Lecture_jiang_yi_zi_liao_files/有機化学I 小テスト5解答 担当

有機化学 I 小テスト5 担当:石川勇人
問題1:エタン(CH3CH3)の立体配座を Newman 投影式で示せ。また、ねじれ型配座、
重なり型配座がどれに該当するのか示せ。加えて、もっとも安定な配座はどれか示せ。
解答の指針:sp3 混成軌道によりできる単結合(σ結合)は以前教えたように自由に回転で
きる。この回転により生じる様々な原子の空間配置を立体配座(conformation)という。
この立体配座の異なる分子同士を配座異性体(conformer)という。気をつけるべきは、分
子は全く同一であるということ。この立体配座を表すのに用いられる構造式の表し方が
Newman 投影式である。 60 °
H
H
C
H
H
C
H
0°
H
H
HH
H
H
H
H
H
H
H
H
H
Newman projection
水素同士が最も離れた位置に存在できるねじれ型配座が重なり型配座よりも安定である。
(教科書 P81) 次に、ブタンの最安定立体配座について考える。ブタンの立体配座を考えるときは、C2-C3
位の結合について考える。メチル基同士が最も離れた位置にくるねじれ型配座の中のアン
チ型が最も安定である。メチル基同士が60度の角度で隣り合うゴーシュ型はメチル基同
士の立体反発のため、アンチ型より安定性に劣る。一方、重なり型配座のなかで、メチル
基同士が完全に重なるエクリプス型は高い立体障害(立体反発)のため、取りうる立体配
座の中で最も不安定である。 H
H
H
H
C2
HH
C3
CH3
H
H
H
CH3
H
CH3
CH3
H
H
H
H
H HH H
0°
H3C
H
H
CH3
H
H
H3C
H
H
H
H
CH3
問題2: trans-1-tert-ブチル-3-メチルシクロヘキサンの考えうる2つの立体配座を示せ。ま
た、どちらの配座が安定であるか、示した上でその理由を述べよ。
解答の指針:まず、環ひずみについて理解する。理論上 sp3 炭素の結合角は 109.5 度であ
ることは、すでに授業で教えている。この sp3炭素で構成される環構造について考える。
例えば、シクロプロパンは本来 109.5 度の結合角が最も安定である sp3 炭素の環内の結合
角が 60 度になっていることがわかる。シクロブタンは 90 度であり、シクロペンタンは 108
度となる。このように、本来の sp3 結合角を持てない分子は、角ひずみを持っている。 60 °
90 °
cyclobutan
cyclopropane
108 °
cyclopentane
では、シクロヘキサンはどうであろうか?シクロヘキサンはいす型配座異性体が存在し、
この立体配座は角ひずみがほとんどない。
(結合角は 111 度)ニューマン投影式を見ると、
ひずみ無く6員環が形成されているのがよく分かる。(注!いす型配座は必ず書けるよう
にしておくこと!!書き方は授業で配りました!)安定ないす型配座にはアキシアル結合
とエクアトリアル結合が存在する。アキシアル結合はアキシアル結合同士の立体的距離が
近いため、1,3 ジアキシアル反発が存在する。 -
1
H
,
-
H
1
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H2 H
C
C
CH3H2 H
H
H
Newman projection
H
111°
3
いす型配座におけるアキシアル結合したプロトンとエクアトリアル結合したプロトンは配
座が固定されていれば、非等価である。しかしながら、無置換のシクロヘキサンは室温条
件において環反転を起こす。すなわち、いす型配座は舟型配座異性体を経由して環反転す
る。その結果、エクアトリアルとアキシアルのプロトンは入れ替わることになる。結果と
して、この環反転が室温条件で非常に速いため、無置換のシクロヘキサンの場合、等価な
プロトンとして存在する。 H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
では、置換基がついた場合どのようになるだろうか?cis-1,2-ジメチルシクロヘキサンと
trans-1,2-ジメチルシクロヘキサンについて考えてみよう!cis-1,2-ジメチルシクロヘキ
サンは環反転しても、一つのメチル基がエクアトリアルで、もう一つのメチル基がアキシ
アルであることが分かる。つまり、環反転しても、全体のエネルギーは変わらないので、
以下に示すどちらの立体配座でも違いはない。一方、trans-1,2-ジメチルシクロヘキサン
は環反転することにより大きく状況が異なる。一つの配座は両方のメチル基がエクアトリ
アルを占めており、もう一つは両方のメチル基がアキシアルを占めている。アキシアル結
合は 1,3-ジアキシアル反発のため不安定であることは先に述べた。したがって、ジアキシ
アルにメチル基が来る配座はエネルギー的に不利であり、安定な配座は両方の置換基がエ
クアトリアルを占めた配座となる。 H
H
CH3
CH3
CH3 2
1
H
H H
H
H
H
H
2
HH
H
H
H
H
H
H3C
H
H
CH3
1
CH3 2
H H
H
H
1
H
H3C
H
H
H
CH3
H3C
CH3
H
H
H
1
CH3
H
H
H
2
CH3
H
H
HH
H
H
H
H
さて、ようやく問題に移る。今回の化合物は trans-1-tert-ブチル-3-メチルシクロヘキサ
ンである。今までの知識を統合して考えうる2つのいす型配座を示すと、一つの配座では
メチル基がエクアトリアル、t−ブチル基がアキシアルに来る。もう一つの配座ではメチル
基がアキシアルで t−ブチル基がエクアトリアルである。どちらが優位に存在するかを考え
る。アキシアルが不安定な要因は立体障害(立体反発)による 1,3-ジアキシアル反発であ
る。メチル基と t−ブチル基を比較した場合、どちらがより立体障害を受けるだろうか?一
目瞭然である。メチル基と t−ブチル基の大きさ(嵩高さ)を比べれば、t−ブチル基の方が
大きいことが分かる。大きければ大きいほど立体障害を受けることも明白である。したが
って、下図の右側の配座の方がより安定である! H
CH3
H
3
3
H
H H
CH3
CH
CH3 3
H3C
H
CH3
H
H
H
H
H
C
H
CH3
CH3
下の化合物ではどうだろうか?わかりますか?わかってください。 Br
CH3
F
Br
CH2CH3
CH3
C CH3
H CH3
H
H
CH3
H
1
1
H
H3C
H
H
H