に重点。 ・大きな相違点は、内閣からの独立性、制度の絶対的必要性など。 提起しておきたいマクロ論点 • 国民一人ひとりが肌で感じられる改革が最重要。政策手法を誤ると、国 民生活や企業活動に無用な萎縮を強制。 • 規制導入前にその効果と影響を予め評価する「規制アセスメント」と、規 制導入後に定期的見直しを行う「規制サンセット」を義務化すべき。 • 「消費者保護=消費者庇護」にあらず。限りある政策資源を重点的に投 入すべき消費者政策の範囲を明確化。消費者の自己責任意識の醸成 を促す環境作りも。 • 消費者被害を起こした業種について、その業界全体への規制強化は得 策でない。特定の加害者に効果的な処分を下すというメリハリある行政 手法を徹底することにより、消費者政策と経済政策は両立可能。 • 消費者保護の名の下に、事前統制的な規制を乱発し、真っ当な経済社 会活動を不当に阻害してはならない。 個別論点(1):「一元化」すべきもの ・役所間の「たらい回し」など現行の縦割り行政が消費者側に不利益を与 えてきた実態があることは猛省。 ・あらゆる消費生活相談について、ワンストップ窓口化、事例情報の共通イ ンフラの構築などは早期実現すべき。警察(110番)や救急・消防(119 番)のような全国共通の無料電話サービス網の敷設、相談事例を即座 閲覧できるホームページの開設など。 ・「隙間事案」も含めたあらゆる消費者被害に対処できるよう、事後的な「救 済行政」の一元化は不可欠。各省庁の所管事案かどうかに関わらず、資 金面と精神面で迅速に被害者のアフターケアするための仕組みを速やか に整備。 個別論点(2):権限移管のあるべき論 ・現行約1800本ある法律の多くは、事業者規制の結果において消費者側の保護 や利益増進を企図。「整備法案」で29本しか移管しないは不適格かつ不可解。 (例) ①不動産関係:宅建業法(国土交通省)の一部は消費者庁と共管になるが、建築 基準法(国土交通省)は従前どおり。 ②消費者信用関係:貸金業法(金融庁)の一部と割賦販売法(経済産業省)の一部 は消費者庁と共管になるが、銀行法(金融庁)は従前どおり。 ③製品安全関係:消費生活用製品安全法(経済産業省)の一部は消費者庁と共管 になるが、電気用品安全法(経済産業省)は従前どおり。 ・合理性のない権限移管は、消費者行政の多重化・複雑化を招来し、消費者行政機 能を劣化させることは必至。 ・むしろ例えば、割賦販売法を金融庁に全面移管することで消費者信用行政を一元 化するというように、互いに親和性のある権限内容について既存省庁間で所管関 係を整理し直すことこそ肝要。 個別論点(3):行政組織の新設 ・国民が体感しているのは、霞ヶ関中央官庁街ではなく、地元の消費生活セ ンターなど「現場」の存在。 ・各消費生活センター従事者の待遇改善や、熱意と見識のあるNPOなどを 積極登用を行うべき。 ・今回の消費者行政改革においては、新組織の創設が半ば目的化しがちで はないか。先ずは既存組織の運営改善で試行的に実施しておくべき。 ※産業振興から生活者重視へのパラダイム転換を図るには、与野党が提案してい る「庁」ないし「院」の純増で本当に良いか。各省と対等な位置付けである「省」と すべきではないのか。いずれにせよ、巨大な新組織の創設になるので、入念な検 討が必要。 個別論点(4):消費者行政の対象領域 • 国民生活において関心が最も高いのは、消費税など税制、年金・医療な ど社会保障、電気・ガス・水道・高速道路・航空など公共料金の分野。 • 耐震偽装、保険金不払い、BSE、薬害、医療過誤、ケータイ有害サイト などに加え、外的要因に左右されるガソリン代や食品価格の高騰への 国民の関心度も引き続き高い。 • これらこそ消費者に身近な大きな問題であり、消費者行政の観点からも 最大限の力を注ぐべき。消費者庁に移管予定の29法令にはこれらは見 当たらない。「消費者を主役とする政府の舵取り役」である消費者庁ない し消費者権利院は、これらの分野にどう関わっていくのか。 • 上記のような国民の関心事と今回の消費者行政改革との関係について、 明快な説明が必要。(権限関係の観点からは、消費者権利院は容易に 説明可能だが、消費者庁は説明不能。) まとめ:現時点での最も有用な提言 ~ 政府・与党案と民主党案の妥協ライン ~ (1)消費者行政推進の環境整備 〔= 主に中央行政の在り方〕 ・機能面:①消費者安全法案と②消費者団体訴訟法案の趣旨を合理 的に制度化。 ・組織面:①内閣府国民生活局に「プレ消費者庁」の権限を適宜持 たせ、②国センの権限を充実することで対処。 (※:大掛かりな新組織創設は、中央省庁体制を見直す際などに検討すべき。) (2)消費者と接する現場の充実 〔= 主に地方行政の在り方〕 ・消費者被害情報や消費者相談一次窓口は、早急に一元化。 ・国センや地方消費者センターの現場職員の大幅な待遇改善や人材 の確保(有能な公務員OB再任用や、地域NPO・民間事業者の 登用)のため、産業振興予算を振り替えてでも所要予算を充当。 ・その他のソフト面での機能強化も、行政運用の改善で対処。
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