【情報技術と法・裁判】 ◇検索サイトでの検索結果の削除を求めたい◆ Ｑインターネットの検索サイトで自分の名前を検索すると，自分のプライバシーを明らかに侵害している記事が表示されます。検索サイトに対して，検索結果の削除を求められませんか？Ａ検索サイトによって対応が異なる可能性がありますが，一定の場合には，検索結果の削除（非表示）ができるようになりつつあります。まず前提として，検索サイト自体は問題の記事を掲載しているわけではないのですが，実際に記事を閲覧する人のほとんどは，検索サイト経由でその記事にたどり着きます。そこで，検索サイトが問題の記事を表示することをストップできれば，記事によるプライバシー侵害の被害者にとって大きな意味がある，といえます。近時，外国では，大手検索サイト（グーグル）が，ＥＵ地域限定で，一定の基準を設けて検索結果の削除に応じるようになりました。一方，国内では，平成２７年３月，大手検索サイト（Yahoo! JAPAN）が，検索結果の削除（正確には非表示措置）を受け付ける基準を公開しました。今回は，その内容を紹介します。１プライバシーの保護が重視される情報と，公表の公益性が重視される情報ヤフー基準では，プライバシーの侵害に対する判断は，被害申告者の利益と，被害申告対象の情報を公表する理由を比較する，とされています。ヤフー基準では，例えば，未成年者に関する情報や，性的画像・身体的事項（病歴等）・過去の犯罪被害やいじめ被害に関する情報は，プライバシー保護の要請が高いとされています。逆に，公職者・企業団体の役員・芸能人・著名人に関する情報や，過去の違法行為，前科や逮捕歴，懲戒処分等の履歴は，公表の公益性が高いとされています。２検索結果の表示内容自体（ウェブページのタイトル，スニペット（要約））これらは，検索をしたときまず表示される情報です（各ウェブページそのものではなく，検索サイトが各ページの内容の一部を機械的に表示したものです。）。ヤフー基準では，検索結果の表示内容自体だけで（リンク先のページを見るまでもなく），権利侵害が明白に認められる場合には，権利侵害部分の非表示措置をとる（＝各ウェブページへのリンクそのものは表示される）とされています。具体例としては，特に理由なく一般人の氏名及び住所や電話番号等が掲載されている場合 -1- 特に理由なく一般人の氏名及び家庭に関する詳細な情報が掲載されている場合一般人の氏名及び秘匿の要請が強い情報（病歴など）に関する情報が掲載されている場合既に長期間経過した過去の軽微な犯罪に関する情報が掲載されている場合などが，例示されています。３プライバシー侵害とされる情報が掲載されているウェブページ（リンク先ページ）へのリンク情報の非表示措置に関する判断問題のウェブページへのリンクそのものを非表示とするため，実質的には「検索結果の削除」といえます。ヤフー基準では，被害申告者が，リンク先ページの管理者又はプロバイダに対して削除を命じる判決・決定を提出した場合には，原則として非表示措置を講じるとする一方，判決等がない場合でも，リンク先ページの記載から，①権利侵害の明白性と， ②当該侵害の重大性または非表示措置の緊急性，があると認められる場合には，例外的に非表示措置を講じるとされています。判決がなくても非表示措置をとるような例外の具体例としては，特定人の生命，身体に対する具体的・現実的危険を生じさせ得る情報が掲載されている場合第三者の閲覧を想定していない私的な性的動画等（いわゆるリベンジポルノなど）が掲載されている場合などが，例示されています。４ヤフー基準の位置づけについてなお，今回紹介したヤフー基準は，あくまで民間企業が独自に公表した基準にとどまります。したがって，他の検索サイトが同様の対応をとるとは限りません。もっとも，ヤフー基準は，著名な学識経験者や法律実務家による有識者会議の報告を経て作成されており，同種の場面におけるスタンダードとなるべき考え方，とも評価できます。今後，他の検索サイトも，ヤフー基準と似たような対応になる可能性はある，といえるでしょう。いずれにせよ，この問題はいまだ流動的な状況にあります。実際に検索サイトに削除要請をする場合は，個別の事情に応じて審査・判断がなされることになるので，専門家に相談しながら対応を検討するようにしてください。（注）本コラムは，個別の事案についての結論を保証するものではありませんので，具体的な事案について疑問がある場合には必ず専門家にお尋ねください。 -2- 〒８４８－００４１佐賀県伊万里市新天町６１５－１弁護士法人いまり法律事務所弁護士圷悠樹【文責】 -3-